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日立、フィジカルAIで社会を支える “世界一の使い手”への取り組み
2026年5月20日 18:00
日立製作所は20日、フィジカルAIによる社会・産業の変革に向けた同社の取り組みを紹介するイベント「Hitachi Physical AI Day」を開催した。同社は基調講演にて、AIを単なるITの進化ではなく、企業の技術や業務人材、オペレーションそのものを変革する転換点と位置づけており、世界的に強固なハードウェア基盤を持つ日本の製造業にとって、フィジカルAIは脅威ではなく強力な武器になり得ると語った。
日立によると、2040年には日本の社会インフラの大部分が老朽化し、それを支える労働力が1,100万人不足する可能性があるという。同社は、フィジカルAIとAIエージェントを掛けあわせることで、生産性の向上や技能の継承を実現し、こうした課題に対応する。フィジカルAIは100兆円以上の市場規模があると見込む。
日立の強みは、誤りや停止が許されないミッションクリティカルな社会インフラをITとOT(Operational Technology、運用技術)の両面から長年支えてきた実績と、そこで培った深いドメイン知見にある。製品・IT・OTの能力を併せ持つ企業という特徴を活かし、長年にわたるAI研究の蓄積を背景として、社会インフラの革新に挑み、「世界一のフィジカルAIの使い手」となることを目指している。
同社のデジタル事業の中核を担う「Lumada(ルマーダ)」では、AIと社会インフラを組み合わせて新たな価値を創出する「Lumada 3.0」を推進している。その代表的なソリューション「HMAX(エイチマックス)」は、AIを用いて社会インフラを革新する次世代のサービス群で、ローンチから4年で事業規模3,000億円、利益率20%超のビジネスインパクトを達成しているという。
HMAXの活用例としては、鉄道車両が走行しながら周囲の架線や線路を自律的にモニタリングして障害の予兆を検知し、重大な事故が起きる前にAIが考えて列車を停止させるという、物理世界で自律的に行動するシステムの実装が進められている。日立は、30年度までにHMAXに代表されるLumada関連事業を全体売上の80%まで引き上げるという展望を掲げる。
また、日立は19日にAnthropicとの戦略的パートナーシップ締結を発表している。提携により日立グループ社員約29万人を対象にClaudeなどを活用したAI利用を推進するほか、AIの社会実装を加速するためのグローバル組織「Frontier AI Deployment Center」を新設。
同センターでは、Anthropicの担当者と日立のIT、OT、プロダクト、セキュリティの専門家が共同チームを編成し、社会インフラの進化に向けたユースケースの創出と展開を世界規模で進める。
パネルディスカッションでは、NVIDIA、リコー、早稲田大学の有識者が登壇し、現場へのフィジカルAI導入におけるアプローチが議論された。NVIDIAの担当者は、AIが物理現象を理解して自律的に判断するためには、現実のデータだけでなくシミュレーション空間で生成される合成データの活用や、強化学習を通じたモデルのトレーニングが不可欠であると説明した。
また、リコーの担当者は自社で活用しているAIエージェント作成ツールを通じて社員の暗黙知をデータ化し、ヒューマノイドロボットに熟練工の動作を模倣させる取り組みを実演を交えて披露した。
早稲田大学 理工学術院 教授の尾形哲也氏は、AIモデルとロボットの進化スピードが極めて速く、人間の動作を学習させる模倣学習の枠組みをいかに素早く構築して検証サイクルを回すかが現在の焦点になっていると指摘した。
フィジカルAIの実装例を披露
イベントでは、同社やパートナー企業によるフィジカルAIに関する取り組みの展示も行なわれた。同展示では、HMAXの全体像や特徴の解説のほか、現場業務を支援するAIエージェント「Naivy(ナイヴィー)」や、フィジカルAIを搭載した開発中のロボットのデモなどが披露された。
Naivyのデモでは、ロボット群を人間の分身のように連携させ、迅速なトラブル解決を支援するタスク実行支援や、作業後に複数のAIとの振り返り学習を行なうことで、応用力や判断力を養い、新人育成につなげる知識深化支援も紹介された。
ロボティクスのデモでは、フィジカルAIを搭載することで、ケーブルのように形状が変わりやすい柔軟物を扱う作業や、基板の位置ずれなどに対応できる様子が紹介された。同ロボットでは、AIによる学習を重ねることで、作業速度と正確性が向上する。























