石野純也のモバイル通信SE

第100回

JALモバイルはなぜ「ahamo」を選んだのか “薄い”経済圏が生むドコモの新戦略

日本航空とドコモは、6月25日にJALモバイル powered by ahamoをスタートする。写真中央左は日本航空の西田氏、右はドコモの坪谷氏

日本航空とドコモは、6月25日に「JALモバイル powered by ahamo」を開始する。IIJmioの回線を使っていたJALモバイルを「JALモバイル powered by IIJmio」と位置づけ直し、ドコモ回線のahamoを選択可能にした格好だ。これまでと同様、毎月の料金に対してマイルが付与されるほか、新規契約やMNPの場合には上級会員になるために必要なLife Statusポイントもたまる。

JALモバイルがドコモと組む理由

JALモバイルは“マイルの使いやすさ”にフォーカスしており、行き先が4カ所からランダムで決まる「どこかにマイル」を、年1回、1,500マイルで利用できる。この特典はahamoにも受け継がれており、毎月の125マイルを1年間ためると、どこかにマイル1回ぶんになる。モバイルサービスを契約しているだけで、年1回、国内旅行ができるというわけだ。

どこかにマイルは、通常往復で7,000マイル必要だが、JALモバイル契約者は年1回、これを1,500マイルで利用できる

料金は、ドコモが提供するahamoと同額で、30GBのデータ容量が2,970円。5分間の音声通話定額も、この中に含まれる。日本航空の執行役員でマイレージ・ライフスタイル事業本部長を務める西田真吾氏は、「契約しないともったいないプランであると申し上げたい」と自信をのぞかせた。

料金は通常のahamoと同じで、30GB、2970円。海外ローミングも無料だ

大手キャリアが主力となっている料金プランの1つを、「ホワイトレーベル」のように他社に提供するのは異例だが、JALの魅力で契約獲得に弾みをつけたいのがドコモの狙いと言える。ドコモは顧客基盤拡大を重視しており、前田義晃社長就任以降、販促費を積み増したり、販路を拡大したりと、さまざまな手を打ってきた。

JALモバイルへの回線提供も、こうした戦略の一環と言えるだろう。ドコモの常務執行役員 経営企画部長 坪谷寿一氏は、「JMB会員基盤から、よりすそ野を広げていくのが目的」と話す。経営企画部 担当部長 横山豪氏も、「JMB会員の中でahamoをご存じなかったり、今まで興味がなかった方もいる。そういう方々にahamoへの興味を持っていただけることを非常に期待している」と語る。

なぜahamoなのか? 「海外」+「若年層」

では、なぜJALモバイルとして提供されるのが、他の料金プランではなく「ahamo」になったのか。日本航空の西田氏は、IIJとJALモバイルを始めてから、「海外でも使いたいと言うお声を多数頂戴していた」と明かす。

MVNOであるIIJmioには、海外データローミングがつかない。6月から、JALモバイルでも海外用eSIMの提供を開始したが、別途料金がかかる上に、デュアルSIMでの運用も求められる。

ahamoは、海外91の国や地域でのデータローミングが無料になる。この点が国際線を擁するJAL側から評価された

対するahamoは、そのまま91の国や地域でデータローミングが利用でき、30GBまでの範囲であれば、料金もかからない。国際線も手掛けるJALが提供するのに適したサービスだったと言える。ただ、国際ローミングだけでは、ahamoになった説明がつかないのも事実だ。ドコモは、ドコモMAXでも海外ローミングを15日間、30GBまで無料にしており、かつ対応する国や地域もahamoより多い。

これについて、日本航空のマイレージ事業部 事業部長を務める杉山寿英氏は、「若年層の皆様にいかに航空利用を広げていけるのかは、長年課題としてあった」と語る。ahamoは、オンラインに特化してスタートしたこともあり、一般的なドコモのユーザーよりも年齢層が低い。こうしたユーザーを、JALの経済圏に引き入れる期待があったというわけだ。

ahamoは、20代、30代の若年層をターゲットにした料金プランとして誕生した。この点も、JALにとって魅力的だったという

また、JALモバイルはJAL経済圏の中のいちサービスになる。ahamoは、JAL側から見れば、経済圏に染めやすい料金プラン、ドコモ側にとってはホワイトレーベルとして他社に提供しやすい料金プランと言えるだろう。ahamoは、ドコモが提供する他の料金プランよりも、経済圏連携色が薄いからだ。

経済圏の“薄さ”がahamoの強みに

実際、ドコモMAXを月額5,148円で使うには、家族がドコモを利用し、「みんなドコモ割」が適用されている必要があるだけでなく、「dカードお支払い割」や「ドコモ光セット割/home 5Gセット割」が必要になる。さらには、「ドコモでんきセット割」や契約期間が20年超の「長期利用割」があってこの金額になる。光回線、電気、クレジットカードの3つは、JALのサービスと真正面からバッティングする。

セット割の対象サービスを「JAL光」や「JALでんき」に拡大するには、大きなシステム変更が必要になるだけでなく、ドコモが経済圏からユーザーを失うことにもつながってしまう。

対するahamoは、割引などがなく、料金体系はシンプル。クレジットカードでデータ容量を増量するサービスなどはあるが、光回線や電気サービスとは直接的な連携をしていない。経済圏を持つ他の企業に提供しやすい料金プランになっていると言えるだろう。

ahamo以外の料金プランはドコモ経済圏の色も濃く、同じ光回線や電気サービスを持つ他社が取り入れづらい

オンライン専用プランとして提供し、“ドコモ色”が弱かったからこそ、ホワイトレーベルとして提供できたというわけだ。この点は、povoをSDKで他企業に提供し、サードパーティのサイトやアプリから契約できるようにしているKDDI Digital Lifeに近い。IIJやmineoなどのMVNOも、同様の形で通信サービスを他社に提供している。「HORIE MOBILE」など、さまざまなサービスを手がけるエックスモバイル(注:堀江貴文氏とエックスモバイル)も、その先駆けだ。

もっとも、povoやMVNOの場合、料金プランに柔軟性があるため、提供を受ける側がユーザー層に合わせてサービスを設計しやすい。対するドコモのahamoは、あくまでメインブランド内のいち料金プランのため、選択肢が中・大容量に限定される。小容量の「ドコモmini」もドコモの経済圏にしっかり組み込まれているため、ドコモMAXと同様、他社に提供しづらい側面がある。

JALモバイルでも、データ容量の選択肢の豊富さや小容量帯の安さはIIJに軍配が上がる

サブブランドではないゆえの制約があるため、このような座組をどこまで広げていけるかは未知数と言えるだろう。

また、JALに匹敵する規模感の経済圏を構築できている企業も少ない。とは言え、MNO最大手のドコモが個人のブランドと組む「HORIE MOBILE」のようなサービスを立ち上げる……というのもにわかには考えづらい。その意味では、小回りを利かせやすいpovoやMVNOとは、住み分けも進んでいきそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya