ニュース

水インフラの課題解決へ 上下水道施設不要の水循環システム

自然の中や災害時など水道のない場所でもシャワーや手洗いができるポータブル水再生システム「WOTA BOX」(左)と、自治体や施設などで設置されている水循環型手洗いスタンド「WOSH」。なお、実証実験で使用されるシステムとは異なる

WOTAは、人口減少、上下水道老朽化に伴う上下水道財政悪化への解決策として、東京都の離島や愛媛県の個人宅に小規模分散型水循環システムを実装する実証実験を開始する。自治体のほか、日本政策投資銀行、ソフトバンクなどと連携する。

人口減少、上下水道の老朽化の加速により、上下水道財政が大幅に悪化していく2040年までの解決を目指す「Water 2040」プロジェクト。WOTAの「小規模分散型水循環システム」を協力者の住宅などに設置する実証実験を、愛媛県と、東京都の離島である利島(としま)村で実施する。

水道インフラで起きている問題

少子化による給水人口減少に伴う水道料金収入の減少と、水道施設の老朽化に伴う管路の更新などの設備投資の増加が、遠隔地や過疎地などで課題となっている。すでに料金収入で給水・下水処理費用を賄えず、国庫からの補助や一般会計からの補填(通常は特別会計)等で費用を賄う自治体もあるという。

水道インフラの課題について説明する日本政策投資銀行 常務執行役員 原田文代氏

こういった状況を受け、水道料金の値上げや、官民連携・水道事業者同士の広域連携といった動きもあるが、人口規模の少ない地域ほど、水道財政収支のバランスが難しくなる。加えて浄水場からの距離が離れている地域では配管が長くなることから配管費用も膨らみ、さらに影響は大きくなる。

この問題は、浄水場から水を供給し、排水を下水処理場へ送るという大規模集中型システムであるため発生する。これに対して、WOTAが提供する配管不要の小規模分散型システムであれば、整備規模、整備期間、レジリエンスの面でメリットがあり、持続可能な水インフラを実現できるとしている。

小規模分散型水循環システムについて説明するWOTA 代表取締役 兼 CEO 前田瑶介氏

小規模分散型水循環システムとは?

WOTAの小規模分散型水循環システムは、独自開発した水処理の自律制御技術により、使った水をその場で処理し、また使える水に戻す再生循環の仕組み。雨水や家から出た排水を処理し、その水を再び同じ家に給水する。

具体的には、雨水に膜処理・殺菌処理を行ない飲用水として、雨水および家から出た排水(トイレ以外)に生物処理・膜処理・殺菌処理を行ない生活用水として、トイレ排水に生物処理・殺菌処理を行ないトイレ用水として給水する。

分散型システムでポイントとなるのが配管コスト。従来より長距離配管を使わない分散化の方法として、小規模給水施設を作る、各家庭に井戸などの各戸型給水装置を作る、給水車で送水するなどがある。これらも老朽化配管更新と比べて初期費用の安さ、導入の速さの面でメリットがあるが、維持運営費が高く、長期的には給水原価が上がる可能性があるという。

WOTAのシステムでは従来型施設の維持更新コストに加え、運用に係るコストを減らすことも期待できる。そのため、過疎地域の上下水道の赤字構造を改善できる新たなソリューションになり得るとしている。

人口約300人の離島での実証実験

実証実験を行なう地域の一つが、人口約300人、面積約4.04km2の離島である利島。利島村は日本で4番目に面積が小さい自治体だという。竹芝港から船で2時間45分の場所で、海の幸やドルフィンウォッチングなどを楽しめる。

リモート参加で取り組みについて説明する利島村 村長 村山将人氏(右上)

豊かな自然が特長の島だが、安定した水確保に課題があり、水飢饉を何度も経験してきたという。現在では海水淡水化装置の導入により水供給は安定化したが、提供価格の約14倍にもなる給水原価が水道財政を圧迫している。水不足や給水原価の高騰は、全国の島嶼地域にも共通する課題とする。

こうした背景から、水循環システムを含む実証実験を実施。全国の島嶼地域へと普及できる「島嶼地域モデル」の確立を目標に、村営施設への水循環システムの実装も行ない、2040年までに財政的に持続可能な、村民が暮らしやすい水インフラの構築を目指す。

実証実験ではWOTA、利島村のほか、ソフトバンク、北良が連携。水循環システムとあわせて太陽光発電に関する実証を行なうプロジェクトで、ソフトバンクはプロジェクトマネジメント、北良は居住モジュールの提供等を担う。

実証実験は、安定的かつ安価な水インフラの実現と、既存インフラの制約を受けない住宅供給を目指すもの。水確保の問題だけではなく、村の活力維持のために住宅建設が急務ながら、平地が少ないことによる住宅用地不足、急こう配や狭い道などの建設工事の難しさから、建設には2~3年を要するという課題に対し、新たな住宅供給による解決を図る。

水は水循環システム、電気は太陽光発電を搭載したオフグリッド型居住モジュール実証で、安定性・運用性・コスト等を検証する。

実証実験は協力者のもとすでに開始されており、水補給ゼロで安定的な水供給実現が見込まれるという。

愛媛県の過疎地域での実証実験

愛媛県では2060年までの人口減少率が40%超という推計があり、ほぼ全域に過疎地域を抱えている。さらに愛媛県では、水道給水区域から外れている地域もある。そういった地域では自前で井戸や、山の湧き水や河川の水をろ過して各家庭に引き込む飲用水供給施設の運用・管理を行なっているが、高齢化もあり、そう遠くない未来に限界が来るという喫緊の課題がある。

愛媛県での取り組みについて説明する愛媛県 デジタル変革担当部長 兼 出納局長 会計管理者 山名富士氏

そこで、西予市、今治市、伊予市の3つの市の、各1世帯での実証実験を実施する。西予市では8月22日から水循環システムを設置し、開始しており、残り2件も順次開始する。

西予市での実証実験に協力している山本さん

費用については、西予市とWOTAの試算によれば、給水・排水処理に必要な40年間の合計で、水道建設費用は16億円、水循環システム費用は9億円で、7億円を節約できるとしている。

実証を通じて、地域への実装に向けた検討を進め、県内市町村への横展開を目指すとともに、全国の過疎地域へと普及できるモデルの創出に取り組む。

2040年までに水問題解決

WOTAは、2040年までに水問題を解決するロードマップを示しており、Phase1として2023年までに、給水原価が高く住民生活にまで水問題が顕在化した地域から先行的に導入を開始する。

Phase2として2030年までに、標準モデルを確立し、財政赤字で老朽化配管が更新しづらい地域の代替手段として全国に広げる。Phase3として2040年には、人口密度の低い地域の標準的な水インフラとなり、次の世代が安心して使える持続可能な水インフラの確立を目指す。

左から、WOTA 前田瑶介氏、ソフトバンク デジタルトランスフォーメーション本部 第一ビジネスエンジニアリング統括部 統括部長 河本亮氏、日本政策投資銀行 原田文代氏、愛媛県 山名富士氏