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水道は復旧が遅い WOTA、被災地に迅速に「水」を届けるプラットフォーム

WOTAは、災害で断水が発生した地域に、水循環システムを都道府県間で相互に支援し、被災地に生活用水を迅速に届けるためのプラットフォーム運営組織「JWAD(ジェイワッド/Japan Water Association for Disaster)」の本格始動を発表した。厚生労働省が整備する災害派遣医療チームDMAT事務局、および12道府県が協定を締結(一部府県は12月予定)し、将来的には47都道府県が参画することを目指す。

能登半島地震支援の実績と課題

WOTAは、一度使った水を現場で濾過・再生しながら循環利用できる、水道のない場所でも手洗いやシャワーを利用できる水循環システムを提供している。これらのシステムは大規模災害で水道が止まった避難所や仮設住宅、福祉施設などでの利用も想定されており、2016年の熊本地震や2024年の能登半島地震、そのほか豪雨災害時に被災地に提供している。

WOTA 代表取締役 兼 CEO 前田瑶介氏
水循環型手洗いスタンド WOSH
屋外シャワーキット
屋外シャワーキットに使用する「WOTA BOX」の内部
脱衣所の組立
脱衣所内に設置するシャワー室の組立
WOTA BOX、タンク、給湯器を専用の管で接続すると温水シャワーを浴びられる

水循環システムが被災地で必要となる理由は、水道が最も復旧が遅くなるライフラインのため。生活の中で水を必要とする場面のうち、飲み水はペットボトルや給水車による提供、トイレは仮設トイレレンタル、洗濯は集荷クリーニング、飲食はキッチンカーなど、用途によってはソリューション化が進んでいる。これらは、普段から利用され、オペレーションが確立しているため、非常時にも対応できる。

手洗いや入浴は、上下水道に頼らない形での利用は日常的には存在しないため非常時の十分な対応は困難で、大量の水、排水処理、運用支援が必要となる。WOTAが提供する水循環システムであれば、使用した水をその場で再生できるため、上下水道の施設に被害が出ても、避難所などでの手洗いや入浴の場の提供が可能となる。

能登半島地震の被災地には、シャワーキットに使用する「WOTA BOX」を100台、手洗いスタンド「WOSH」を207台、計約300台を展開。長期断水避難所89%・68カ所の医療福祉施設をカバーした。これは、日本財団、全国自治体、民間パートナーの協力もあり実現した。

能登半島地震では、発災からWOTA配備まで1.5カ月を要したという課題もある。300台配備は、すでにWOTAを導入している100に及ぶ県や市町の自治体からの貸与協力により実現したものだが、個別に連絡をして調整し、集約することに時間を要したという。

そういった中で徳島県は、県がリーダーシップを取って、県内の市町村と調整し、徳島県で取りまとめて被災地へ輸送した。徳島県の県内システム集約により、1週間で10台以上が能登半島に届けられた。

WOTAは徳島県の事例から、都道府県レベルで集約・連携して、被災地域の断水状況や水需要に応じて支援を展開する仕組みが必要と判断し、水循環システムを都道府県間で相互に支援する広域互助プラットフォーム構築に向けて動き出した。

徳島県の事例を全国の都道府県に拡大

WOTAは、参画する各都道府県およびDMAT事務局と、「災害時の生活用水資機材の広域互助に関する協定」を締結。協定はWOTAが提唱する「水循環システムの自治体間広域互助プラットフォーム」構想の実現に向けた災害時連携協定で、プラットフォームが今後成立することにより、災害による断水時に全国自治体間で水循環システム等を相互に支援し、被災地に生活用水を迅速に届けることが可能になる。

協定締結を受け、WOTAは本プラットフォームの運営組織「JWAD」を本格的に始動。国の防災基本計画(令和7年改訂)にも追記された官民の連携強化を実現し、国難級災害だけではなく、いつ・どこで発生するかわからない大規模災害に迅速かつ柔軟に対応できる体制の構築を目指す。

JWADの機能は、平時の体制整備、災害時集約、最適配分の3つ。現在WOTA BOXは106自治体、WOSHは54自治体が導入しているが、市町村での導入例が多い。全国から被災地への配備に向けては、導入している市町村の集約を都道府県単位で行ない、被災地へ輸送。被災した都道府県においては、水需要把握、最適配分をJWAD事務局とDMATが担う。

能登半島地震では、避難者数3.4万人、断水人口32万人に及んだ。今後国内では首都直下地震や南海トラフ巨大地震といった国難級災害が想定されており、断水被害は能登半島地震との比較で、首都直下地震では50倍以上(断水人口想定1,444万人)、南海トラフ巨大地震では100倍(同3,690万人)が想定されている。

JWADではプラットフォームの構築を3段階のフェーズで推進。構築期の25~26年に全国的な連携の枠組みを整備し、実装期の26~27年に平時の訓練と、物流を含む災害時運用の体制を立ち上げる。制度化・標準化期の28年以降においては、生活用水資機材の規格化や認証制度を開始し、人々の衛生と尊厳を守る日本発の生活用水レジリエンスモデル確立を目指す。

WOTAはこれまでに神奈川県、徳島県、愛媛県、北海道、富山県、兵庫県、新潟県、福井県、大阪府、奈良県、鳥取県、佐賀県と協定を締結(基本合意を含む)している。エリアとしては、北海道・東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の、全国7ブロックをカバーしていることとなる。

協定内容(一部)は以下の通り。

  • 災害時において生活用水資機材(WOTA BOX、WOSH等)を被災していない自治体から被災自治体に対して提供
  • 本プラットフォーム事務局(WOTA)による支援要請の受付と各自治体間の調整
  • 災害時における関係者間での迅速な情報共有(被災状況、生活用水資機材ニーズ、資機材の設置・運用・撤去スケジュール等)
  • 平時における事前配備の調整、推進

あわせて、災害派遣医療チームDMATの事務局とも、災害時の協力にかかる協定を締結し、被災地での円滑な支援を目的とした連携を推進する。

被災者にとっての入浴の大切さ

発表会では、石川県 珠洲市 副市長 金田直之氏、国立健康危機管理研究機構 DMAT事務局次長 近藤久禎氏、内閣府 副大臣(防災担当) 津島淳氏、内閣府 防災監 長橋和久氏が登壇したほか、石川県知事 馳浩氏、徳島県知事 後藤田正純氏からビデオメッセージが寄せられた。

珠洲市の金田氏は、能登半島地震での断水被害等について説明。発災時には上下水道を利用している全戸が断水し、復旧には3カ月かかった。上下水道が復旧しても、住宅が全壊もしくは水道設備の被害が発生している場合など自宅での生活が難しい場合は避難所での生活が余儀なくされる。

さらに課題になるのは、後期高齢者、障害者手帳所持者、生理中の女性、妊娠中の女性、乳幼児や子供といった災害弱者を、十分な衛生環境の確保が難しいなかでどのようにサポートしていくかという点にある。

金田氏は、課題がある中でも全国からの支援により「持続的な避難生活」が可能になったと説明。風呂やシャワーはWOTA、自衛隊からの支援があり、久々の入浴時にはホッとした表情になることを話した。特に災害弱者にとっては重要な支援であるとし、「珠洲市はまだ復旧途中なのでシステムを多く導入することはできていないが、全国的な災害があった時には応援したい。また、全国で被災地を支援する仕組みが構築され、多くの自治体・関係者に参加をしていただきたい」と今後の期待を述べた。

石川県 珠洲市 副市長 金田直之氏

DMAT事務局次長の近藤氏はDMATについて説明。DMATの議論が始まったのは30年前の阪神・淡路大震災で、このときは救命医療の提供が遅れなければ死亡者の数は減らせたとの考えから、救命医療を早く現場に届けることを目指して発足した。

しかし、特に東日本大震災の時に明らかになったのは、救急医療が最大の問題なのではなく、病院自体が傷ついていること。災害により混乱している医療機関をサポートすることを重視するようになった。

断水は医療機関や福祉施設に多大な影響を与える。ただ、医療機関の機能を保つためには、2トントラックで何往復しても足りないほどの大量の水が必要となる。そこで、水循環システムを活用した災害活動を円滑に行なうため、協定締結を通じて、平時の訓練を連携して実施する。

DMAT事務局次長 近藤久禎氏

石川県知事の馳氏は、能登半島地震や能登半島豪雨での多方面からの支援への感謝を述べた上で「断水が発生した際に衛生を保つためのシステムは、生活を維持していく上で必須なインフラだと思っている。いざという時にお互いに融通し合う、助け合うという精神をもって、広く国内にネットワークが広がっていってほしい。そのハブとして、石川県を大いに活用していただきたい」と述べた。

石川県知事 馳浩氏

徳島県知事の後藤田氏は、「徳島県でも南海トラフ地震で被災地になる可能性もあり、全国でも豪雨災害など様々な問題が発生する可能性が高い」とした上で、全国知事会でも水循環システムの重要性を提言していることを紹介した。

徳島県知事 後藤田正純氏

内閣府の津島氏および長橋氏は、今後発生する可能性のある災害に対して自治体が自助として備蓄することがまず重要であるとともに、市町村や都道府県の枠を超えて広域的に連携することの重要性を説明。そういった中で、政府として各自治体による避難所の生活環境整備を後押しするために、地域未来交付金(地域防災緊急整備型)を通じて、避難所の水・衛生環境の底上げを進めると説明した。

内閣府 副大臣(防災担当) 津島淳氏
内閣府 防災監 長橋和久氏