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驚異の還元率16%の秘密 東宝の統一ID「TOHO-ONE」が目指すエンタメ体験の融合

東宝が映画、演劇、ECサイト、商業施設などの顧客IDを統合した新サービス「TOHO-ONE」を3月3日に開始します。これまで映画向けの「シネマイレージ」、演劇向けの「東宝ナビザーブ」などと分かれていた会員基盤をひとつに統合し、映画鑑賞や舞台観劇がお得になるポイントを付与するサービスです。

会員プランは3つあり、無料のライトプランのほか、年会費500円のスタンダードプラン、同3,000円のプレミアムプランを用意しており、グレードに応じてポイント還元率などが異なります。

ポイント付与率は1~2%で、基本的に1pt=1円として利用でき、映画鑑賞券などに交換できる「リワード」にも利用可能です。

TOHO-ONE 各種プランプレミアムスタンダードライト
年会費(税込)3,000円500円無料
ポイント付与率2%2%1%
ポイント支払い
(1pt=1円としての利用)
ポイントリワード(交換特典)
(例:映画鑑賞券など)
映画特典
(例:毎週火曜は1,300円で
映画鑑賞など)
演劇特典
(例:先行抽選、貸切公演など)
オンラインストア特典
(例:先行販売など)
日比谷シャンテ特典

東宝における会員サービスの歴史はわりと長く、映画向けの「シネマイレージ」は20年以上続いています。今回スタートする「TOHO-ONE」は、詳しく見てみると今あるサービスを単にリニューアルしただけではないことがわかります。

映画や舞台の鑑賞でポイントが貯まる仕組み自体はオーソドックスですが、有料プランでは240ポイントで2,000円相当の映画鑑賞券と交換でき、実質還元率が16%と高いことで注目を集めています。

それに加えて、映画および演劇の物販やEC、さらに東宝が運営する商業施設「日比谷シャンテ」での買い物でもポイントを貯められ、映画・演劇・物販・商業それぞれで横断してポイントを使うことができ、ユーザーにとっては、今まで以上に日常生活と地続きで活用できる設計になっています。

TOHO-ONEのローンチに先駆けて、同プロジェクトを推進してきたTOHO Digital Lab.の平松義斗氏に、統一ID導入の背景やポイント制度の考え方、今後の展望について話を聞きました。

そこでわかったのは、「TOHO-ONE」が単なる会員制度の統合ではないこと。ここ数年を経て、東宝が“顧客との関係性を再設計する試み”でした。

東宝 TOHO Digital Lab. 所長兼デジタルビジネス推進室長 平松義斗氏。元々はTOHOシネマズでマーケティングに携わっていましたが、今回のデジタル戦略プロジェクトを推進するにあたり現職へ。好きな映画は「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」(1992年)。「ラスト15分が最高」と語ります

劇場という接点をデジタルで強化

「TOHO-ONE」構想の起点について尋ねると、平松氏は「始まりは2020年のコロナ禍でした」と説明。そう、感染症防止対策のため、映画館も劇場も営業できない時期だったことを記憶している方も多いでしょう。

「東宝の強みの一つは劇場です。しかしコロナ禍をきっかけとして、そういったリアルの場には強いが、デジタルにおいては課題があるという話が社内で出てきたんです」

当時、配信事業を本格的に持たない東宝にとって、「劇場が止まったときに何ができるのか」は根源的な問いでした。そこで立ち上がったのが、デジタル戦略プロジェクト。その検討の結果として設立されたのが、TOHO Digital Lab.です。

「劇場以外でも接点を持つことが重要であると捉え、ダイレクトにお客様とつながるデジタル戦略が必要と考え、新たなサービスを打ち出すためにTOHO Digital Lab.が作られました。当初はECを統合するプラットフォーム構想から始まり、アイデアが徐々に変化しながら、最終的に今回のTOHO-ONEという形に収束していったのです。これまで東宝はコンテンツを配給する会社として、BtoB事業が中心でした。一方、今回のTOHO-ONEは、お客様に直接使っていただくもの。東宝にとって初めて、本格的に“直接ユーザーと繋がるサービス”になるんです」

「TOHO-ONE」ロゴ

これまでと全く異なる取り組みにあたり、TOHO Digital Lab.の現メンバーは全員がキャリア採用で、ITやデジタルサービスのノウハウを社内に取り込む布陣を敷いています。

「お客様のより良いエンタテインメント体験に繋がるサービスとなることを目指しています」と平松氏は語ります。

実は「4回観る」が閾値 リピーターの条件

「TOHO-ONE」設計の裏側には、徹底した調査とデータ分析がありました。映画館での鑑賞回数とリピート率を分析した結果、興味深い事実が明らかになります。

「現在のシネマイレージは、“映画を6回鑑賞すると1回無料になる”もので、それが業界のスタンダードになっていました。しかしTOHO-ONEの設計にあたって改めて調査してみると、その閾値は6回ではなく、4回であることがわかったんです。具体的に言うと、映画館に1年で4回以上行ったお客様は、翌年も同じように映画館に行く確率が高い。逆に3回以下の方は、翌年に続く割合が一気に下がるというデータが出たんです。ならば私たちとしては、この“1年に4回”という分岐点を作ることが課題。それをTOHO-ONEで牽引していきたいと思っています」(平松氏)

既存の映画ユーザー向けサービス「シネマイレージ」

ポイント制への移行も、その延長線上にあります。従来は映画館に6回行かなければお得にならなかったわけですが、映画、アニメや演劇、ゴジラグッズを取り扱うECサイトや日比谷シャンテを横断するポイント制になったことで、ユーザーにとってはポイントが貯めやすく使い道も柔軟になりました。例外的に、演劇の地方公演の物販などは物理的制約で適用外になる場合もありますが、ナビザーブ購入は対象にするなど、できる限りポイントの横断性が意識されています。

このように、ユーザーが早期にメリットを感じられるサービス設計にすることで、映画館や劇場に足を運ぶ習慣を作るのが狙いです。

ポイント“高還元率”の正体

映画・演劇・物販・商業施設と、事業横断の取り組みを増やす背景について、平松氏は「IP価値と顧客体験価値を同時に高めたいという狙いがある」と語ります。

「ただIDを統合するだけでは、お客様に大きなメリットがありません。そこでポイント還元など“わかりやすい価値”を付けました」

そう、「TOHO-ONE」の発表時に話題となったのが、この“還元率の高さ”でした。上述の通り、有料会員(スタンダードプランとプレミアムプラン)のポイント付与率は2%。100円の利用で2ポイントが貯まる仕様です。

主なリワードは、240ポイントで2,000円相当の映画鑑賞券と交換できるもの。240ポイント貯めるには12,000円分の利用が必要となり、実質還元率は約16%に達します。

TOHO-ONEの有料会員(スタンダードプランとプレミアムプラン)のポイント付与率は2%
240ポイントで2,000円相当の映画鑑賞券と交換

この還元率はどのように決定されたのでしょうか?

「シネマイレージの還元率を維持するために、TOHO-ONEに移行した形です」(平松氏)

そう、現在のシネマイレージは、映画館に6回行くと1回無料になる仕組み。これは映画鑑賞券の一般料金(1,800円~2,000円)で計算した場合、実質約14%~16%以上の非常に高い還元率となっていました。そのお得感を、そのまま「TOHO-ONE」の新プランに置き換えたというわけです。

さらに言えば、東宝主催の舞台チケットはS席で12,000円~18,000円前後の価格帯が多いため、舞台を1本鑑賞すれば映画1本分のリワードを獲得できる計算になります。この点も、映画と演劇のユーザーを相互に回遊させるという「TOHO-ONE」の狙いを、極めて合理的に叶える仕組みになっています。

演劇チケットは東宝ナビザーブで購入したものがTOHO-ONEのポイント付与対象

実際、このポイント設計は既存ユーザーも含めて多くの人に歓迎されたようで、特に有料プレミアムプランについては、予想以上の反響があったとのこと。

「プレミアム会員のニーズが思ったより高かったので、さらにプレミアム会員の特典内容を追加することも視野に入れています。今後は、お客様のご意見も取り入れていきたいですね」

東宝のエンタメ体験をつなぐプラットフォームに

東宝は2032年の創業100周年に向け、「TOHO-ONE」を1,000万人規模の会員サービスとすることを目標に掲げています。

「TOHO-ONEは、単なる会員サービスではありません。東宝のエンタメ体験をつなぐプラットフォームとして位置付けています。今後はマーチャンダイズの強化やアニメIPとの連携もより加速させていきたい。TOHO-ONEを軸に、映画も演劇もアニメも物販も含む横串を増やし、東宝グループの強みを活かしたサービス基盤として運営していきます」(平松氏)

映画・演劇・物販・商業。これまで縦割りだった東宝の事業を、“顧客体験”という軸で再編する「TOHO-ONE」。コロナ禍を機に配信事業の盛り上がりがフォーカスされてきたここ数年を経て、改めて“フィジカルな体験価値”が見直されてきている今、東宝が踏み出したデジタル戦略に期待したい。

杉浦みな子

オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀……と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハーです。 執筆履歴はhttps://sugiuraminako.edire.co/から。