西田宗千佳のイマトミライ

第332回

スマホもPCも「AIが先に動く」時代へ Galaxy S26、iPhone 17e、Copilot Cowork

春が近づき、スマートフォン新製品が増えてきた。

日本でも、iPhoneの新モデルである「iPhone 17e」、サムスンの「Galaxy S26」シリーズが相次いで発売になった。

ハイエンドと普及型を同一視するのは難しい。しかし、それぞれのスマホが目指すところはかなり見えている。それはやはり、「魅力としてAIをどう活かすのか」ということだ。

一方PCやウェブを軸にした世界でも、「OpenClaw」を軸にしたある種のブームが起きている。

マイクロソフトはAIパートナーとして、これまでのOpenAIに加え、Claudeを提供するAnthropicとも提携、「Microsoft 365 Copilot」で利用する戦略に出ている。

こうした春の動き全体を俯瞰し、今なにが起きているのかを考えてみよう。

スマホで進む「先回りするAI」

まずGalaxy S26シリーズの話から行こう。

Galaxy Sシリーズは毎年この時期に発売になるが、今年は日本向けに、サムスンはかなり気合が入っている。

1つ目は、ディスプレイサイズの大きな「S26+」がラインナップに加わったこと。

Galaxy S26+。日本では今回追加された。画面サイズにこだわる人向け

2つ目は、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクに加え、楽天モバイルでも初日から扱う「4キャリア体制」になったこと。昨年ソフトバンクが取り扱いをはじめて3キャリア体制になったのに加え、今回は楽天が追加された。

ハードウェア的にはGalaxy S26 Ultraが搭載している「プライバシーディスプレイ」が話題だ。画面全体、もしくは通知部だけを正面以外からは見えづらくする機能だが、実際に見ると確かに驚く。

Galaxy S26 Ultraに搭載されている「プライバシーディスプレイ」。通知部だけが正面以外からは見えなくなっている点に注目

ただ、この機能は最上位機種であるGalaxy S26 Ultraにしか搭載されていない。では、それ以外の2モデルに意味がないのか、というとそんなことはなく、多数の改善点がある。

中でも軸にあるのはAIだ。だが、「AIがある」というレベルでのアピールはもう行なわれていない。Galaxyには大量のAI機能があるが、「Aという機能がある」というアピールでは刺さらない。

Galaxy Sシリーズは多数のAI機能を搭載。その量は業界最高クラス

だから「先回りするAI」としてアピールしている。その中核になるのは「Now Nudge」と「Now Brief」という機能だ。前者はメッセージなどで、画面上の内容に合わせてタイプすべき内容や、ここから行なうべきことを提案するもの。後者は行動記録を理解して、その日のリマインダーや行動のまとめなどを行なうものだ。

画面の内容を把握して入力すべきものや行なうべきことを提案する「Now Nudge」
これから起こることをまとめる「Now Brief」

「AIを使う」といっても、日常的にAIの使い方を考えて使うのは大変だ。そうではなく、AIが自分のことを考えて提案してくれるのであれば、今までとスマホの使い方を変えなくても便利さが追加される。

こうした要素は、現在のスマホにとってテーマになりつつある。

先日Google台湾を取材したとき、GoogleのAndroidプラットフォームのエンジニアリング担当バイスプレジデントのエリック・カイ氏は、「ユーザーが操作するのではなく、デバイス側から提案する、プロアクティブ(先回りする)な要素が増えるだろう」と話している。

スマホにおいて、今年のテーマは「スマホ内のAIが提案する機能」になるのは間違いない。Galaxy S26シリーズはその要素を先取りしようとしているわけだ。

一方でアップルのiPhone 17eには、そうした新しい機能はない。アップルはiPhone全体の機能アップデートを、OSのアップデートでタイミングを合わせる。今回はOSの大幅なアップデートを伴わないから、そうした新機能はアピールポイントではない。

iPhone 17e。新色とコストパフォーマンスがアピール点

しかし、アップルとしてはApple Intelligenceで、初期から「AIが利用者のことを把握して利用者をサポートする」方向性を目指していた。だが、AI開発の遅れで未だ機能実装は一部のみ。先日GoogleからGeminiのライセンスを受けることが発表されたが、現在OSの改善が進められているのだろう。

その改善を支えるには、十分な性能のプロセッサーが必要になる。iPhone 17eはコストパフォーマンスを重視した製品だが、プロセッサーは最新の「A19」であり、性能はかなり高い。

アップルとしては、Apple Intelligenceのアップデートに備えて性能の水準を維持する必要があり、iPhone 17eの構造からはそこが見える。

AIエージェント改善に熱視線 マイクロソフトはAnthropicとも連携へ

AIの多くは、人が命令を与えて動くものだ。絵を描かせたり、ソフトを作らせたりするのは典型的なものだ。ある意味で「道具としてのAI」と言える。

一方で、人はそれだけでは満足しない。スマホで進んでいる「先回りするAI」という要素も必要になる。

だがそれ以上に求められることは、「指示すれば一定のことを代わりにやってくれる」という要素だ。AIにやってほしいのは自分が面倒だと思うことであり、それを肩代わりしてくれることだ。

AIエージェントはそのための仕組みであり、「命令すれば複雑な指示をこなして、終わったら教えてくれる」という要素が重要である。

Manus AIやGenspark AIなどはその方向性を強く押し出している。

マイクロソフトも新しい戦略を打ち出した。

同社はAIサービスのパートナーとしてOpenAIを選んできた。だがMicrosoft 365向けに、新たにAnthropicとも連携、AIモデルとしてGPTだけでなく「Claude」も選べるようになった。

これ自体非常に大きな変化であるのは間違いないのだが、その結果として登場する「Copilot Cowork」が導入されることが驚きだ。

Copilot Coworkは、Claudeの機能である「Claude Cowork」のマイクロソフト版。その詳細は以下の記事に詳しい。

Meet Copilot Cowork: A New Way of Getting Work Done

特定のフォルダに入ってくるファイルや写真を内容に合わせて自動整理したり、返信が必要なメールを見つけたり、といった作業を、シンプルなプロンプトで自動化できる。

Copilot Coworkの場合、基本要素はClaude Coworkと同様だが、Microsoft 365との連携が軸になるのが大きい。企業の場合、議事録や対話の内容、業務文書はMicrosoft 365をベースとしたシステムの中に蓄積され、利用されている。そこにCopilot Coworkが連携することで、業務の自動化を推進しやすくなる。

……というのがマイクロソフトの狙いだ。同様のAIエージェントはこれまでも開発をしていたし、AIエージェント自体の開発を企業に促す戦略も持っている。一方で、今年に入ってから、AIエージェントを運用するための技術と環境は急速に変化している。その中核にある変化の1つが、Claude Coworkではある。

だとするならば、マイクロソフトとしても急いで取り組まねばならない。

マイクロソフトは大手であり、企業での導入例も多い。一方で、AI関連のニュースでトレンドとして目立つのは他社であることも増えている。マイクロソフトとしては、他社にAI関連ビジネスの価値を奪われないようにするためには、速度を上げる必要がある。その中では、パートナーを広げることも厭わない……ということなのだろう。

これは「時間を買う」という意味で、アップルとGoogleの関係に似ているようにも思う。

OpenClawブームの影響がAIエージェント戦略に変化を

AIエージェントを広げるという意味では、「自前で持つ」という流れもある。

「OpenClaw」はそうした傾向からヒットしたソフトウェアである。

2025年11月に生まれたソフトだが、自分のPCにインストールし、クラウドに依存せずAIエージェントを運用することを目指したものだ。SlackやDiscordなどのチャットサービスと連携し、AIエージェントを使う。

特定のサービスに依存していないために自由度が高く、自分のメールや文書などを活用した「自分に合ったもの」を作りやすいことから急激に人気を高めた。なにより、サービス利用料を最小化できるのは大きい。

先進性が評価され、開発者は2月にOpenAIに入社した。

便利ではあるが、アカウント管理やセキュリティ対策などの管理は厳重であることが求められ、危険性も伴う。中国ではインストールサービスが急増した一方で、政府機関などでの利用を制限するアナウンスもなされた。

筆者も使ってみたが、技術に詳しい人でも「とりあえずインストール」は避けた方がいい、という印象を持った。

だが、こうした動きは、クラウドAI側のAIエージェントビジネスを加速する源にもなっている。クラウドで簡単かつ安全な管理をすることが差別化策になる。OpenClawの開発者がOpenAIに入ったのも無関係ではないだろう。

AIでのネット検索を軸にしているPerplexityは、「Personal Computer」という機能を発表した。

Perplexityは、「Personal Computer」という機能を公開。テスト公開に向けWaiting listの登録が可能

クラウドのAIエージェントとして同社が提供している「Perplexity Computer」をベースとしているが、自分が持つMac miniにインストールして使うことを想定している。

これは明確にOpenClawを意識したもの。OpenClawではMac miniを使うことが多く、そのイメージに関連づけたいのだろう。

こうした「個人のためのAIエージェント」がそこまで広がるか、興味深いところではある。

だが、スマホにしろPCにしろ、AI関連開発の軸は、この2年間、AIエージェントにあった。その利用を簡便化することが、特にコンシューマー向けの製品では重要になる。

スマホはプロアクティブなAIでそこを目指し、PCとウェブからのアプローチは「自分がやってほしいことを命令しておいて、やってもらう」流れに向かっている。当然、スマホからもウェブは使えるわけで、この両者はどこかで合流する。その時期はそんなに遠いものではなく、確実に年内には見えてくるだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41