西田宗千佳のイマトミライ
第329回
WBCでも活躍 進化する「スポーツとテクノロジー」の関係
2026年2月24日 08:20
冬季オリンピックが終了したが、大型スポーツイベントの季節は続く。3月5日からは「ワールド・ベースボール・クラシック 2026(以下WBC)」がスタートし、その他のスポーツも続々と開幕していく。
今回は少し、「スポーツビジネスとテクノロジー」の話をまとめてみたい。
映像認識などの技術拡大によって、スポーツへのテクノロジー導入は加速している。特に、我々が視聴するスポーツ中継での利用は大きな要素だ。
スポーツビジネスを運営する団体にとっても、そこに機材の納入を進める企業にとっても、大きなビジネスチャンスになっている。
WBCでは中継技術もステップアップ
先日、NetflixによるWBC配信の内容に関する会見があった。その内容については以下の記事をご参照いただきたい。
会見の中で話題となったのが「WBCの中継をどう新しいものにするか」ということだった。
東京ドームでの中継を実際に撮影するのは日本テレビだ。東京ドームにおける数々の実績から、Netflixとパートナーシップを組む。
その中で「WBCに合わせてリニューアルする点」として、撮影技術の進化が説明された。
1つは「ボリュメトリックビデオ」の改良。現在東京ドーム戦の中継では、スタジアム内の状況を3D映像化し、自由な場所から見た映像を中継する仕組みが導入されている。これはキヤノンが開発したシステムで、以下が関連記事だ。
これまでは東京ドームに125個のカメラが設置され、それで3D化を行なっていたのだが、それが137個に増え、自然さが増す。
また、「ダートカメラ」と呼ばれる仕組みが埋め込まれるのも特徴。これは、ホームベース近くにカメラを埋め込み、地面スレスレの映像を撮れるもの。スライディングの様子やホームベースに砂がかかる様子などがリアルに表現できる。
ダートカメラ自体はメジャーリーグ(MLB)の球場などで導入済みの技術だが、東京ドーム中継では初の採用となる。
また、ドローンによるスタジアム内空撮も取り入れる。イニング変更時などの映像演出として使われる予定だ。
実のところ、これらの要素は「今春から東京ドームが取り入れる設備」なのだろう。WBCに限った話ではない、という予想も成り立つ。
とはいえ、春の大型イベントとしてWBCがあり、そこが1つのお披露目の場であるのは間違いなさそうだ。
同時に、Statcast(スタッツキャスト)と呼ばれる技術も使われる。これはMLBが導入している指標化技術。球速・回転量・打球の速度や方向など、多数の情報が共通データ化され、中継などに生かされている。
以下の動画が、MLB公式がYouTubeで公開している、Statcastを使ったデータを使ったものだ。ホームから3塁までの走塁速度など、多数の情報が即座に集計されて表示される。
WBCはMLBの傘下団体が運営しているので、当然Statcastを使うことになる。だが、それをそのまま見せては「日本のファンにはわかりづらい」(Netflix・日本コンテンツ担当のバイスプレジデントの坂本和隆氏)ので、日本にも馴染みの深い形に変えて使う想定だという。
Statcastは、現在はGoogle Cloudがデータパートナーとなって運営されている。
実は日本でも、NPBエンタープライズがStatcastを参考にシステムを構築、日本の12球団が関わる全球場にシステムを導入している。
ソニーの「ホークアイ」技術を使ってデータ化したものをGoogle Cloudに集積、さらに可視化などの加工を行なった上で、今年のプロ野球シーズンからの本格稼働を目指す公式アプリ「NPB+」でも利用される。
野球におけるデータ活用手法はMLBでは定着しており、日本でもいよいよファン向けに本格活用される……ということなのだろう。
多数のスポーツと連携するソニー
こうした流れは野球だけにとどまるものではない。スタジアムに画像解析機材を導入、そこからデータ化をしてスポーツに付加価値をつけるのは基本的な路線と言える。
前出のように、東京ドームにはキヤノンがボリュメトリックキャプチャ技術を提供しているし、プロ野球のデータ解析に使われるホークアイはソニーの技術。特にソニーは、「クリエイティブシフト」戦略の一環として、ホークアイなど複数の技術をメジャーなスポーツと連携して提案するやり方を強く推している。
ソニーは2024年からアメリカンフットボールリーグ・NFLのテクノロジーパートナーとなっている。
ホークアイでの解析はもちろん、NFL専用のワイヤレス通信ヘッドセットを開発し、採用してもいる。このヘッドセット、強い衝撃に耐えるだけでなく、水やスポーツドリンクなどに漬けても壊れづらく、安定した通話が行なえることを目指した、「NFL仕様」のものであるという。
2月8日にアメリカで開催された優勝決定戦「スーパーボウル」でも、ソニーのテクノロジーは使われ、そのことを同社がレポートしている。
NHLのアリーナを取材。氷点下のスポーツに必要な技術とは
筆者も、ソニーがスポーツに導入したテクノロジーの一端を、また別の機会に取材することができている。
筆者が取材したのは、北アメリカのプロアイスホッケーリーグであり、北米4大プロスポーツリーグの1つである「NHL」のアリーナだ。
NHL用アリーナの1つであり、「ベガス・ゴールデンナイツ」のホームである「T-Mobile Arena」はラスベガスにあり、1月にCESで取材した際、内部を詳しく取材していた。
アリーナには、ホークアイをはじめとした多数のカメラシステムが導入されており、常に撮影を続けている。このビデオ中継システムは、全32のNHLアリーナに採用されている。
その映像はカナダ・トロントに自動的に送られ、放送局の素材とするほか、ビデオ判定にも使われる。映像は自動的にチャプターが設定され、リプレイや編集がすぐに行える仕組みになっている。
ホッケーパックは最大時速320kmという、猛烈な速度でシュートされる。これを間違いなく判定するには、ビデオ判定の仕組みと同時に、ホッケーパック内のセンサーが使われる。以下の写真にも、パック内に組み込まれたセンサーの一部が写っているのがわかる。
なにより大きいのは、アイスホッケーは「氷上で行なう」ということ。ホッケーパックが熱を持ってしまうとプレイフィールが変わる。だからプレイ前まで、専用の冷蔵庫に入れて管理するほどだ。
カメラなども低温の中で性能を維持する仕組みが採用されている。単に断熱すると今度はカメラの放熱が難しくなるため、ちょうどいい温度のコントロールも必須だ。同じ場所に配置し続けると、熱で氷が溶けたり、逆に水でネットが凍って張り付いたりもするので、現場での運用ノウハウも色々とあるようだ。
そうやって構築されたデータ・スタッツは放送や判定だけでなく、各チームのコーチングにも使われる。
ソニーは2025年6月、NHLともテクノロジーパートナーシップを締結している。スポーツへのデジタル技術導入が重要である上に、そこで存在する各スポーツ個別の課題解決が重要であるからだろう。
大きなビジネスなのでソニー以外にもこうした市場を狙う企業はある。前出・キヤノンもその1つだろう。パナソニックもスポーツソリューション事業には積極的だ。
ここで意外なほど日本企業の姿が見えるのは、画像系技術を得意としており、細かな要望に応えるのが上手いからでもあるのだろう。
クラウドパートナーとしてアメリカ企業、イメージングなどの技術パートナーとして日本企業が絡んでスポーツビジネスを行なうというのは、1つの黄金パターンなのかもしれない。




















