鈴木淳也のPay Attention

第282回

通信キャリア系“最後発”のドコモFG 金融事業拡大を担うAIとNTTパワー

NTTドコモ・フィナンシャルグループ代表取締役社長の廣井孝史氏。同本社受付にて

NTTドコモから2026年3月にグループ内の金融事業を集約した新会社「NTTドコモ・フィナンシャルグループ(以下、ドコモFG)」の設立が発表され、新体制が7月にスタートした。7月9日には新会社としての事業方針説明会を開催している。

ドコモFGでは、もともとドコモが抱えていた「dカード」「d払い」といった決済事業をベースに、ドコモの連結子会社かつ三井住友信託銀行との共同経営会社である「ドコモSMTBネット銀行(8月2日までは住信SBIネット銀行)」、ドコモ・インシュアランス、ドコモ・ファイナンス、ドコモマネックスホールディングスを傘下にした「NTTグループの金融持ち株会社」という体裁でスタートした。

今回、ドコモFG代表取締役社長に就任した廣井孝史氏に、新会社の狙いと今後について話を聞いた。

ドコモFGのグループ内組織図

カード事業の収益性改善とホワイトレーベルによる拡大戦略

現在のドコモFGの母体となっているのは、ドコモ内のカード・決済事業だ。そのため、スタッフ構成についても「カードとd払いのオペレーションを中心に切り出してきている」(廣井氏)というように、金融持ち株会社ではあるが、布陣としてはB2C決済事業に偏っている。

廣井氏:決済事業はおサイフケータイとしては順調に普及してきたかなと思っていますし、カードとd払いともに面的な広がりが増えました。事業としての収益性はカード事業の方が少し高い形になっています。ですが決済事業なので、金融ビジネス全体で見渡すと、やはりビジネス的なマージンはちょっと低いかなと考えています。銀行、証券、融資など、そういった方面の事業を拡大していかないと、利益率は改善していかないと基本的には思っています。

金融持ち株会社を立ち上げたモチベーションかつ、中長期的な目標として、銀行や証券を含んだ“フルセット金融”サービスの提供による売上拡大と利益率改善が根底にあるというわけだ。通信事業との組み合わせで安定した売上を得ているdカードのような決済事業がある反面、カード業界は競争が激しいこともあり、それが結果として利益を圧迫させやすいという事情があるようだ。

一方で、世間的には“カードの高級化”が進み、決済額に応じて特典を付与するなどカード単体での囲い込み施策も激化している。実際、ドコモでも「dカードPLATINUM」を2024年末に提供開始して1年と経たずに100万枚発行に漕ぎつけるなど、このトレンドにうまく乗っている。

廣井氏:年会費10万円とかすごいプレミアムサービスがびっくりするくらい出てきていますね。やはり『サービスのプレミアム化』というのは1つ考えるポイントなのかと思いますし、カードというサービス自体もう少し多様化してもいいとも考えています。

現在のドコモFGの決済事業の状況

ここで廣井氏がカードの多様化戦略の1つとして挙げているのが「カード事業の“ホワイトレーベル”化」だ。

もともと住信SBIネット銀行を買収した際、同社が銀行システム自体(あるいは一部)を他社へ提供する「BaaS(Banking as a Service)」事業の大手だったこともあり、この事業がドコモFGに付随してきた。

BaaSは、非銀行業の事業者が自社の顧客に対して銀行口座サービスを提供する、一種の「B2B2C」に近い形態を採るが、この仕組みを使ってカード事業もBaaSを通じて「ホワイトレーベル」として提供してしまえないかという考えだ。

イシュア(カード発行会社)はドコモFGとなるが、ホワイトレーベルではサービス提供を受けた非金融業者が自社ブランドを冠したカード発行が可能になるため、トータルとしてはカード発行会社であるドコモFGの収益につながるというわけだ。ドコモはTISへの億単位の開発投資でカード発行事業を自前で抱えるようになっており、こうした一連の投資成果をさらなる収益に結びつけていくという狙いもあるのだろう。

廣井氏:券面だけ変えて提供する、というのもあるのでしょうが、それだけでは芸がないので、銀行サービスをBaaSとして機能提供したり、dポイントという形でロイヤルティプログラムを提供しながら法人のお客様にアプローチしていくこともできます。直接“C”を開拓するのではなく、法人経由でカード事業のお客様の裾野を開拓していくというやり方もあるのかなと思います。

B2B2Cで法人にアプローチしつつ顧客開拓の裾野を広げる

このような形で1つの「B2B」サービス提供を取っかかりに非金融事業者との連携を強めていく戦略だが、(ドコモFG成立前ではあるものの)成功例の1つといえるのが「JALモバイル powered by ahamo」だ。

日本航空(JAL)は住信SBIネット銀行との提携で「JAL NEOBANK」のサービス提供を開始しており、これに紐付くピースとしてくっついてきたと言えるのが通信サービス「ahamo」だ。ahamoは海外データローミング機能が標準で備わっており、国際航空会社のJALとは相性がいい。独自のマイレージプログラム(JMB)があるためdポイントの提供はないが、提携を深化させる試みの好例ではないだろうか。

ドコモの銀行事業拡大に足りないもの

他方で、そうした強力な“営業ツール”であるNEOBANKのBaaSやカード事業のホワイトレーベル化も課題がある。

先ほども触れたように、ドコモFGの成り立ち自体がドコモ内部からカード・決済事業のオペレーションを担当するスタッフを切り出してきた形になっているため、拡販を行なえる人員が不足していることだ。

廣井氏:今後(ドコモFGで)強化・増員したい人員は主に法人営業(営業部隊)です。私も最近付き合っていて分かったのですが、住信SBIネット銀行(ドコモSMTBネット銀行)は、極端な話エンジニアの会社なんですよね。銀行というよりはシステムやアプリ開発が中心で、それが強みですが、法人営業開拓の組織が強力に存在しているわけではない。これはドコモFGも同様で、もともとカードとd払いのオペレーションを中心に切り出してきたこともあり、営業部隊の強化が課題でした。

ただ、NTTグループ全体でみればわれわれは法人向け部隊はすごく抱えているので、このグループリソースを使いながらいろいろな提案ができるのではないかと考えています。

同氏によれば、NTTグループ内で得意な分野が異なっており、例えば大企業相手であればNTTデータ、地方自治体であればNTT東西、大企業から中堅中小まではドコモビジネスが対応する。つまりNTTグループ全体のリソースをかき集めれば、ドコモFGとしては現業を強化しつつ、足りない法人営業部隊をNTTグループ総力を結集して補填していけるという考えだ。

一方で、グループ内“アセット”の使い方は法人営業だけではない。「B2B2E(EはEmployeeで従業員)」の考え方で、グループ内や提携企業の給与振込口座指定で金利優遇などを交えてドコモの銀行口座利用を拡大し、全世界で34万人以上とされる組織規模を活かした預金獲得を進めていくという。

実際、マネックス証券を活用した従業員向け株式報酬制度の口座管理も進めており、自社サービスをグループ内で消化していく戦略となっている。

ドコモFG本社でインタビューに答える廣井氏

AIエージェントと金融サービス拡大

最後は金融分野で急速に進んでいる最新テクノロジーの取り込みの話だ。過去にステーブルコインやAIエージェントによる「エージェンティック・コマース」の話題に何度も触れたが、ドコモFGとしてどう新技術に向き合っていくのか。

廣井氏:われわれとしては(金融を)高度化していかないといけないので、新しいFintechを使ったビジネスモデルを作っていくことなども、将来的にやっていきたいと思っています。少し加速する必要があると考えているのは、今国会で制度整備が進んだことで、JPYCの例ではないですが、(ステーブルコイン等が)発行され、使われていく場所が増えていくと思います。

本当に普及するかどうかはこれからですが、金融庁さんが制度整備を先行してやっていて、アメリカなどから“輸入”され、SBIさんやメガバンクさんが取り組みはじめているので、われわれとしても“ここで参加していかないといけない”という焦りがあります。制度はどんどんできてきているので、早くプレイヤーとして参画しないとだいぶ遅れるなという危機感が強いです。

将来に向けた成長ステップ

もう1つ、この分野での注目は「エージェンティック・コマース」だ。日本での法制度面での整備や、米国でも超最先端にあたる超高速取引+マイクロペイメントといったトレンドはあるものの、近い将来にもオンライン上での取引の中心が人間からAIエージェントに取って代わられるという未来はすでに見えつつある。通信事業者であるドコモと、その金融持ち株会社のドコモFGとしては先行してトレンドをキャッチしておく必要がある。

廣井氏:具体的な設計はまだですが、基本的にわれわれのプラットフォームをAIエージェント用に作っていくということが今の流れです。順番として、まずわれわれのオペレーション自体をAIというかオートメーション化し、マニュアルベースになっている部分をAIがオペレーションできるように形に変えます。そのために、NTTグループ内(正確にはNTTデータグループ内)で『(NTT DATA)AIVista』というAI部隊がおり、その協力を得ながらわれわれのオペレーションのAI化を最初のステップとしてやっていくことになると思います。

具体的な内容はまだ見えていないものの、全体方針を固めつつ、「いまやらなければ後で大変なことになる」という危機感を抱きつつ向き合っている状態のようだ。

ドコモFGは通信キャリア(MNO)4社グループの中で銀行業を抱えて金融グループを組織した最後発の企業ということもあり、目の前の課題が多い。そういった問題をクリアしつつ、最新Fintechの分野にどれだけ早く参入し、事業を軌道に乗せられるかが今後数年の注目ポイントとなりそうだ。

「NTTドコモ・フィナンシャルグループ」設立発表会にて

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)