鈴木淳也のPay Attention
第267回
拡大する富裕層向け高級カードのユニークな世界
2026年2月4日 08:20
先日開催された三井住友カードの「Visa Infinite」のブランド発表会において、同社代表取締役社長の大西幸彦氏はVisaの最上位カードがターゲットとする富裕層向け市場に力を入れる背景として、近年の株高や世代交代にともなう金融資産の移転(相続)によって富裕層顧客が増加しつつあり、この動きに対応すべく銀行や証券など三井住友フィナンシャルグループが一丸となって「ウェルスマネジメント」のビジネスを強化しつつあると述べていた。
「三井住友カード Visa Infinite」はその戦略の軸の1つとなる商品だが、富裕層においてもデジタルネイティブ世代が増えていることを鑑みてスマートフォンとの連携を強化しつつ、こうした層に満足してもらえる特別な体験のサービス開発に力を入れていくという。
同様に、富裕層向けカードではアメリカン・エキスプレスなどと並んで国内先行するLuxury Card(ラグジュアリーカード)もまた、こうした競合の新規参入が市場のパイを広げるきっかけとなると歓迎しつつ、従来までターゲットとしていた経営者層のみならず、可処分所得の高い若手ビジネスマンが増加しつつあることを認識しており、より幅広い層へ訴求できる商品やサービス開発を推進している。
こうした高位ランクカードとは縁遠い筆者だが、この密かにホットでカード会社各社が注視している市場について少し紹介したい。
新規参入の増加で広がる富裕層向けカードの“パイ”
従来までこうした富裕層向けカードといえば、主に企業経営者など比較的高い年齢を対象にした市場が主戦場だった。
近年ではこうした経営者層も年齢の幅が広がり、その属性も経営者のみならず大手企業の勤め人だが可処分所得が多いケースなど、カード自体が持つステータスや潤沢なポイント還元、付随する豊富なサービス群など実利面から富裕層向けカードを選択することも増えている。そのため、一概に特定の集団を指してターゲットと分類するのは難しい状況だ。
一方で、共通の傾向もある。三井住友カードでマーケティング本部長の伊藤亮祐氏は次のように述べている。
伊藤氏:今回、三井住友カード Visa Infiniteのサービスやイベントを企画する中で実際に多くのプレミアム層の方々にお会いしましたが、年齢も含めてさまざまな方がおり、ライフスタイルもまた非常に多様です。一方で共通する価値観もあり、それは『価格よりも自分にとって価値があるか』ということで意思決定をしていることです。お金を出しても普通では買えないものやことを追求されており、今回用意した特別体験イベントはまさにそこにこだわって設計しています。
一部は以前の弊誌レポートでも紹介されているが、4つのテーマを中心に年間で50回以上のこうしたイベントが用意される。イベントは人数限定のため抽選制となるが、すでに1月の実施分までは終わってSNS等にも感想やレポートが投稿されているのが散見されていたりと、こうした外部へのアピール自体もVisa Infiniteの宣伝になっているといえる。
こうした形で「(すでに持っているカードの)さらに上位のカードがある」という認知が広がることで、興味を持った層がそうしたカード事情を調べ、カード会社は新たな会員獲得に繋がる。
「三井住友カード Visa Infinite」の年会費は99,000円だが、年会費だけで6桁以上、年間利用額が数百万円台から1,000万円以上に達するような高級カードの世界はパイが狭いような印象も受ける。しかし、Luxury Cardでチーフデジタル&マーケティングオフィサーの児玉朋雄氏は、日本における年会費5~10万円以上のマーケットは今後もさらに成長し、選択肢が増えることで関心が高まり、結果としてさらに自社のカードが比較検討される機会が増えていると指摘する。
児玉氏:2016年にLuxury Cardが上陸した際、日本にはこの種のカードはダイナースクラブさんとアメリカン・エキスプレスさんの2社しか積極的な選択肢がありませんでした。こうしたなかで三井住友カードさんやセゾンカードさんが競合商品を出されるのは、選択肢が増えることで比較検討の機会が増えると考えています。例えばVisa Infiniteに興味を持たれた方が、Luxury Cardの持つMastercardの最上位クラスであるWorld Eliteに興味を持っていただけるかなと。実際、そうした新規参入の一方で退会等の悪影響はみられず、むしろ興味を持った方の流入が増えています。
サービス開発に見る差別化
富裕層向けカードといっても、「戦車も買える」と冗談めかして紹介されることもある“Black Card”の代表格こと「Amex Centurion」や、Luxury Cardの最上位カードであるダイヤモンドが埋め込まれた「Black Diamond」のような完全招待制のものもある一方で、今回紹介しているカード群のように基本的には申請すれば誰でも会員になれるカードまで複数種類ある。
Luxury Cardも年会費や特典の差異によってTitanium、Black、Gold(24金)の3種類が用意され、ポイント還元率も1.0-1.5%までの3つのティアが存在する(Black Diamondは2.0%)。Goldは2種類のカラーバリエーションがあるが、Luxury Cardの特徴である“メタルカード”という点に加え、全体に文字通り24金によるコーティングが施されているなど、高級感をアピールしている点で特徴がある。
主戦場としては標準的なカードで最上位であるプラチナよりは上、招待制ではないものとして最上位に位置するカード群であり、従来のカードでは満足できない層を取り込むことを狙いとしている。そのためのサービス開発や差別化となるが、実際には銀行系の三井住友カードと独立系のLuxury Cardで方向性が微妙に異なっている。
前述のように、三井住友カードのVisa Infiniteはグループ全体のウェルスマネジメント戦略の中核として同カードを位置付けており、イベント開発や各種コラボレーションなども三井住友銀行やSMBC日興證券と共同で進めているほか、同社のデジタル金融サービスであるOliveとVisa Infiniteを合体させた「Olive Infinite」でデジタルネイティブ層向けの利便性を追求するなど、既存のOlive戦略の延長線上に高級カードを捉えている。
宣伝という意味でもグループ企業の窓口や営業を通して顧客へのアプローチが可能なほか、Visaが世界的にスポンサードしているオリンピックやFIFAワールドカップを組み合わせた特別プログラムの体験など、総合力で勝負といった印象がある。
対して独立系のLuxury Cardはサービス開発で先行するノウハウに加え、良い企画があれば即座に期間限定で実行しつつ反響があれば通年サービスへと昇格といった具合にフットワークの軽さを武器にしつつ、競合他社のようなポイント還元施策の改悪や付帯サービス(主にプライオリティパス)の制限なども行なわず、無理のない範囲で一度設定した特典は維持していくことに努めている。
使い勝手の面では事前入金を組み合わせて9,990万円までの一括決済が可能など、法人税の支払いや広告費の支払いなど、一般的な与信枠では対応が難しい事象に対応できる仕組みがあるのも特徴だ。また、VisaとMastercardの特徴でもあるが、ダイナースクラブやアメリカン・エキスプレスに比べても加盟店網が広く、世界中で使いやすいメリットも挙げられるだろう。海外出張や現地での取引の多い層には有利な点だ。
最後にLuxury Cardについてもう少し触れると、2025年8月に日本航空(JAL)との提携で発表された「JAL Luxury Card」という商品がある。
現状でJALが持っている最上位のJALカードはJCBの「プラチナPro」だが、位置付けとしては他社でいうPlatinum Preferredに近い。JALが抱えていた課題として、同社のマイレージプログラム「JALマイレージバンク(JMB)」では実際に飛行機に搭乗しない限りはステータスが得られず、顧客の“飛ばない”時間を上手くカバーできない問題があった。同社では金融事業強化の一環として2024年から「JAL Life Status」プログラムを開始しており、フライト搭乗のみならず、JALカードや関連サービスを利用することで“ステータス”が得られる仕組みへとシフトしつつある。
ただ、これだけでは普段からビジネスクラスやファーストクラスを利用するような層の取り込みが十分とはいえず、これをカバーするためにJALカードの最上位クラスとしてLuxury Cardと提携した「JAL Luxury Card」の発行に至った。
この提携カードのうち、完全招待制の「JAL Luxury Card Limited」は年会費が59万9,500円ながら、毎年5万フライ・オン・ポイント(FOP)が付与される特典がある。10万FOPに達するとJMBでダイヤモンドの最上位会員のステータスが付与されるが、5万FOPというのはビジネスクラスで国内外出張を4-5回ほど繰り返すと得られる数字であり、忙しいビジネスマンがより少ない移動回数で最大のステータスの恩恵を受けられることを意味する。出張の比較的多い層にとっては魅力的な特典といえる。
このほか、日高軽種馬農業協同組合 北海道市場との提携で実現した「競走馬馬主様専用提携Black Card」など、非常にニッチで特定のターゲットのみに“刺さる”商品も用意していたりと、独立系ゆえのフットワークの軽さで誕生した富裕層向けカードも存在する。一般向けのカードと違い、明らかに数えられるレベルの人数のみを対象とした商品が用意されるのが高級カードの世界なのかもしれない。









