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三菱UFJ個人向け新サービス「エムット」始動 新デジタルバンクも

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、個人向けサービスを大規模リニューアルし、6月2日から新金融サービスブランド「エムット」をスタートする。個人向けサービスの中核に据えるもので、グループ全体で連携を強化、銀行アプリからクレジットカード、資産運用まで多くのサービスが「エムット」に集結する。さらに、新たなグループ統合ポイントや、Google Cloudで勘定系システム基盤を動かす新たなデジタルバンクの計画も明らかにされている。

個人向けで国内最大のMUFGが、グループ全体で連携できる体制を構築し、銀行口座やクレジットカード、証券、相続サービスなど個人向けサービスをシームレスに使えるよう、大規模にリニューアルする。

その中心に据える、新たな金融サービスブランド「エムット」は、「やさしい金融サービス」を標榜。金融リテラシーや年齢を問わず、すべてのユーザーがライフステージにあわせて快適に利用できる「ライフステージ総合金融サービス」と謳う。

エムットの名称は、「MUFG」「MINNA(みんな)」「MONEY(お金)」の頭文字から「M」を取り、ユーザーや各サービスがつながる様子を「@」(アットマーク)に重ね、「M」と「@」を組み合わせて「エムット」とした。スローガンは「お金のあれこれ、まるっと。」で、生涯にわたって総合的にサポートしていく意気込みが込められた。

エムットは「つかう」「たまる」「ふやす」「つなぐ」という、お金にまつわる4つのシーンをサポートし、これらを網羅するサービスになる。

つかう、たまる
ふやす
つなぐ

第1弾として6月2日から「三菱UFJ銀行アプリ」の全面リニューアル、新ポイントアッププログラムの提供、「MUFGカードアプリ」全面リニューアル、「ポイント決済アプリ」の新規提供が実施される。

三菱UFJカードの新ポイントアッププログラム

エムットは継続的に進化するサービスとし、2026年度中には、Google Cloudで勘定系システム基盤を動かす、「全く新しい」と謳うデジタルバンクを立ち上げる予定。

さらに、グループ共通ポイント「エムットポイント」を立ち上げ、ポイントを統合する計画。日常のサービス利用でポイントが貯まるロイヤリティプログラムを開始するほか、ポイント還元や手数料が優遇されるステージランク制度の導入も予定している。相続に関する、デジタル相続プラットフォームも立ち上げる。

このほか、順次展開するものとして、個人向け専用店舗「エムットスクエア」を商業施設内などに出店していく。

6月2日開始のサービスと、2026年度中の計画
「ライフステージ総合金融サービス」と謳う

デジタルバンクでさらなる進化を狙う

今後の取り組みのうち、2026年度の後半に開業予定というデジタルバンクは、「全く新しいコンセプト」を謳うなど、肝いりの施策になる見込み。ネット専業銀行ではなく、既存の店舗網や、金融のプロによるアドバイスも提供するなど、デジタルとリアルの「いいとこ取り」で、唯一無二の存在になるという。

勘定系システム基盤をGoogle Cloudで稼働させ、柔軟なサービス提供を可能にするほか、「魅力的な手数料や金利水準を実現する」としている。

デジタルバンクの中核機能として、ウェルスナビと共同開発している、総合アドバイザリー・プラットフォーム(MAP、Money Advisory Platform)を実装する予定。このサービスは、グループの約6,000万人の顧客データやAI技術を活用して、ユーザー一人ひとりに最適化した提案を実現するというもので、「革新的でシームレスな新しい顧客体験」を提供するとしている。

MUFGはマネーツリーの買収も発表しており、今後はデジタルバンクにおけるMAP機能との連携のほか、中小企業領域でのAI審査モデルの活用など、さまざまな協業を予定している。

ネット証券戦略は、三菱UFJ eスマート証券(旧auカブコム証券)とウェルスナビにより、投資ニーズへの対応力を強化する方針で、すでにオートスイープ機能やクレカ積立がスタートしている。今後は、証券口座の乗っ取り被害が問題になっていることなどから、FIDO(Fast Identity Online、ファイド。パスワード不要の高レベル認証技術)の導入など、セキュリティ強化も検討していく。

店舗ネットワークについては、リアル・リモート・デジタルという3つのチャネルを組み合わせて構築していく方針で、約420店舗のリアルチャネルは、プロのアドバイスを受けられるといった、ネット専業銀行では難しい「付加価値を提供する場」として位置づける。「エムットスクエア」など、個人ユーザーにフォーカスした店舗も展開する。KDDIと共同で「次世代リモート接客プラットフォーム」も開発中で、コンビニを含め、さまざまなロケーションに設置できるものになるとしている。

コア金融サービスは自社で

三菱UFJフィナンシャル・グループ 代表取締役社長の亀澤宏規氏

三菱UFJフィナンシャル・グループ 代表取締役社長の亀澤宏規氏は、エムットの発表にあたり「鍵は利便性と利得性。便利でお得といった要素を一層強化していく」と表明する。

前提としてエムットは、金融に関する知識がないといったユーザーの悩みや、投資などでうまく行動できないといった根本的な課題に取り組むサービスであるとし、グループ各社のサービスの幅広い連携や最適化された提案で「ライフステージ総合金融サービス」になることをアピールした。

グループの連携を強化できた背景には、三菱UFJニコスのシステム統合に目処がついたことや、ウェルスナビやマネーツリーの子会社化といった、さまざまな要素が揃ったことが挙げられている。これまでの縦割りではなく横の連携を強化し、MUFGの個人向けサービスを「エムット」のブランドに集約していく方針で、「材料が揃った。この分野で攻勢をしかけていく」(亀澤氏)と意気込む。

競合他社では、ソフトバンクと三井住友カードとの提携(PayPayとOliveの連携)、楽天グループとみずほフィナンシャルグループとの提携など、大型の提携を伴う連携施策もみられる。MUFGの戦略のポイントを聞かれた亀澤氏は、個人向けは約3,400万顧客、円預金残高93兆円、住宅ローン14兆円と、国内で圧倒的な顧客基盤を確立できていることを踏まえた上で、この強力な銀行サービスの強みを横に展開していくと説明。

「コアの金融サービスはグループ内で保有する。そうしないとマネタイズは難しいのでは?」(亀澤氏)と、他社の取り組みをチクリと牽制。一方で、エムットの取り組みでも示されているように、“コア”以外は、積極的にオープンプラットフォームの活用や他社と連携していく方針。

ポイント経済圏で囲い込み「絶対ムリ」

ポイント施策が拡充され「エムットポイント」への統合も計画されているが、こうした施策については「反応を踏まえて良いものにしていく」(三菱UFJニコス 代表取締役社長の角田典彦氏)と、今後も改善を続けていく方針。

亀澤氏は「徹底的に他社を分析して、トライもしてきたが、“経済圏”に閉じ込めるのは絶対ムリだと思う。新しいポイントカードを作ったからといって、昔のをやめるかといえば、そんなことはない」と見解を披露。囲い込みではなく、あくまで利便性を感じてもらい選ばれるべきとした。

運用力で差をつけるデジタルバンク

今後の展開で注目されるデジタルバンクについては、既存の口座ともシームレスに使える内容になる、ということが明らかにされている。若年層がネット専用銀行に流れていることへの対策となり、「ほかのネットバンクに流れることもなくなる」(MUFG 執行役常務 リテール・デジタル事業本部長兼グループCDTOの山本忠司氏)ことが期待されている。

また、既存のネット専業銀行について「マネタイズに苦労している。預金を集められても運用が苦しい。私たちは本体と一体的に運用できる」(山本氏)と、優位点が解説されている。亀澤氏は「マスリテールのビジネスで攻勢をかける。それぞれのデジタルサービスは他社にも負けない」と自信を語っている。