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NASA、再突入迫る宇宙望遠鏡「Swift」救出ミッションが難航 救援機に何が?

7月9日にLINK自身のカメラから撮影した太陽電池パネル方向の機体(Credit: Katalyst Space)

軌道が下がってこのままでは再突入を待つ状態となったNASAの宇宙望遠鏡「Swift」を救うため、民間企業が衛星を救う軌道上サービス宇宙機「LINK」が打上げられました。ところが救出する側の衛星が姿勢制御の異常でSwiftへの接近・捕獲を始められるか不透明になっています。チャレンジングな救出ミッションの経緯と現在地を整理します。

Swift宇宙天文台とは

Swiftとは、2004年11月20日、ガンマ線バースト(GRB)を多波長で迅速に観測するために打上げられた宇宙天文台(天文衛星)です。正式名称は「Neil Gehrels Swift Observatory」で、天文学者ニール・ゲーレルスにちなんで名付けられました。

ガンマ線バーストを検出し観測する3つの機器を備え、ガンマ線バーストに加えて超新星や恒星フレア、潮汐破壊現象、活動銀河核、彗星や小惑星などを観測する汎用的な天文衛星になりました。打上げから20周年までに約1,800件のガンマ線バーストを検出し、データは6,600本以上の科学論文で利用されています。

打上げ時には、遠地点約601km、近地点約584km、軌道傾斜角20.6度の軌道にありました。Swiftには軌道を変更できる推進系はなく、姿勢制御には6基のリアクションホイールと3基の磁気トルカを使用します。つまり、自力で高度を維持したり、低下した軌道を引き上げたりすることはできません。

Credit: NASA's Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab

なぜSwiftの軌道が急速に低下したのか

地球低軌道には極めて希薄ながら大気があります。人間の感覚では真空といって差し支えないレベルですが、衛星はこの大気の抵抗を受けて徐々に高度が低下していきます。太陽活動が活発になると上層大気は加熱されて膨張し、同じ高度でも大気抵抗が増加します。近年の太陽活動の強まりにより、Swiftの軌道低下は従来予測より進んでしまいました。

NASAはSwiftの平均高度が約300kmを下回ると、接近・捕獲・軌道上昇は難しくなると判断していました。2026年2月初めには平均高度がすでに約400kmを下回っていました。

そこでNASAは、救援機の準備と並行してSwiftの大気抵抗をできるだけ減らす運用に切り替え、太陽電池パネルを最適な角度へ変更するなどの運用を続けてきました。これでSwiftが高度300km以上にとどまれる期間は2026年秋まで延長されたとNASAは説明しています。当初の「2026年夏に危険高度へ到達」という予測から多少の猶予は得ましたが、期限そのものが消えたわけではありませんでした。

NASAが決めた超短期の救出作戦

そのままでは再突入を免れないのですが、NASAはSwiftをただ再突入させるのではなく、民間企業の軌道上サービス技術を実証する機会として利用することにしました。しかも、検討開始から1年にも満たない超短期の救出作戦です。

2025年8月、NASAはCambrian WorksとKatalyst Space Technologiesの2社に、Swiftの軌道を引き上げるミッションの概念検討を依頼しました。翌9月にKatalystを選定。3,000万ドルの契約を発注しました。Katalystには、Swiftへ接近し、把持して軌道を引き上げる「LINK」宇宙機を設計、製造、試験、打上げまで1年未満で完了することが求められました。

これが成功すれば、宇宙空間でのサービスを前提に設計されていない無人宇宙機を、民間のロボット宇宙機が捕獲する初の例になります。単なるSwift延命ではなく、設計段階で把持機構や補給口を備えていないほかの衛星にも軌道上サービスを広げられるかを試す技術実証でもあります。この評価のおかげもあり、Katalystは静止衛星向けの軌道上サービスの契約を獲得しています。

2025年11月には打上げロケットとしてPegasus XLが選定されました。Swiftの軌道傾斜角は約20.6度と低く、米本土の射場から直接投入するには不利です。そこでKatalystは、母機から空中発射でき、打上げ地点を柔軟に選べるNorthrop Grummanの「Pegasus XL」を選びました。母機のStargazerをマーシャル諸島のクェゼリン環礁へ展開し、赤道に近い地点から発射することで、LINKをSwiftに近い低傾斜角軌道へ直接投入できる運用を選んだのです。

LINK宇宙機と当初のミッション計画

LINKは高さ約1.8m、質量約400kgの軌道上サービス宇宙機です。Swiftを把持するためのロボットアームを3本、移動と軌道上昇に用いるキセノン電気推進スラスタを3基備えます。左右の太陽電池アレイを展開すると全幅は約6mになります。

当初の計画では、打上げから数週間かけて電源、通信、センサー、航法、姿勢制御、推進系を確認し、LINKの持つ電気推進スラスタでSwiftに接近。Swiftは打上げから21年以上経過しているため、カメラで実機を撮影し、計画していた把持位置が使用可能か確認してから3本のロボットアームでSwiftを固定する。ここまで接近から調査、捕獲には約1カ月を見込んでいました。

その後、Swiftを把持した状態で電気推進スラスタを数カ月作動させ、元の高度に近い約600kmまで押し上げるという流れです。元の軌道まで戻った後、LINKは分離し、Swiftの機器を段階的に再起動する計画でした。およそ1カ月後には、また科学観測が可能になります。

7月8日に撮影されたLINKのキセノンスラスタ(Credit: Katalyst Space)

電気推進は推力が小さいため、Swiftに急激な荷重を加えずに高度を上げられる一方、軌道上昇には数カ月を必要とします。NASAは各期間を固定日程とはせず、途中でデータを評価し、手順を調整する余裕を設けていました。

7月3日の打上げとミッション開始

LINKは2026年7月3日20時36分、マーシャル諸島から打上げられました。その日のうちにLINKは分離、電源投入後、同日中に地上との通信を確立しました。電源、通信、姿勢制御、センサー、航法、電気推進などを確認する初期の確認期間は無事に進み、7月10日には太陽電池アレイの展開に成功し通信を確立します。キセノン電気推進スラスタの確認も開始し、NASAはLINKの状態を健全と評価していました。

しかし7月15日、NASAはLINKの初期運用中に通信と姿勢制御の問題があり、3基のリアクションホイールのうち1基にも問題が発生していたことを明らかにしました。Katalystは原因を特定し、飛行ソフトウェアの修正によって、姿勢と通信を回復したと説明しました。

そして7月28日に、状況が一変。LINKは姿勢制御上の問題を起こして回転状態に入り、通信が断続的になったことが明らかになりました。リアクションホイール3基中2基が動作不能、ガスを噴射するコールドガススラスタ系の一部機能を喪失。現在は使用できる電気推進スラスタを使い、機体の回転を止めようと試みている状態です。

これはかなり深刻な状況です。LINKはリアクションホイールを3基搭載していて、2基が使用できない場合は残る1基だけでは当初想定したリアクションホイールによる通常の3軸姿勢制御を行なえません。スラスタを併用して制御できる可能性はありますが、同時にコールドガススラスタの一部機能も失われているため、姿勢を安定させることがかなり困難になっているのです。

現在まず必要なのは電気推進スラスタによって機体の回転を停止することです。しかし回転を止められても、Swiftへの接近を直ちに始められるわけではありません。姿勢を長時間安定して維持でき、相手との相対位置や姿勢を高精度に測定、維持できることが必要になります。

なによりも姿勢制御能力が不十分な状態で接近し、LINKがSwiftへ衝突したり、不適切な姿勢で把持して構体や太陽電池パネルを損傷したりする可能性があります。Swiftを救うための宇宙機が相手を危険にさらしてはならないため、回転が止まっても、NASAが接近を許可するまでには慎重な評価が必要なのです。

Swiftブーストミッションは、まだ成否を決定する段階にはありません。8月中に評価が固まる可能性があり、それまで慎重に見守る必要があります。また、ひとつにはNASAの依頼発出から打上げまで1年弱という非常に短い時間で、しかも50億円に満たないコストでミッションが実現したこと、これ自体が大きな成果です。

一方で、ミッションを危うくする不具合が、現代の人工衛星では一般的なリアクションホイールやコールドガススラスタといった汎用性の高い機器で発生していることは、短期間かつ低コストの開発と、故障後も安全な接近・捕獲を続けられる信頼性をどう両立するかという課題も浮かび上がらせました。

機器を冗長化したり高信頼性の機器を調達したりといった方向に切り替えるとコストが上昇し、軌道上サービスの成立性を損ないかねません。Swiftブーストミッションは、成功/失敗を二分するだけではなく、どこで不具合が発生したのか、という課題を浮かび上がらせます。

秋山文野

サイエンスライター/翻訳者。1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。X(@ayano_kova)