石野純也のモバイル通信SE
第82回
eSIM時代の到来? 新iPhoneはeSIMオンリーになるのか
2025年9月3日 08:20
eSIM
スマートフォンなどに内蔵されたSIM。物理的なSIMカードを差し替える必要がなく、通信会社のプランをオンラインで契約・設定できる。手続きが簡単、海外での利用が簡単などのメリットがある一方、機種変更時の手続きや、通信事業者での再発行手続きが必要などのわかりにくさも指摘されてきた。
スマホとeSIMの関係に、変化の兆しが見え始めている。
米国では、アップルが2022年の「iPhone 14」シリーズでeSIM化を推進。物理SIMスロットを全モデルから外して、“eSIMオンリー”の仕様を現在まで継続している。米国版以外では、従来通りの形でSIMカードスロットを搭載しているが、9月9日(現地時間)に発表されると見られる薄型の新モデルでは、米国以外のSKU(製品ラインナップ)もeSIMオンリーになるのではという見方も広がっている。
この動きに追随したのが、グーグルのPixelだ。同シリーズも、米国版限定でSIMカードスロットを全廃。日本版やその他の国や地域で展開されるモデルには残されている一方、米国版ではアップルの後を追った格好だ。主要モデルの全機種に広げたメーカーはまだ限定的だが、アップルとグーグルが採用したことで、他社にも広がる可能性がある。
OSレベルで進むeSIM集約への「地ならし」
OSレベルでは、その地ならしと言える動きが進んでいる。Pixel 10シリーズを購入、セットアップした人は気づいているかもしれないが、同モデルのeSIM設定には、「他のデバイスからSIMを移行する」というメニューがある。ここに加わっているのが、「iPhone」というボタンだ。
このボタンをタップすると、QRコードが表示され、iPhoneのカメラでそれを読み込むことが促せる。その手順は、Android同士でのeSIM転送と同じだ。実は現在、パブリックベータ版が配信されている「iOS 26」でも同様にeSIMクイック転送のメニューが広がっており、「Android」という項目が用意されている。Pixelと同様、iOS 26のiPhoneでこれをタップすると、画面上にQRコードが表示される。プラットフォームをまたがり、eSIMを転送できる仕組みが整いつつあると言えるだろう。
オンラインで手続きができ、ショップへの訪問や郵送を待つ必要がないeSIMは手軽な反面、機種変更の手続きが煩雑なのが課題だった。キャリアに対してeSIMの再発行をかけなければならず、物理的なSIMカードを入れ替えるだけですぐに回線を移せたSIMカードよりも、手間がかかっていた。不正利用を防止しようとすればするほど手順が複雑になり、eSIM利用が敬遠される理由の1つになっていた格好だ。
eSIMクイック転送という形でこれを解決したのが、アップルだった。iPhoneでは、現在、セットアップ中にApple IDの設定やバックアップからの復元をしている最中に、流れの中の1つとしてeSIMを転送することが可能。セットアップ後にeSIMを移動させるのも、非常に簡単だ。
一方で、iPhone同士でだけとなると、プラットフォームの囲い込みにもつながる。これに対し、グーグルは世界中の携帯電話関連企業からなる業界団体のGSMAで策定された標準仕様にのっとる形で、eSIM転送をAndroidに実装。23年にスペイン・バルセロナで開催されたMWC Barcelonaで発表した際には、業界標準であることを強調し、独自仕様を採用するアップルをけん制していた。
こうした活動が実を結んだのかどうかはさておき、晴れてAndroid 16とiOS 26では、プラットフォームをまたがったeSIM転送が可能になっている。“転送”と言いつつ、その裏側ではキャリア側のシステムに再発行の依頼をかけ、転送される側に新しいeSIMのプロファイルをダウンロードしているだけなので、OSが対応しただけでは不十分だが、サポートの負荷を減らしたいキャリアが、今後、仕組みを整えていくことが期待できる。
グーグルのサポートページを見ると、米国ではVerizon、AT&T、T-Mobileの大手3キャリアがiOSとAndroidのeSIM転送に対応していることが分かる。iOS 26を搭載したiPhoneがまだ登場していないため、実際のサポートはこれからになると見られるが、準備は着々と進んでいるようだ。アップル側のサポートサイトも、そのタイミングで更新されることが予想される。
eSIMのメリット
SIMカードの入れ替えほどではないものの、端末の入れ替えというもっとも大きなハードルが下がれば、eSIMならではのメリットが際立ってくる。先に挙げたように、オンラインで簡単に契約手続きができるのはもちろん、アップルはセキュリティの一環としてもeSIMを推進している。端末が盗難にあった際にSIMカードを抜き取られて、不正に電話やデータ通信を使われてしまうのを防ぎやすいからだ(SIMカードにもPINを設定することはできるが……)。
海外旅行のために複数の事業者をあらかじめ設定しておき、訪れる国や地域に応じて切り替えるといった使い方も可能だ。
アップルは、こうしたメリットをサポートサイトにまとめているほか、eSIMに対応する事業者へのリンクを国別に設けるなど、その普及に力を入れている。いち早く対応したメーカーなだけに、eSIMを推進したいという思惑があることは間違いないだろう。
広がる通信キャリアのeSIM推進 答え合わせは10日のアップル発表
キャリア側のシステム連携が必要になるため、日本でiPhoneとAndroidのeSIM転送が利用できるようになるかは未知数だ。
一方で、KDDIは契約種別が変更になる場合のeSIM再発行手数料を、9月1日から当面の間、無料にすることを発表した。4Gから5Gや5Gから5G SAにする際に、元々は3,850円がかかっていた。8月に事務手数料を値上げしたソフトバンクも、eSIMの再発行は当面の間、無料に設定している。
オンラインでのeSIM再発行に料金がかからないドコモは、無料を継続。また、同社はAndroidのeSIM転送を(いつの間にか)PixelやGalaxyだけでなく、Xperia、AQUOS、arrowsにも拡大している。スマホの全主要ブランドとまではいかないものの、他キャリアに比べ、かなり幅広い端末同士でeSIM転送ができるようになった格好だ。
“iPhone祭”直前に起こった一連の動きは、eSIMオンリーのiPhoneに向けた布石のようにも見える。全モデルがそうなるのか、薄さを極めると言われているあの機種だけになるのかは不透明だが、米国でSIMスロットを全廃したアップル、グーグルの双方とも、eSIMのさらなる推進を志向していることは間違いないだろう。間もなく、その答え合わせができるはずだ。








