西田宗千佳のイマトミライ

第347回

「AIを使う人はまだ少なすぎる」 Gensparkが目指す“ちょうどいい”AI文書作成

Genspark創業者でCEOのエリック・ジン氏(右)と、CTOのカイ・ジュー氏(左)

先週、筆者は米カリフォルニア州・パロアルトで取材をしていた。向かった先は、AIサービスを提供する「Genspark」の本社だ。

Gensparkは、AIを使ってプレゼン資料やビジネス文書を作ってくれるサービスとして知られている。春にはテレビCMも放送されていたので、それを記憶している人も多いのではないだろうか。

日本での事業展開にも積極的で、筆者が取材に訪れたのも、日本プレス向けの説明会が行なわれたためだ。

実は、同社は近日中に、サービスを現行の「4.0」から「6.0」へと、一足飛びかつ大規模な変更を行なう、とアナウンスしている。ただし現状、新サービスの内容は開示されていない。

AIサービスが当たり前になり、OpenAIやAnthropicなどの大手AIサービスがフロンティアAIでしのぎを削る現在、Gensparkのようなサービサーはどう生き残っていこうとしているのだろうか?

Genspark創業者でCEOのエリック・ジン氏や、CTOのカイ・ジュー氏から、サービスのポリシーや考え方について詳しく聞くことができた。

そこから見えてきたのは、AIによる仕事スタイルの変化が、結果的には企業のスタイルをも変えてしまう可能性だ。一方で、そこまでの認識に対するギャップの大きさ、という課題も見えてきた。

Gensparkで日韓に広がる「AI文書作成」

まず、Gensparkがどんなサービスかを説明しよう。

冒頭で述べたように、Gensparkは「AIを使ってビジネス文書を作ってくれる」ことで知られるサービスだ。特に、プレゼンテーションやスプレッドシートなど、いわゆる「オフィス系文書」の作成で人気がある。

Gensparkのサービス画面

オフィス文書を作る、ということならすでに他のサービスもできる。ただ、プレゼンテーション文書を「思った通りに作る」「自分に合うように修正しながら作る」のは意外に難しいものだ。いかにもAI、という感じで装飾過多な画像入りの1枚絵を作るのは簡単でも、図版と文書の比率がちょうどいい、好感度の高いプレゼンテーション資料を作るのは、苦労が多い。

Genspark本社でのデモより。プレゼン資料やスプレッドシートを、AIと対話しながら作成

そんな中でGensparkは、「いい感じのプレゼンテーション文書」を作れることで人気を得てきた。現在は企業が持つ過去のプレゼン資料をアップロードすると、その色合いやロゴの使い方などから学習、トーンやマナーを合わせた形で文書を作れるようにもなってきている。

同社によれば、こうした要素は特に「ドキュメント文化が強い、日本と韓国で支持を受けている」(ジンCEO)という。

Gensparkはすでに6,000社を超える顧客を抱え、そのうち2,500社は日本企業だ。AIスタートアップとして急速に成長しているが、そのビジネスの多くはアメリカと日本、そして韓国市場によるものだ。国内では、大手企業や行政との取引拡大が続く。

Gensparkの経営データ。すでに全世界で6,000社と契約、特に今年に入ってさらに急成長中

それだけ日本では「ビジネス上必要となる文書を簡単に作る」というニーズが大きい、ということなのだろう。日本や韓国の記者向けにアピールする理由もよくわかる。

「AIを使う人の数は、まだ少なすぎる」

同時に、同社がAIを使ったワークスペースビジネスに注力するのは、日本だけでなく、世界中で「ビジネスの可能性があるから」に他ならない。

Gensparkはエージェンティックエンジンで「作業が終わる」ワークスペースの提供を目指す

ジンCEOとジューCTOは、口を揃えて「今、AIを使っている人の数は少なすぎる」と話す。

以下は、ジューCTOがプレゼンの中で示した図だ。

全世界でのAI利用状況。灰色のドットである「AIを一切使っていない人」がまだまだ多く、「AIチャットを使う人(緑のドット)」ですら一部だけだ

1つのドットは320万人を指す。

全世界で、AIに毎月20ドル支払って高度な使い方をしている人は1,500万人から2,500万人と、人口全体の0.3%(オレンジのドット)でしかない。先端的な使い方であり、コーディング・エージェントでのソフト開発や自動化といった仕組みに至っては、赤のドット1つ分(0.04%。200万人から500万人)しかいない。

無料のチャットボットを使っている人ですら、ようやく全体の16%(13億人、グリーンのドット)になったところだ。

たしかにこのギャップは大きい。

「AIに文書を作るのを助けてもらう」ことは、AI導入の初期段階に過ぎないが、その点ですら快適なサービスは少ない。Gensparkが強みとしてアピールするのも、「入口の段階がまだまだ世の中に浸透していない」からであり、「月に数十ドルの支払いで大幅に時間が短縮できる」ことが浸透していないからでもある。

「ほとんどの人がAIを、賢くて速いネット検索程度にしか使っていない」とジンCEOは話す。同社も最初はAI検索からスタートしたが、ビジネスの軸をAIドキュメントへとすぐに移した。

現状は多くの人が「ネット検索にしかAIを使っていない」とGensparkは説明

「AIはチャットボットのことである」という認識を崩して次の段階に進めることが、Gensparkにとっても大きなビジネスチャンスであると同時に、多くの企業の参入余地がある領域である、ということなのだろう。

社員数はたった70名 AI前提の組織で大手と戦う

そしてGensparkにとっても、「AIで文書を作る」ことは最初の領域に過ぎない。現在は、企業がAIとともに仕事をする「AIワークスペース」の構築を目指す。

AIワークスペースとは、AIが自律的に動作し、社員のすべき仕事を代替し、他のAIとも連携して効率を高めるためのツールを指す。仕事のための領域をAIと共に働くネットサービスの中に拡大したもの、という言い方もできるだろう。

そんな働き方が当たり前になる時代、会社はどうあるべきなのだろうか?

実はGensparkという会社組織自体が、そのありようを実践する場にもなっている。

Genspark本社は米・カリフォルニア州パロアルトにある。いわゆるシリコンバレーの中心部であり、GoogleやMeta、アップルなどの本社からも遠くない。筆者も毎月のように取材で訪れている場所だ。

年間経常収益(ARR)で2.5億ドル、全世界で6000社のクライアントがいる企業ともなると巨大なオフィスを抱えていそうに思えるが、実際にはそうではない。そこまで広くないオフィスビルの1フロアだけでビジネスをしており、社員数も70人ほどしかない。

Genspark本社。複数の企業が入る、小規模なビルの1フロアのみ。写真だと、上のロゴのあるフロアだけだ
Genspark社内。リモートワークだったり世界中に散らばっていたりで、これだけでも「かなりの人が珍しく社内に集まった」状況だとか

しかもジンCEOは「今後もそんなに社員を多くするつもりはないし、それでやっていける自信がある」と話す。

ジンCEOはマイクロソフト出身で、検索サービスであるBingの立ち上げメンバーでもある。ジューCTOはGoogle出身で、こちらも検索サービスに関わっていた。ともに数百人規模の部下を抱え、1,000人規模のチームに属してビジネスをしていた。

だがその経験の中では、ある種のフラストレーションが溜まる瞬間も多々あったようだ。

「新しいことをしようと思ってもなかなか物事が決まらない。他のチームとの調整が最優先になる」と、ジンCEOは話す。マイクロソフトやGoogleのように大きくなったチームではありがちな話であり、日本企業でも似たような話はよく耳にする。

このジレンマを解決するには、チームのサイズを小さくして判断に必要な摩擦を減らすしかない。

そこで、チームの人数を小さいものに保つために重要になるのがAIの活用だ。文書が必要ならAIの助けを借りて短時間で作る。できることは自動化し、対話のスピードもあげる。

現在、Gensparkを構成するソフトは、ほぼ100%がAIによって作られたものだ。内容やセキュリティを含めた「考慮すべきこと」は人間が判断しつつ、ソフト開発の速度は極限まで加速する。

Gensparkは2023年創業で、日本市場への正式参入も2025年のこと。日本法人設立は今年1月だ。毎週のようにアップデートして機能追加が行なわれ、自社でのビジネスのありようも検索から文書生成、AIワークスペースへと急速に変えている。

「AIを全力で使う前提の会社組織はどうなるのか」ということを自社が実践し、そこで生まれたものを他社にも売っていくようなところがあるのだ。

賢さがすべてじゃない? サービスの価値は「AIの評価」で生まれる

ここで気になる点がある。

エージェンティックAIやビジネスツールとしてのAIの拡大は、多くの企業が取り組む領域でもある。ライバルは同じスタートアップ同士だけではない。マイクロソフトやGoogleのように、オフィスツールやサービスを提供している企業も競合になるし、OpenAIやAnthropicのような「AIプラットフォーマー」も競合になりうる。

GensparkはAIを使ったツールは多数開発しているが、AIモデル自体は作っていない。OpenAI・Anthropic・Googleなど、主要なAIプラットフォーマーとは協業関係にあり、クラウドインフラとしてはマイクロソフトのAzureを使っている。クラウドサービスとしても、AWS・Google Cloud・マイクロソフトと協業する間柄だ。

AIモデルの供給を受けてその上でサービスを作る場合、課題は「AIプラットフォーマーと協業しつつ、AIモデルの賢さとコストではAIプラットフォーマーの方が有利」である点が挙げられる。

AIプラットフォーマーがAIワークスペースのビジネスを始めた場合、「賢いAIモデルを優先的に使って連携したサービス」を提供できるわけで、結果として皆がAIプラットフォーマーのサービスを使うのではないか……? という疑問だ。

この点についてジューCTOは、「確かに賢さではプラットフォーマーが有利になる。しかし、それがすべての顧客にとって重要となるわけではない」と説明する。

要はこういうことだ。

OpenAIやAnthropicのようなフロンティアAI・プラットフォーマーは、F1マシンを作っているようなものである。速くて賢いが、それが常に運転しやすいわけではないし、コストも高い。

AIプラットフォーマーはF1のようなものであり、GensparkはEVやファミリーカーを目指す、とする

確かに、GPT-5.6やClaude Mythos、Fableのニュースは注目を集める。公開が停止された「Claude Fable 5」を使ったエンジニアは「また前のモデルに戻るのは辛い」とも語っている。

だが、コーディングや複雑な課題の分析でなく、日常の用途だとどうだろう? 最新の高価なモデルを使わなくても十分に役割は果たす。

「同じことをするのに10倍高いAIモデルを使う必要はない。むしろ我々にとって重要なのは、どのモデルがどのような処理に向くのかを評価し、適切に使い分けること。Gensparkの『Agent Engine』は60以上のモデルを組み合わせて評価しており、簡単なタスクに対しては、意図的に小さくて高速なモデルを自動で選択する」

ジューCTOはそう説明する。

実際、Gensparkの中では多数のAIモデルが使われており、用途によって自動的に複数の企業の提供するAIモデルを選び分けている。利用者側はコストを考え、「Lite」「Standard」「Ultra」から選ぶだけだ。

Genspark内ではAIモデルを直接選ぶことは少なく、賢さやコストで選ぶだけだ

「UltraではClaude Opus 4.7をメインにしている。『なぜ4.8にしないのか』と利用者に聞かれたことがあるが、実は4.7の方が良いことも多い」(ジューCTO)とも話す。

AIエージェントは大規模言語モデルを繰り返すループのような構造を持っているが、処理の経路で行き詰まったり繰り返したりすると、無駄なトークンを大量に消費し、コストが跳ね上がる。モデル評価をした上で、Claude 4.7の方が「ループ耐性」「エラー回復力」について優れていたため、あえて4.8でなく4.7を使っているのだという。

逆に中には、賢いモデルを短時間使うことで全体の処理時間と効率を確保できる例もあるという。

だからこそGensparkは、OpenAIやAnthropicと協業できるのだ。

最新モデルを使う人はプラットフォーマーのサービスを使えばいいが、コストがかかる。コストを抑えた上で「一般的なビジネスワーク向けのAI」としてサービスを展開するなら、GensparkはAIプラットフォーマーにとっては競合ではなく、「サービスを多く使ってくれる顧客」になってくる。

もっと別の考え方もある。

OpenAIはAnthropicのClaudeを使えないし、AnthropicはOpenAIのGPTを使えない。「評価した上で両方使える」のは重要なことなのだ。多数のエンジンから選んでサービスを提供するようなものだ。

エンジンを研ぎ澄ますAIプラットフォーマーに対し、Gensparkは「エンジンを評価して選ぶ」存在

つまり、Gensparkのような企業の本質の1つは、「各社が作るAIを評価する」ことなのだ。評価した結果として、コストと賢さの両面で価値の高いサービスを提供することが、企業としての効率にもつながってくる。

ジューCTOは「個人的な予測」と断った上で、「AIの推論コストは、今後数カ月の間に劇的に下がる」という見通しを語る。

AIインフラが推論向けに改善され、同時にAIモデルが進化していくことによって、AIの推論にかかる負荷が減少し、我々がAIを使うコストが下がっていくことになる。

だとすれば、Gensparkのような「AIサービサー」としても、そのトレンドを素早く読み切り、AIモデルの組み合わせとサービス提供の形態を変化させていく必要が出てくる。

ここでもまた、判断とサービス展開のスピードが経営上大きな鍵を握る、という姿が見えてくるわけだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41