西田宗千佳のイマトミライ

第331回

WBCのNetflix独占配信は"悪"なのか? 批判の陰に隠れた本当の課題

「ワールド・ベースボール・クラシック 2026(以下WBC)」が開催中だ。

3月8日の段階で日本は、早々に1位で一次ラウンド突破を決めた。ただ、各チームが非常に良い試合を繰り広げている印象だ。筆者は野球にはそこまで詳しくないのだが、十分楽しめている。

一方で、WBCについては「Netflix独占」であることが議論を呼んでいる。

そのこと自体はかなり前から公表されていたのだが、「地上波で放送される」と思い込んでいた人もいただろう。また、飲食店などで「皆で視聴するのが難しい」と思われていることも、反感につながってはいると考える。

この辺へのNetflixへの対応については、以下の記事でまとめてもいる。

ソーシャルメディアなどを見ると、独占を選んだNetflixを悪者のように語る人も少なくない。

ただ同時に、配信になったことを喜ぶ人たちもいる。明らかに快適になったからだ。

このギャップはどう考えればいいだろう?

「独占」ということに複雑な気持ちを抱くのはわかる。他方で筆者の目から見ると、誤解などから来る非難も見かけられる。本当に考えないといけない話が語られていないようにも思う。

今回は改めて、「独占とはどういうことなのか」という話をしてみたい。

「高齢者がテレビでNetflixを見る」ハードル

Netflixは映像配信だ。視聴には、ネット回線と契約とIDによるログインが必要であり、そのことが1つのハードルになっているのは間違いない。

先日の本連載でも「テレビで見るための基本」を書いたが、家庭にネット回線がない高齢者などの場合、難易度が高いと感じる人々は多く残された。

この点については、どう考えればいいのだろうか?

総務省情報通信政策研究所が2025年6月に公開した「令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によると、Netflixの年齢別利用率は、以下のような形になっている。10代から30代は40%前後と高く、40代・50代は20%台後半。それが60代・70代になると急速に下がる。

情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書より、筆者抜粋。黄枠(筆者追加)内がNetflix。高齢になると加入率が下がる

これをサービスごとでなく「サービス種別」に変えると、次のグラフになる。Netflixは「オンデマンド型の動画配信サービス」にあたる。傾向はほぼ同じだが、70代を超えると急激に下がる。

サービス種別でのグラフ。青枠(筆者追加)内が、Netflixを含む「オンデマンド型配信」

ただ、YouTube等を含む「オンデマンド型の動画共有サービス」を見ると、利用率は圧倒的に高くなる。要はYouTubeの利用比率が高いのだ。

ここから見えてくるのは、「高齢者でもスマホで無料のYouTubeは見ているが、有料になると急激に利用率が下がるのでは」ということ。すなわち、テレビでじっくりと配信映像を見るというスタイルは、テレビに依存している可能性が高い高齢世帯ほど普及していない、という推測が成り立つ。

スマホでYouTubeを見るのは簡単だ。だが、テレビで配信を見るとなると、確かに一定のハードルが生まれる。

NetflixがWBCの独占権を取得して以降、周知は一定量行なわれたと思う。だが、テレビや新聞で「NetflixのWBC中継をテレビで見る方法」が周知されたか、というとそれはなかろう。テレビとしてはライバルの告知をする必要性はない。

一方で、スマホ以外の手法があることを、テレビメーカーやネット回線事業者はビジネスチャンスとすべきだったのではないか。

地上波で見れない、ということが「地上波を主な情報ソースとする層」には逆に届かず、見たい人をカバーすることを産業化することもできなかった。

この点は反省されて然るべきだし、筆者も「もっとテクノロジーに興味がない層のためのメディアで解説を書くべきだったか」とも考えている。

ちなみに、アメリカ市場だと、ストリーミングサービスの利用者は、65歳以上でも65%以上とされている(PEW RESEARCH CENTER 2025年調べ)。

PEW RESEARCH CENTERの調査による、アメリカでのストリーミングサービス利用状況。全世帯で高く、65歳以上でも65%

アメリカ市場は「スマホ以外」の家庭へのインターネット普及率が日本よりも高く、スマホだけを利用している家庭は十数%程度と見積もられている。このことは、「リビングにネット回線を引く」という映像配信利用のハードルを下げることに影響していそうだ。

「飲食店での視聴」を巡る実情

Netflix独占、ということで問題となっている話の1つに「飲食店などでの視聴」がある。テレビを飲食店がつけておき、それを来店した客が見る、というパターンだ。

Netflixの場合、基本的には、家族や友人同士で見るならともかく「契約者以外にパブリックに見せる」ことは契約違反となり、認められない。だから原則だけを言えば「飲食店でNetflixを流して見せることはできない」という話になる。

このことは反発の一端となっている。「地上波だったらできたのに」という話だ。

これは確かにそうなのだ。

地上波については「飲食店が流す」ことはルール上OKになっている。そういう店舗は実際多い。それと比較すると、ルールで縛っているNetflixは了見が狭い……という論につながるのだろう。

わからなくはない。だが、もう少し冷静に考えると、見え方は変わってくる話でもある。

飲食店などで映像を流す場合、個人向けの契約ではなく「業務向け契約」をする必要がある。Netflixを店舗で流せないのはそのためだ。

Netflixはアメリカ本国を含む海外でも、直接的に業務用契約は提供していない。海外では外部代理店を通じてスポーツバー向けに業務用契約を提供している場合もある。今回のWBC開催にあたって、日本では日本で業務用契約を展開する予定は「ない」と明確に回答を得ている。

【更新】Netflix側より、「直接提供ではないが業務用アカウントの提供事例はある」との申し出により、事実関係に修正を入れています。

実は、業務用契約のような仕組みを持っている配信企業は非常に少ない。

映像配信としてはDAZNが業務向け契約を持っているが、他のサービスにはない。Amazon Prime Videoなど、他社は同様の仕組みを持っておらず、これはグローバルで同様である。だから、前回のWBCでも「配信を店舗で流す」のは認められていなかった。

一方、衛星放送のスカパーやWOWOWは業務用契約を提供している。そして海外でも、スポーツバー向けに業務用契約を持っているケーブルテレビ局はある。

なぜこのような違いがあるのか?

要は配信だと「スポーツ以外も流すから」だ。スポーツは過去からスポーツバーなどに向けたルール整備が進んでおり、配信もそれに倣う。

しかし、一般的な配信を流すと「映画なども配信できてしまう」ことになる。

目的のコンテンツ(例えばWBCだけ)を流す仕組みを作れば対応できたのだろうが、それは流石に行なわれなかった。「作ればよかっただろう」というのは簡単だが、過去にないなにかをするときに、すべての事情をクリアーできるわけではない。業務用契約についても、海外と同じなのか国内では別の形なのかも、国内でのライブ提供が初めてということもあり、検討が進んでいなかった部分があるようだ。

そこで日本のNetflixは、「大手企業と連携して大規模なパブリックビューイングを展開する」という策を採った。具体的には、イオン・伊藤園・HUBといった企業との連携だ。

バーのチェーンを運営するHUBは、傘下の店舗で公式に配信中継を流している。日本戦の最中に近くのHUB系の店舗の様子を見に行ったが、多くの人が立ったまま中継に釘付けになっていた。

HUB系のバーの外には、WBC中継中のポスターが。中ではたくさんの人々が中継配信を見ていた

イオンのフードコートなどでWBCの試合が流され、それを多くの人が見ている……という風景も、ソーシャルメディアで見ている。Netflixが各地で行なうパブリックビューイングについては、伊藤園がスポンサーになって開催されたようである。

「大手企業だけじゃないか」と感じる人はいるだろう。もちろん、広告としてのビジネスという側面もあるだろう。とはいえこれは、日本のNetflixnとしても「できる範囲で、自宅外で視聴してもらうにはどうしたらいいか」を考えた結果だ、と聞いている。「店舗で流せない」という話は報道されても、こうした取り組みはあまり流れてこない。

また、1つ気になることもある。

正確には、地上波であっても「飲食店が集客のために放送を使う」のはルール違反なのだ。

認められているのは、「常にテレビがあり」「そこで放送が流れていて」「番組を見えること自体を商売として対価を得ない」場合だ。

だから正確には「高校野球中継中」などと店舗に掲げて集客に使ってしまうと、営利目的と解釈される余地が出てくる。

だが一般に、これらの行為が問題になって店舗が追及される例はほとんど耳にしない。日常的なことであり、それを無理に取り締まるのは不可能だし、意味がないからだ。

Netflixのような映像配信では明確にNGなので、筋論で言えば「やってはいけない」。ただ、そこに異を唱えてやめさせるのはNetflixなど事業者の役割であり、利害関係のない第三者が「WBC警察」のように店舗側を指弾するのは筋違いな話である。店舗での配信利用について、Netflix自体が警告やチェックなどの取り締まり活動を行っている事実は存在しないようだ。

一義的に、Netflixなどの映像配信事業者は、事業者向けルールを整備すべきだ。今後も同じようなイベントがあった場合のことを考えても、間違いない。

ここでルールを破れとは言わないが、我々は結局「現実解」の中で生きているのも、また事実ではある。「ダメだ」とギスギスするのはなぜだろうか。Netflixは、禁止の事実を強く喧伝し続けているわけでもないのに。

「一枚岩になれない」が故に対抗できなかった日本勢

そもそもこれらの問題は、地上波でWBCが中継されていないから起きることだ。

Netflixは独占すべきでなかった、テレビ局にサブライセンスをすべきだった、という意見が出るのは、その根本に疑問があるからだろう。

ここで問題になるのは、「ではなぜ、日本のテレビ局はWBCの放送権を得られなかったのか」ということだ。

真偽は不明ながら、今回のWBC配信権の取得に、Netflixは150億円を支払ったと言われている。

これを日本のテレビ局は支払うことができなかった、というのが「独占」に至った直接的な理由だ。

では、なぜテレビ局はNetflixに競合できなかったのか。それは「日本全体で取り組んだわけではない」から、と推察できる。

2023年大会はTBSとテレビ朝日が中心になって出資、放送権を獲得した。窓口になっていたのは読売新聞社だ。

そこで対象となっていたのも、日本戦全試合と決勝・準決勝など。他国試合はスポーツ専門局であるJ SPORTSに分散していた。

日本全体での動きに思える人がいるかもしれないが、「業界が一枚岩になって対応」していたとは言い難い。

それに対して、Netflixは全試合を高額でまとめて権利を取得した。WBCを運営するMLB参加のWBCIはビジネスを重視する組織であり、規模が小さくなる可能性がある日本のテレビ局からの案よりも魅力的に映ったのだろう。

韓国では、韓国プロ野球(KBO)の独占配信権を持つTVINGが、WBCの配信権を得ている。要は、すべてのKBO球団の利害を代表する形でTVINGが権利を取りに行った。ここは日本と状況が異なる点だ。

なお、これは過去の例になるが、2022年の「FIFAワールドカップ 2022」では、放送権は200億円前後と言われており、それをNHK・テレビ朝日・ABEMAが連携して分担した。

日本の野球界とテレビ局は、ワールドカップの時のような連携はできなかったのだろうか。もし、日本のテレビ局・プロ野球球団・映像配信がまとまって対応できていれば、費用や交渉の面でも、あり方が違っていた可能性はある。

それともFIFA(国際サッカー連盟)に比べ、WBCIは交渉が難しかったのだろうか。

必要ならば「ユニバーサルアクセス権」の議論も

もう一つ、他国から学ぶべきところもある。

韓国では地上波での放送もあるのだが、それは韓国の放送法にある「普遍的視聴権(ユニバーサルアクセス権)」の影響が大きい。

これは2007年の法改正で導入されたもので、オリンピックやワールドカップなど、国民的関心の高いスポーツ行事については、他の事業者に適切な価格で配信権を再販売しなければいけない。

同じルールは欧州で「Listed Events」として法制度化されている。オリンピックやサッカー・ワールドカップなどが「指定リスト」に入っていて、無料放送にも権利が提供される仕組みになっている。

日本には、ユニバーサルアクセス権に類する仕組みがない。結局のところ、Netflixが独占できたのはそのためだ。

ユニバーサルアクセス権は、他国では20年以上前から存在する仕組みだ。独占が問題なら、日本でも制度を整備すべきだった。日本の脇が甘かった部分だろう。

独占を堅持するNetflixに好感を持たない、という人がいるのは理解できる。

他方で、日本戦でも画質の乱れもなく安定したサービスを提供していることや、他国の試合も見られること、スマホでどこでも視聴できることなどを評価する声も聞かれる。

権利を独占する代わりに「できることは可能な範囲でやってきた」Netflixをどう評価すべきだろうか。WBCを入り口に加入した人が他の作品も見て契約を継続する、という形は相当あるだろうし、その部分はNetflixの作戦勝ちでもある。

ビジネスとして配信権を求める企業は外資だけではない。顧客誘導のために「独占」を求めるのはどの企業でも1つの戦略だ。

「見たいという声があるから配信権を」というだけで、それを渡してくれるほど甘いものでない。日本のプロ野球関係者・放送局が一枚岩になって交渉すればなにか変化もあったかもしれないが、それが行なわれた、という話も耳にしていない。

本質として、高騰する配信権料にどう対処するのか、運営側はどう「公共性」を考えるのか、という話もあるだろう。残念ながら、そこで空気を読んでもらうのは難しい。

だとすれば、「大手には関係企業が一体になってあたる」「ユニバーサルアクセス権のような制度を法制化する」ことが重要になってくる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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