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eSIMは怖くない 切り替えで困らないために知っておきたいこと

9月10日、「iPhone 17シリーズ」が発表されました。すでに発売しており、さっそく使い始めている読者も多いのではないでしょうか。iPhone 17シリーズは、「対応するSIMは、eSIMのみ」で、SNSでは「SIMカードが使えないって大丈夫なの? 」と不安視する声も多く見受けられました。

実はiPhoneは2018年のiPhone XS/XRからeSIMにも対応しており、国内の大手携帯電話事業者はもちろん、ここ数年でMVNOでもeSIMの提供が始まっています。ただし、携帯電話に詳しいユーザーを除くと、多くのユーザーは従来のSIMカードを利用していると思います。

国内の携帯電話市場で大きなシェアを持つiPhoneだからこそ、iPhone 17シリーズはもちろん、今後も最新のiPhoneへの買い替えに伴い、SIMカードからeSIMへの変更が避けられないユーザーは多く出てくるでしょう。そこで今回は、改めてeSIMとは何か、そしてeSIMに変更するにあたり知っておきたいこと、気をつけたいことを解説します。

「SIMカードの情報」をスマホに保存して使うのがeSIM

古くはNTTドコモのFOMAなど第3世代(3G)の携帯電話から、microSDカードなどデータ保存用のメモリーカードとは別に、指先大のチップが携帯電話に取り付けられていることは多くの人がご存じでしょう。このチップが「SIMカード」であり、SIMカードには自身の契約している携帯電話番号が記録されています。

物理SIM

携帯電話機本体には電話番号は記録されておらず、契約している携帯電話番号が記録されたSIMカードを取り付けることで、電話の着信やメールの送受信などのデータ通信が利用できるようになります。

ある意味ではSIMカードこそ「携帯電話の契約の本体」とも言えます。機種変更や修理の際には、SIMカードを別の電話機に移し替えるだけで、同じ電話番号を利用することができます。

しかし、eSIMは「SIMカード」のように電話機本体から取り出せません。SIMカードに記録されている番号情報を電話機にダウンロードして使うのがeSIMです。

eSIMに変更すると何が変わる? どんなときに困る?

eSIMは本体から取り出せませんが、普段スマートフォンを使う限りでは、どちらを利用しているかを意識することはほとんどありません。従来のSIMカードも、数年に一度の機種変更時にしか触らなかった、という人も多いのではないでしょうか。そのうえで、eSIMに変わることによるメリットとデメリットを整理してみます。

メリット

eSIMはデータとしてSIM情報をスマートフォンに保存します。そのため「複数のSIM情報を登録し、用途に応じて切り替える」といった使い方が容易にできます。物理SIMの場合はスマートフォンに差し込める枚数に制限があり、だいたい2枚が上限でした。そのため、海外旅行でも、普段のSIMを外して現地のSIMを差し込む必要がありましたが、eSIMであれば「普段の番号をオフにし、あらかじめ登録しておいた海外用の番号をオンにする」といった切り替えが可能です。

国内でも「通話用」「高速データ用」「大容量低速データ用」と複数の番号を登録し、状況に応じて使い分けることができます。また、eSIMは物理カードを必要としないため、端末の紛失時にも有利です。

スマートフォンを紛失した場合は、新しいSIMカードも必要になりますので、従来はキャリアショップに出向き、SIMカードを再発行してもらうまでは、手元に代わりのスマートフォンがあっても利用できませんでした。

eSIMであれば「スマートフォンやPCから、Wi-Fi経由でマイページにログインし、eSIMの再発行」を行なうこともできます。

一部の事業者では「契約中のモバイル回線からでないと手続きができない」や「SMSによる二要素認証が行なえないと再発行できない」といったような仕組みもありますので絶対ではありませんが、ショップに行かずとも回線を復旧できる可能性が高いことは、eSIMの大きなメリットです。

もちろん、紛失時もeSIMを再発行した時点で元のeSIMは無効化されますので、同じ電話番号のeSIMがこの世に2枚以上存在し、両方が使えるような状況にもなりません。

デメリット

eSIMは取り外せないため、電話機の故障には弱いです。

例えば使っているスマートフォンが壊れてしまったとき、手元に以前使っていたスマートフォンがあればSIMカードを移し替えることですぐに電話を利用することができましたが、eSIMではそうはいきません。

携帯電話会社のマイページなどでeSIMの再発行手続きを行ない、代わりの電話機に改めてeSIMをダウンロードしなければ使えません。

Wi-Fi環境など別のネット接続が行なえる環境でないとeSIMをダウンロードすることもできませんので、故障のようなトラブルには少し弱いのはeSIMのデメリットです。

また手元にある他のスマートフォンがeSIMに非対応な場合は、キャリアショップ等でeSIMからSIMカードに変更してもらう必要も出てきます。

eSIMの再発行は契約キャリアのマイページや、ショップで行なえる

ただ、このデメリットについても改善傾向にあります。最新のスマートフォンであれば「eSIMクイック転送」という仕組みが用意され、新旧のスマートフォンでeSIMの移し替えが容易に行なえます。

携帯電話事業者側が対応していることが条件となり、加えてスマートフォンのトラブル時には、不調のスマートフォン側も電源も入る必要もありますが、新旧のスマートフォン両方と、そして、万が一のときでもSIMカードと同じように容易に「別の電話機に、使っている番号を移せる仕組み」が整備されつつあるのです。

複数のeSIMが登録されている場合でもクイック転送は利用できる
画面の指示に従い少し待つだけで転送は完了するため、従来の再発行手続きと比べかなり簡略化されている

なお、eSIMはスマートフォンの初期化の際にも注意が必要です。

買い替えで下取りに出す際や、調子が悪く一度初期化を試すようなとき、eSIMも削除することが可能になっています。初期化操作の際に「eSIMを残すか、消すか」の選択肢が出てきますが、ここでうっかり削除を選んでしまうと、eSIMを再発行する必要が出てきます。

上に書いた通り、eSIMクイック転送など容易に新しいスマートフォンに移行できる方法もありますので、買い替えに伴って今まで使っていたスマートフォンを消去する必要がある場合は、まず先にeSIMの転送を済ませる必要があることは覚えておきましょう。

eSIM対応の携帯電話事業者に要注意

ここまで書いてきた通り、普段の利用で大きな問題はありませんが、注意したいのは「利用中の携帯電話会社がeSIMに対応しているか」です。

NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルといった大手携帯電話事業者は、スマートフォン向けの契約・料金プランのどれであってもeSIMを利用可能です。ここにはahamoやpovo、UQmobileやワイモバイルといったサブブランドやオンライン専用プランも含まれますので、大手携帯電話会社と契約している場合には、eSIMにしか対応しないiPhone 17シリーズのようなスマートフォンへ買い替えても特に困ることはありません。

逆に格安SIM・スマホとも呼ばれるMVNOについてはeSIMの提供がない場合もあります。いくつかのプランが存在するなかで、こちらのプランはeSIMの提供があり、今の契約ではeSIM提供がない、のようなケースも存在しますので、もしeSIMしか利用できないスマートフォンへ買い替えする場合は事前に「今使っている契約内容で、eSIMを利用することができるか」は確認が必要になります。

また、eSIMに対応していたとしても、SIMカードからeSIMへの変更が即時で行なえない可能性もあります。その場合、新しいスマートフォンを購入しても、eSIMへの変更に時間がかかる場合はすぐに使えませんので、あらかじめ「eSIMに変更は即行なえるのか、日数がかかる場合はどのくらいかかるのか」を調べたうえで、購入計画を立てると良いでしょう。

povoもeSIMに対応する

eSIMは怖くない、むしろこれからもっと便利に

日本国内の携帯電話で、SIMカードを使うようになって既に20年以上が経過しています。それが突然「スマートフォンにダウンロード、保存されるようになります」というのは驚きや、今までと扱い方が変わることへの抵抗感があるのは当然でしょう。

eSIMが国内で登場してから5年以上が経過し、これまではマニアを中心に「便利なもの」として利用されると同時に、携帯電話のメーカーや事業者も様々なトラブルを経験して、体制は整いつつあります。

それこそ電話機の故障時など数年に1度あるかどうかの場面で「少し困るかもしれない」というのが現時点のeSIMのデメリットであり、eSIMに対して難しそう、怖そうと構えすぎる必要もないでしょう。

今後はiPhone 17シリーズに限らず、Apple以外のメーカーもeSIMのみのスマートフォンを出してくるはずです。むしろ今後はメリットも増えてくるだろうと考え、eSIMを受け入ながら最新のスマートフォンの購入に舵を切った方が、きっと幸せになれるはずです。

迎 悟