石野純也のモバイル通信SE
第106回
シャープだからできる 家電連携AI「ニア」の期待と課題
2026年9月2日 08:20
シャープは、白物家電などに対応するAIエージェント「NIAH(ニア)」を9月30日に提供開始する。猫型とみられるキャラクターが、スマホを通じてユーザーからの指示を受け、家電を操作したり、使い方やお勧めの情報などを提案する。
製品によっては、すでに別のAIエージェントを搭載していることもあるが、この場合も、NIAHが窓口になって連携を図る。
家電に閉じていたタスクをつなぐ「ニア」
従来型の家電向けAIは、それぞれのジャンルに閉じており、複数の製品を連携させることができなかった。また、それぞれの家電から取得できるデータも、その家電に閉じていた。ユーザーの属性やスケジュールなども活用しておらず、AIがサポートできることが限られていたのが実情だ。
これに対し、NIAHはユーザーのデータを使いつつ、複数の家電を連携させることができる。例えば、アプリ内に夕食のメニューとしてナポリタンと入れておくと、AIがそれを分析して、材料の提案をしてくれる。
ここまでは、ChatGPTやGeminiなどの汎用的なAIでもできるが、NIAHは買い物をした後、ホットクックの「クックトーク」と連携して、レシピや実際の操作方法などを聞くことができる。さらに、調理開始までの間、冷蔵庫のどこに入れておけばいいかや、冷凍モードの変更などもアプリ上から行なえる。
また、家に赤ちゃんがいるような時には、NIAHとの対話を通じて、空気清浄機の設定をしたり、洗濯機で赤ちゃん用の服を洗うモードや、エアコンの優しい風が吹くモードなどを提案しつつ、ヘルシオやホットクックのような調理家電では、離乳食の食材で作れる大人向けの料理を提案してくれるという。
「ユーザーの暮らしを横断的に理解し、家電やサービスが同じ方向を向いて提案をお届けする」(シャープ スマートライフビジネスグループ Smart Life事業統括部 統括部長 永沢忠郎氏)というわけだ。
取り扱い説明書だけでは難しい、利用シーンに沿った設定を提案してくれたり、その実行を肩代わりしてくれたりする点は、AIエージェントが得意とすることだ。
現時点では、スマートライフビジネスグループの白物家電に限定されているNIAHだが、27年には、テレビのAQUOSもこれに対応していく方針だ。また、永沢氏が、「我々にはスマホから蓄電池まである」と語っていたように、スマホのAQUOSシリーズにも、NIAHのアプリが内蔵されていく可能性は高い。
「スマホを持つ」というシャープの強み
ユーザーを理解する点では、7月に発売したスマートウォッチの「からだメイト Watch」や、スマートリングの「からだメイト Ring」で取得したデータの活用も視野に入っているという。シャープの常務執行役員 Co-COO兼スマートライフビジネスグループ長を務める菅原靖文氏は、「企画段階では間に合わなかったが、スマートウォッチでヘルシオだったりとの連携はある。何とか早く連携していきたい」と語り、こちらも、27年中の連携を示唆した。
永沢氏が「スマホから蓄電池」、菅原氏が「ソーラーパネルから通信まで」と語るように、シャープが抱えている製品ラインナップの幅は実に広い。これを横断的にAIで連携し、その操作まで担えるとなると、シャープ製品にとっての大きな差別化になりうる。
日本の家電メーカーはスマホをやっていないし、スマホメーカーは白物家電を持っていない。その点で、シャープの立ち位置は明確だ。
海外でも、例えばサムスン電子はGalaxyシリーズにSmart Thingsという連携機能を搭載しているほか、Galaxyに搭載してきたAIアシスタントのBixbyを家電向けと位置づけ直しており、標準搭載されているGeminiとの差別化を図っている。また、日本では未発売だが、冷蔵庫や洗濯機などの家電にもBixbyを搭載しており、シャープのNIAHとできることは近い。
スマホなどのIT機器と家電製品群をAIで束ねるのは、総合家電メーカーの王道的な戦略と言える。一方で、サムスン電子は日本市場でスマホやタブレットなどしか販売しておらず、家電製品は未上陸。ユーザーが連携機能を使おうとしても、利用できない。同様に、シャオミも「Human x Car x Home」を戦略として推進しており、中国ではこれらをAIでつなぐ取り組みも行なっているが、海外展開は途上にある。
走り出したばかりの家電操作 普及への期待と課題
とは言え、シャープのNIAHも、例えば家電の操作を完結してくれず、最後は手動でアプリの操作が必要になることがあったり、対応製品が限られていたりと、AI連携の入口ができたような段階だ。ハブとなるスマホやコミュニケーションロボットを持った家電メーカーという意味では期待ができるが、連携できる製品数はまだまだ拡大していく必要がある。
シャープを含むこれらのメーカーにとって共通の課題になりそうなのが、家電を1社でそろえなければ、その実力を引き出せないことだ。シャープは「オープン志向のAIoTを拡張して他社と連携することで、暮らしに合わせた提案がともにできる仕組みを目指す」(永沢氏)としているものの、実態として、連携済みのメーカーはシャープと競合しない製品を作っているメーカーが多い。
仮に複数のシャープ製品を持っていたとしても、すべて統一している家は少ないだろう。テレビはソニーで冷蔵庫は日立だったり、洗濯機は東芝でエアコンはダイキンだったりする方が、一般的なはずだ。このような製品がAIエージェントによる連携から漏れてしまうと、使い勝手の低下を招く。シャープにとっては買い替え時に製品を訴求する材料になりそうな一方で、家電の買い替えサイクルの長さを考えると、普及には時間がかかるおそれもある。
また、NIAHの会話は、フリープランだと1カ月30回に制限される。これを10倍の300回に引き上げるには、月額495円のノーマルプランへの加入が必要だ。エアコンのオン・オフを1日に1回ずつ頼むだけで60回になってしまうため、無料の枠を超えてしまう。
対応家電を持つユーザーはノーマルプランを6カ月無料で利用できるものの、その後、AI連携にどこまで料金を払うかは未知数だ。AIの運用コストを回収しなければならないため、無料で提供し続けるのは難しいことは分かるが、複数製品を買ったユーザーにはフリープランの枠をもう少し拡大するなど、普及を促すような仕組みも必要になってくるかもしれない。












