石野純也のモバイル通信SE
第83回
ミッドレンジを取りに来た勝負機 ソニー「Xperia 10 VII」の新しさ
2025年9月17日 08:20
ソニーは、ミッドレンジモデルの「Xperia 10 VII」を発表した。現時点では、国内での採用キャリア等は明かされていないが、日本での展開も予定しているという。価格は未発表ながら、海外ではすでに販売を開始した国や地域もあり、香港では3,299香港ドル(約6万2,000円)に設定されている。
これまでのXperia 10シリーズは、デザインテイストの一部をフラッグシップモデルの「Xperia 1」シリーズから受け継いできた。21:9と縦に長く切り欠きのないディスプレイや、縦方向に並んだ背面カメラなどがそれに当たる。より幅広いユーザーに向けたモデルのため、素材などの選択はXperia 1シリーズよりカジュアルだったが、シリーズとしての統一感は持たせていた格好だ。
デザインを刷新した「Xperia 10 VI」
一方で、Xperia 1シリーズも24年に発売された「Xperia 1 VI」でやや方向転換しており、これまで採用してきた21:9の4Kディスプレイを止め、一般的なスマホに近い比率に戻していた。動画撮影などをするクリエイターが、スマホ向けに撮る際に21:9という比率だとかえって制作しづらくなっていることなどが理由に挙げられていた。
25年に発売されたフラッグシップモデルの「Xperia 1 VII」でも、その方向性は踏襲されており、超広角カメラのセンサーを1/1.56インチへと大判化し、AIでの動画撮影を強化していた。ただ、ミッドレンジのリニューアルが追いついておらず、24年の「Xperia 10 VI」は従来通り、21:9のディスプレイを搭載するなど、ややラインナップ全体(と言っても2機種だが……)としてのちぐはぐさが目についていた。
Xperia 10 VIIでは、このデザインを刷新した。ディスプレイの比率を一般的なスマホに合わせたのはXperia 1 VI以降のXperia 1シリーズと同じだが、背面のデザインテイストをXperia 1シリーズと大きく変え、Xperia 10シリーズならではの特徴を打ち出している。違いは、背面のカメラが分かりやすい。Xperiaの特徴だった縦一列の配置を止め、Pixelシリーズのようなカメラを納める台座の上に、横一列でカメラを搭載した。
受け継ぐもの・変えるもの 特徴的なシャッターボタン
ソニーによると、ブランディングとして上位モデルにデザインを合わせていくのかは、内部でも議論があったという。結果として、Xperia 10 VIIでは方向性を変え、よりユーザー層に合わせてデザインをXperia 1 VIIからやや遠ざけることにした。
横で持った際にレンズに指がかかってしまわないよう、やや下にカメラを下げるなど、ユーザーの使い勝手をより考慮した結果だという。
ただし、機能面では上位モデルで培った技術を落とし込んでいく。
Xperia 1 VIIで目立つのは、背面カメラのセンサーサイズを1/1.56インチに大型化したことだ。1/1.56インチ前後のセンサーは、今やミッドレンジモデルにも当たり前のように搭載されるようになったが、ソニーは少々出遅れていた。ここにキャッチアップすることで、ミッドレンジモデルでも写真をきれいに撮りたいユーザーのニーズにこたえる。
Xperia 1シリーズではデジカメライクなシャッターキーを搭載していたが、Xperia 10 VIIでは、これをXperia 10シリーズに合わせてアレンジし、「即撮りボタン」として側面に搭載した。Xperia 1のような半押しでのフォーカスロックはできないため、いわゆるシャッターキーとは異なるが、撮影時にはシャッターを切るためのボタンとして利用可能。ミッドレンジながら、より撮影を楽しめるようになった。
さらに、この即撮りボタンはスクリーンショットの撮影にも対応している。相手に地図を送ったり、読んでいるものを共有したりする際に、スクリーンショットを撮る人は多いだろう。かつては端末の操作解説本を書くライターやブロガー、編集者ぐらいしか使っていなかった機能だが、iPhoneに搭載され、今や誰もが使う機能になった。
一方で、iPhone、Androidを問わず、スクリーンショットの取得には電源キーと音量キーを同時押しするなど、やや煩雑な操作が必要になる。即撮りボタンは、カメラ以外の画面を表示している際には、短押しでスクリーンショットを取れて気楽に使える。目の前の被写体だけでなく、画面の中も即撮りできるというわけだ。同様の機能はXperia 1シリーズにはなく、Xperia 10 VIIならではの売りになっている。
競合が先行する「AI活用」 Xperiaのこれから
惜しいと感じたのは、取ったスクリーンショットは単なるスクリーンショットとしてしか使えないことだ。例えば、英Nothing Technologyの「Nothing Phone(3)」などの端末には、「Essential Key」が搭載されており、Xperia 10 VIIの即撮りボタンと同様、スクリーンショットをワンタッチで残すことが可能だ。
ただし、Essential Keyで記録したスクリーンショットは、Essential Spaceという領域に保存され、クラウド上でAIがその中身を解析し、ToDoリストなどを自動で作成してくれる。スクリーンショットやその他の情報とAIを結び付け、それを自動で整理してくれるというのがEssentialスペースの肝になっている。
また、グーグルのPixelには、「Pixel 9」以降のaシリーズを除く端末に「Pixelスクリーンショット」という機能が搭載されている。Xperia 10 VIIやNothing Phone(3)のように、ワンタッチでスクリーンショットを残すボタンはないが、Pixelスクリーンショットも、オンデバイスAIでスクリーンショット内の情報を自動的に整理してくれる。読んでいた記事などを残しておいて、後からそれについてAIに質問するといった使い方が可能だ。
AIをリードするグーグルや、AIでアプリ中心のエコシステムが変わる可能性があるとしているNothingがスクリーンショットに注目しているのは、それがAIを活用するうえでのソースになりうると考えているからだ。その意味では、ソニーはやや踏み込みが足りない。Xperia 10 VIIで始めた即撮りボタンを、よりAIの力を発揮しやすいXperia 1シリーズにどう発展していけるかに注目したい。









