西田宗千佳のイマトミライ

第333回

話すだけのスマホメタバース「POPOPO」が狙うもの

POPOPOの発表会より。左から、庵野秀明氏・川上量成氏・GACKT氏・ひろゆき氏、POPOPO代表取締役社長の矢倉純之介氏

3月18日、「POPOPO」という新しいコミュニケーションサービスが始まった。

「カメラのいらないテレビ電話」という触れ込みなのだが、「スマホ向けのメタバース」とも言われる。位置付けがわかりにくく、ある意味で「謎」のサービスという部分がある。

実際にはどんな部分を目指したものなのか? 実は、今のメタバースを含めたコミュニケーションサービスの状況を把握しておくとわかりやすくなる。

今回はPOPOPOを軸に、現在のコミュニケーションを考えてみよう。

POPOPOの原型は「Clubhouse」と「SUGAR」

POPOPOはどういうサービスなのか?

発表後、サービス開発を主導した川上量成氏にインタビューした。その中で、POPOPOを開発するためのヒントになったサービスとして、川上氏は2つの名前を挙げた。

POPOPO仕掛け人の川上量成氏

それは「Clubhouse」と「SUGAR」だ。

Clubhouseはコロナ禍の2020年にスタート、2021年に話題になった音声コミュニケーションだ。ちょっと懐かしい、と感じる人もいるだろう。

誰もが簡単にトークステージを作れて、それを多人数で聞けるというもの。今はXにも同じような「スペース」という機能が追加されているくらい、一時期は大きな影響を持ったサービスだった。

POPOPOは「自分と話している人の姿が3Dで表示される」という要素があるものの、「部屋の中で話している人達の会話を聞く」という要素は、非常にClubhouseに似ている。

POPOPOでの対話画面。同じ部屋に入って会話している人の話を聞く、という印象に近い

もう一つのサービスである「SUGAR」については、あまり知らない人もいるかもしれない。これは国産の双方向配信サービス。配信者の話を聞く、という立て付けが基本だ。

POPOPOのヒントとなった「SUGAR」。ファンクラブなどで使うのに向いた配信アプリ

これ自体はよくあるものだが、違うのは「視聴者に音声で連絡ができる」という点だ。ファンクラブなどでの利用を想定しており、集まったファンに対してランダムに「電話」することで、ファンとのエンゲージメントを高めることが狙いだ。

開発には俳優の佐藤健氏が関わっており、だから名前も「SUGAR」(さとう)なのだ。サービス名などの明示がないのでわかりづらいが、発表会に佐藤健氏が登壇したのも、SUGARとPOPOPOが似た特質のあるサービスだからだろう。

POPOPO発表会には佐藤健氏も登壇したのだが、これは「SUGAR」の存在を意識したものではないだろうか

1つの軸として、POPOPOは「有名人との対話を楽しむ」アプリであり、この2つの要素をうまく取り入れている。誰かが作ったステージでの対話を簡単に聞けて、さらには、ファンエンゲージメントとして、ランダムに誰かと「直接話す」こともできる。

新しさは「対話している間キャラクターが表示されること」であり、表示のための操作がほとんど不要である、という点に集約できる。

個人が「知り合いと一緒に話す」ことも重要

では、POPOPOはこれらのサービスのクローンなのか、というと、それも違うと感じる。

ポイントは「個人間でのコミュニケーションにも使える」ことだ。

POPOPO内でフォローしあっていれば、その人を呼んで、同じ部屋の中で会話できる。

もっと言えば、会話をしなくてもいい。単に同じ部屋で「つながっている」だけでも問題はない。

こうしたスタイルは、LINEなどの使い方に似た部分がある。友人同士でつなぎっぱなしにし、雑談をするでもなく勉強や作業をする……というパターンは少なくない。

POPOPOでは、一般にアバターと呼ばれるCGのボディを「ホロスーツ」と呼んでいる。ホロスーツが同じ部屋にいて話をしている、というイメージを作る点が重要だ。単に話すだけでなく、複数の人が実際に同じ部屋にいる、という感覚を再現するのが1つの軸でもある。

コラボも簡単な「会話重視」構造

POPOPOに関しては、もう1つ面白い要素がある。

配信系のサービスでは、配信者に「投げ銭」をする機能が定番になっている。ファンから配信者へのお布施的なものであり、有料アイテムと並ぶ大きな収益源でもある。

だが川上氏は、「投げ銭は機能として用意するものの、あまり重視しない」と話す。

理由は「会話が面白くなくなるから」(川上氏)だ。投げ銭をしてもらうこと、投げ銭を受け取ったことに会話が偏りやすい、と川上氏はいう。あくまで「会話を促進する」ことをサービスの軸に置いているため、会話がまわりにくくなる要素は重視したくない、という立場のようだ。

一方で「会話が面白くなる」ことは重視している。

「一人だと、話はなかなか回らない。ゲーム配信が多いのは、ゲームというネタは常に新しいものが供給されるから。POPOPOは簡単に『コラボ』ができるので、そこが重要」

川上氏はそう話す。コメント中に出てきた「コラボ」とは、VTuber界隈で広く使われている言葉だ。VTuber同士が集まって配信をすることで双方のファンにアピールし、さらに、掛け合い自体が価値になる。いかにコラボを拡大するかが、VTuberビジネスでは重要になっている。

しかし、VTuberのコラボは大変だ。「中の人」の姿をCGに置き換える関係から、機材などの準備も必要。複数人で同時に収録するとなると、大きめのスタジオとスタッフの準備が必要になる。

だがPOPOPOの場合には、同じルームにさえいればそれだけでいい。どのアバターを使うのか、という問題はあるものの、「複数人で話題を盛り上げ、それをファンに聞いてもらう」ということ自体は、比べ物にならないほど簡単に実現する。

ここでも「対話しやすい環境を作ること」自体が価値になる、という発想になっている。

「歩かない」POPOPO。だがこれもまたメタバース

ただ「これのどこがメタバースなのか」と考える人もいるだろう。アバター=ホロスーツを着替えることはできるが、自由に移動することはできない。カメラアングルは完全に自動だ。空間を移動できないならメタバースではない……という印象になるかもしれない。

だが軸を「体験」でなく「会話」に据えると、移動は本当に必要なのか、という話になってくる。

ネットワークRPGでも、「最大のコンテンツはチャット」と言われ続けてきた。その際、アバター同士が近づいて対話することもあるが、実際には「パーティーチャット」などで、全然別の場所にいながら話すことも多い。

メタバース型サービスとして利用者が拡大している「VRChat」では自由にルーム内を歩き回れる。そのこと自体が一体感を高めるものではあるが、会話をするときにはアバター同士が近づいて話すことが多い。

こう考えると、ある種の体験を目指すのではなく、話すことだけを目的とする場合、「相手の前に移動する」のはさほど重要ではなく、面倒が先に立つ部分も多い、というのがわかってくる。

メタバースの定義とはなんだろう?

仮想空間を歩き回ることではなく、仮想空間で誰かと会って話すことが目的であるならば、結局重要なのは「空間内を自由に移動できること」ではない、という話になる。

その際、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)が必須か、というとそれも違う。もちろん、別の世界に没入するにはHMDを使うのが現状望ましい。移動や仮想世界の体感自体を価値と考えるなら、HMDでの没入は重要な要素だ。

しかし、前出のように「空間の共有」がメタバースの軸であるなら、HMDは必須ではなくなる。

3月18日、Metaは同社のメタバースサービスである「Horizon Worlds」について、HMDを使うVR版を終了し、スマートフォン版だけにする、との発表を行なった。

これ自体は2日後に撤回され、今後もVR版が提供され続けることになった。利用者からの不満が寄せられたためだ。だが、今後同サービスがスマホ版を軸になっていくことは間違いない。

Metaの「Horizon Worlds」。苦戦中で、ここから当面はスマホ版を主軸にしていく

2025年9月にMetaで取材した際、筆者は「Horizon Worldsはスマホ中心になる」とのコメントを得ていた。今回の発表もそこに連なるものだろう。

理想的には「世界に入ってしまう」ことが望ましいが、では、現状の技術においてそれが常にベストかというと、そうではない。移動することが楽しみや価値につながる使い方でないならば、「他人と空間を共有する」という要素だけが必要になる。

その上で、現状、ビジネスとして「Free to Play」的な形を使うなら、利用者が多いスマホをターゲットにするのは必然……ということになる。

Metaが当面スマホをターゲットとして重視するのと同様、POPOPOも「ビジネスを考え、スマホありき」で作られたサービス……ということになる。

POPOPOで取締役CTOを務める岩城進之介氏も、「当初の発想は移動しなくていいテキストチャットアプリ。求められているのはアバターで話すことであり、話すために相手のところへと移動することでないだろう……という発想だった」と話す。

実のところ、「あまり移動しない機能特化型メタバース」は、POPOPO以外にもいくつか存在する。

例えば、ambrが開発した日本製のアプリである「gogh(ゴッホ)」は、部屋の中にいるアバターを表示しつつ、自分も一緒に作業を集中して行なうものだ。複数の人が一緒に過ごせるが、ボイスチャットもテキストチャットもない。

ambrが開発した「gogh(ゴッホ)」。アバターを表示しつつ、アバターと一緒に自分も「集中して作業をする」サービス

移動・会話といういかにもメタバースらしい要素はないが、「空間を共有する」という意味ではメタバースの要素を持っている。

そう考えると、POPOPOもgoghも同様に、十分にメタバースの1つ、と言える。

ビジネスの軸は「ホロスーツ販売」 命名は庵野秀明氏

当然のことだが、後発である以上、POPOPOはライバルに当たるサービスをかなり研究して作られている。

ゲームを含め、アバターを使うコミュニケーションサービスでは、まずアバターをカスタマイズする画面から始まる。顔やボディについて複数のパーツを組み合わせ、自分のアバターを作るわけだ。

だが、POPOPOにはこの機能がない。理由は「より簡単に使い始めてもらう」ためだという。

自分の姿を変えるには、「ホロスーツ」と呼ばれるボディのデータを買い、自分で着替えていくことになる。

この種のものは「アバター」と呼ばれることが多いが、POPOPOではあくまでホロスーツ。この名前は、アドバイザーであり取締役として名を連ねている庵野秀明氏の発案だという。

川上氏は庵野氏に、「ガンダムにおける最大の発明は、ロボットではなく”モビルスーツ”という名前を使ったことだ」と言われたという。名前を変えることで別の存在として扱えるため、人々の受け止め方も変わる、という発想だ。

POPOPOとしては、自分の分身=アバターと考えてもらうのではなく、話す内容や話す相手に合わせて、気軽にホロスーツを着替えてもらうことを目指している。それはビジネス上の要請でもあるし、他のサービスとの差別化要因でもある。

POPOPOのホロスーツは400種類以上あるという。だが、現在売られているのはその半分。時期やイベントごとに合わせて入れ替えていく予定だという。デジタルデータだが価格の差があるし、「在庫限り」での販売もある。

POPOPOのホロスーツ売り場。価格が様々であるだけでなく、「在庫数」が設定されているものもある

この仕組みが回るためには、気軽にホロスーツを着替えるという習慣が定着する必要がある。どこまでそれが進むかは、まだわからない。

スマホゲームと同じように「数%が課金し、さらにそのうち少ない人々が大きい額のアイテムを買う」構造になる可能性はあるだろう。川上氏も「そうなると、ビジネスとしての形は計算しやすい」と話す。

ただ、そこで「ステージに上がる人の話を聞く」サービスになると、ホロスーツは売れづらくなる。サービス利用者の大半である「話を聞くだけの人」は注目を集めないので、ホロスーツを買うというモチベーションが育ちにくい。

しかし、友人同士での会話や、不特定多数の入る「作業部屋」みたいな使い方が定着するなら、そこでホロスーツが売れる素地が生まれる。

川上氏は「ホロスーツを売る別の施策」を用意しており、取材ではその一端を聞けたのだが、サービス実装前なのであえて言及は避けておく。

POPOPOが定着するかはまだわからない。スタート後には、GAKT氏や川上氏、庵野氏などのトークセッションも行なわれた。ある種の客寄せとしては有効だろう。

だが、有名人だけでは長続きはしない。自発的にトークが多数始まり、サービス利用が活性化していくことが望ましい。

ユニークなサービスだけに、POPOPOは、利用者自身もサービスの価値を見極められていない部分もある。定着への道筋はどのようなものになるのだろうか?

個人的にはそこが気になっている。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41