西田宗千佳のイマトミライ

第358回

「auひかりプラス」でKDDIが攻める「日本の光回線」の課題解決

「auひかりプラス」専用のハイブリッドルーター。音声通話も可能

9月4日、KDDIは、光ファイバー回線と5Gを組み合わせた家庭用のインターネット接続サービスである「auひかりプラス」を発表した。サービスは9月17日からスタートする。

自宅の固定回線に強い興味がある、という人は少ない。このニュースも、通信回線に興味がある人以外には地味なものに見えるかもしれない。

だがこのサービスは「日本の家庭向け固定回線の課題」を明快に示し、そこへと対応するために生み出されたものである。そういう意味で、非常に面白い存在だ。

今回は、このサービスを通して「日本の家庭向け回線はどのような状況にあるのか」を考えてみよう。

光回線のトラブルを5Gでカバー

まずは「auひかりプラス」の概要を説明したい。

このサービスは、家庭へと光ファイバーで高速なインターネットを提供することを主軸としている。現在は下り最高10Gbpsのサービスが増えており、KDDIとしても「家庭に10Gbpsを届ける」という1つの狙いがあり、下り1Gbps以上でサービス全体を構築している。

10Gbpsの回線に付加価値をプラス
主な回線種別と価格

モバイルに比べれば緩やかだが、家庭でのネット回線の需要は増している。放送でなく映像配信を見る機会が増えており、それだけでも相当なトラフィックだ。

モバイル回線ほどではないが、家庭向けの固定回線需要も拡大

同時に課題となるのが「回線の寸断」である。

筆者も自宅や仕事場に回線を引いているが、1年に1度か2度、ほんの短い時間ではあるが、「固定回線が不調な時」がある。きっとどこでも同じだろう。

その時、映像配信が映らない程度であればまだいい。だが最悪の場合、今は「家庭にあるスマートホーム機器」が止まる。スマートロックの回線接続が切れた場合、機器の種類によってはドアが開かなくなる。

なにかあった時のために、回線のバックアップは必要だ。スマートフォンからの携帯電話回線はその有力候補だが、「家庭のネットワーク全体」の代わりにするのは大変だ。PCをテザリングでつなぐくらいならすぐできても、ホームネットワークの代わりにする設定は面倒である。

そこで出てくるのが、「ホームルーターが、携帯電話回線をバックアップとして使う」という考え方だ。

実は現在でも、USBタイプの携帯電話回線向けモデムなどをつなぐことで予備回線にする機能を持つルーターは存在する。特に業務用では、そうした機能を備えた製品は一般的に使われている。

auひかりプラスは、この考え方をもっと簡単にしたものだ。

ルーター内部に5Gの接続機能を持ち、光回線にトラブルが起きた時、回線を切り替えることができる。料金プラン的にも、5G回線分を別途契約する必要はない。

光回線にトラブルが起きた時には、5Gに切り替えて通信

スタート段階では切り替えは手動だが、2026年度中には、ルーターのソフトウェアアップデートによって、トラブル時の切り替えを「自動化」する予定だという。当初から自動化を行なわない理由は、携帯電話回線への影響も考慮し、慎重に検証した上で導入するためだ。

障害時の自動切り替えは、2026年度内に提供

「開通まで」を5Gでカバー

5G搭載には他の理由もある。

障害対策の次にわかりやすいのが「開通までの通信対策」だ。

KDDIの調査によれば、固定回線を契約する時、5人に1人が「回線が開通するまでの時間」を重視するという。筆者の感覚では、「これでも少ないのではないか」というくらいだ。

KDDIの調べでは、5人に1人が回線開通までの時間が短いサービスを選ぶという

固定回線の契約はそもそもめんどくさく、制約条件が非常に多い。

自宅でどこの回線が引けるのか。工事の手続きはどのようなものか。そして、工事までどのくらいかかるのか。

複雑で面倒な話が多いため「家庭にモバイルルーターを置いて固定回線代わりにする」話が出てくる。

速度に制限があること・上り回線が遅いこと・通信遅延が長いことなど、多くの課題があるわけだが、店頭などで「お持ち帰りいただくだけで開通します」と言われると、そちらになびいてしまいたくなるのもわかる。

そこでauひかりプラスでは、光回線の工事が終わるまで、内蔵の5Gで通信が行なえるようになっている。通信量の制限はなく、追加料金もない。

申し込みをするとルーターが渡され、そのまま光回線開通までは5Gで通信
ハイブリッドルーター本体。光回線のインジケーターに加え、4G/5Gの表示も

実は現時点でも、光回線の契約時などには、「工事までのつなぎ」としてモバイルルーターを貸し出すパターンが珍しくない。だから、現実問題として似たような状況にあるのだが、それでも利点は複数ある。

1つ目は、「家庭内LANの設定を変更しなくていい」こと。借り物のモバイルルーターと、工事後のホームルーターでは設定が異なる。移行作業は面倒なだけでなく、「難しくてよくわからない」という人もいそうだ。

2つ目は、機器の置き換えが不要なこと。ずっと使うルーターを最初に受け取れるので、設置も設定も「回線開通後」を想定した環境にできる。前述の設定の面に通じる話だ。

そして3つ目は「借り物のモバイルルーターを返却する手間がなくなる」こと。KDDIとしても、返却を行なう消費者としてもかなり負担が小さくなる。特に、回線を提供するKDDIや契約を担当する代理店の負担軽減は大きなものだ。

なお、本ルーターを使って「光回線のないサービス」も提供できる。光ファイバーがどうしても敷設できない環境の場合には、「携帯電話回線を使った固定網サービス」として展開できるわけだ。

回線種別を意識せず「簡単」に

そして、最後は「簡単になる」ことだ。

KDDIがauひかりプラスで提供する回線には3つの種別がある。

1つは「KDDIの自社網」。これを「タイプ1」という。

次に「5G網」。先ほど説明した、携帯電話回線を使った固定網サービスのことであり、これが「タイプ2」だ。

そして「タイプ3」。これは、NTT東日本・西日本が提供する光回線である「フレッツ光」を借り受けて提供するもの。「光コラボレーション(光コラボ)」と呼ばれるものだ。

固定回線を契約する時にはこうした回線の種別を理解し、「自宅ではどれが使えるのか」「どれを使うと携帯電話回線の割引が使えるのか」などを判断する必要がある。

auひかりプラスも3種を使うわけだが、価格体系や機能の見え方はほぼ統一されている。まったく意識しなくていい、というわけではないが、意識したシンプル化が行なわれている。

音声電話サービスについても、KDDIのコアネットワークを使ったものになっている。ユニークなのは、音声電話については、回線は光ファイバー側ではなく、常に5G側が使われるという点だ。

迷惑電話の対応や電話転送などは「Wi-Fiプラン」という別サービス(月額770円)になっているが、契約開始から13カ月分は無料で提供されるという。

固定電話の高度化やWi-Fiの6GHz帯などは、「Wi-Fiプラン」契約者に提供

電話番号ポータビリティにも対応しているので、これまで使っていた固定電話の番号をそのまま利用できる。

光回線契約の課題に「NTTにはすぐにできないこと」で対応

こうやって見ていくと、auひかりプラスは「光回線契約の課題を細かく解消する」ことを想定したものであることが見えてくる。

そして、KDDI側が本質的に狙っているのは、「固定回線の差別化要因が価格だけになっている」という問題の解消だ。

ネット回線を、とにかく通信ができればいい「土管」のような存在として考えると、差別化要因は「価格と通信速度」になる。固定回線の場合には「その場所で契約できる」という大きな要因があり、その次となると「安いのはどれ?」と考えてしまいがちだ。

もちろん、回線事業者としては自社への契約を増やすため、差別化要因を求めたくなるものだ。しかし、わかりづらい・めんどくさい・時間がかかる、という3点が揃った固定回線は、価格訴求以外がうまくいっていない。

だからこそKDDIは、そこに「特別なルーターと回線上の工夫」をセットにすることで、固定回線ビジネスの常識を変えようと考えたわけだ。そもそもauひかりプラスは、KDDIの5G網が「エリアが広く、ほとんどの場所で使える」ことを前提としている。うまく組み合わせたサービスと言える。

しかもこのやり方は、KDDIにはできてもNTT東日本・西日本にはできない。

NTT東日本・西日本は、NTT法の制約により、提供できるサービスが、原則として「県内固定通信」に限定されている。NTT東日本・西日本が携帯電話網を運営することはできない。また、NTTグループ内のサービスを優遇してセット提供できないため、NTTドコモの回線を組み合わせるのも無理だ。

逆に、NTTドコモがフレッツ光を借り受けてビジネス主体になるなら、auひかりプラスと同じものを提供することは不可能ではない。そこまで乗り出してくるかは、なんとも言えないところだ。

もちろん、ここまでやっても、KDDIがいきなり他社からシェアを奪う……とはいかないだろう。自宅などを対象とした固定回線は切り替え意欲の強い人が少ない。ここまで作り込んでも、契約済みの人を振り向かせるのは難しい部分がある。

だが、光回線の販売について方向性を変え、(当面という留保付きでだが)NTTなどのライバルよりも有利な形で展開できるのは面白い。

光回線の契約は、引っ越しや新築など、生活の節目で一定数の契約が見込める。ここで選ばれる比率が高くなれば、KDDIの文字通りの「固定客」が増えていくことになる。

だからこそ同社は、自社の強みである携帯電話ネットワークを組み合わせ、差別化したサービスの提供を決めたのだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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