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ロボットがハーフマラソン完走! 熾烈を極めるヒューマノイド開発競争
2025年5月2日 08:20
ここでは約1カ月分のヒューマノイド関連ニュースの中から主だったいくつかをピックアップしてお伝えする。その中でも最も注目を集めたのは、ヒューマノイドによる「ハーフマラソンレース」だろう。
北京でヒューマノイドがハーフマラソンレースに出場
4月19日、中国の北京市で、世界初となるヒューマノイドによるハーフマラソンレースが行なわれた。主催は北京市経済情報化局など。レースは人間が走る通常のハーフマラソンと同じコースだが、レーンを分けたかたちで行なわれた。レースコース中には坂や曲がり道も含まれる。もともとは4月13日に行なわれる予定だったが、悪天候のため延期となり、19日の実施となった。
出場したのは20チーム。バッテリー交換だけでなく、ロボット本体の交換も可能(ただし+10分のペナルティとなる)、人間が伴奏して遠隔操作も可能というルールだった。国内メディアでも報じられた。
ロボットは一斉スタートではなく、順次スタートでタイムトライアル。1位となったのは北京人形机器人创新中心(北京ヒューマノイドロボットイノベーションセンター)が開発した「天工 Ultra」。21.0975kmを2時間40分42秒で完走し、最高時速12kmだった。ちなみにバッテリー交換の回数は3回だった。CTOの唐剣氏が、いくつかのメディアでコメントを発表したほか、早速、プレスリリースも出ている。
「天工」はおよそ1年前、2024年4月に発表されたロボットである。身長は163cm、体重は43kg。「天工Ultra」は今回の長距離走向けに、さらに身長を高く、さらに股関節を強化したタイプで身長は約180cm、体重は約55kg。足からの振動を吸収するために靴をはかせ、脚部の構成自体も見直して軽量さと剛性を両立させた。そして機体全体の熱シミュレーションを最適化させることで、長時間走れるようにしたとリリースにある。
その他、アルゴリズムの改良なども施したという。なおその様子も中国メディア「CGTN」の動画で見ることができる。
北京ヒューマノイドロボットイノベーションセンターでは、ヒューマノイドの制御機能を「大脳」と「小脳」に分けて協調させるというアーキテクチャで挑んでいる。ちなみに「天工」は、屋外にある134段の階段を連続で登れることを既に示していた。
なお中国のTech系媒体である「36Kr」の4月16日付の記事によれば、既に産業応用も進めようとしており、中国の国営電力会社の子会社と協定を締結し、電力業界での活用を模索中だとされている。
イベントの展示エリアでは「天工2.0」も公開された。デュアルバッテリーによってホットスワップが可能なタイプだという。このあたりの改良速度はさすがとしか言いようがない。
今回のハーフマラソン完走によって、同社のロボットは複雑な道路状況での連続走行できる堅牢さや放熱性能などをいかんなくアピールできた。速度はまだまだ課題があるが、まずは発展を讃えたい。
なお、他のロボットの多くはスタートまもなくレースから離脱したものの、他にも6体の異なるロボットが完走したと伝えられている。CZTNにより独占中継されたレース全体の様子(4時間)の動画もYouTubeで配信している。スタート早々クラッシュするロボットもいて、観客たちはかなり盛り上がったのではないだろうか。
大阪・関西万博でもUBTECHのロボットが走る
一部報道によると、「天工」の開発にはUBTECH Roboticsも関わっているようだ。そのUBTECHのヒューマノイドは現在開催中の大阪・関西万博中国パビリオンにも動態で出展されている。筆者自身もプレスプレビューの折に見ることができた。
同社は複数のロボットを開発しているが、日本に持って来ているロボットは「Walker C」というタイプ。万博エリア内をジョギングしている動画も公開されている。運が良ければ実際に見られるだろう。
2012年に設立された同社は、ずっとトイロボットを開発していたが、2019年にはシリーズC+の資金調達に成功。CESにも等身大サイズのヒューマノイド「Walker」をデモ出展した。日本国内にも案内ロボット「Cruzr」などは入ってきているので、同社のヒューマノイドはそのうち国内展開されるかもしれない。
Unitreeのロボットはキックボクシングを披露
ロボットダンスやカンフー、跳ね起きなどで、ヒューマノイドの運動性能向上をわかりやす示したUnitree Roboticsのヒューマノイド「G1」は、世界各国に研究用プラットフォーム、あるいはホビー向けに販売されている。そのため様々な動画が挙げられている。公式も動画公開に積極的で、4月10日にはロボット同士、あるいはロボットと人がキックボクシングをしている動画を公開した。
1カ月後くらいには「Iron Fist King」なるロボット格闘技の様子をライブストリーミングする予定だとしている。ロボットが獲得しているスキルを、モーションキャプチャーやコントローラー、音声でコントロールできるという。楽しみだ。
「G1」を「ロボット消防士」にしている人たちもいるようだ。水はかなりの重量があるはずだが、問題なく屋外を歩行しているようだ。ホースを引きずることもできるかもしれない。
Genius, a Chinese developer, based on the Unitree G1, modified it into a humanoid robot firefighter.
— CyberRobo (@CyberRobooo)April 14, 2025
We need more of these robots that protect people's lives.pic.twitter.com/W6R2vBJyGq
ロボット自体が安価になると、いろいろな用途を試してみる人が桁違いに広がる。その中から有望なものが見つかるかもしれない。
Boston DynamicsのAtlasはカメラマンデビュー
中国のヒューマノイドばかりでは多様性に欠けるので米国Boston Dynamicsのヒューマノイド「Atlas」の最近の動画も一つ紹介したい。
クリエイティブ企業のWPPは、キヤノン、Boston Dynamicsと共同で、ヒューマノイドをカメラマンとして用いるというアプリケーションを月に紹介した3。カメラを使ってロボットを撮影するのではない。ロボットがカメラを構えて、対象を撮影するのだ。
WPPは2020年からBoston Dynamicsの4脚ロボット「Spot」を使って環境全体を3D化するといった取り組みを行なっていて、その一環としてAtlasを使ったということのようだ。
Atlasは20kgの可搬重量がある。重たいカメラ機材も安定して持て、正確な軌道を描いて撮影が可能だ。何百回似たような軌道で撮影を繰り返すことを命じられても文句を言うことはないし、一貫性を維持できる。
また、人間型でありながら、人間にはできないような移動ができる点も、監督からは評価されたそうだ。ドローンが撮影シーンに加わったような変革をヒューマノイドがもたらすこともできるのかもしれない。