西田宗千佳のイマトミライ
第346回
「サブ回線」から「メイン回線」を目指すpovo “自由度”と“つながる力”が武器に
2026年6月22日 08:20
6月18日、KDDIは自社で提供している携帯電話サービス「povo」についての説明会を開催した。
あえて発表内では個別企業の名前を挙げなかったものの、狙いは確実に「他社の牽制」にあった。
その上でアピールしたのが「自由度」だ。
それはどういうことなのか? 技術的な変化による「携帯電話会社選択の変化」とはどういうことなのかを軸に、解説していきたい。
「スマホの中にもう1回線」を進めるpovo
povoはKDDIが提供する「第三のブランド」だ。その存在は多くの人がご存知だろう。
auやUQ mobileと違うのは、基本料が0円であり、データ量や通話については「トッピング」という形で追加購入していくことだ。
povoを運営するKDDI Digital Lifeの濱田達弥・代表取締役社長は、3つのブランドが「au回線を使っていること」という共通項を持つと説明する。
「通信事業を行なう上で最も根幹となる通信品質に関して、『つながる体感』を提供することが3ブランド共通の価値である」
濱田社長がそう説明するのは、auの回線品質にそれだけ自信があるからだ。
通信の体感品質レポートをまとめているOpensignalの調査では高評価が続き、消費者アンケートでも「メイン回線の通信品質に関する満足度」で、KDDIは良い評価が続く。
povoも通信回線である以上、同じ品質に裏打ちされていることが重要、という考え方だ。
特にこのことが重要になってきているのは、povoが主に「サブの回線」として選ばれることが多いためだろう。
この点には技術的背景もある。
過去、回線はSIMカードで入れ替えるものだった。スマートフォンのSIMカードスロットは1つしかない場合が多く、回線を切り替えるとは「スマホに入っている唯一の回線を切り替える」ことだった。
だが現在はeSIMの採用が基本となり、状況が変わった。物理SIMスロットがない製品は、iPhone 17シリーズなど一部の製品に限られるものの、eSIMを備える機種は非常に多くなっている。結果として、複数のSIMを扱って「複数の通信事業者を切り替える」使い方、いわゆるデュアルSIMでの活用が簡単になったのだ。
povoも、きっかけの1つとして2018年発売のiPhone XSがeSIMに対応したことを挙げる。
それ以前から「特にアジア地域では、1つの端末に複数のSIMを入れて運用し、ライフスタイルに応じて使い分ける方法が一般的だった」と濱田社長は説明する。実際、中国メーカー系のAndroidは、iPhoneが採用する以前から、物理SIMカードの2枚挿しを含め、複数のSIMを扱うことに対応していた。方法論として珍しいものではなかった。
そこに、日本ではシェアの高いiPhoneが複数SIMに対応し、さらにpovo2.0のような自由度の高い通信サービスが登場したことで、デュアルSIMの活用が広がっていった……と、povo側は説明している。
これはそこまで的外れなものではないと思う。実際、メインの回線としてしか選べないのであれば、povoのようなサービスはちょっと選びづらいところがある。
他社の「回線品質」を突くpovo
そしてさらに、この2年ほどでデュアルSIMのニーズは急速に増えた、とpovoは主張する。以下はpovoが示したデータだ。縦軸がないので絶対数は分からないが、povoがデュアルSIMとして運用されている量は約1.5倍に伸びている、とされる。また、メインの通信回線として選ばれる割合も、2024年から2025年下期にかけては1.9倍に増えているとする。
この理由は「通信品質だ」というのがpovo側の主張だ。おそらくそう考えて間違いないだろう。
記者からは多数の質問が出たものの、povoは「個社の事情にはコメントしない」としている。だが、発表会で公表された数字の「B社」「C社」がNTTドコモと楽天モバイルを指すのは間違いない。
povoをデュアルSIMとして使っている理由として、「メインで利用している回線がつながりにくいことがあるから」という答えが特に強調されており、冒頭で述べた「回線品質の高さ」とセットでアピールされた。
「お客さまの『つながらない』というお困りを助けたい」と濱田社長は説明する。
現状、NTTドコモはまだ回線品質問題を解決しきれていない。楽天モバイルは、エリア対応のために採用していたKDDIへのローミングが縮小しはじめており、結果として、エリア外が増えている。
それら2社の利用者に対して「多くのスマホではデュアルSIMが使えること」を訴求しつつ、「追加での契約だけならゼロ円であり、必要なときだけ追加でトッピングを購入する」ことで対応できる点をアピールしてきたわけだ。
そんな使い方を訴求するために大きな武器となるのが、今回発表された「データ使い放題24時間×10回分プレゼント」というキャンペーンだ。
「AUKAITEKI」というキャンペーンコードを入力し、povo 2.0へと新規登録した場合、24時間使い放題のチケットが10回分提供される。
大胆でもあり、なかなかうまいやり方だ。
容量から支払い方までのバリエーションが若者を惹きつける
もう一つ、povoには大きな特徴があるという。
それは「利用形態のバリエーションが豊かなこと」と濱田社長は話す。
メイン回線向けかサブ回線向けか、という話だけではない。
「夏休みで徹底的に使いたい、ということもあれば、今日はデートだからYouTubeで音楽を流しっぱなしにしたい、ということもあるでしょう」
濱田社長はそう例を挙げる。
主にデータ用について、月額での固定的な提供ではなく必要なとき、もしくは状況に合わせて支払って使う、という流れだろう。
特に今回目立ったのは、「年間で1.32TB」という大容量プランと、月額600円で0.5GBが提供される「月額制」だ。
年間1.32TBとはいえ、Paidyで12分割払い(分割手数料無料)にすると、実質の月額利用料が3,270円になる。これは、楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」が20GB以上利用の場合に3,278円、というものを意識した価格とみられる。毎月110GB以上使う超ヘビーユーザーは楽天モバイルの方が有利だが、そうでなければ「回線品質の分povoの方が有利ですよ」と言いたいのだろう。
また、支払いについて、かなり若者を意識しているのも間違いなさそうだ。
現状、povoはローソンでのプリペイドカード「ギガチャージカード」での利用が伸びているという。こうした販売方法は、クレジットカードの利用や、月額利用料の積み重ねによる拡大を避けたい、若い層にとってより魅力のある方法論だろう。1.32TBのために年間39,240円を一括で支払うのは難しくとも、Paidyのような分割・後払いなら支払いやすくなる。
収入が高く、何も考えたくないなら、MNOのメインプランでデータ量も多いものを契約すればいい。携帯電話事業者としては、できるだけ「月額料金が高いメインプランへの誘導」をしたいはずだ。
だが、実際にはそういう人ばかりではない。だから様々な優遇策を設けて「経済圏での連動」をすることになる。
他方で、経済圏連動は携帯電話事業者が考えるほど消費者にインパクトを持たない。金融連動などの長期的な関係を築くとなると相当考えて契約しなければならないし、そういったことは、結婚や独立などでライフステージが変わるときに起きやすいものだ。
だとすればいかにして顧客を集めるのか?
本来、「ネット専業サービス」というのはそうした状況を狙ったものだった。
だが、過去に政府が「メインキャリアによる低価格プラン」を求め、その部分をネット専業サービスで埋めるパターンが起きてしまった結果、低価格なプランで柔軟性を維持するという選択肢を取りづらくなった。
KDDIはそこで、au・UQに加えpovoという柔軟性が極端に高いサービスを用意することで、現在のような状況に対応できているわけだ。
回線品質の維持もそうだが、2021年、同様のトッピング型サービスを展開するシンガポールの「Circles.Life」と共同でトッピング型サービスを持ち込むことにしたKDDIの判断は的確だった。
サブだけでなくメイン回線としての利用を拡大していき、安定的な顧客を増やすのが次の狙いだろう。通信回線で優位にある、というのはベストな状況であり、「他社狙い撃ちのアピール」をするなら今しかない。現状、povoは「理想的な予備回線」として機能している。
一方で、特に若い層にとって、他のオンライン系携帯電話プランより、povoの方が魅力的に映るのも間違いないだろう。端末の割引対応や店舗展開も含め、マーケティングコストは大幅にカットできる一方で、システム開発と運用には相応のコストがかかるわけで、他社が簡単に追いかけられるものでもない。
他方で、povoがこれだけ強いのは、いわゆるMVNOにとっては脅威だ。MVNOは「主力事業者に対するオルタナティブ」であることが存在価値だが、価格を軸にした差別化になっており、povoほどの自由度が持てていない。
その点も含め、2020年前後の「5G導入期」にKDDIが準備した施策が想像以上にうまくハマっている……ということなのだろう。

















