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「国内最後のパンダ」上野動物園を去る! 「パンダ去りし後」はどうなる?

呑気に笹を食べるパンダ。上野動物園にて(23年11月撮影)

「カンカン」「ランラン」が来日して半世紀あまり経った2026年1月、国内最後の2頭であったジャイアントパンダ「シャオシャオ」「レイレイ」が、日本を去る。

2頭が暮らしていた上野動物園は、1972年10月に国内で初めてパンダの飼育を始めた地でもある。1972年に初来日してからの、猛烈な「パンダブーム」を覚えている方もいるかもしれない。

当時は、ありとあらゆるパンダグッズ(弁当箱・自転車・ノートなど)やパンダのドラマ・アニメなど、まさに日本中がパンダ尽くし! 上野動物園には2kmもの観覧待ちの行列ができ、パンダ来日前は年間300万人台であった上野動物園の来場者数が、来日2年後には764万人にまで達したという。

国を挙げてのフィーバーから半世紀がたち、外交問題など様々な事情も見え隠れしつつ、所有権のある中国に返還される。なぜ、パンダは日本を去るのか?……といった事情はさておき、23年11月当時の上野動物園、25年6月当時の「アドベンチャーワールド」(和歌山県)のパンダ飼育エリアの様子を思い出しつつ、つい最近パンダがいなくなった上野動物園、パンダが去って半年がたったアドベンチャーワールドとその所在地である白浜町の今後を探ってみよう。

「元祖・国内パンダ」の聖地・上野動物園は平日なのに人でいっぱい!

25年12月に東京都から「パンダ返還」が発表されてからというものの、「国内最後のパンダ」をひと目見ようと、上野動物園には最大5時間以上もの行列ができたようだ。それでも混雑は収まらず、12月下旬からは事前申込制・抽選も導入され、観覧の権利獲得の倍率は20倍を超えたという。

しかし、23年11月の時点でも、パンダ人気は十二分にヒートアップしていた。この時点での上野動物園の様子を見てみよう。

上野動物園正門

正門には早い時間から人が並び、9時30分の開園とともに、人々はいっせいにパンダ舎の方面に向かう。あとから聞いたところでは「パンダ観覧は朝一番に済ませないと、昼前には1時間以上の行列に並ぶことになる」とのこと。

「ハシビロコウ」や「アイアイ」などをゆっくり観覧してから、という呑気な観覧プランを組んでいた筆者は、平日にもかかわらず90分以上も待たされることになった。

パンダ観覧に並ぶ人々の行列

この時期(23年)は、上野動物園の「シャンシャン」、アドベンチャーワールドの「永明」「桜浜」「桃浜」が次々と中国に返還され、「日本からのパンダ全撤退」が徐々に現実味を帯びていた。パンダ待ち行列の前後の方にお話を伺っても「返還になると会えなくなるので、先に来た」という人々がほとんどで、上野駅で新幹線を降りてすぐに上野動物園に入園したものの、すでに長蛇の行列だった、という方もいたようだ。

散々待ってパンダ観覧の順番が回ってきたものの、持ち時間は「2頭観覧で、1頭あたり2分」。流れ作業で「移動してください、移動!」と係員に追い立てられるが、なにぶん相手はパンダなので、その時間内に観覧客の方を向いてくれるとは限らず……。

笹を食べるパンダ。上野動物園にて
ゆっくり出てくるパンダ。上野動物園にて

筆者はしっかり目線が合った写真が獲れたものの、観覧エリアを通過してすぐパンダが昼寝に入ったようで、後ろ側の行列から「こっち向いて!」「お尻しか見えない!」という、悲鳴のような声が聞こえてきたのが印象深い。が、パンダのお尻もぽてっと可愛く、それはそれで良い。

過去の「パンダゼロ」は客数激減 今回の「パンダ返還」の影響は?

26年1月のパンダ返還後、上野動物園は「パンダゼロ」となる。この影響を受けるのだろうか?

上野動物園の東園・西園を結ぶバス。至る所にパンダと笹が描かれている
パンダ柄の饅頭。食堂もパンダメニューでいっぱいだ

実は「パンダ不在」は初めてではなく、2008年の「リンリン」死去から3年ほど、1頭も飼育していない時期があった。上野動物園の年間入場者数で見ると、2005~2007年度は338万~364万人だったのに対して、2008~2010年度は267万~302万人と、客足ははっきりと落ち込んだ。上野動物園では、今後の再来日を見据えて「パンダのもり」エリアを残す予定だというが、今回も入園者の減少は免れないと思われる。

もうひとつ、懸念されるのは「売店・近隣商店街の売上低下」だ。2008年からのパンダ不在でも「商店の売り上げが1~2割減少」といったケースも見られたといい、売上低下だけでなく、「上野と言えば動物園、上野動物園といえばパンダ」といった地域のアイデンティティの低下にも繋がりかねないだろう。

ただ、上野動物園には約300種3,000点(頭・羽・匹)の動物が暮らしており、昔ほど人気が「パンダ一辺倒」という訳でもない。また世界で見ると、ドイツ・ミュンヘンのように新たにパンダ飼育に乗り出す場合もあれば、イギリス・エディンバラのように、金銭負担にたまりかねてパンダを中国に返還するような事例もある。

上野動物園内の「ホッキョクグマとアザラシの海」にて

日本でも、2008年以降のパンダ誘致の際に、中国側が「ジャイアントパンダ保護研究基金」名目で提示した「年間95万ドル」(当時のレートで「約1億円」)のレンタル料に、石原慎太郎都知事(当時)が疑問を呈したこともある。子供のころから「パンダ人気」を見せつけられて育った世代には寂しい限りだが、そこまでパンダに拘らなくても良い人々が増えているのも事実であり、再誘致には慎重な判断が求められるだろう。

「掛け布団パンダ」に遭遇! アドベンチャーワールド・返還前の熱狂

上野動物園と同様にパンダを飼育していたアドベンチャーワールドでは、25年に「良浜」「結浜」「彩浜」「楓浜」の4頭が一気に中国に返還された。すでに返還の日程まで決まっていた、2025年6月当時の様子を見てみよう。

大阪から紀伊半島・白浜町を結ぶ特急「くろしお」の乗車率は8割以上。座席にパンダ耳をつけて白黒に塗り分けた「パンダシート」付き、外観も白黒に塗り分けた「パンダくろしお」車両とあって、はしゃぎまわる子供で車内はいっぱいだ。

至る所にパンダぬいぐるみ・パンダポスターだらけの白浜駅を降りて、パンダラッピングのバスに乗りこんで「パンダのまち・白浜」と大書された門をくぐり……上野動物園と違って、地域振興の意味合いも兼ねてパンダを誘致した白浜町の街並みは、まさに「パンダづくし」。

JR白浜駅の改札には、パンダのぬいぐるみが詰めるように展示
アドベンチャーワールドに向かうパンダラッピングのバス

さらに、パンダ返還による来訪者増加で、返還前にはボーイング737(座席数144)による「羽田空港~南紀白浜空港間の飛行機増便」まで実施されていた。関西だけでなく全国からの“パンダ詣で”客を受け入れていた白浜の市街地を抜けて、いざアドベンチャーワールドへ!

さっそく、パンダが飼育されている「ブリ―ディングセンター」へ。炎天下の中、待ち時間は実に150分以上にも及んだ。途中、何度も放送される「マリンライブ」(イルカなどのショー)、「ペンギンのお食事タイム」を聴きながら……パンダ観覧を諦めて行列を抜ければ、もっとアドベンチャーワールドを楽しみつくせるのに!

順番が回ってきたものの、観覧時間は上野よりも短い「1頭に1分少々」。ようやく出会えたパンダは、1頭は寝ながら笹を食べる最中で、1頭は雲梯に上半身を委ね、体を折り曲げて熟睡中であった。それでも「なんだか、干した掛け布団みたい!」と感想が挙がり、ファンの方々は興奮気味に写真を撮り続けていたのが印象深い。誘導員の方によると「あの態勢で熟睡するのはレアです!」とのこと。

アドベンチャーワールドのパンダ
「干した掛け布団みたい!」と声が挙がったパンダ。ぐっすり寝ている

アドベンチャーワールドの園内は右も左もパンダ観覧客でいっぱいで、多くの人々はパンダ観覧後に、他の飼育ゾーンやレストラン街を夢中で巡っていたようだ。調査によると、人口2万人の白浜町は「過去31年間のパンダ経済効果が1,256億円」「アドベンチャーワールドへの入場者は年間6.5万人プラス」(関西大学・宮本勝浩名誉教授が試算)といった恩恵を受けたようだ。

そんなアドベンチャーワールドも、25年6月28日のパンダ中国返還以降は、観光需要が大きく落ち込んだという。しかしその後、白浜町では意外な変化が起きたようだ。

パンダが去った、でも「原点回帰」で観光客は増えた!

「パンダロス」による観光へのダメ―ジが心配された白浜町だが、返還後の25年7月・8月の観光客数は「約61万人(宿泊数約35万人、日帰り客数約26万人)」と、前年より1.2%も増加した。和歌山県全体での増加幅が8.9%だったとはいえ、パンダ返還後の集客としては上出来と言えるだろう。

もともと白浜町は、大阪から2時間で到達できる日帰り観光地として、海水浴場や温泉が人気であった。ここに「通年で楽しめる観光資源」として、チーターやシロオリックスなど希少動物の飼育実績もあったアドベンチャーワールドへのパンダ誘致が実現したという経緯を持つ。

ただ、それ以前にも大阪から片道2時間少々で日帰り可能な「温泉と海水浴場の街」として、昔から関西屈指の観光地であった。白浜町ではパンダ返還後、絶景で知られる砂浜「白良浜」や、壮大な断崖絶壁「三段壁」などの観光地を原点回帰するように再びアピールし、夜間にも滞在できるようカフェをオープンさせるなどの創意工夫が「パンダが去っても前年比プラス」という結果を生んだのだ。

壮大な海食崖が続く「三段壁」

白浜町が返還後に「観光地としての原点回帰」路線をとった背景には、「パンダが中国に帰って大騒ぎしたが、パンダがいた31年は思考が止まっていた」と言い切る、大江康弘・白浜町長の動向も影響しているとみられる。パンダ復活を願う声もあるものの、「パンダ外交」から脱却する流れもあり、中国からの再貸与は難しそうだ。

「駆け込みパンダ観覧」で白浜町を訪れた人々も、アドベンチャーワールドの名物である壮大なイルカショーや爆笑のアシカショーに魅了され、新たな魅力を発見していたようだ。絶大な経済効果を生む「パンダ誘致」ではあるが、再誘致するにせよしないにせよ、パンダに依存しすぎず、「パンダ外交」のリスクに振り回されない誘客を念頭に置いた方が良いだろう。

アドベンチャーワールドの名物「マリンライブ」。所々で“オチ”が入るのも関西らしい
宮武和多哉

バス・鉄道・クルマ・MaaSなどモビリティ、都市計画や観光、流通・小売、グルメなどを多岐にわたって追うライター。著書『全国“オンリーワン”路線バスの旅』(既刊2巻・イカロス出版)など。最新刊『路線バスで日本縦断!乗り継ぎルート決定版』(イカロス出版)が好評発売中。