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コーディングの“外”に広がるCodex エージェント時代の「人」の役割と「意思決定」

OpenAIが“コーディングエージェント”の「Codex」を強化している。ソフトウェア開発者の「コーディング」のためのサービスだが、その“使われ方”が広がりを見せているという。

Codexは、個人向けは、ChatGPTの無料版でも利用可能(アクセスに上限あり)で、Plus(月額20ドル)、Pro(同100ドル)ではより多くの利用に対応。企業向けにも定額のシート型から従量課金のプランなどが提供されており、ChatGPTを使える「ほとんどの人」に対応している状況といえる。

ただし、「コーディング」を行なう人はChatGPTほどは多くない。そのため、Codexを自分の作業や業務に無関係と感じる人も多いかもしれない。しかし、Codexの利用は、コーディング以外の一般的なビジネス領域にも拡大しつつある。

AIコーディングの進化とともに、Codexの変化を見据えると、「エージェント」時代により仕事が大きく変化することが見えてくる。そうした変化とCodexが狙うものについて、OpenAI JapanのTech Success Lead水越将巳氏に聞いた。

コーディングは「2割」 なぜCodexはコード以外に使えるのか

現在のCodexは、2025年5月に「コーディングエージェント」として登場。その名前の通り、複数のタスクを並列処理できるクラウドベースのソフトウェア開発エージェントとして、主にソフトウェア開発業務で使われてきた。

当初は、CLI(コマンドラインインターフェース)で、ターミナル上で動作するAIコーディングエージェントだったが、その後、IDE統合などの強化を図ってきた。ただし、「Codex」という名称からも分かる通り、主に「コーディングを行なう」ための機能を強化してきている。

しかし、26年2月にはmacOS版のデスクトップアプリが登場。複数エージェントを同時運用する開発環境という点では従来通りだが、一般的なGUIのアプリとなることで、より多くの人が“使える”サービスになった。その後も、コーディング以外の業務への応用や、Codexがコンピューターの操作を行なう「Computer use」や画像生成、Windowsアプリの対応など、多くの機能を追加してきた。

OpenAIでも、ソフトウェア開発ライフサイクル全体をカバーする「ほぼ全部入り(almost everything)」アプリと強調している。

Codexは全世界で週次アクティブユーザー(WAU)が400万人以上だが、「特に非エンジニア」の利用が増加しており、「過去1カ月で40%の非エンジニアユーザー増加が確認されている」という。日本においても、Codex利用は急拡大しており、WAUは年初から13倍以上に増加している。

中でも注目したい点が「非エンジニア」の利用。コーディング以外の用途で、エンジニア以外の営業や企画、サポート部門などでのCodex利用が拡大しているという。

Codexは、コーディングを含む「ソフトウェア開発」全体を前提に開発・強化を続けてきた。一方で、ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)において、実は「コードを書く」領域は20%弱なのだという。企画、設計、開発後のテスト、レビュー、運用など幅広い周辺領域があり、ソフトウェア開発全体で使えるエージェントとしてCodexを強化する上では、これらの領域の対応が重要となる。

SDLCでは、計画、設計、実装、テスト、デプロイ、メンテナンスといった工程があるが、コーディングは「実装」に相当する。一方で、計画や設計などは、企画職や営業職などにも関わるものといえ、Codexがソフトウェア開発全体をカバーした結果、「コードを書かない」人がCodexを使える機能が増えてきたという。

Anthropicの「Claude Code」もコーディング以外の業務について「Claude Cowork」と別ブランドで展開。金融や法務など様々な業界特化の取り組みを進めているように、コーディングエージェントを広範な業務に拡大していくというのは確かなトレンドになっているようだ。

広がるコード“以外”の活用

コーディング以外のCodexの活用例では、ドキュメントの作成、戦略・企画書、ログ分析などの用途が挙げられる。

ドキュメントの作成においては、特に多いケースが「コードモダナイゼーション」だという。レガシーなシステムを現代のシステムに置き換える動きの中で、課題となっているのが、それらのシステムに「COBOL」や「PL/I」などの古いプログラミング言語が使われており、そのコードを書いた人はすでに社内にはおらず、またドキュメント化もされていないという場合が多い。

こうした場合に、コードを読ませながら、まずはドキュメントを作るといった際にCodexが使われているという。ドキュメント化したうえで、現代的なプログラミング言語で新たなサービスを構築するものだが、「コードからドキュメント」を作れる、ということがポイントだ。

加えて、事業の戦略や企画などでも活用されている。社内のGoogleドライブやNotionに蓄積されたデータをコネクター経由で取得したり、Webで取得するなどで、そのドラフトとなるものを作る。一例として、サイバーエージェントにおいては、コーディングだけでなく、主に上流工程の設計・企画や合意形成、プロトタイプ作成などでもCodexを活用。プロダクトマネージャーやユーザー部門がCodexを使うことで、手戻りの削減や、意思決定の迅速化などが図られているという。

楽天では、問題管理・インシデント対応において大量ログ分析や、原因特定、修復案の提示でCodexを活用することで、平均修復時間(MTTR)を半減するなどの効果を生んでいる。また、コードレビューや脆弱性チェックなどでも利用されている。

もちろんOpenAIでも活用されている。営業部門では提案書作成に活用し、社内のSalesforceの情報や公開情報などを参照しながら、情報を整理。OpenAIのコーポレートのテンプレートに沿って、「ほぼそのまま」出せる企業向けの提案資料を作成している。そのため、OpenAIでは「営業は全員、Codexを使っている」という。

水越氏も「我々プリセールスも、お客様向けのデモを作る場合、従来は1日に1つしかできなかった。しかし、Codexを使うことで数個のデモを作って、お客さんとの接点が大きく増えている」という。こうしたCodex活用で、営業における提案の準備時間なども短縮され、顧客からの評価も得られているという。

企業におけるAI導入の壁はどう超えるのか?

ひとまず、Codexスライドを作ってみると、確かに「実用的」なスライドが出来上がる(本記事のスライドもCodexで作成している)。

一方、事例にあるサイバーエージェントや楽天、そしてOpenAIは、ITやテクノロジーに強く、社内のシステムやデータも整備されたトップクラスの企業だ。システム部門も社員のITリテラシーも高く、より広範にCodexやAIの恩恵を受けているともいえる。

「ITリテラシーが高くない企業では導入の壁が存在するのでは? 」と問いかけると、水越氏は「導入の第一歩は『使ってみる』こと。難しく考えずに、提案書の作成やテスト依頼など「小さなタスクから始めてみてほしい」と語る。

また、Codexの操作自体はChatGPTと大きく変わらない部分も強みという。「世界で9億人が使うChatGPTと同じもの。自然言語で『これをしたい』と伝えると、忠実に答えてくれるはずです」と水越氏。

ChatGPTを導入できている企業であれば、Codex活用のハードルは決して高くないという。「我々は『チャンピオン』と呼んでいますが、業務をよく理解し、AI活用に意欲的な人材がいると一気に広がります。それぞれの会社の課題を理解しながら、AIによる成果を社内に広めることが効果的。ハンズオンやワークショップなどを社内でやると一気に広がるという部分はあります」と語る。

ChatGPTではダメなのか? アシストからエージェントへの変化

ChatGPTのように使えるというCodexの使いやすさ。一方で、「ChatGPTでも結構いろいろできる」「ChatGPTが使えるのに、Codexは本当に必要なのか? 」という疑問も出てくるかもしれない。

水越氏もChatGPTだけで完結できるものもあるが、「仕事を進める」という点において、Codexのようなエージェント型の活用が重要になると語る。Codexは、ChatGPTの機能を包含しながら、より複雑なタスクやローカル環境でのアウトプットが可能なこと、そして並行してタスクを依頼できることから、結果として任せる仕事の幅が広がっていくという。

「Codexでは、提案書を作って、顧客へのメールのドラフトを書いて、そのブリーフィングドキュメントを作っておいて、など、全てを並行してお願いできます」(水越氏)。チャットによる作業支援ではなく、エージェントとしてタスクそのものを巻き取り、ほぼ自動的に作業を完了できることが大きな違いとなる。そして、長時間タスクの実行や指示への忠実な対応といったCodexの強みもある。

さらに、スキルやAGENTS.mdなどを活用してチームで共通のルールを整備・共有し、チームで展開することで活用は加速度的に広がっていくという。

ChatGPTは外部の知識をやり取りしながら、AIが作業を「支援」してくれるツールだが、Codexは、調査や分析、ドキュメント作成など、AIが継続的・自律的に「仕事を前に進める」という違いだ。人と仕事との関わりがAIによって大きく変わりつつあるといえるだろう。

ChatGPTが「質問に答えるAI」だとすれば、Codexは「仕事を進めるAI」に近い。そして、多くの仕事がこうした「AIに任せる」ことを前提に切り替わっていく可能性が高い。

AIエージェント時代に必要な「意思」

水越氏は、「コードを書く、モノを作ること自体は、エージェントにお願いすればかなりの部分ができるようになります。その中で人間はなにをするのか? 今後は、出来上がったものをどうやって判断するか、どうやってレビューしていくかという、ルールや組織をしっかりと考えていくことが、人間の仕事として重要になっていくはず」と語る。

AIエージェントの時代には、事業のボトルネックが「実装」から「意思決定」へ移っていくはずという。

AIが作業を前に進めるほど、人間の役割は「作る」ことから「選ぶ」「直す」「決める」ことへ移っていく。Codexはその変化を、コーディングという領域から先取りして見せているといえるだろう。Codexの進化の方向を見ると、OpenAIが考える「今後の働き方の変化」も見えてくると言えるかもしれない。

今後、企業や働き手に必要となるのは、AIを導入するかどうかだけではない。Codexに何を任せ、どうレビューし、どのように意思決定へつなげるのか。その設計こそが、エージェント時代の生産性を左右することになるだろう。

臼田勤哉