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NTT法廃止は「絶対に反対」3キャリアをはじめ全国180者が連名で要望書

KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社は、NTTが「NTT法」の廃止に向けて議論を進めていることに対し「絶対に反対」と意見を表明。かつてない規模になる全国180の事業者が名を連ねた要望書を与党や総務大臣宛に提出したことを明らかにした。

KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社が共同で会見を実施し明らかにした。10月19日9時30分から始まった記者会見だが、直前の8時~9時には自民党にてヒアリングが行なわれており、自民党の政務調査会長をはじめ、関連する議員や関係者、NTT法の見直しに関するプロジェクトチームに対して説明し、要望書を提出した。このヒアリングにはNTTも出席しており、NTTはその後KDDIら3社とは別に記者会見を実施している。

NTT法の時代に合わせた見直しは必要、廃止は「絶対に反対」

電信電話公社を前身とするNTTには「日本電信電話株式会社等に関する法律」、通称NTT法が定められている。現在のNTTは、事業活動においてさまざまな制限にもなっているNTT法を“足かせ”と捉え、NTT法の廃止や完全民営化に向けた議論を活発化させている状況。

11月中には与党・自民党からNTT法の見直しなどについて、今後の方針が示される予定になっており、今回の自民党・政調会長をはじめとした関係者のヒアリングは、(NTTも含めて)通信業界の要望を伝える最後の機会になったとみられている。

大手通信キャリア3社を含む180者の意見は、複雑なものではなく、NTT法には時代に合わせた見直しが必要と“譲歩”する一方、その廃止は国民の利益が損なわれるとし「絶対に反対」という内容。

KDDIの主張
ソフトバンクの主張
楽天モバイルの主張

NTTは国策でインフラを構築した電電公社が前身の特別法人であり、各社は、完全民営化を可能にするNTT法の撤廃には強く反対する。日本の公共資産としての通信設備の投資額は累計で25兆円に及ぶとし、それを唯一承継している特殊法人がNTTであり、民間企業のように振る舞いたいのであれば、こうした資産を分離したり国に返上したりする必要がある、というのが、NTT以外の各社の主張になっている。

また、一連の議論が、国の防衛予算を捻出するために、国が保有しているNTT株の売却を検討するという話から始まっていると指摘される一方で、NTTがこれに乗じてNTT法廃止の流れに議論をすり替えているのでは、という警戒感も業界関係者には強い。

加えて、NTT法が撤廃されるなどして、完全民営化が実現した後の予測できない展開にも警鐘を鳴らす。「もし(民営化後に買収され)NTTが誰かの手に渡ったらどうなるのか。ほかの民間会社、ファンド、外資が営利目的で手に入れたら? 国民生活や産業が、すべて、これらの会社の手のひらの上に乗ることになる」(ソフトバンク 代表取締役 社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏)。

約束を反故にしてきた歴史に不信感

各社から見ると、NTTは普通の民間企業になりたがっているように映るが、「そもそも生い立ちが違う」(宮川氏)。「NTTが特別法人なのは、特別な資産を持っているから。では(民営化にあたって、国策で得た)資本を分離するかと問われると、絶対にイヤだと言う。それなら、NTT法を残して、内容の改正でいいじゃないですか? なぜそこまで廃止にこだわるのか」(KDDI 代表取締役社長CEOの髙橋誠氏)。

髙橋氏はまた、NTT側が議論を取り合ってこなかった点に不満も述べる。「NTTと話をすると、かならず“無視”される3つの点がある。再統合はしないよね? という点、電話の保持、資本分離しないと話が成立しないよね、という3点。本来はこの3点が議論されるべき」と指摘する。

今回の議論では、NTT法のほかに、通信事業に対する法律である電気通信事業法も関連している。NTTは、NTT法が廃止されても電気通信事業法に従い公正競争を確保するとするが、ほかの通信事業者の温度感は全く異なり、電気通信事業法だけで公正競争が確保されるという主張に疑問を呈する。

「NTT法と電気通信事業法の両方が必要。NTT法には一体化の抑止とか、NTTの組織の理論が規定されている。これが廃止されると(NTTグループは)一体化され、地方の事業者の大きな危機感につながっている。公正競争には大事な法」(髙橋氏)。

さらに、NTT法という“タガ”が外れることで、事態がエスカレートすることにも警戒感を隠さない。

「NTTは再統合しないといつも明言しているが、これは法律として書いておかなければいけない。昔も閣議で分離分割の方向性が決まっていたのに、法律に書いていないからという理由で、審議会もなしにNTTドコモを100%子会社にした。こういうことをするので、ちゃんと法律にしなければいけない」(髙橋氏)。

「ドコモのTOBをしれっとやられた。ああいうことを10年後や20年後にもやられるかもしれない。今の世代がちゃんと決めなければいけない。電気通信事業法で規制されるのはシェア50%以上の支配的事業者。例えばNTT法がなくなってすべて一体になったら、資産を細かく分割譲渡して50%以下にできる。こういう問題を丁寧に考えながら議論しなければいけない」(宮川氏)。

「NTT法は非常に重要で、完全民営化されると株式会社は経済合理性第一で動くことになる。今の決め事も反故にされる可能性がある」(楽天モバイル代表取締役 共同CEOの鈴木和洋氏)。

法に基づき公正に光ファイバーなどのインフラを提供するという議論も、NTTの主張とは裏腹に、現場では「あくまでNTT基準での公平」(ソフトバンク担当者)と、かねてからの問題として不満は根強い。またNTT東西とドコモを統合しないといった現在の主張も、「これまでも反故にされてきた。口約束だけでは怖い」(KDDI担当者)と、不信感を抱いている状況。

「強引に決めるのは、世論を無視」

KDDIの髙橋氏は、かつてない規模となった180者連名の要望書について、世論を形成しているものと自信を語る。「地方のケーブルテレビも多いが、デジタル田園都市国家構想などもあって、地方には危機感が根強い。我々が集めたのではなく、みなさん自発的に、機会があるなら出して欲しいと言われて集まったもの」(髙橋氏)。

11月中に示されるとされる今後の方向性について「感覚的には『NTT法は廃止します、以上』みたいな単純な話にはならないと思う。180者の要望があり、廃止を強引に決めるのは、世論を無視している」と髙橋氏は語っており、今後も議論を重ねていく方向になるのではと予測している。

どちらにしても、NTT法に大きな改正が加われば、日本の通信業界全体に大きな影響が予想される。固定電話をはじめ、インターネットや光ファイバーのインフラ、グローバルでの技術開発まで、幅広く影響する可能性があり、今後の展開が注目される。