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なぜいま銀行はリアル店舗を強化するのか 三菱UFJ銀のリテール戦略【Watch+】

三菱UFJ銀行は12日、20年ぶりの新店舗となる「エムットスクエア高輪」をオープンしました。12日にオープンした「ニュウマン高輪 North 2階」に開業し、営業時間は11時から20時で土日祝日も含めて営業するなど、平日9時~15時が常識の銀行店舗とは一線を画すものとなります。

MUFGでは、グループの個人向けサービスブランド「エムット」を立ち上げ、26年度に新規の銀行口座100万、カード100万契約などを目標に掲げています。これまでグループでバラバラだったデジタル戦略をエムットに集約しながら、銀行やカード、証券など、金融サービス連携を強化していく方針です。

その中で「リアル接点」の強化として位置づけているのが、「エムットスクエア」となります。特にポイントは「営業時間」で、11時から20時まで、土日も営業ということで、これまで仕事などで銀行の営業時間に「来られなかった」人が気軽に入り、相談できる場所を目指しています。

そのため、店内も銀行然とした「ロビー」の雰囲気ではなく、照明や香り、家具などに配慮した「カフェ」のような開放的な空間を目指したとのこと。また、現金を扱わないキャッシュレス店舗となっています(ATMは設置)。

受付端末
対面でのコンサルティングなどに対応

なぜいま「リアル店舗」なのか 銀行支店の再定義

エムットスクエア高輪が、三菱UFJ銀行の「20年ぶり」新店舗ということからもわかるように、この10年以上、基本的には銀行の店舗網は統廃合により縮小してきました。これはメガバンク・地方銀行問わずほとんどの銀行で起きていることです。

今回のエムットスクエアの試みは、銀行支店を今の時代にあった形で、個人向けの店舗としてリニューアルしながら、これから求められる機能を強化するといったものになります。

なお「20年ぶり新店舗」ということで様々な新たな取り組みがスタートしているのですが、店舗を取材した限りでは、「目新しさ」はそれほど感じませんでした。

その理由としては、すでに他行の事例があるからでしょうか。メガバンクにおいては、三井住友銀行が24年から「Olive LOUNGE」を開始し、すでに8店舗を展開しています。みずほ銀行も新形態の小型店舗「みずほのアトリエ」を展開するなど、銀行のリアル施策の新展開はすでに見慣れたものになっています。

対人での相談・コンサルティングを強化することや、カフェのような店舗についても、スタバを統合して「カフェそのもの」になっているOlive LOUNGEのほうが徹底しているという印象です。

なぜ、三菱UFJ銀行のエムットスクエアは「いま」だったのでしょうか?

その理由は、個人向けのリテール強化の環境が整ったためとしています。過去20年は金利が低く、特にマイナス金利政策の影響により、リテール部門の収益を上げにくいため、店舗の圧縮を進めてきた背景があります。

しかし近年「金利のある世界」に戻りつつあり、三菱UFJ銀行の「圧倒的な預金量」を強みとした、対面でのサービス提供を強化する方針に転換したといいます。「(リテールで)マネタイズをやりやすい環境になってきており、資産運用のニーズも高まっている。デジタルで完結するより、丁寧に説明を聞きたいというニーズが顕在化してきた」(三菱UFJ銀行 取締役 常務執行役員山本 忠司氏)と説明します。

加えて、MUFGグループの「エムット」がスタートしたことも大きなポイントです。これまでも多くの金融機能を展開していたものの、相互のつながりが弱く「バラバラ」だったとします。これがエムットにより、「共通ポイント」「ロイヤリティプログラム」「共通ID」でサービスが接続され、一貫したサービスを展開できるようになったことから、リアル店舗での施策を打ちやすくなっているといいます。

さらに、MUFGは2026年に新たな「デジタルバンク」を開業予定。「そこでもリアル店舗を持つことで、ネット銀行にはないリアル活用ができる。対面ニーズへの対応は強みになる」としています。

今後、全国の支店のうち個人向けの店舗については、3分の1から4分の1程度を「エムットスクエア」に再構築する計画。高輪はそのための実験店舗という位置づけで、2号店は大阪・箕面萱野に開設予定です。

エムットスクエアでは、店舗での対面での相談やイベントなどを実施予定ですが、重視しているのは、営業時間の拡大により、「どのような顧客を拡大し、どんな相談が多いのか」というデータの取得とのこと。店舗での金融商品の販売などよりは、顧客ニーズの理解にまずは努めていくそうです。

エムットスクエアの取り組みは、基本的な銀行サービスの多くがデジタル化が進んだなかでの、店舗の役割の再定義と言えそうです。ネット銀行にはできない取り組みでもあり、今後の展開にも注目です。

臼田勤哉