鈴木淳也のPay Attention

第281回

騒がしくなってきたステーブルコインの“標準”争い Open USDの登場

Open Standardによる「Open USD(OUSD)」の公式ページ

6月30日(米国時間)、主要企業140社以上が参加する「Open Standard」がステーブルコインの「Open USD(OUSD)」を26年後半にもリリースすると発表した。

すでに広く流通しているUSDCやUSDTといった米ドル(USD)連動のステーブルコインに次ぐ新規参入となるが、その最大の特徴は先行者らが“単一の発行体”であるのに対し、OUSDは参加企業らによって運営されるOpen Standardが発行体となり、運営の過程で得られる収益を参加企業へと分配するモデルを採用している点だ。

従来の単一企業による発行では収益はすべて総取り方式となるため、その点が顕著な違いとなる。

近年急速に決済・送金手段として金融業界の流通に食い込みつつあるステーブルコインだが、業界内部の動きが激しい一方で周辺からは諸事情についてわかりにくい部分がある。

OUSDの登場がどのような意味を持ち、今後の情勢に影響を与えていくのか、またUSDではなくJPYという“日本円建て”のステーブルコインはどうこの状況に噛んでいくのか、簡単に整理したい。

現状の米ドル建てステーブルコインが抱える課題とOUSD

投資商品の一種として価値が変動する暗号通貨(暗号資産)とは異なり、ステーブルコインは特定の法定通貨(Fiat Currency)と等価となる。そのため、法定通貨の価値に連動(Peg:ペッグ)するようさまざまな手段が用いられている。

法定通貨による現金資産の銀行への預託や短期国債などの担保を基にステーブルコイン発行を行なう「オフチェーン担保型」、BitcoinやEthereumなどの暗号通貨を担保に用いる「オンチェーン担保型」、特定の担保を持たず需要と供給をアルゴリズム取引で調整して価値を一定に保つ「無担保型」の主に3種類の方式があるが、かつてのTerraUSDの崩壊に見られるようにアルゴリズム取引は非常に危険と判断され廃れつつあり、現在ステーブルコイン市場流通額のほとんどは「オフチェーン担保型」が占めている。

このオフチェーン担保型の代表例が冒頭でも触れたUSDCやUSDTだ。

現状、USD連動ステーブルコインにおける市場シェアはUSDTで約6割、USDCで3割弱程度とされている。USDTの発行体はTetherで業界1位、USDCの発行体はCircleで業界2位となっている。

前述のようにオフチェーン担保型発行体は短期国債や現金預金の運用(金利)で利益を出し、これを流通パートナーと呼ばれる中間業者(StripeやVisaなど)に適時分配する形になっているが、基本的に利益は単一の発行体が総取りする仕様であり、流通パートナーらは発行体から提示される条件を呑む形で分配を受けることになる。

USD連動ステーブルコインはこの2つの発行体がほぼ市場を独占する(Duopoly)状態であり、決済や送金でこのステーブルコインを利用したいという企業らは交渉上不利だというのは想像に難くない。

そこで参加企業がすべて(分配という)メリットを享受できるOUSDという存在に注目が集まることになる。

ただ、ここで興味深いのはOpen Standardに参加しているCoinbaseの存在だ。米Coinbaseは全世界で1億2,000万人以上のユーザーを抱える世界最大級の暗号資産取引所を運営する企業で、USDCの立ち上げにあたってはCircleと共同創設者として名を連ねており、また同時にUSDCにとっては最大の流通プラットフォームとして機能している。

そんな同社がOUSDではローンチメンバーにも名を連ねており、この意図についてさまざまな見解が寄せられている。1つは2026年8月に更新となるCircleとの収益分配契約に向けた牽制という見方だ。それによれば、2023年に締結された契約では、Coinbaseは自社プラットフォーム上で保有するUSDC資産から生じる“利息”の100%を受け取る一方で、それ以外の場所で保有されている資産の取り分の50%を入手しているという。

シンプルにいえば、Coinbaseは自社分の利益はすべて懐に収めつつ、Circleが得られる収益についてはその半分をも懐に収め、年間9億ドルとされる金利収入を得ていることになる。実質的にCoinbaseに有利な条件であり、今年8月の更新に向けて交渉材料としてOUSDの存在を当て馬にしようとしているのではないかという考えだ。

同様に、他の“パートナー企業”にとってもOUSDの登場がTetherとCircleの2社に事実上握られているUSD連動ステーブルコイン市場への牽制となり、先ほども触れた分配や各種交渉で有利な条件を引き出せる可能性にもつながる。

OUSDはその流通市場シェアへの影響のみならず、ビッグネームが一気に参加することで固定化しつつあった勢力図に変化をもたらすことが期待されている部分が大きい。

OUSDの概要と技術

ここではOUSDの展開環境について説明する。現状、ステーブルコインでは同じコインであってもそれが“処理される”ブロックチェーンによって別々に残高が管理され、基本的にチェーン間で残高をそのまま移行することはできない(※後述)。

なぜこのような仕組みになっているのかといえば、主な理由は2点あり、1つは処理されるチェーンによって特性が異なるため用途に応じて使い分けが行なわれていること、もう1つは複数のチェーンに分散した方がマーケティング上からもコインの利用を拡大させやすいことによる。

現状判明している範囲でOUSDが乗る(あるいは乗る予定)のチェーンは下表のようになっている。

OUSDがサポートされるブロックチェーンの一覧

現時点で主力となっているSolanaは主に決済利用を想定した使われ方が中心となっており、実店舗やEC決済などで主流のチェーンだ。その特徴は秒間数千トランザクションという決済スピードと1回あたり0.00025ドルという低コスト(ガス代)にある。

おそらくB2CなどのC向け決済では、今後もOUSDにおける利用の中心になると想定される。

同様に、C向けでは以前より実績もあり、OUSDの中核メンバーであるCoinbaseが推進するBaseも一定以上の流通シェアを獲得することになるだろう。SolanaとBaseの技術的な違いは、後者がL2(レイヤ2)と呼ばれるEthereum(イーサリアム)のチェーン上に“ラッピング”する形で追加構築されたチェーンなのに対し、前者は2層構造ではない単一のレイヤで構成されたチェーンという点にある。

Ethereumは暗号通貨の流通チェーンとして安全性が高く広く利用されるものとして知られているが、一方でB2Cなどの決済に利用しようとするとタイミングしだいだが最大でチェーン承認まで数分、ガス代として数ドル単位のコストが必要になる場合がある。

そこで登場となるのがL2で、Ethereumのチェーン処理とは別にBaseのような別チェーンで処理を行ない、その一定時間のトランザクションの結果のみをEthereumのチェーンに“まとめて”反映させることで処理時間やコストを低く抑えることが可能になる。

トータルの結果自体はEthereumに反映されるため、素のEthereumに近い安全性が保たれるというわけだ。

他方で、SolanaではEthereumと同じL1(レイヤ1)で動作している。Ethereumを含む従来型ブロックチェーンの弱点として、取引の順番を確定するためにチェーン内のノード間で合意を形成する必要があり、この際に発生する通信や待ち時間がボトルネックとなり、前述のような「取引確定まで数分単位」といった処理時間を必要としてしまう(Bitcoinでは10分以上)。

そこでSolanaではPoH(Proof of History)という仕組みでタイムスタンプを暗号化したデータを直接トランザクションに埋め込んでしまい、合意形成の時間を大幅に短縮している。巨大な実績あるチェーンを利用できるのがL2の特徴なのに対し、このような独自拡張で速度に特化した仕組みを実現できているのがL1の特徴といえる。

なぜOUSDに注目が集まるのか

OUSDに賛同する企業はブロックチェーン関連企業から金融機関、決済代行、クレジットカードの国際ブランド、そのほか小売関係者までさまざまな業種にまたいでいるが、そこに共通するのは現状の金融システムやステーブルコインの仕組みに不満や疑念を持ち合わせているという点だ。

先ほど国債保有などから得られるオフチェーン担保資産での利益をUSDCやUSDTのステーブルコイン発行体が独占しているという話をしたが、基幹インフラを特定企業に握られている状態は確かに健全ではない。

これに関して、次の3つが大きなポイントとなり、多くの企業や組織から注目を集めていると分析する。

1. 発行(Mint)と償還に関する手数料が無料

OUSDではコインの発行(Mint)や償還における手数料が無料化され、国債などの裏付け資産から得られる金利手数料の大部分を流通や決済を担うパートナーに分配するオープンモデルを表明している。オフチェーン担保型ステーブルコインでは現金資産をコインに変換する際に鋳造(Mint)が行なわれ、それを再び現金に戻す際に焼却(Burn)が行なわれる。

OUSDにおける鋳造が可能なパートナー企業はOpen Standardのコンソーシアムから承認を受けた企業に限定されるものの、鋳造可能な数量等の上限はなく、そうした裁量権や融通が利く部分に特徴がある。

発行体がすべてを独占するUSDCやUSDTに対して、流通分配モデルを採用するOUSDへという流れだが、これがOUSDが必ずしも米ドルにペッグしたステーブルコインの標準にならなかったとして、いい意味でのカウンターとして存在することの意義になっている。

2. 国際送金にみる既存金融への挑戦

もともとステーブルコインという仕組みが注目を集める理由の1つに、クロスボーダーでの国際間送金における需要がある。Swiftなどが典型だが、国際間送金では中継銀行を複数挟むケースがあり、相手先口座への着金までの時間やコストが不透明で、場合によっては着金に失敗していることが後で判明するなど、需要がありながらも大きなハードルとして存在していた。

そこで中継銀行(コルレス銀行)を介さず、現地通貨(Fiat Currency)同士で“ブリッジ通貨”を介して直接接続してしまい、送金の構造をシンプルにしてコストと時間を削減しようという動きが以前よりブロックチェーン上で研究され、実際にMastercardやVisaなどの国際ブランドも絡んで積極的に推進されていた経緯がある。

RippleでAPACマネージングディレクターのFiona Murray氏は「日本円と米ドルは世界の主要通貨ペアで最も(送金)取引量が多い組み合わせにもかかわらず、コストが非常に高い。Ripple USD(RLUSD)はこの問題解決の一助となる」と指摘しているように、この中継となるステーブルコインのようなブリッジ通貨を活用することで国際間取引がより安価でより活発になることが期待できるとしている。おそらくOUSDもまた、そうした効果を期待してパートナーに参加している企業が少なからずいるはずだ。

RippleでAPACマネージングディレクターのFiona Murray氏

3. 次世代金融への足がかり

本連載でもたびたび触れている「Agentic Commerce」の世界が典型だが、ECなどの人がオンラインを介して決済や送金といった機能にアクセスする場合にAIエージェントが矢面に立つことで、結果としてAIエージェントないしはマシン同士が直接決済に関わるやり取りをこなしていくという世界が今後の展望として見えている。

この際に最も重要となるのがステーブルコインだと考えられている。現在決済に関わる多くの企業がAIエージェントが中心の世界を見据えてステーブルコインの研究を進めており、OUSDもまたその過程で研究対象となっているのだろう。

だが、6月中旬に東京都内で開催されたWebX 2026のステーブルコイン決済に関するパネルディスカッションで登壇したBinanceのSB Seker氏は「ステーブルコインが今後向かう先としてエージェント同士のやり取りが多く見られる一方で、ステーブルコインだけが重要視されるわけではなく、既存の伝統的な決済手段を含めて周囲のサービスプロバイダがAIエージェントのKYA(Know Your Agent)のプロトコルを認めて一定の法的地位を保つことで、いずれの決済手段でもAIエージェントを介してのアクセスが可能になる」とも述べている。

WebX 2026のステーブルコイン決済に関するパネルディスカッションでコメントするBinanceのSB Seker氏

将来に向けた技術開発と日本の動き

直近のトピックとして大きいのは米Visaが7月16日(現地時間)に発表した「Visa Stablecoin Platform(VSP)」だ。最初の対応コインはOUSDとなるが、決済や送金に関わる企業がステーブルコインを自社のシステムで取り扱おうとしたとき、複雑な処理ややり取りを抽象化してその導入を簡易にするツールキットのような位置付けとなる。

シンプルに言えば、企業がすぐにOUSDの取り扱いを開始するためのプラットフォームをOpen Standardの中核の1社であるVisaが直接用意したという話だ。WaaS(Wallet as a Service)のようなサービスも提供され、ステーブルコインの残高管理などもこのプラットフォームを介して行なえる。

いまステーブルコインの複雑性という話が出たが、現状のステーブルコインにおける課題として「マルチチェーンによる弊害」がある。同じステーブルコインであっても用途によってチェーンを使い分ける都合上、チェーンごとに残高が分散し、直接的なチェーン間での残高移動が行なえないというのは先ほども触れた通りだ。もしチェーン間で残高を移動したい場合、移動元のチェーンで当該残高を「焼却(Burn)」し、移動先のチェーンで当該残高を「鋳造(Mint)」する必要がある。

これが特に問題となるのがEC決済で、例えばSolanaのWallet上に残高があるにも関わらず、ECサイト側がBaseやEthereumによる決済しか受け付けなかった場合、いったん異なるチェーンに残高を移し替える必要がある。EC側では複数チェーンによる決済に対応することが多いと思われるが、おそらくは単純な決済を行なうだけにもかかわらず、チェーン間での“移し替え”が頻繁に発生することが予想される。「Burn&Mint」と呼ばれるこのサイクルだが、問題解決のための“チェーンの抽象化”という仕組みができつつある。

これは「Intent/Solver」という考えで、決済や送金において一連のやり取りの中で行なわれる個々処理をユーザーに任せるのではなく、あくまで(送金という)最終的なユーザー側の目的や意思(Intent)のみをユーザーの操作に反映させるというもの。ユーザーのWalletには例えば「OUSD残高」という形でチェーンごとの残高ではなく統合された残高のみが表示され、EC決済や別ユーザーへの送金では相手がどのチェーンを使っていようが関係なく、あくまで「OUSDの指定金額のみを支払う」という形で処理する。

この処理の裏ではチェーン間の「Burn&Mint」処理が複数走っている形になるが、ユーザーにはそれを意識させず、見せないというのが“チェーンの抽象化”だ。この際に最も安価かつ素早く処理が可能な最適なルートを自動選択する代行業者となるのが「Solver」となる。今後ステーブルコインが一般化するうえで最も重要な技術の1つとなるだろう。

このようにステーブルコインの動きが活発化しつつある状況だが、複数種類のコインがあるとはいえ、その9割以上……おそらくは限りなく100%に近い時価総額はUSDベースのものとなっている。

理由の1つとして、ステーブルコインを実際の金融取引に使うケースは米国外の市場において多く、アフリカやアジア諸国などを中心にUSDベースのコインが流通している現状がある。それらの国では必ずしもステーブルコインが法的に許諾されているわけではないものの、交換所を介して現金化しなければ保有自体は可能なので、オンライン上の流通通貨としてのステーブルコインの地位が高まっているというわけだ。この弊害として、個々の国の金融政策を無視して米ドルが国内流通していることを意味しており、中央銀行の思惑を外れる形で米ドルによる経済支配が進む危険性がある。

そのため、日本でも円建てステーブルコインに対して近年注目が集まっているのは、こうした政治事情的な背景もあると考えている。

日本円建てステーブルコインはすでに複数あるが、代表的なものとして「JPYC」と「Progmat(プログマ)」の2つについて触れる。JPYCは25年10月に発行が開始された日本初の日本円建てステーブルコインで、すでにさまざまなサービスが対応を発表している。いちど通貨変換が必要なUSDベースのものに比べ、JPYであれば日本円で店舗等が現金を受け取れるメリットがある。

JPYCを発表する代表取締役の岡部典孝氏

JPYCで1つ大きな制限と言えるのがコインの発行や償還に際して1日あたり100万円という上限がある点で、これはJPYCが第2種資金移動業での登録を行なっている点に起因する。

対してProgmatは3メガバンクが推進するJPYCベースのステーブルコインで、もともとは三菱UFJ銀行が内部プロジェクトとして進めていた事業をスピンオフすることで誕生したもの。こちらはブロックチェーン上で発行される「金銭信託の受益権」を掲げた「3号電子決済手段(信託型)」と呼ばれるもの。前述の100万円制限はない。

JPYCとProgmaともに「オフチェーン担保型」に属するが、前者がその多くを日本国債で裏付け資産としているのに対し、Progmaは銀行に現金を保有する預金預託をベースにしている。どちらが優れているとかいうわけではないが、今後ステーブルコインに対する国内での注目が高まるにつれ、対応サービスも拡大し、日本円建てステーブルコインの需要も広がっていくだろう。

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)