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H3ロケット8号機打上げ失敗、最も有力な原因判明 計画にも大きな影響か

失敗の原因として有力視されている「衛星搭載アダプタ(PSS)」。画面下部の黒い円錐形の構造は衛星を支える搭載構造。衛星と接する部分が衛星分離部(PAF)、下が衛星搭載アダプタ(PSS)。PSS右側に白い枠で囲まれたテープ状のスプライス接着部分が見えている。内部にも同様のスプライス接着が施されている(Credit: JAXA)

H3ロケット8号機打上げ失敗の原因として、衛星を支える「衛星搭載アダプタ(PSS)」内部で製造時に問題が起きていたことが、有力なシナリオとして検証されていることが明らかになりました。さらに製造済みPSSの5台中4台で同様の問題が確認され、H3ロケット全体への影響が現実味を帯びてきています。

2026年2月25日、文部科学省ではJAXAから2025年12月22日に発生したH3ロケット8号機打上げ失敗の調査状況を報告する調査・安全小委員会が開催されました。JAXA H3プロジェクトチームの有田誠プロジェクトマネージャは、フライトデータと画像データの詳細な分析により、ロケットの飛行中に衛星が搭載機構ごと脱落してしまったという異常発生の原因が特定されつつあることを明らかにしました。

1月の調査・安全小委員会で、8号機は第1段機体の飛行中に衛星を固定する衛星搭載構造(「衛星搭載アダプタ:PSS」と「衛星分離部:PAF」の組み合わせ)の一部が損傷し、衛星搭載構造の一部が付いたままの状態で衛星がロケットから脱落してしまうという特異な事象が発生したことが報告されました。このときは、衛星搭載構造の「どこが」損傷したのかという特定は調査中とされました。

今回、破壊された箇所は、衛星と第2段機体を繋ぐ構造のうち、「衛星搭載アダプタ(PSS)」の上部である可能性が高いと絞り込まれました。場所を特定した根拠は、PSSの上部にある衛星分離部(PAF)の温度や加速度データは、事象発生後も正常に取得されていたことにあります。データを送る配線が固定されている部分で破壊が起きていればすぐに断線するはずと考えられることから、破壊は別の場所だと見られています。

またPSSの下側に設置されたカメラの画像では、地球の見え方が事象発生前後で大きく変わっていませんでした。カメラの位置はずれていない、つまりカメラよりも上部で破壊が起きたと推定されています。

場所の特定に続いて、PSSには製造時から発生していた構造上の問題が見つかりました。これは、すでに製造済みで地上に保管されていた複数のPSSを検査して発見されたものです。

8号機の製造データにはっきり現れているわけではありませんが、同じことが起きていれば8号機のPSSの破壊を説明可能なシナリオを書くことができました。このことから、PSSの構造問題は衛星が搭載部ごとロケットから離脱するという事象の原因として、集中的な調査の対象となっています。

PSSの構造と製造工程の特徴

PSSは衛星を支える円錐形の台座で、アルミハニカムコアを上下2枚の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のスキンの間に挟み込んだサンドイッチパネル構造で作られています。製造時は4分割されたパネルを組み合わせ、その結合部(スプライス部)にCFRP製の「スプライス」とよばれるシート状の素材を当てて、加温して「接着結合」する工程で製造されています。

原因究明の過程で、地上に保管されていた製造済みのPSSを調査したところ、このスプライス接着箇所の近辺において、CFRPスキンとアルミハニカムコアの間に想定を超える「剥離(はがれ)」が発生していることがわかりました。剥離は打音検査や切断調査で判明したもので、製造済み5台のうち、4台で見つかったといいます。またこのうち1台を真空中で試験したところ、3箇所の剥離が大きくなっていったこともわかりました。

出典:2026年2月25日文部科学省 第60回調査・安全小委員会 JAXA「H3ロケット8号機打上げ失敗原因究明状況」より

8号機のPSSで推定される破壊シナリオ

製造済みPSSで見つかった剥離が8号機にも起きていたとすると、8号機の破壊メカニズムとして以下のシナリオが考えられます。有力な仮説として検証が進められているところです。

  1. 剥離の存在:8号機のPSSにも、製造工程で「剥離」が生じていた状態でフライトに臨んだ可能性が高いと考えられます
  2. 飛行中の剥離進展:アルミハニカムコアの内部には、製造時に最大1気圧の空気が残っています。ロケットが上昇し、フェアリング内からベントバルブを通じて空気が外に出て真空環境になると、アルミハニカムコア内部の空気圧と外部の真空状態による「圧力差」が生じます。剥離部分は外側へ向かって押し広げられるように徐々に進展・拡大したと推定されます
  3. フェアリング分離衝撃による破壊・座屈:この剥離が進んだ状態で、フェアリング分離時の衝撃が加わったことを起点とし、PSS素材の局所的な座屈(折れ曲がり)と急激な剥離の進展が発生しました
  4. 連鎖的な破壊:一箇所が座屈するとその部分の強度が急激に低下するため、支えきれなくなった荷重が周囲の構造に広がり、次々と連鎖的に座屈が進行し、一気に構造全周が破壊されました
  5. 衛星の落下:全周が破壊されたPSSは4.7トンもの衛星の質量とロケットの飛行に伴う加速度を支えきれなくなり、上下に分断され、PSSの上部が衛星とともにロケット内部(第2段LH2タンク側)へ落ち込みました。
出典:2026年2月25日文部科学省 第60回調査・安全小委員会 JAXA「H3ロケット8号機打上げ失敗原因究明状況」より

このシナリオは、現在かなり有力視されているものです。とはいえ、検証中のシナリオはさらに4つあります。原因特定に向けて、飛行中のデータや画像記録と整合性を確認する作業が続けられています。検証作業中で否定されつつある仮説もありました。

出典:2026年2月25日文部科学省 第60回調査・安全小委員会 JAXA「H3ロケット8号機打上げ失敗原因究明状況」より

ひとつは、「フェアリングが分離時に機体に衝突した」という仮説です。H3ロケットのフェアリングは2つに分かれ端部に取り付けられたヒンジを軸に回転して分離するのが正常な動作です。もし分離機構に異常があった場合、フェアリングの重心を軸に回転することがありえると考えられました。

そこで異常な回転があった場合のフェアリングの一部がPSSに衝突する動作を解析したところ、衝突までに最早で分離開始から0.4秒の時間がかかることがわかりました。8号機で発生したトラブルは、フェアリング分離のスイッチ作動から0.06秒で発生しています。時間的に整合せず、この仮説は可能性が低いということがわかりました。

搭載された衛星から、衛星の姿勢や軌道を制御するための小型エンジン用の燃料が漏れて、フェアリング内で爆発したという仮説も検証されています。「火元」と仮定された装置の熱と燃料を組み合わせた試験を行なったところ、爆発には至らずこの仮説も可能性が低いことがわかりました。

こうした検証を積み重ね、PSSの剥離をはじめとするシナリオと、事故につながる原因を一つずつ分解して特定していく解析(故障の木解析:FTA)の検証を進めていくのが今後の計画です。

H3全体への波及

調査の進展は、今後の対策策定に向けて重要です。しかし、今回報告されたPSSの剥離という現象は、新たな懸念材料にもなりました。それは、剥離が8号機固有の現象ではなく、H3ロケット全体の問題であり得るという事実です。

出典:2026年2月25日文部科学省 第60回調査・安全小委員会 JAXA「H3ロケット8号機打上げ失敗原因究明状況」より

そもそも、8号機そのもののデータから「8号機のPSSで剥離が生じていた」ということがわかったわけではありませんでした。製造済みの、地上で保管されている他の号機用のPSSを検査した結果剥離が見つかったもので、これを8号機に当てはめて考え「同様に剥離した状態でフライトに臨んだ可能性が高い」と判断されたものです。

検査を受けたのは保管されている5台のPSS中4台。残る1台は現在は種子島宇宙センターに保管されていることから、検査が間に合わなかったという状況です。検査をすれば同様の剥離がもう1台見つかる可能性もあります。つまり、かなり再現性の高い問題だということです。

今まで剥離の問題が顕在化しなかった理由ですが、旧型のH-IIAロケットでは同じようにアルミハニカムコアとCFRPスキンのPSSを使用していましたが、スプライス部を「ボルト(ファスナ)」で機械的に固定していました。

H3ロケットでは新たに低コスト化と軽量化・高性能化を目的としてボルトを使用しない接着方式に変更されているのです。問題がH3ロケットになってから発生したのはこのためだと考えられます。

このことはH3ロケットの飛行計画にかなりの不透明感をもたらします。JAXAの森有司事業推進部長は、検査した4台のPSSが「設計で意図した状態にない」と述べました。実質的に当面は飛行準備に使用できない状態であるといえます。まだ検査を受けていない1台にも今後の検査が必要でしょう。

H3ロケットの飛行は、PSSが飛行計画に「復帰」できるのはいつかという点にかかってきます。もしも剥離した部分を補修して剥離が広がるのを防ぐことができるのであれば、比較的早く復帰できるかもしれません。しかし、PSSを破棄して再製造ということになれば、1台あたり数カ月かかるという製造時間がスケジュールに相当響いてくることになります。森部長は、補修の可能性については検討中と述べており、方針を公表できる段階ではないといえます。

2026年度以降に打上げを待っているH3ロケットは、準天頂衛星「みちびき」7号機を打ち上げるH3ロケット9号機、「30形態」の試験飛行であるH3ロケット6号機、新型宇宙ステーション補給機「HTV-X 2号機」、火星衛星探査計画「MMX」、技術試験衛星9号機「ETS-9」、情報収集衛星時間軸多様化衛星「光学1号機」などを打ち上げるH3ロケット10号機以降といったところです。

HTV-X 2号機は、海外製のフェアリングとPSSを使用するため、今回の国内製PSSの剥離問題の影響を受けない可能性があります。ただしこれはPSS・剥離シナリオが確定した場合にいえることで、現状で「◯号機から打上げ復帰」といった確定的なことは言えない状況です。

現在JAXAは、PSSの「剥離」が8号機失敗の直接要因であったと特定するための裏付け調査を急いでいます。飛行中の真空環境下で剥離が進展してPSSの破壊に至るメカニズムの解析に加え、実際のフライトデータとこの剥離破壊シナリオとの整合性の確認を行なう方針です。

さらに、剥離はどのPSSでも起きる可能性があるにもかかわらず、なぜこれまでのH3ロケットでは問題が起きず、8号機で初めて起きたのかという理由を究明する必要があります。これが判明すれば現象が起きる条件を絞り込むことができるでしょう。こうした、「飛行再開」に向けたステップの進展が待たれます。

秋山文野

サイエンスライター/翻訳者。1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。X(@ayano_kova)