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AIネイティブ目指す三菱UFJ銀行 OpenAIと共創でChatGPT口座分析
2025年11月12日 20:59
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、三菱UFJ銀行がOpenAIと戦略的なコラボレーション契約を締結したと発表し、業務改革や新サービス創出に関するAI戦略を明らかにした。実証を経た“運用段階への移行”と謳い、グループのデジタル基盤の「飛躍的な強化」を掲げる。2026年度にスタートする新デジタルバンクをはじめ、さまざまなサービスでChatGPTと連携し、スローガンとして掲げる「AI-Nativeな企業」への変革を大きく進める。
三菱UFJ銀行とOpenAIは2024年10月、共同で業務の高度化・効率化に取り組むと発表しており、幅広く活用できる機会を醸成してきた。今回明らかにされたAI戦略はこの取り組みの成果を踏まえたもので、実証段階から本格的な運用段階への移行と位置付けている。
全社・全行員が業務で活用
2026年1月以降、全行員約35,000人がChatGPT Enterpriseを日常業務で利用できるよう展開する。社内文書の作成から顧客対応、分析業務まで幅広い業務で効率化・高度化を図り、行員は付加価値の高い判断や企画、ユーザーとの対話に注力できる環境を整える。ChatGPT Enterpriseはグループ内の閉じた環境で稼働し、入力データは学習に用いられないなど、セキュリティにも配慮して構築・運用される。
社内にAIの利用を浸透させる取り組みとして、グループ全体の15万人を対象に、全社AI浸透イベントを開催。教育・研修プログラムを三菱UFJ銀行とOpenAIの両社で支援するほか、組織改革に取り組むAI専門人材を育成する。
両社の戦略的コラボレーションではまた、四半期ごとにビジネスレビューを実施。戦略、プロダクト、リテールサービスの3つの軸で、最新技術の動向に合わせたレビューを行なう。
プロダクトでは、OpenAIの最新モデルや機能をいちはやくMUFGが利用できる体制を整え、実装できるようにする。また、OpenAIからスペシャリストがプロダクト開発に参画し、サービスを共創する体制で臨む。
OpenAIのソリューションをエムットに導入
リテールのサービスブランド「エムット」でも、第三弾の展開(後述)として、生成AIやChatGPTと連携を深めた4つの取り組みが企画・検討されている。いずれも提供時期は未定だが、できるだけ早期に実現したいとしている。
AIコンシェルジュ
「AIコンシェルジュ in MUFG Apps」は、グループ各社のアプリにAIを搭載し、質問への回答にとどまらないパーソナライズされたサポートを行なうというもの。例えば、口座の支出内容を分析して傾向や予測が案内されるほか、内容に応じたポイントアップの方法なども提案される。将来的には各アプリのデータが統合され、AIが取引全体を把握し的確な提案をできるようにする。
この機能は2026年度に開業予定のデジタルバンクから実装予定で、開業後、サービスが安定した時期に投入される。
エムットクイックスタート
「エムットクイックスタート」は申し込み専用AIチャットで、MUFG各社の口座開設やサービスの申し込みについて、丸ごとAIがサポートするというもの。要望に合ったサービスを提案するほか、特設ページの閲覧状況などからレコメンドを“生成”。初めてのユーザーにも分かりやすい内容にする。
Apps in ChatGPT連携
「Apps in ChatGPT」連携は、OpenAIが10月に発表したばかりの機能。ユーザーがあらかじめ連携設定することで、従来のWebブラウザから利用する「ChatGPT」が、バックグラウンドでMUFG各社のアプリと連携する。
ChatGPTとの対話の中で口座の内容を確認したり、資産に関する質問・相談をしたりできるようになる。銀行口座のアプリを起動したりサービスにアクセスしなくてもChatGPTのサービス上でシームレスに内容を確認できるため、MUFGは銀行サービスのタッチポイントが飛躍的に拡大するサービスとして期待を寄せている。Apps in ChatGPTは現在、英語圏のみで展開されているが、日本向けに提供され次第、対応を進めていく。
AIネイティブに生まれ変わるMUFG
三菱UFJフィナンシャル・グループ 執行役常務 リテール・デジタル事業本部長兼グループCDTOの山本忠司氏は、これまで取り組んできた社内へのAI浸透施策が実績に表れていることを紹介し、「(MUFGのスローガンである)『AI-Nativeな企業』への変革が進んでいる」と手応えを語る。
今回明らかにした戦略的コラボレーションは、本格的な運用に移行する「フェーズ2」で、幅広い業務に取り入れて効率化・高度化を図るもの。「いち早く導入して、競争優位性を発揮していく」(山本氏)という狙いもある。
戦略的コラボレーションでは、サービスの開発・実装にあたってOpenAIからスペシャリストが現場に参加し、「サービスの実装に向けて並走してもらえる」(山本氏)という体制をとる。一般にAI技術は1年で大きく進歩するが、この共創体制によりタイムリーに最新技術をキャッチアップでき、「(技術面での)遅延リスクを回避できる」(山本氏)という。
AIの浸透で人員削減が進むのでは? という懸念に対しては、「少子高齢化で行員を採用しにくくなっている。コールセンターのスタッフも同様」とし、人手不足を補うものと位置づけている。例えば審査業務では、ベテランに頼る“熟練の技”がAIで平準化されることで、リスキルが容易になったり、行員がキャリアチェンジしやすくなったりするメリットがあるとしている。
2026年度に開業するデジタルバンクでのAIの実装をはじめ、今後本格化するリテール分野での取り組みは、戦略的コラボレーションの「フェーズ3」に位置づける。山本氏は「新サービスを創出する、顧客体験の革新に挑戦する」と意気込んでいる。
好調な滑り出しの「エムット」 金融×AIのロードマップ
MUFGはリテールサービスの新ブランド「エムット」を6月にスタート。認知や導線が大きく変わったことで、すでに大きな効果が出ていることが明らかにされている。2024年度と比較して、三菱UFJ銀行の口座開設数は1.2倍に拡大。ウェルスナビ for 三菱UFJ銀行の口座開設数は2倍に拡大した。
エムットスタート直後の6~8月を対象にした比較では、三菱UFJカード発券数は前年同期比2倍(前々年同期比では3倍)。三菱UFJ eスマート証券の仲介口座開設数は、同14倍に上った。
エムットがリリースされた後は特に、三菱UFJカードのポイントプログラムが拡充された点について反響が大きかったという。ポイントがアップする特定加盟店は、スーパーを中心にさらに拡大できるよう準備中としている。
こうしたエムットの展開は「第一弾」の内容にあたる。第二弾の展開は、2026年度のデジタルバンク開業のほか、2026年度後半のエムットポイントの導入、ロイヤリティプログラムの導入、デジタル相続プラットフォームの導入など。これらはエムットのサービス発表時に案内されている。また、富裕層向けエクセレントクラブの全面リニューアルも検討中としている。
なお、デジタル相続サービスは、ポイントやロイヤルティ・ステータス(金利・手数料の優遇など)も相続の対象になるよう検討中で、「世代をまたいで貯められる」(山本氏)としている。また、他社ポイントサービスへの交換も、順次対応を進めていく。
エムットの第三弾の展開は、上記で方針が明らかにされた「金融×AI」の取り組み。エムット第三弾のカギになるのが、OpenAIとの戦略的コラボレーションのフェーズ3としている。
発表会にはOpenAI Japan合同会社 代表執行役員社長の長崎忠雄氏も登壇した。長崎氏は、「単なるAIの導入だけでなく、組織全体がAIを理解し、挑戦しようとしている。ひとつひとつの取り組みがつながり、“AI-Native”への変革につながる」とMUFGのAIへの取り組みを評価。「これからの金融機関のあるべき姿ではないか。MUFGが日本発で世界に発信する、AIと進化するモデル」(長崎氏)と語り、積極的に協力していく方針を示している。































