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25年日本・世界の宇宙開発 新規衛星は7割スターリンク・NASA政策の激変
2025年8月19日 08:20
2025年も上半期が終わり、日本ではH3ロケットの打上げが順調に進んでH-IIAロケットが50号機で有終の美を飾りました。軌道上では従来の人工衛星だけでなく、「衛星コンステレーション」と呼ばれる大型衛星網が台頭する一方で、米国では激震ともいえるNASAの予算縮小方針や長官人事など宇宙政策に関わる重大ニュースが聞こえてきています。
2025年前半、宇宙開発の状況はどうなっているでしょうか。そして現在、軌道上にはどのくらいの人工衛星が活躍しているのでしょうか? 数値で見る軌道上の今をご紹介します。
2025年上半期 軌道上の今
2025年1月1日から6月30日まで、米宇宙軍が管理する軌道上物体の監視サイト「Spacetrack.org」で、国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)による国際衛星識別符号をつけられて管理されている軌道上物体を集計し、人工衛星(打ち上げロケットの機体とスペースデブリを除く)とその打上げ日時、所有国、衛星の種類をまとめてみました。
軌道上の宇宙機
1957年10月4日のソ連による「スプートニク1号」打上げから、2025年6月30日までに打上げられた人工衛星は2万3,106機あります。このうち、地球の大気に再突入せずに軌道上に残っている衛星は1万5,784機。さらに、地球の軌道を離れて惑星間軌道に向かった探査機は277機ありますから、現在地球周辺の軌道には1万5,507機が存在することになります。
この中で、2025年1月1日から6月30日までに打上げられ、あらたにCOSPAR ID番号をつけられた衛星は2,022機あります。米国の衛星が1,723機(約85%)とそのほとんどを占めています。SpaceXのスターリンク衛星はその中の1,478機。米国の新規衛星の約85%、世界の新規衛星の約73%はスターリンク衛星である状況です。
続いて新たに打上げられた衛星の数で2位につけているのが中国で、その数は158機。2024年から始まった通信衛星メガコンステレーションの「千帆星座(QUIFAN)」衛星がその数を押し上げています。3位はフランスの16機でした。
日本の衛星打上げとその成果
2025年上半期に日本はJAXAと民間で合わせて6機の衛星を打上げました。JAXAの衛星では、2月2日にH3ロケット5号機による準天頂衛星「みちびき6号機」の打上げが成功。「みちびき」シリーズは、日本上空でGPSの衛星測位サービスを補完し、独自の高精度位置情報のサービス提供も可能な測位衛星のシリーズです。打上げから約5カ月後の7月18日には無事に位置情報のサービス提供を開始し、活躍を始めています。
6月29日には、H-IIAロケットの最終号機となる50号機が温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW(GOSAT-GW)」を打上げました。温暖化に影響を与える二酸化炭素やメタンの排出量を全球で観測し、豪雨災害の原因となる降雨の状態を知る「いぶきGW」は、太陽電池パネルの展開など打上げ直後の機能チェックアウトを無事に乗り越えて、観測開始に向けて準備を進めています。
そしてH-IIAロケットは日本の衛星、探査機を宇宙に届けてきた役割を全て終えました。2001年の初飛行からこれまで、50号機中49機の衛星打上げを成功させ、98%の成功率を達成しています。今後は、後継機となるH3が固体ロケットブースターなしの「30形態」、固体ロケットブースター4本の「24形態」などラインナップ拡充を進め、サプライチェーン強化や打上げ高頻度化などの課題に取り組むことになります。
民間衛星では、レーダー地球観測衛星「QPS-SAR」を運用するQPS研究所が「スサノオ-I」「ワダツミ-I」「ヤマツミ-I」と3機の衛星を相次いで打上げることに成功しています。3機とも、赤道から42度傾いた高度約580kmの軌道を周回していて、36機の合成開口レーダー(SAR)衛星による体制づくりに向けて着実に衛星の展開が進んでいます。
5月17日に打上げられたスサノオ-Iは、7月初旬に火山活動が続く鹿児島県の霧島山(新燃岳)の火口を観測するミッションを果たしています。光学衛星では噴煙で見えない部分が多くなりますが、電波を使って地表の様子を観測できるSAR衛星ならではの力が高精細で最新の火山の状況を明らかにしました。
1月15日には、ispaceの月着陸機「Resilience」がSpaceXのFalcon 9ロケットで月への軌道に向かいました。6月6日には月周回軌道から同社として2回目となる月面着陸に挑戦しましたが、レーザー測距装置(LRF)の不具合のため着陸にはいたりませんでした。ispaceは2027年にLRFを改修した新たな機体で3回目の月面着陸に挑む計画です。
世界の衛星打上げ状況
2025年上半期に打上げられた米国の衛星では、245機がスターリンク以外となっています。この中には、4月から独自の通信衛星コンステレーション構築を開始したAmazonのProject Kuiperの衛星や、地上の任意の場所をほぼ1日1回観測しているPlanetの光学地球観測衛星「DOVE」シリーズなどが含まれていて、多くが何らかのコンステレーションに属しているという状況です。
もっとも多いのは「USA ***」という名称の衛星で、83機あります。実は「USA」は米空軍が管理する衛星につけられる名称で、GPSや軍事偵察衛星、技術試験衛星などが含まれます。
83機のうち最大のものはSpaceXが提供する「スターシールド」の衛星。その機能については通信、偵察などとされていて詳細は明らかにされていませんが、軍事衛星の中でもSpaceXが存在感を発揮していることが軌道上のスナップショットから明らかになりました。
中国では、千帆星座以外にも国家の通信衛星コンステレーション「国網」を構成する「互聯網(HULIANWANG)」衛星の打上げも始まっています。軍事リモートセンシング衛星「遙感」、技術試験衛星「実験」といった政府系衛星のほか、商用地球観測衛星「吉林」シリーズの打上げも進んでいるようです。
5月29日には中国初の小惑星探査機「天問2号」の打上げに成功しました。月探査で培ったサンプルリターンの能力を活かし、積み上げてきた惑星探査の経験を元に小惑星と彗星の2つの天体を連続して探査するというミッションとなっています。
世界の通信衛星メガコンステレーション
コンステレーションの規模を牽引する通信衛星網の状況を、中国の「国網」も加えて見てみましょう。スターリンクが大きく他を引き離していますが、すでに計画の衛星数を達成しているOneWebもサービス提供時期に入っていることがわかります。
Amazonと中国の千帆星座、国網はスターリンクでいえば2019~2020年ごろの構築初期の段階です。「シェル」と呼ばれるコンステレーション衛星のグループを埋める衛星をどの程度の期間で構築できるかということが注目されます。
※大型の衛星コンステレーションに着目し、計画衛星数が500機を超えるプロジェクトを紹介しています。
衛星コンステレーションの構築には、ロケットの打上げ頻度が大きく関わっています。2025年前半で米国はおよそ90回の衛星打ち上げを実施しており、その多くをSpaceXが占めています。
一方で中国は34回と宇宙強国としての存在感を示していますが、これまで3年間は年間トータルの打上げ回数が70回弱といったところで、頻度の点ではやや足踏みの傾向にあります。年後半で回数は増えていく場合が多く、年間70回を超えることがひとつの節目になるでしょう。
NASA宇宙政策の激変
衛星打上げ以外に米国の宇宙活動では、1月にトランプ大統領がNASAの長官候補として指名した実業家で宇宙旅行者のジャレッド・アイザックマン氏が議会での審議中に指名を取り消されるという異例の事態が起きました。
トランプ政権は、2026年度のNASA予算をこれまでから24%程度削減するという案を示しています。大統領予算案の宇宙科学予算と事業を大幅に削減し、中国の勢いを抑えて月・火星の有人探査に注力するという方針は、宇宙科学を重視するアイザックマン氏の考え方と一致しない部分がありました。
現在のNASAは運輸長官のショーン・ダフィー氏が長官職を兼任するというかたちで運営されています。2026年度NASA予算は議会でまだ審議中ですが、日本が参加する予定である月近傍の宇宙ステーション「ゲートウェイ」の廃止案や、日米共同の地球観測衛星の打上げ(米国担当)のキャンセルなど日本にも影響する項目が多く含まれています。
アイザックマン氏の指名取り消しの背景には、イーロン・マスク氏と親しいことがあると考えられています。マスク氏とトランプ大統領の関係が悪化したことから、スターシールドに続いて米国の大型軍事衛星コンステレーション構想となる可能性があったミサイル防衛衛星網「ゴールデンドーム」構想へのSpaceX参加の先行きは不透明となっています。
SpaceXのスターシップ開発は、相次いだ飛行試験の失敗や射点スターベースでの爆発事故による設備損傷など足踏みが続いており、スターリンクでは先行しているとはいえ宇宙開発での地位を維持するには課題が多くあります。









