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名駅ヨドバシの誕生 名古屋駅再開発の行方と「期間限定」の理由

開業時期未定となった名古屋駅地区再開発計画(5月の名古屋鉄道発表資料より)

リニア中央新幹線にともなう再開発が進む名古屋駅(名駅/メイエキ)エリアで、今年2月に閉店したばかりの名鉄百貨店本店に、ヨドバシカメラが期間限定で出店する。開業時期(2026年夏頃)以外の詳細はほぼ明らかになっていないものの、本館のうち5フロアを使用するという新店舗は、ライバルであるビックカメラをはじめとした家電量販各社にとって、かなりの脅威となりそうだ。

駅前立地のカメラ店を祖業とするヨドバシ・ビックの2社は、名古屋駅エリアや栄エリアを中心に、出店・移転を繰り返してきた。念願の池袋出店で勢いに乗るヨドバシカメラも名古屋では苦戦気味であり、待望の大型店舗となる。

しかしなぜ、ヨドバシの出店は“期間限定”なのか? その原因となる「再開発の遅れ」について検証しつつ、名古屋でのヨドバシ・ビックの競争についても振り返ってみよう。

名鉄の「巨大板チョコビル」建設断念

東海地方きっての名門「名鉄百貨店本店」の建物に、そのままヨドバシカメラが入居するとは、当のヨドバシ側をはじめとして、誰も思いも寄らなかっただろう。そもそも、この一帯は「名鉄名古屋駅地区再開発」によって、百貨店をはじめとした名鉄系の商業施設は、すべて解体されるはずであった。まさかの出店が実現した背景には、「コロナ」「リニア」「再開発の事業費」という3つの要素が相まった「再開発スケジュールの極端な狂い」がある。

2015年の段階では、名鉄百貨店の本館・メンズ館・ヤング館(のちにヤマダ電機がテナント入居)、バスターミナル、名鉄レジャックビル(ボウリング場などが入居していたレジャービル)に、近鉄パッセ(近鉄百貨店)、日本生命笹島ビルを含めて一体化したビルの図案が公表されていた。横長に並ぶ6棟のビルをまとめて更地にしたうえで、高さ180m・長さ400mにも及ぶ1棟のビルに再編するという途方もない計画は、その形状から「巨大板チョコビル」とも呼ばれ、話題にのぼったものだ。

2015年に公表された再開発ビルのパース。この計画は凍結された(名古屋鉄道ホームページより/現在は削除済)

しかし、2022年度に予定されていた名鉄エリアでの着工は延期され、“板チョコビル”も計画変更を余儀なくされた。本来であれば2027年度に完成するはずであったリニア中央新幹線の建設が遅れたうえに、検討期間中にコロナ禍が直撃したことで、入居予定であったホテル・オフィスなどの採算性が疑問視されるようになったのだ。

肝心のリニア関連の工事も、静岡県の取水問題をはじめとする諸問題から、「2027年度に品川~名古屋間が開業」というスケジュールも見通しが立たなくなった。市内の各地区で再開発の遅れが見られる中で、名鉄(名古屋鉄道)の営業利益の4倍程度(22年当時)にもおよぶ事業費(約2,000億円)がかかる再開発計画を、いったん「3年間延期」とせざるを得なかった。

名古屋駅太閤口でのリニア中央新幹線の工事(筆者撮影)

こうして、当初は「2022年度を目途に閉店」と見られていた名鉄百貨店も、しばらく営業を継続することになる。

「3年間延期」で経営悪化

しかし「3年間延期」という判断が、結果として再開発の致命傷となる。当初は2,000億円程度と見られていた事業費が、4倍にもおよぶ「8,880億円」まで膨れ上がってしまったのだ。

建築資材や人件費の高騰は全国的な課題で、「中野サンプラザ」(東京)、博多駅空中都市プロジェクト(福岡)など、着工の凍結が目立つようになっている。さらに名鉄の場合は、ビルの地下にある名鉄名古屋駅・近鉄名古屋駅の大幅拡張も絡む難易度の高い工事であり、請け負っていたJV3社(大成建設、大林組、竹中工務店)が「入札辞退」を申し出る事態に発展してしまった……。

事業費が4倍+業者が匙を投げて逃亡となると、計画そのものを全面的に見直さざるを得ない。名鉄・髙﨑裕樹社長は2025年12月の記者会見で声を詰まらせつつ、再開発の予定を「未定」(事実上の凍結)と明言した。

それぞれの建物は残るため、2026年3月の閉鎖に向けて「さようならイベント」を開催したばかりのバスターミナルが一転して営業継続を発表するなど、各方面での混乱が続く。しかし名鉄百貨店は、2000年には年間793億円だった売上が半分以下(2023年:352億円)まで落ち込むほどの経営不振が続いており、営業を継続できる状況になく、2026年2月に予定通り閉店に至った。なお、名鉄百貨店は閉店後も115億円の債務超過を抱えており、親会社がこの債務を引き受けたうえで、「株式会社名鉄百貨店」そのものが解散するという。

閉店した名鉄百貨店のエントランス

再開発はいったん中断したものの、一等地にあるビルをそのまま放置していては、名古屋そのものの衰退にも繋がりかねない。まず1階部分にあった土産物店「名鉄商店」と「スギ薬局」が営業を再開したうえで、地下1階への高級スーパー誘致も決定した。

おみやげを販売する「名鉄商店」。名鉄百貨店の閉店後、すみやかに販売を再開した(筆者撮影)

1400m2 VS 25000m2 圧倒的だった「ヨドバシ・ビックの差」

ここで急浮上したのが、「ヨドバシカメラ誘致」だ。出店交渉の報道が5月から出始めて、7月には「数年間の期間限定・地下1階~4階で営業」との公式発表に至ったあたり、かなり猛スピードで出店交渉が進んだことが伺える。ほとんどの店舗で「物件自前主義」を貫くヨドバシが、名鉄百貨店跡地への迅速な出店を決断できたのだろうか?

まず理由として挙げられるのが、「名古屋におけるビックカメラとの勢力争い」であろうか。

首都圏ではビックカメラの牙城・池袋に国内最大級のヨドバシカメラ(旧:西武百貨店本店跡地)が出店するなど、ヨドバシがビックに対する攻勢を強めている。しかし、名古屋では10年以上も営業を続けた「ヨドバシカメラ マルチメディア名古屋松坂屋店」が2026年1月に撤退を余儀なくされ、移転先の「サンシャインサカエ」は売場面積にして1,433m2、3フロアのみと、“プチヨドバシ”と言っていいほどに狭い。

一方でビックカメラは、名古屋で「名古屋駅西店」「JRゲートタワー店」合わせて売場面積25,000m2以上を確保しており、規模の上ではヨドバシは対抗しようがない。

ヨドバシカメラ サンシャインサカエ店 店名に「マルチメディア」は入っていない(筆者撮影)
ビックカメラ名古屋駅西店(筆者撮影)

この状況の中、まさかの「再開発延期」によって転がり込んできた大型店向け物件を、ヨドバシカメラが見過ごすはずはなかった。

ヨドバシのメイエキ出店 実は「リベンジ」だった

もうひとつ、名鉄百貨店跡地への出店が「念願のメイエキエリア」であったことだろうか。

実は、ヨドバシは2015年に、いまビックカメラが入居する「JRゲートタワー」への出店に向けて交渉を進めていた。しかしビルの地下には、名鉄の地下トンネルにくわえてリニア新駅まで作る必要があり、あまりの難工事で工期が1年遅れることに。このスケジュールに異議を唱えたヨドバシ側は出店を撤回し、栄エリアの百貨店・松坂屋に出店。かわりに、ゲートタワーにビックカメラが出店、という経緯がある。

左側の四角いビルが「JRゲートタワー」ヨドバシカメラが出店する予定だった(筆者撮影)
JRゲートタワー正面。ビックカメラの看板がかかる(筆者撮影)

いまの名古屋は、昔ながらの繁華街である「栄」エリアと、JR名古屋駅を中心にした「メイエキ」エリアの二極が競い合うように発展している。しかし近年は、JRセントラルタワーズ・JRゲートタワー・ゲートウォークという3本の高層ビルに「ジェイアール名古屋タカシマヤ」などのテナントが次々と入居したメイエキエリアが、松坂屋・三越・丸栄など昔ながらの百貨店が息づいていた栄エリアの賑わいを吸い取りつつある。

ヨドバシ・ビックのライバル関係でいえば、栄ではなくメイエキに絞って出店したビックカメラの方がリードし、ヨドバシは苦戦気味といっていいだろう。

ヨドバシカメラに「栄ではなく(当初の希望通り)メイエキに出店したい」という意向があったかは明らかでないが、十数年前の「ゲートタワー出店断念」のひと幕を考えると、名鉄百貨店跡のヨドバシ出店は「メイエキエリアへのリベンジ出店」と言えるものではないか。

ビックカメラも安泰ではない? 名古屋の「ヨド・ビック」未来予想図

しかし実際には、ヨドバシ・ビックの両社とも安閑としていられない。どちらも名古屋の一等地で出店を続けられるとは限らないのだ。

まず、ビックカメラの旗艦店である「名古屋駅西店」は、市が主導する名古屋駅太閤通口の再開発(開発誘導)エリアにかかっている。現地では工事のためにかなりのエリアが立ち退きになっており、すでに「街中が総入れ替え」モード。ビックカメラとしては広大な売場面積を持つ名古屋駅西店を、できれば今の場所で守り抜きたいところだ。

名古屋駅太閤通口の再開発計画。図面中央下の「広場」上部の交差点にビックカメラがある(名古屋市資料より)

一方でヨドバシも、今回の出店を足掛かりに、ビックカメラに対抗できる旗艦店の建設を目論むだろう。百貨店跡地は「2030年頃まで」というリミットがあるものの、名鉄の再開発の先行きは不透明であり、さらに営業期間が延びる可能性もある。

再開発の手詰まりが経営問題に発展しかねない名鉄とヨドバシが関係を築けば、池袋の西武百貨店・千葉そごうなどを3,000億円で買い取ったように、「再開発エリアの一部はヨドバシ自社物件」といったかたちで、得意とする大型店を出店できるかもしれない。

いまヨドバシが手を出していない百貨店「ヤング館」跡地(26年1月までヤマダ電機がテナント入居していたエリア)まで取得できれば、ヨドバシカメラ最大の大阪・梅田の店舗を越える「マルチメディア名古屋&LINKS名古屋+インバウンド向けラグジュアリーホテル(梅田のLINKS上階が「ホテルレスパイア阪急)」を建設できるのではないか。

壮大で途方もない予測ではあるが、いまやヨドバシホールディングスは各地でデベロッパー(土地開発業者)として成功を収めており、創業者・藤沢昭和氏(同社会長)と現社長であり長男の和則氏が経営権を握っているためか経営判断が恐ろしく速い現在のヨドバシなら……そんな可能性を感じてしまう。

いずれにせよ、リニア中央新幹線の開業スケジュールがはっきりしないうちは、他の再開発計画も含めて見通しが立たないだろう。まずは、8月7日時点では「2026年夏」というスケジュールしか告知されていない、ヨドバシの期間限定出店の行方を見守るばかりだ。

宮武和多哉

バス・鉄道・クルマ・MaaSなどモビリティ、都市計画や観光、流通・小売、グルメなどを多岐にわたって追うライター。著書『全国“オンリーワン”路線バスの旅』(既刊2巻・イカロス出版)など。最新刊『路線バスで日本縦断!乗り継ぎルート決定版』(イカロス出版)が好評発売中。