トピック

パナソニックのコーヒーメーカーが大ヒット 7年ぶりの新機種で価格を下げたワケ

25年4月に発売したパナソニックの全自動コーヒーメーカー「NC-A58」

パナソニックが約7年ぶりに発売した全自動コーヒーメーカー「NC-A58」がヒットしています。2018年発売の「NC-A57」からフルモデルチェンジし、2025年4月の発売直後から初期の計画台数を大きく上回るペースで売れ、増産体制に入ったといいますが9月には1カ月待ちの状況に。

前モデルとの比較では、2025年度(25年4月-26年1月末)の売上が前年同期比2.3倍に拡大するほどの大ヒット商品となりました。フルモデルチェンジで変わった点は複数ありますが、特徴的なのは前モデルより価格を下げ、豆から挽ける全自動タイプながら2万円以下で買えるようになった点。

あえて価格を下げた理由やヒットの背景、同社のコーヒーメーカー開発のこだわりなどを、商品企画担当の永井宗行氏と、マーケティング担当の長谷川悠二郎氏に話を聞きました。

豆から挽ける全自動タイプ

なぜ新モデルのほうが安い?

7年ぶりの発売となった全自動コーヒーメーカー「NC-A58」は、豆から挽ける全自動タイプで、フィルターをセットして豆と水を入れてスイッチを押せば、豆を挽き、注湯、蒸らし、抽出、ミルの洗浄まで全自動で行なってくれます。コンパクトなサイズ感も好評で、前モデルより約20%小さくなりました。

同社炊飯器と比べてもスリムです

価格も前モデルの約26,000円から19,800円へと下がり、部材高騰などで家電製品の価格が上昇するなか、以前よりも求めやすい価格になったことでも注目を集めました。物価上昇の中、どうして価格を下げられたのでしょうか。

「企業努力、として秘密にしたいところが多々あるのですが(笑)、例えば浄水機能の有無で、今回は浄水機能を搭載しませんでした。前機種のもとになった商品の発売当時の状況に比べると、水道水の質が向上したことや浄水器・ペットボトル水の普及もあって、思い切って浄水機能をカットすることにしたのです」(永井氏)

時代のニーズに合わせて機能を取捨選択したことで、コストダウンを実現したわけです。 また、価格には戦略的な意図も込められています。

「この7年間で、全自動コーヒーメーカー市場が変化して1万円台の製品も増加しました。普及価格帯でしっかり勝負しようと考え、その中で、2万円を切る『19,800円』という価格に設定しました。豆から挽ける全自動タイプで2万円を切るのはやはりインパクトがあるようで、反響は大きかったですね」(長谷川氏)

「A58」スケルトンモデル。前モデルから浄水機能をカットし、価格を抑えました
商品企画担当の永井氏。滋賀県草津市の開発拠点からオンラインで話を聞きました
マーケティング担当の長谷川悠二郎氏

時代とともに変化する「味」のニーズ

前機種の発売から年月が経つにつれ、ユーザーのニーズも変化してきました。新モデルではそうした時代の流れに合わせ、とくに「味」と「デザイン」の両面で大きく進化しています。

味については、価格を下げても抽出システムをグレードダウンさせることはありません。むしろ新たに「ストロング」コースが追加され、より濃い味わいが楽しめるようになりました。もともとある「リッチ/マイルド/デカフェ豆」コースも引き続き搭載されているため、選択肢を広げています。新コースの開発背景について、永井氏は次のように語ります。

「スターバックスが日本に上陸した90年代後半から2000年代初頭、濃い味のコーヒーへの嗜好が広がりました。スターバックスのような苦みが強い味や、カフェオレ・ラテといったミルク系コーヒーが、それ以降一般化したこともあり、全体的に濃い味のニーズが高まりました。前機種はコーヒーの仕上がりが『薄め』という声もあったので、その声に応える形で、濃い味を抽出できるようプログラムをチューニングしました」(永井氏)

新たにストロングコースを搭載。従来の「リッチ/マイルド/デカフェ豆」とあわせ、幅広い味わいを楽しめます

味の濃さには、コーヒー粉に落ちていくお湯の温度と、粉の中にお湯がとどまる時間が大きく影響します。ストロングコースではお湯の温度を高めに設定し、お湯の落ちるスピードを少し抑えることで、お湯が長く粉の中に留まり、成分をじっくり引き出して濃い味を実現しているそう。

この「ストロング」コースの味を生み出すチューニングには、豆と水の量を固定したままプログラムだけで味を変える必要があり、試行錯誤が重ねられました。

どうやっておいしさを保ったまま濃く出すかの答えを探るために、喫茶店の抽出方法も研究。人気店や老舗の名店を中心に20~30軒ほど回って、どういうふうに淹れているか取材を重ね、現在のプログラムにたどり着いたそうです。

プロペラ式でもおいしい理由

筆者も新モデル「NC-A58」を実際に使ってみましたが、バランスの取れたおいしさで、低価格ながらも本格的な味わいに感じられました。 ただ一点気になったのは、プロペラ式のミルを採用している点です。

一般的にコーヒーミルには、プロペラ式・フラット式・コニカル式の3種類があり、プロペラ式は安価な反面、風味が劣るとされがちです。しかし永井氏は、「それはミル単体の場合の話ですね」と指摘します。

「プロペラ式はほかのミルと構造が異なり、粉砕された豆が刃が回転している室内にとどまり、再び刃に当たってしまうんです。結果として豆に余計な熱がかかって酸化し、味が落ちるといわれています。ただ、当社の全自動コーヒーメーカーでは、プロペラ式でも粉が一定の細かさになった時点でフィルターを通って下に落ちる仕組みにしています。つまり、必要以上に摩擦熱がかからない。プロペラ式の弱点を構造的に解消することで、しっかり風味を残せるようになっているんです」(永井氏)

上部からコーヒー豆を投入。ミルはプロペラ式
ミルで挽かれたコーヒー粉はすぐ下に落ちるため、必要以上に摩擦熱がかかりません。コーヒー粉から抽出することも可能

新部品開発でインテリア性も追及

デザインに関しては、前機種ではインテリア性も重視する現在の暮らし方から見ると、やや古さを感じさせる部分がありました。そこでデザインを一新し、操作部を天面に移行するとともに、横幅を抑えた縦型デザインを採用。キッチンに常設しやすいスリムさと、スタイリッシュな印象の両立を目指したかたちになっています。

「本体の幅をサーバーと同程度に納める方針を立て、配線や配管を徹底的に見直しました。この製品のために、さまざまな部品を新開発してコンパクト化を実現しています」(永井氏)

なお、一度に抽出できる容量は前モデルが670mlだったのに対し、今回は545mlと、コーヒーカップ約1杯分減少。比重が軽い深煎り豆の抽出で、ドリッパーに収まる粉の膨らみ量を考慮し、あふれることがないよう、あえて杯数を削減しました

2018年発売の「NC-A57」。操作部がサーバー横にあります
2025年発売の「NC-A58」。操作部を天面に移行し、横幅をかなりカット

デザイン面だけでなく、使い勝手の追求にも余念がありません。左から順にボタンを押していくだけで自然に抽出まで完了できるなど、直感的に使える操作性を実現しています。

「開発初期は、デザインと機構設計のメンバーの意見がぶつかることも多かったそうです。必要な部分をどんな形で残すか、細かく調整するのが大変だったと聞いています」(永井氏)

操作部。左から順にボタンを押していくだけで完了する直感的な操作性
水タンクのメモリは注水するときは見えますが、本体にセットすると隠れる仕組み

家族で使いやすい総合力の高い一台

新機種はメーカーの想像を超えるほどの大ヒットとなり、販売は引き続き好調で、口コミでは「この価格でこのクオリティはすごい」という声が多く寄せられたそうです。

ほかにも、ヒットした理由について永井氏は「多彩なコースも好評の理由の1つだと思います」と回答。

「味はリッチ・マイルド・ストロングの3コースに加えて、豆は粗挽き・中細挽きの2種類のフィルターを用意しており、計6通りの組み合わせから選べます。濃い味わいが出せるため、オレやラテなどのミルクメニューとも好相性です。さらに、『デカフェ豆コース』を設けることで、妊婦の方やカフェインが体質に合わない方にも配慮しているため、幅広いニーズに応えられたのではないでしょうか」

メッシュフィルターを付け替えることで、粗挽き・中細挽きを選べます

デザイン面のユーザーの声についても永井氏は語ります。

「スリムで置きやすく、どんな空間にも自然になじみやすい。つまり、総合的に見てバランスの取れた一台に仕上がったことが、高く評価された理由だと思います。印象的だったのは、口コミにあった『毎朝使う家電として完成度が高い』という言葉。とても嬉しかったですね」

どんな空間にも馴染むデザインに
ガラスサーバーにすることでドリップ中の様子もわかります。本体に保温機能を備え、時間が経っても温かいコーヒーのまま

NC-A58は、家族の誰でも安心して扱いやすい設計が印象的。コーヒー通はもちろん、幅広いユーザー層を取り込んだこともヒットの要因といえるでしょう。7年ぶりのモデルチェンジとなりましたが「今回のヒットを受けて、今後はコーヒーメーカーのラインナップをさらに拡充しようという声もあがっています。想像を超える製品をお届けできるよう、頑張りたいと考えています。ぜひ楽しみにしていてください」(永井氏)

福永 太郎

フリーランスの編集者・ライター。ライフスタイル系メディアの家電記事の担当を経て独立。現在は複数のWebメディアに寄稿。