鈴木淳也のPay Attention

第283回

磁気切符の黄昏 QRコード改札はどのように動いているのか

7月15日からスタートした「ゆりかもめ」のQRコード切符。新橋駅にて撮影

東京臨海新交通臨海線(ゆりかもめ)は7月15日より磁気切符を廃止し、全面的にQRコード切符に切り替えた。運営会社である株式会社ゆりかもめによれば、現在はまだ移行期間で一部駅での切り替えが完了していないものの、新橋駅など多くの駅では新型改札機への更新が行なわれており、交通系ICカード、非接触対応のクレジット/デビットカード、QRコードの3種類の入出場方法のみに対応する形式になった。

試しに開始当日にQRコード切符を購入して実際に新橋駅から汐留駅までの間に乗車してみたところ、“どこに切符をかざせばいいのか”一瞬とまどったりはしたものの、改札の反応もスムーズで、違和感なく通り抜けできた。

なお、出場時は従来の磁気切符と違って改札機で切符は回収されないため、切符はそのまま利用客が持ち帰ることになる。

切符を捨てる場所について汐留駅の駅員に確認してみたところ、特に用意していないようで、その場で手渡した切符を回収してくれた。ゆりかもめ社に確認したところ、現状でゆりかもめ利用客のほとんどが交通系ICカードを使用しており、クレカの“タッチ乗車”や企画券なども含めれば、磁気切符の利用はもともとごくわずかだったという。そのため、特に(QRコード)切符の回収を意識する必要もないのかもしれない。

東京を含む首都圏エリアではゆりかもめが先行したが、9月30日には「つくばエクスプレス(TX)」が磁気切符を廃止し、10月よりQRコード切符への全面切り替えを行なう。また2027年春以降は東日本旅客鉄道(JR東日本)を含む首都圏鉄道8社が磁気切符を順次廃止していく計画だ。QRコード切符の仕組みについては以前にも本連載で触れたが、ここで改めてアップデートの形で情報を整理したい。

ゆりかもめ新橋駅に新たに設置された磁気切符利用不可の新型改札機。3種類の乗車手段があることが分かる

QRコード切符に関する疑問と解答

磁気切符を廃止する理由は「改札機のメインテナンスにかかるコスト」と「使用済み切符の処理負担」の2点にある。

QRコード切符はこの2つの問題を解決できるうえ、「スマートフォンに表示させたり、普通の紙に印刷したQRコードもそのまま利用できる」という付加的なメリットもある。一方で、磁気切符はその作りの“面倒さ”から複製や偽造が難しかったが、QRコードの場合は簡単に複製(撮影)してそのまま使えるというセキュリティ上のリスクがある。

ただ将来的に高額な長距離切符をQRコード化する場合には考慮する必要があるが、前述の利用率も含め近距離区間切符であればそこまで躍起になって対策を練る必要は薄いと言えるかもしれない。

実際のQRコード切符の動作の仕組みは、磁気切符のように入場駅や運賃情報など出場時の改札処理に必要な情報をすべて含むことはせず、基本的には「ユニークID」と呼ばれる情報が埋め込まれ、このユニークID情報の利用状況を“中央のサーバ”で一律管理することで改札処理を行なう。

例えば、ゆりかもめのQRコード切符の場合、いちど改札機に“かざして”入場した切符はその瞬間に「移動中」のフラグが立ち、“同じQRコード”の切符がやってきても改札で入場できなくなる。また、区間内の駅で改札機に“かざして”出場した瞬間に切符は無効となり、以後は使用できなくなる。つまり複製して再利用しようとしても無駄というわけだ。

QRコード切符の券売機

興味ある方は実際に切符を購入して解析してみると分かるが、ゆりかもめのQRコードの場合、“英数字モード”で24文字(※ビット数で132ビット)から構成されている。今後変更される可能性があるものの、冒頭の「Y」の識別子を除けば残りはすべて数字で含まれる情報は磁気切符のビット数(240ビット程度と言われる)の半分程度だ。少なくともこの部分だけで、改札処理に必要な情報の多くがサーバ側にあることは理解いただけるだろう。

※英数字モードでは2文字で11ビットを使用するので(24文字÷2)×11ビット=132ビット

注意点として、QRコードに含まれる情報は「ユニークID」だけではない、おそらくは「チェックサム(またはパイリティ情報)」「内部管理情報」なども含まれていると思われる。

前者についてはユニークIDを推測して勝手にQRコードを生成されたり、改変が行なわれないように全体の(数字)情報で整合性が維持されるような検証用の数字列だ。そしておそらくポイントになるのが「内部管理情報」で、ユニークID以外の管理情報が付与されていたり、あるいは可能性の話として「サーバやネットワーク障害などで改札機が“タイムアウト”時間までにレスポンスを得られなかった場合に改札を臨時通過させるための秘密のコード」のようなものが埋め込まれている可能性がある。

いずれにせよ、ユニークID自体が連番とは限らないし、内部管理番号自体が簡単に生成できないような数字列になっており、「QRコードを生成した偽造切符」を用意しても実際には使えないものと考えていいだろう。

なぜ「ゆりかもめ」「TX」が先行したのか

切符の利用状況を「ユニークID」で管理する以上、改札処理に必要な情報は「(状態)フラグ」も含めてすべてサーバ側に存在することになる。これが同じ会社内で共通のサーバ内で管理されるのであれば問題ないが、首都圏の鉄道は複数の会社が東京メトロや都営地下鉄を介して相互に乗り入れており、“連絡切符”を持っている利用者は2社以上の路線を“またげる”切符を所持したまま移動を続けることになる。

この場合、「現在乗車中」といった“フラグ”情報を含めて「ユニークID」の情報がそれぞれの会社のサーバ間で共有されていない限り、正しい改札処理は行なえない。これがQRコード切符の難しい点で、実現における最大のハードルとなっている。

首都圏8鉄道事業者の共同発表にもある通り、QRコード切符は切符の発券から状態管理まで、相互乗り入れまたは共通改札を利用する鉄道会社間で共通の管理サーバを運用しない限り実現できない。つまり各社が同時に足並みを揃えない限りはQRコード切符を持って未対応駅の改札で出場しようとする利用客が来てしまう可能性があり、スロースタートにならざるを得ないわけだ。

2027年春から順次と予告しているが、当面は移行期間が続き、「QRコード切符で入っても改札の出場処理は有人窓口で」「ほぼ改札機のQRコード対応が終わっているが他社乗り入れのために磁気切符改札機が残っている」といった状態になると思われる。

有明テニスの森付近を走行するゆりかもめの7500系車両

その点で、相互乗り入れによる直通運転がなく、単一の会社で閉じた路線を運行している「ゆりかもめ」や「つくばエクスプレス」はQRコード切符の先行導入に最適な路線というわけだ。将来的な拡張も見据えて「QRコード切符の規格と首都圏鉄道各社と擦り合わせ」しつつ、早い段階で移行できる。複雑な機構でメインテナンスコストも高い磁気切符対応改札機を早めに引退できるのであれば、会社としてもコスト削減効果が大きい。

利用率1割未満(あるいは数%)の改札通過手段の今後

Suicaをはじめとする交通系ICカードが広く普及した昨今、主に都市圏での交通系ICカード利用率は9割以上の水準に達している。以前に三井住友カードがstera transitでクレジットカードの“タッチ乗車”を広めるにあたり、「コロナ禍を経て変化した人流(テレワーク等で毎日通勤ではなくなった人々)の隙間を埋める」「それでも主役は交通系ICで置き換えは考えていない」と述べていた。

だが2021年に南海電鉄で“タッチ乗車”のサービスが開始されてから5年以上が経過したいま、確かに“タッチ乗車”が便利と感じる場面は増えたものの、全体の利用率からいえば“ごくわずか”という水準に過ぎない。

こうしたなか、あえてこの1割未満の改札通過手段に対して専用レーンを設けるケースが出てきている。1つは先日首都圏の主要ターミナルの1つである池袋駅に設置された東武東上線の顔認証改札、もう1つが東京メトロが銀座線の銀座駅と上野駅に期間限定で設置する「クレカ・QR“専用”改札」だ。

後者については7月22日からまず銀座駅で稼働開始しているが、残念ながら筆者はこのタイミングで日本不在のため、人流の多い銀座駅のどこに設置されているかを把握できていない。ただ、設置された(あるいは今後設置される)改札機のメーカーである高見沢サイバネティックスが2025年11月に幕張メッセで開催された鉄道技術展に参考展示していた実機を見ており、それらがどのようなものかは把握できている。

7月22日に先行して銀座駅に設置された改札機のプロトタイプ。フラッパー部分の形状が異なる
先行機と入れ替えに今年12月から設置予定の入退館ゲートタイプのもの。若干形状が異なるが基本コンセプトは同じ

以前のレポートにもあるように、もともと東京メトロは日本信号、オムロン、東芝の3社の改札機を採用しており、今回の高見沢サイバネティックスの製品は設置されていない。高見沢サイバネティックスについては南海電鉄の難波駅に日本初の「クレカ・QR“専用”改札」を設置したメーカーとして知られているが、おそらくは銀座線でも利用客が比較的多い区間に設置することで、その利用状況や人流を見極めたいという考えなのかもしれない。

ポイントとしては2つある。1つは現状のクレカ・QR対応改札はすべて交通系ICと併用かつ1レーンのみとなっていることが多く、人流の多い時間帯は改札が空かずなかなか通過できないということ。もう1つは、交通系ICに比べてクレカ・QR利用時は改札進入に時間がかかるため、それ自体が人流をせき止める原因になりがちなことだ。

先ほど紹介した2つの高見沢サイバネティックス製改札機のうち後者が典型だが、駅に設置する機器にもかかわらず「駅改札」の仕様にはなっていない点だ。商業施設やオフィスビル等の入退館ゲートに設置する機器をそのまま持ち込んでいる。つまり、短時間に大人数を捌くことを想定しておらず、こうした「通過に時間のかかる1割未満の利用のための専用改札」を設置すること自体が実証実験の目的というわけだ。

クレカのみならず、東京メトロ(と都営地下鉄)ではQRコードを使った1日乗車券といった企画券も存在しており、通勤・通学での普段利用にとどまらず、さまざまな改札通過手段を使って利用を促進していきたいという考えがある。現状で利用が圧倒的な交通系ICに目が向きがちだが、顔認証やUWB等を含め、将来的にさらに改札通過手段が広がることを見据え、積極的に検証を行なっているということなのだろう。

首都圏の地下鉄を利用できる1日券はQRコードを使う

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)