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「ドラクエウォーク」でバスケ観客増? 名古屋に見たコラボイベントの絶大な効果

IGアリーナ入口に掲げられた「ドラゴンクエストウォーキング」看板

200万都市・名古屋の中心部が、「ドラゴンクエスト」の世界に一変! 4月18日・19日に開催されたイベント「ドラゴンクエストウォーキング vol.6 中部」には、約2万人が訪れた。

スマートフォンの位置情報ゲーム「ドラゴンクエストウォーク」のユーザー向けに開催されたこのイベントは、6回目(過去、関西・関東・九州・北海道・東北にて開催)となる。今回の会場となった名古屋城・名城公園・IGアリーナには、6カ所のイベントスポットが設置され、参加者はゲームを楽しみながら各スポットを歩いて巡り、さまざまな特典を獲得しながらイベント限定のコンテンツをクリアしていく。

IGアリーナ周辺はイベント出店も多く、通りがかった人々やイベント参加者で賑わう

まずは、リリースから7年間ずっと「ドラゴンクエストウォーク」をプレイしてきた筆者がイベントに潜入。1日で35,000歩を歩いてプレイしながら、参加者がどのように楽しんでいるか、現地の様子を見てきた。

そして、今回のイベントで「スクウェア・エニックス」と連携した名古屋市や、男子プロバスケットボールリーグ B.LEAGUE所属「名古屋ダイヤモンドドルフィンズ」(以下:ドルフィンズ)にも、お話を伺った。

「ドラゴンクエスト」の世界を楽しむファミリー層

ゲーム「ドラゴンクエスト」は、1986年の発売開始からすでにナンバリングタイトルで11タイトル(最新は2017年発売の「XI 過ぎ去りし時を求めて」)が発売されており、近年は人気キャラクターを活かしたゲームアプリの発売も相次いでいる。そのなかで、2019年に発売された「ドラゴンクエストウォーク」プレイヤーの特徴は「年齢層の幅広さ」だ。

受付会場となった「IGアリーナ」(愛知国際アリーナ)の屋内スペースを見渡す限り、グッズの帽子やシャツを着用した子供の姿も目立った。なかには祖父母・両親・子供の3世代コラボの家族までいたようで、受付を済ませてアリーナを出た子供が「〇〇(人気モンスター)との記念撮影できる?」と、第1チェックポイントの通過後に、早々に先に進みたがる場面も。

受付後に、酒場の主人・ルイーダがお出迎え

会場内に登場した「ゴーレム」「りゅうおう」「カンダタ」あたりは、すでに40年の歴史がある「ドラゴンクエスト」において、3世代間の共通言語として受け継がれている。イベントを主催するスクウェア・エニックスも、家族で会場を巡れるファミリーパスの発売や、カラフルなスライムでいっぱいのキッズスペースを設けるなど、ファミリー層への配慮が随所に見られた。

ゴーレム像の前に笛を持ったカンダタ。憎めない小悪党として人気がある
美しい藤棚の下を歩き続ける参加者

もうひとつ、広い会場を歩き回るこのイベントならではの工夫として、「名古屋を観光してもらおう」という仕掛けが満載だったのも印象深い。

6カ所のチェックポイントを巡っていると、江戸時代の御三家の筆頭・尾張徳川家の居城でもあった「名古屋城」の天守閣が、どんどん近づいてくる。道中では、築城の名人・加藤清正公の指揮の下で積み上げられたという石垣のスケール感に圧倒されつつ、敷地内に多くあるローカルフードの屋台で舌鼓を打つ。「ドラゴンクエストウォーク」のプレイ目的で訪れた人々も、いつしか名古屋城エリアの観光にどっぷりとハマり、また名古屋城に来たくなる……という仕掛けだ。

6カ所目のチェックポイント。「ドラゴンクエストI」で見られるシーンを、戦国時代風に再現している
「へんじがない ただのしかばねのようだ」シーン再現

もともと「ドラゴンクエストウォーク」には、都道府県ごとに6カ所ずつのランドマークを巡る「おみやげ」機能もあり、旅行を兼ねてゲームを楽しんでいるプレイヤーも多い。ゲームの根幹が「歩き回る」ことだけに、歩き慣れたプレイヤーが多いため、こういった地方自治体の名所を活かしたコラボが成り立つ。同様の形でほかのゲームとコラボしても、自治体のリクエスト通りにプレイヤーが歩いてくれるとは限らないだろう。

グッズ販売にも長蛇の列ができた

イベント内で立ち寄るように設定された6カ所のスポットの近隣には「西の丸塩蔵構」「乃木倉庫」などがあり、プレイヤーは名古屋城の歴史を自然に知ることができる。時間制限も比較的緩く途中退場が自由(最終時間までにチェックポイントをクリアすればOK)とあって、途中から目的を「名古屋城観光」に切り替えてしまう参加者も。

こういったイベントをきっかけに開催地の魅力を知る人も多く、各地での観光客増加に貢献しているのも、「ドラゴンクエストウォーク」のイベントを地方自治体が誘致するメリットであろう。

なぜ「ドラゴンクエストウォーク×自治体・スポーツ」コラボが相次いでいる?

こういったゲームの特性もあって、過去に5回開催された「ドラゴンクエストウォーク」イベントでは、地元や自治体とのコラボレーションが多い。会場ぐるみで提携したのは山梨県・富士急ハイランド(第2回)、北海道ボールパークFビレッジ<エスコンフィールドHOKKAIDO>(第4回)、自治体ぐるみで提携したのは宮城県・七北田公園(第5回・仙台市と提携)などが挙げられる。そして、今回の開催で、名古屋市ならびにドルフィンズとのコラボが実施された。どういった経緯で、名古屋市での開催に至ったのか?

関係者によると、ちょっと変わった経緯があるようだ。開催にかかわった「名古屋市」と、会場のひとつである「IGアリーナ」を本拠地に持つドルフィンズに、お話を伺ってみた。

IGアリーナでのバスケットボール試合中のハングビジョン

「気が付けば観光」メリット

まず、名古屋市 観光文化交流局・大石雅也担当課長にお話を伺った。

名古屋市 観光文化交流局 大石雅也担当課長

今回の「ドラゴンクエストウォーク」イベントは、名古屋市がかねてから策定していた「名城エリアにぎわい共創基本構想」の一環として誘致されたとのこと。大石さんもイベントの第4回(北海道開催)、第5回(仙台市開催)の様子を聞き及んでおり、イベント誘致によって市外・県外からの観光消費の効果が十二分にあると見込んで、推進に至ったという。

ただ、名古屋市の立場として大変だったのは、多主体・縦割り構造である「市役所内部の取りまとめ」だったという。このイベント期間内に展開したブースも「名古屋市シティプロモーション」(総務局)、「名古屋市観光PRブース」(公益財団法人名古屋コンベンションビューロー)が並立している。また、イベント会場内は名古屋城総合事務所(観光文化交流局)、名城公園(緑政土木局)などに管理権限が分散し、多くの参加者によって現地の携帯電波が途切れないように、総務局とも連携の必要があったという。

この複雑な状態を、観光文化交流局の立場から観光推進課がまとめて、イベント実現に導いた。大石さんは現地を見渡しながら、「ドラゴンクエストウォークのプレイヤーの方は、本当にマナーが良く、会場を大切に楽しんでくださっている。こういったイベントを、今後とも開催していきたい」と、感慨深げであった。

しかし、同時に意外なことも仰られていた。今回のイベントを提案されたのは、名古屋市サイドではなく、ドルフィンズサイドからの提案であったという。

誘致の発端は「Bリーグチーム」から

続いて、名古屋ダイヤモンドドルフィンズ 事業計画課の園部祐大課長にお話を伺った。すると、やはり「ドルフィンズ」から誘致の話が進んだのは事実であったようだ。

名古屋ダイヤモンドドルフィンズ 園部祐大課長
ハングビジョンには「ドラゴンクエストウォーク」デザインが採用された

ドルフィンズの狙いは、バスケを観戦する「ファミリー層の来場」。子供を連れてくる父親に「バスケ観戦」体験の楽しさを訴えかけ、そこから子供・若年層のファンを取り込んで、ブースター(サポーター)にしていきたい。

そのためのイベントを模索しており、もともと「ドラゴンクエスト」をプレイしていた園部さんが本イベントの存在を知ったという。ファン層としては通じるものがあり、また「名城エリアにぎわい共創基本構想」のワーキンググループに参画しており、構想に合致するイベントであることから大石雅也担当課長へ提案したことが、開催の発端だったという。

今回のコラボ試合ははっきりと集客効果が現れたようで、4月18日には通常よりかなり多い「12,307人」の観客が訪れたという。その一部は「ドラゴンクエストウォーク」イベントの参加者が興味をもって観戦に訪れた人たちであり、実際に筆者も「イベント参加中に即断でバスケ観戦を決めた」というプレイヤーの方を、少なからず見かけた。

当日は、ブルーのコラボ限定ユニフォームが使用され、試合前には選手による「DQウォーク」グッズのスタンドへの投げ込みも行なわれた。会場が独特の熱気に包まれた効果もあってか、チームは106-95で滋賀レイクスに勝利。2年ぶりとなる、2025-26シーズンのチャンピオンシップ進出を決めた。

イベント成功のカギは「おなじ世代間の『ふしぎなちから』」?

今回の「ドラゴンクエストウォーク」イベントの名古屋開催は、名古屋市ならびにドルフィンズの尽力によって開催が実現したことが分かった。しかし、お話を伺う限りでは、もうひとつ成功の要因があったのではないか。

名古屋城天守閣を眺めながらプレイする参加者

名古屋市・大石さん、ドルフィンズ・園部さんはおふたりとも、子供の頃から「ドラゴンクエスト」を熱心にプレイされていたようで、どちらも即答で「とにかく『III』(ドラゴンクエストIII そして伝説へ…/1988年発売・2024年リメイク発売)が好き」と仰られていた。

当時は画期的であった「転職システム」で商人・戦士・武闘家・遊び人などさまざまな職業をプレイして成長してきた子供たちが、官・民を問わずさまざまな職業で成長を重ね、「どこからともなく、ふしぎな声がきこえる……」とばかりに「ドラゴンクエスト」のもとに集い、街を賑わせる一大イベントの開催に関わる。

こういった形で協業が進むのも、40年にわたってゲームタイトル・IP(知財)としての実績を積み上げてきた「ドラゴンクエスト」ならびに「スクウェア・エニックス」の強みだろう。「ゲーム仲間が総結集して、名古屋の経済効果を生み出していく」現場の楽しさを、各部署や協力された方にお話を伺うたびに感じた。

そして、プレイヤーである関係者たちが自ら「ドラゴンクエスト」の強みを肌で実感しているからこそ、「歩く」という健康的な運動とゲームの楽しさが両立した「ドラゴンクエストウォーク」ならではのコラボが生まれるのではないだろうか。

次回イベントの詳細はまだ決まっていないものの、どのようなコラボやプレイヤー同士の交流が生まれるのか、今から楽しみにしたい。

宮武和多哉

バス・鉄道・クルマ・MaaSなどモビリティ、都市計画や観光、流通・小売、グルメなどを多岐にわたって追うライター。著書『全国“オンリーワン”路線バスの旅』(既刊2巻・イカロス出版)など。最新刊『路線バスで日本縦断!乗り継ぎルート決定版』(イカロス出版)が好評発売中。