西田宗千佳のイマトミライ

第330回

自動運転からエアタクシーへ Uberが示す「移動の未来」とプラットフォーム戦略

ライドシェアやフードデリバリーで知られる「Uber」が、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで「Future of Transportation Tour」と題したプレスイベントを開催した。狙いは、自動運転やエアタクシーなど「将来のモビリティ」への取り組みについて語ることだ。

筆者も現地に赴き、取材してきた。最新技術を体験できるというだけでなく、「Uberとはどういう企業なのか」という本質もより深く知ることができた。

なお、取材は2月25日から27日まで、UAEのドバイ・アブダビ周辺で行なった。2月28日に始まったイスラエルとアメリカによるイラン攻撃と、イランによるUAE攻撃の前に取材は終了している。

3月3日現在、Uber側によれば、本記事で紹介するビジネス展開に変更はないという。自動運転タクシーについては、利用者およびチームメンバーの安全が最優先と
し、ドバイでの運行を休止中。アブダビでは限定運行中だ。

あまりにも普通であることの偉大さ Uberの自動運転タクシー

Uberは2010年9月、ライドシェアの企業としてスタートした。その後事業を拡大し、日本ではコロナ禍にフードデリバリーの「Uber Eats」が広がったことから、そちらのイメージが強い人もいそうだ。

しかし、それらはUberの持つ顔の一部でしかない。Uberの正式名称は「Uber Technologies」。読んで字の如く「テクノロジー」の会社なのだ。

その一端として紹介されたのが、自動運転タクシーだ。

Uberは昨年11月から、UAEのアブダビ・ドバイ・リヤドで、自動運転タクシーの営業運行をしている。ドライバーの乗らない自動運転タクシーは増えてきているが、そのほとんどがアメリカと中国で運行されている。それ以外の地域としては、Uberのものが初の商用運行となる。

使われるのは、中国・WeRideが製造する自動運転タクシーだ。

Uberがアブダビなどで運行中の自動運転タクシー。製造パートナーは中国・WeRide
Uber/WeRideによる自動運転タクシー

今回はこの車両に乗ることができた。大型のバンで、足元もかなり快適だ。

筆者が実際に乗った車両
もちろんUberアプリで呼ぶ
実際に呼ぶ際のアプリの画面

運転席はあるが、「運転はできない」ことを明確にするためにカバーで覆われている。助手席はなく、荷物置き場になっていた。自動運転タクシーの場合、トランクに荷物を入れると、自分が降りた時に忘れやすくなる。だから助手席を取り外し、わかりやすい場所を荷物置き場にしているのだ。

運転席にはカバーが
気温や周囲の状況はディスプレイに表示される

10分間程度の自動運転体験だったが、それ自体には特に何もいうことはない。要はそのくらい「普通」なのだ。人間が運転することとの差異もほとんどない。簡単な経路で交通量もそこまでも多くなかった、という事情もあるだろうが、粗探しのようなレベル。要は、営業運転として十分安定した技術なのだ。

Baiduとも提携、運行管理センターを取材

UberはWeRide以外にも、ドバイで自動運転タクシーを運行する。パートナーはBaiduだ。WeRideとBaiduは中国でライバル関係にあるが、Uberは双方とビジネスを行なうことになる。

今回は、Baidu傘下の「Baidu Apollo Go」は中国で豊富な経験を持つ。自動運転での走行実績は数億キロに及ぶという。今回も、自動運転タクシーのために作られた車両を持ち込んでいた。

Baidu Apollo Goの第六世代自動運転タクシー。センサー部がかなり小さくなってきた

今回は運行管理センター内の視察も行なったが、撮影は認められなかった。大量の自動運転タクシーを運行するには多数のノウハウが必要になる。どの場所にどう配車するのか、という話を思い浮かべるだろうが、それは一部でしかない。

バッテリーの充電管理や故障対策などの整備も、運行中の状況を把握して計画が立てられる。忘れ物の対応も運行管理のうちだ。忘れ物があるかは車両内のカメラで把握され、乗客へ戻すための対応が進められる。

ドバイにあるBaidu Apollo Goの運行センターは、まるで普通の会議室のようだ。大きなモニターはあるが、大量に特別な設備があるわけではない。

というのは、遠隔地に車両の統合管理を行なう別の運行センターがあり、詳細はそこでチェックしているからだ。ドバイの管理センターは主にモニタリングを担当、それ以上のことは遠隔地で本格的なチェックが行なわれているのだという。

Uberはなぜ「複数パートナー」と組むのか

複数のパートナーによる展開、ということになると、「Uberの自動運転技術はどこにあるのか」という印象を受けるかもしれない。

だが、その印象は間違いだ。

Uberは確かに、自動運転の技術や車両自体は手がけず、パートナーとの協業を行なう。だが、利用者が使う「サービス」自体はUberのものだ。日常的に使っているUberのアプリで新しいサービスに対応できるのも、Uberの技術とパートナーの技術をうまく連携できているからだ。すぐに目的の車両がやってきて、スムーズに地図の上で動き、安全に決済するには多彩なノウハウが必要になる。

Uberはそれらの部分で技術開発を行ない、自動運転などはパートナー連携をすることでサービスを実現している。

複数のパートナーを採用する理由は、地域によって必要な要素が異なるからだ。その中で素早くサービス展開を行なうには、適切なパートナーの選択自体が必須になる。

前述のように、UAEにおける自動運転タクシーでWeRideとBaiduの両方をパートナーとしているのもそのためだ。

WeRideはUAEでのサービス展開で先行しており、現地規制当局との関係も深い。UAEでは最初に自動運転タクシーの運行ライセンスを取得した企業でもあり、特にアブダビでのサービス展開がスムーズになる。

Baidu Apollo Goは長年自動運転の開発を行なっており、中国での経験も豊富だ。同時に意外な条件として挙げられるのが、「右ハンドルと左ハンドルの両方の経験を持っている」ことだ。自動運転において両方の市場での運行経験をもつ企業はまだ少ないのだという。

Uberは今後、中国以外のアジア・ヨーロッパ・中東で幅広く自動運転タクシーを運行する。Baiduとはそこで複数年のパートナーシップを提携しており、数千台の車両を展開することになるという。

UAEローカルの事情と今後のグローバル展開、両方を見据えて考えると、柔軟に複数のパートナーと組みつつ、その両方を自社のサービスとうまく連携させる必要が出てくる。

Uberは2026年末までに世界中の最大15都市で自動運転タクシーを提供することを目指している。そして2029年までに「世界最大の自動運転運行仲介プラットフォーム」を目指す、という。そのためには「モビリティのためのプラットフォームであること」自体が、Uberとしては大きな差別化要因になるのである。

「必ず成熟技術に」開発が進むエアタクシー

そのことがよりはっきりしてくるのが、「空飛ぶタクシー」であるJoby Aviationとのサービスだ。

UberはJoby Aviationと提携し、ドバイで2026年中に営業運行を開始する。今回はその実機の飛行テストが公開された。

Joby Aviationのエアタクシー「Joby S1」
飛行している様子
Joby Aviationのエアタクシー「Joby S1」飛行の様子

4人乗りなのだが、機体は意外とシンプルだ。ローターからギアボックスを介さず、直接駆動する「ダイレクトドライブモーター」を使っているからだろう。

ドアには「ELECTRIC AIR TAXI」の文字
乗客席。奥にさらに2席あり、全体で4人乗り
運転席。航空機とは思えないくらいシンプルだ

騒音も小さい。浮上するために全力でモーターが回っている時ですら、既存のヘリコプターよりも相当に静かな音に収まっている。十分な高さへ移行し水平飛行に入ると、地上にいる我々には大きな音だと感じられないほどだ。

Joby Aviationによれば、今回の機材「Joby S1」の場合、通常のヘリコプターに対して「100分の1程度の騒音」だという。音圧での評価だから実際の音は10分の1くらいだと思うが、そもそもそこまで耳障りではない。

動画を見ていただければお分かりのように、飛行はかなりスムーズである。今回実際に乗ることはできなかったが、揺れも少なく、安定しているように見えた。

Joby AviationはUberと組み、「Uber Air」というサービスを展開する。名前通り「空飛ぶタクシー」なのだが、弱点は「どこにでも行けるわけではない」点にある。サービス開始時には、ドバイ国際空港を含む4カ所でだけ離着陸できる。

ここで重要なのは、アプリから依頼する時には、「Uber Blackでの配車とセットで使われる」ということだ。

アプリ画面を示す、Uber CPOのサチン・カンサル氏。ハイヤーとタクシーがセットで提案されている

家からドバイ国際空港に行く場合だと、家から近くのポートまでのUber Black(最高級のハイヤーサービス)の配車に加えてUber Airの経路が予約され、さらに最終目的地までのUber Black配車がセットになる。

実際のアプリ画面。配車とセットであるのがよくわかる

実はUber Air、価格も基本的には「Uber Blackと同じくらい」に設定されるという。安価というわけではないが、何十万円も請求されるということはない。要は「最高級ハイヤーで一定距離を移動する」くらいの価格、すなわち数万円以内で済むということになる。

ポイントは「時間が短くなる」という点だ。

ドバイも交通渋滞は激しい。ポートの1つであるPalm Jumeirahからドバイ国際空港に行くには、通常1時間以上かかるという。

だが、Uber Airなら11分だ。仮に前後の車移動を含めても、時間は半分から3分の1に短縮されることになる。

UberでCPO(最高プロダクト責任者)を務めるサチン・カンサル氏は、「平均的な通勤の場合、年間93時間、日数にしておよそ12日間を渋滞で失っている」と話す。毎回でなくても、必要な時にこの時間を劇的に短縮できるとすれば、そこに価値を見出す人は出てくるだろう。

Joby AviationのCPOであるエリック・アリソン氏は、「Jobyのような技術は基盤となり、必ず成熟した(mature)技術になる」と説明する。

Joby Aviationのエリック・アリソンCPO

同社は十数年かけてエアタクシー技術を開発してきたが、その基盤であるモーターやバッテリーなどの技術は、電気自動車などの発展で得られた磁石などの素材技術・制御技術の発展系でもある。ここからさらに成熟し、電力ソースもバッテリーから水素燃料電池などになっていくと、航続距離の問題も小さくなっていく。

いままでの航空機とは役割が違うが、より大量に作れて色々なところで運行できるようになれば、まさに「飛行機とは異なる領域」をカバーできるようになるだろう。

自動運転もエアタクシーも「ハイブリッド」であるから生きてくる

エアタクシーのようなeVTOLが成熟したとしよう。ただその時でも、やはり「離陸・着陸できる場所」に制限はある。

だからこそ、Uberのようなサービスと連動することが重要だ。人間が移動する範囲の全てをカバーするには、陸を移動するモビリティと空を移動するモビリティの組み合わせが必須であり、それをワンストップ・ワンアプリで簡単に提供できることが、Uberの強みになるわけだ。だから、UberとJoby Aviationは強く連携したパートナーシップを組んでいる。

実は、先ほど説明した自動運転タクシーにも「なくならない制約」がある。

それは「台数」だ。

自動運転タクシーは先進的な存在であり、当面は高価なものになる。技術が進化しても、運行管理技術などを加味すると、一般の乗用車ほど安価にはならない。

そうすると、街中に存在する「タクシーの需要」のすべてを自動運転タクシーだけで賄うのは、当面不可能なのだ。

仮に大量に車両を用意したとしても問題は残る。ピーク時に合わせて車両を用意してしまうと、ピーク以外では車両が余る。では、それをどこに置き、どう管理するのか。企業のコストとしてだけでなく、街中を走る車の総数としても非現実的になる。だから結局、「ピーク時には足りなくなるのがわかっていて、自動運転タクシーを運行する」のが現実的になる。

ここで重要になるのが、既存のライドシェアやタクシー、ハイヤーだ。

これらは自動運転タクシーが広がっても無用になるわけではない。自動車すべてが自動運転になるのは遥か未来の話だから、当面は共存する。

その中で、ピーク時の需要対応やエリア対応を考えた時には、「その人が頼んだ場所・時間」に合わせて柔軟に提案できることが必須になる。

すなわち、自動運転タクシーとライドシェア・タクシーを別のサービスにするのは論理的ではない……というのが、Uberの結論なのだ。

しかも、デマンドの量は地域や時期によって異なり、1つのパターンでは解決できない。

Uberがプレゼンで示したグラフ。配車需要は週や場所によって大きなばらつきがあり、パターンも一致しない

だからUber側は、自動運転タクシーを「ハイブリッドサービス」と位置付ける。そうすることがUberのプラットフォームの強みを最大限に生かす方法であり、自動運転タクシーを現実的に社会実装する方法なのだ。自動運転タクシーの運行管理でBaiduをパートナーとしつつ、そこから自社のサービスにつなげることを必須としているのも、こうしたハイブリッドモデルありき、だからなのだ。

そしてこの先には、さらなるハイブリッドモデルが待ち受ける。当然、エアタクシーのような「陸と空のハイブリッド」も考えられる。

こうした全体戦略を見ると、Uberが「パートナーモデルでありつつプラットフォームを押さえる」やり方を選択した理由がよくわかるというものだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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