石野純也のモバイル通信SE
第101回
楽天モバイルを「ロックオン」するpovoの新戦略
2026年6月24日 08:20
KDDIの子会社でpovo2.0(以下、povo)を運営するKDDI Digital Lifeは、7月に、1年間トッピングとして1.32TBの大容量トッピングを導入する。合わせて、現在、新規契約のユーザーを対象に、データ使い放題(24時間)を10回ぶんプレゼントするキャンペーンを実施している。
新トッピングは、1か月あたり110GBの容量になる。ペイディで12分割した際の料金は、毎月3,270円だ。この容量と料金でピンと来た人は多いと思うが、ターゲットにしているのは、ドコモのahamoや楽天モバイルのユーザーだ。
特に、キャンペーンでは、povoのキャラクターが楽天モバイルのブランドカラーであるマゼンタから飛び出してくるイメージを使用しており、同社を強く意識していることがうかがえる。
povo、楽天モバイルを「ロックオン」
このタイミングで楽天モバイルがロックオンされたのは、ローミングの終了が関係しているとみて間違いないだろう。5月に開催されたKDDIの決算説明会では、代表取締役社長CEOの松田浩路氏が、楽天モバイルのローミングについて「当初の役割は終えた」とコメント。KDDIのサイトで公開されているエリアマップを見ると、9月に向け、ローミングエリアを段階的に縮小している様子が見て取れる。
役割を終えたと言いつつも、都市部の屋内や地下に加え、地方でもauローミングにつながるエリアは少なくない。実際、ローミングを一段階縮小した6月には、SNS上に「楽天モバイルがつながらない」という声が多く投稿されるようになった。楽天モバイルは当初、こうしたエリアを新規に割り当てられた700MHzのプラチナバンドでカバーしていくとしていたが、基地局を十分拡大できていない。
povoがいち早く動けたのは、ローミング提供先として、こうした状況をタイムリーに把握できていたからだ。KDDIの松田氏も、「本来は人口カバーの補填としてお貸ししている」としながら、「当社網へのトラフィックが想定以上になっている」と苦言を呈していた。
楽天モバイルの一部エリアの生殺与奪を握っているのが、KDDIというわけだ。
そのため、楽天モバイル対抗の料金プランも、いち早く設計できる。
対楽天という観点でKDDIやpovoが強いのは、競合他社との関係性もある。例えば、ドコモが同じように動こうとしても、通信品質が課題になってくる。サブ回線として入れてはみたものの、混雑した場所でのつながりがあまり改善されないようでは、意味がない。実際、KDDI Digital Lifeの調査でも、ドコモは楽天モバイルと並ぶ不満度の高さで、「2強2弱」の状態になっていた格好だ。
KDDI Digital Lifeが新キャンペーン、新トッピングの発表会でこうした調査結果を示したのは、ahamoからユーザーを直接奪うだけでなく、楽天モバイルのサブ回線としてahamoが選ばれるのをけん制する意味合いもありそうだ。
また、仮に回線品質がよかったとしても、ahamoは月額固定で2,970円かかるため、サブ回線としてお試ししづらい。この点はpovoの柔軟な料金体系に優位性があると言えそうだ。
ソフトバンクにもできない“柔軟性”の価値
一方、ソフトバンクは品質面でKDDIに迫っており、Opensignalなどの第三者機関の調査では2位につけているほか、KDDI Digital Lifeの公表した調査でも、KDDIと並んで不満度は低かった。品質面では、ソフトバンクも楽天モバイル対抗の料金プランを投入する意味がありそうに見える。
ただ、ソフトバンクはオンライン専用ブランドのLINEMOが十分な存在感を発揮できていない。現在、ソフトバンクの主力になっているのはサブブランドのワイモバイルで、新規獲得の中心になっている。LINEMOも、24年に現行の「LINEMOベストプラン」「LINEMOベストプランV」を導入しており、段階制でデータ使用量に応じた料金がかかるが、金額は990円~2,970円と比較的安い。
とは言っても、povoほどの柔軟性はなく、お試しでLINEMOベストプランを契約し、より容量の大きなLINEMOベストプランVへ変更するしかなく、データ容量も30GBどまり。楽天モバイルでデータ容量無制限に慣れたユーザーの受け皿としては心もとない。
なお、23日にはソフトバンク系の「Yahoo!ショッピング」で、povoの「ギガチャージカード」の販売も開始している。
こうした競合他社の状況を踏まえ、KDDI Digital Lifeは「povoで楽天モバイルユーザーを取れる」と判断したのだろう。データ容量が少ないと自動で料金が下がる楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」は、サブ回線とも相性がいいため、回線を維持したまま、隠れたユーザー流出が起こりやすい。この結果が現れるのは、回線数ではなく1ユーザーあたりの平均収入であるARPUになる。
どうする? 楽天モバイル
では、この状況に楽天モバイルはどう対抗していくのか。つながりやすさに不満が出ているのであれば、エリアを拡大するしかないが、基地局は一朝一夕では開設できず、時間がかかる。特に楽天モバイルの700MHz帯は、周辺の周波数を使う事業者との干渉調整も必要になるため、即座にエリアを広げるのが困難だ。
また、同社はこの周波数帯をAST SpaceMobileの衛星通信サービスに利用する計画で、実現すれば人の少ないエリアではつながりやすさが改善する可能性もある。もっとも、衛星通信サービスも人口密集地では効果がなく、距離が遠いため、建物内や地下への浸透はしづらい。
楽天モバイルは、19日に一部商業施設に無料のWi-Fiスポットを導入することを発表したが、これは大手3社が過去に通ってきた道。Wi-Fiはモバイル通信とは異なり、1つのアクセスポイントがカバーできる範囲が狭く、移動に弱いため、ユーザーの満足度が大きく上がらなかった経緯がある。
ローミングの終了期限まで、残された時間は少ない。楽天モバイルには、ユーザーをつなぎ止めるための抜本的な対策が求められていると言えそうだ。










