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子どもの電池誤飲に“すぐに吐かせる”はNG パナソニック「苦い電池」が生まれた理由
2025年12月12日 18:49
パナソニックエナジーは、子どもの誤飲防止を目的に、苦味成分を電池本体に塗布したコインリチウム電池を日本国内で10月から発売している。こうした製品は国内では初の取り組みとなり、同社では「ダブルチャイルドガード」として、苦味成分と開封困難なパッケージの2段階で誤飲を防ぐ構造を採用している。
パナソニックエナジーが未就学児の親を対象に実施した「家庭内事故に関する不安」調査によると、もっとも不安視しているのは誤飲であり、転倒ややけどを上回って最多となった。誤飲の懸念では「コイン形・ボタン形」の電池が上位を占めている。保護者は誤飲の危険性を理解しているものの、誤飲時の対処法について誤った知識を持つことが多く、知識の浸透が課題となっている。こうした状況の中、誤飲対策が施された電池を希望する保護者が全体の7割に達している。
IoT機器やリモコン、電子体温計の普及により、家庭内で使用されるコイン形電池が増えている。東京都の統計では、2020~2024年にかけて5歳以下の子どもによる誤飲・窒息事故は5,825件、うち約200件が電池によるもの。
“誤飲”したとき医療現場で何が起きるのか
例えば20ミリ以上の大型リチウム電池を誤飲してしまうと、食道に引っ掛かり、消化管の粘膜にとどまることで化学反応が発生し、アルカリ性の腐食性炎症が粘膜に生じる。いわゆる“化学やけど”のような状態で、放置すれば粘膜組織の深部にまで損傷が進行する恐れがある。リチウム電池と粘膜が触れることで生じる変化はわずか15分程度だという。やがてその化学反応が進行し、2時間以内には食道や気道の粘膜に深刻な損傷を与える可能性がある。こうしたリスクを警告するのは、松下記念病院の小児科部長 磯田賢一氏。
磯田氏は「コイン形リチウム電池を誤飲した場合、目立った症状が出る前から、粘膜の裏側ではすでに損傷が進んでいる」と語る。特に電池が気づかれないまま長時間とどまると、食道に穴があく食道穿孔(しょくどうせんこう)、膿胸(のうきょう)、肺膿瘍(はいのうよう)、食道気管瘻(しょくどうきかんろう)による肺炎、大血管穿通(だいけっかんせんつう)による大量出血といった重篤な合併症状が引き起こされる可能性があるという。さらに、電池を摘出してから数日、数週間経ってから症状が出るケースもあるという。
医療現場の危機感「すぐに処置が必要」
前述の通り、化学反応による損傷が短時間で進行するため、リチウム電池の誤飲は緊急の医療対応を要する。もっとも確実な措置に「全身麻酔下での内視鏡手術」があるというが、実際に内視鏡操作ができる消化器内科医に加え、全身管理を行なう麻酔科医、手術室スタッフといった専門チームの招集が不可欠である。特に夜間や休日においては、これらの人員調整に時間を要したり、対応可能な医師が不在であったりするケースが少なくない。
医療機関によってはこうした措置ができない場合はほかの医療施設への転院搬送が必要となり、それによる「さらなるタイムロス」が重症化のリスクを高める。
こうした状況下では、小児科医がレントゲン透視下で磁石付きチューブを用いた摘出を試みる選択肢もあるが、食道の狭窄部で引っかかるなどして成功しない場合や、そもそも器具が未配備の施設も存在する。そのため医療現場では、患者の状態と経過時間を天秤にかけ、処置の可否と搬送先の選定を短時間で判断するという、極めてシビアな対応が迫られる。
“誤飲”したとき 保護者にできること
コイン形電池の誤飲については、危険性そのものは広く認識されている一方で、誤飲時の対応については誤った知識が浸透しているケースが少なくない。パナソニックエナジーの調査でも、誤飲への不安は高いものの、具体的な対処法については正しく理解されていない実態が浮き彫りになっている。
医療現場では、誤飲時に水やミルクを飲ませる、吐かせようとする、様子を見るといった行動は避けるべき対応とされている。吐かせる過程で電池が再び食道や気道に触れ、損傷拡大や、窒息のリスクがあるためだ。
また、誤飲後すぐに症状が現れない場合でも、体内ではすでに粘膜損傷が進行していることがある。見た目に異常がないことを理由に受診を遅らせる判断は、重症化のリスクを高めるとされている。誤飲の疑いがある場合には何も口に入れさせず、119番を含め、速やかに医療機関に受診することが重要となる。
事故を未然に防ぐためには、日常的な電池の管理も重要となる。キッチンタイマーや体温計、家電のリモコンなど、家庭内にある電池使用製品について、電池収納部がネジなどで確実に固定されているか、落下などの衝撃で簡単にふたが外れない構造になっているかどうかを定期的に確認することが有効とされる。さらに、小さな子どもの手が届く場所に電池や電池入り製品を放置しない、交換した使用済み電池はすぐに処分する、子どもの前で電池交換する所を見せないなど、日常の中でリスクを低減するための行動が求められている。
企業としての責任 パナソニックの「苦い電池」
こうした背景を受け、パナソニックエナジーは子どもが感じやすい苦味を持つ成分を使い、日本で初めて電池表面に塗布。世界一苦いとされる「安息香酸デナトニウム」を使っており、舌に触れた瞬間に強い不快感を覚えるよう設計。万が一口に入れても自発的に吐き出す可能性が最大限に高められたという。加えて、パッケージには開封困難な構造を採用。子どもが一人で取り出せないよう配慮されているほか、誤飲注意を促すピクトグラムも電池とパッケージに刻印した。
開発にあたっては、乳幼児の味覚に即座に反応する程度の苦味を持たせつつ、電池本体の安全性や動作性能を損なわないバランスの設計に苦労したという。特に課題となったのは、「苦味成分」が絶縁体であったこと。使われた安息香酸デナトニウムは電気を通さない特性があったため、電気伝導性を阻害しない設計を基本に、同成分が電池の電極や端子に影響を与えないよう配置にも気を遣っている。
1~6歳の乳幼児40名の協力を得て、飲み込んでも安全な「板ゼラチン」に苦味成分を持たせて実験。吐き出したくなる度合いを統計的に裏付けた状態で濃度を決定した。また、技術的にも、70機種以上の端子構造を調査し、通電不良を回避する配置と成分量を設計。保存期間も従来の5年から10年に延長し、長期使用や防災用途にも対応している。
実際に筆者も苦味成分を体験してみたが、確かに苦かった。この苦味に覚えがあったので調べたところ、Nintendo Switchのゲームカードも同様の苦味成分が塗布されており、この味とほとんど同じであった。
【Switch】ゲームカードをさわった手をなめたら、苦い変な味がしました。健康に害はありませんか?
苦味成分を塗布したコイン形電池の型番はCR2032E、CR2025E、CR2016Eの3種でCR2032Eのみ2個入りパッケージも用意される。価格は1個363円(CR2032Eのみ726円)で、今後は36カ国での展開を予定する。






