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迫力のキックボクシング大会、倉庫やホテルでの労働も【ヒューマノイド開発の現在地】
2025年6月18日 08:20
ハーフマラソンに続いて中国で実施されたヒューマノイドによるキックボクシングのニュースは世界中を駆け巡った。いっぽうアメリカでは物流倉庫でロボットを連続稼働させる動画を公開。ホテルのバスルーム清掃を行なうロボットの様子なども公開される一方で、なんとベトナムからもヒューマノイドが発表された。では日本はどうするのか。
ヒューマノイドによるキックボクシング
5月末に、国営放送・中央広播電視総台(CMG)の主催で、ヒューマノイド同士のキックボクシング大会が行なわれた。使われたのは中国Unitreeの「G1」である。
ロボットのバランスなどは自律でコントロールされているが、パンチやキックなどのアクションは人間が遠隔で行なっている。決められたモーションをコントローラーのコマンドで送って実行する方式だ。パンチやキック、膝蹴りのほか、お尻をぺんぺんするといった、相手を挑発するポーズまで含まれている。
日本でも「ROBO-ONE」というホビーイストたちによる二足歩行格闘大会が行なわれているが、やっていること自体は変わらない。だが、世界のリアクションを見ると、これが「世界で初めてのヒューマノイドによる格闘大会」と位置付けられることになるようだ。確かに、膝蹴りをドーンと決めたシーンはかっこいい。
なおこの「G1」、2024年のICRAという国際学会でお披露目されたばかりだが、すでに新型の近日登場が予告されている。しかもさらに廉価になるようだ。
Coming soon, please stay tuned!🥰#Unitree#AGI#EmbodiedAI#AI#HumanoidRobot#Bipedal#WorldModelpic.twitter.com/MM8Jvyhj9l
— Unitree (@UnitreeRobotics)May 30, 2025
物流倉庫での仕分け作業で働くヒューマノイド
巨額の資金調達とOpenAIなどとの提携で知られるFigureは、物流倉庫でヒューマノイド「Figure 02」に作業させる様子を動画で紹介した。以前、本誌の記事で紹介した、「Helix」というVLAモデル(視覚-言語-動作モデル)を使ったデモビデオを公開したことで、ご記憶にあるかもしれない。
CEOのブレット・アドコック(Brett Adcock)氏が「X」の投稿で公開した。今回も「Helix」を活用し、そのスケーラビリティと実世界での応用可能性をアピールするデモで、技術的詳細もブログで解説されている。しかも、映像マジックではないことを示すために、1時間動作し続ける動画付きである。
ロボットは積まれた荷物のバーコード面を、スキャンしやすいように下に置いてコンベアに流すという作業を行なっている。ダンボールのような箱だけではなく、ポリ袋のような変形しやすい荷物も平らにして読み取りやすいようにすることができる。バーコードスキャンの成功率は94.4%、パッケージあたりの作業速度は約4秒。
手でポンポンとならすような動作は明示的にコーディングしたわけではなく、End-to-End学習によるものだという。Figureは訓練データを10時間から60時間分に増やすことで、3カ月で人間なみの器用さを実現できたとしている。
Figureは「Helixは学習したロボット操作と実世界でのタスクの要求とのギャップを埋め、器用さと堅牢性を着実に増している」と述べている。スキルセットの幅を広げることで、より高速で高負荷な作業でも安定した動作ができるように開発していくという。
アメニティを交換したり、トイレ掃除したりするセミヒューマノイド
前回も触れたが、上半身型のセミヒューマノイドのデモビデオも一つ紹介する。中国のZerithの「Zerith H1」が、ホテルのトイレやバスルームを掃除する様子だ。掃除機やブラシを使った掃除だけではなく、タオルやアメニティの交換まで行なっている。
2025年に設立されたばかりの会社が、あっという間にこのようなロボットを作れるようになっている。技術力もさることながら、中国のエコシステムの力強さを感じる。
ホテルのバスルームのような場所は脚式のほうが有利な気もするが、このような「セミヒューマノイド」は、現場へのヒューマノイド普及の試金石だ。今後も注目して見ておくべきである。
ベトナムでもヒューマノイド開発が始まる
海外で積極的に開発されているヒューマノイドだが、ベトナムからも出てきた。名前は「VinMotion」。ベトナムのプロモーションサイト「Vietnam.vn」の6月の記事によれば、約50億円(1兆ベトナムドン)をかけて開発されているという。
報道の様子には動画もあり、ちゃんと動いていることがわかる。これまで複数台の試作を積み重ねてきたようだ。ベトナムが自ら新技術を生み出す場所でもあることをアピールしている。
では日本では……?
5月末にはイギリスで「Humanoids Summit London 2025」というヒューマノイド関連イベントが開催された。参加した方から聞いたところによると、残念ながら日本の存在感はないに等しかったようだ。逆に「なぜ日本はいま開発してないんだ」と聞かれたという。
もちろん、日本でも全く動きがないわけではない。民間の動向もいくつかはある。しかしながら今ひとつ盛り上がりには欠けている。
いっぽう海外の動向を受け、自民党の「ロボット議員連盟」(山際大志郎会長)が動き始めた。2025年3月に設立されたもので、事務局長を務める参議院議員の山田太郎氏のブログによれば、6月には提言書を林芳正官房長官に手渡したとある。2015年から10年間更新されていない日本のロボット戦略のアップデートを目的とするという。
ヒューマノイドだけに限定した話ではないが、主にサービス領域のロボット開発の支援を目指すという。7月に予定されている参議院議員選挙と、その後の政府の動向には注目しておいたほうがよさそうだ。