トピック
西友をのみ込んだトライアルが1兆円企業へ! 決算から今後を読み解く
2026年2月25日 08:20
「格下が格上を飲む」買収、急激な全国展開……「トライアルホールディングス」の大きな動きは相応の負担を伴うようにも感じるが、2月12日に発表された直近の決算・中期経営計画を見る限り、そんな懸念をある程度吹き飛ばしたようだ。
トライアルHDは、1992年に福岡県大野城市で創業したディスカウントストア「トライアル」を皮切りに、日用品・衣料品・家電などを手広く扱う「スーパーセンター」業態で、一挙に全国に出店を果たした。
25年7月には、262店を展開するスーパー「西友」の全株式をM&Aで取得・子会社化し、首都圏に打って出た。借入金をともなう「LBO」(レバレッジド・バイアウト)で約3,800億円を投じ、かつては西武・セゾングループに属し、その後ウォルマートの子会社になるなどの歴史を持つ名門スーパー・西友(時価総額約2,800億円)を傘下に収めるというM&Aの評価は分かれ、「本当に統合できるのか?」と疑問の声が挙がったのも記憶に新しい。
いまや、トライアル・西友を合わせて通年の売り上げは1兆円を越え、スーパーとしては「イオン」についで「セブン&アイ」と争う2番手の座を確保しつつある。今後はコンビニサイズのミニスーパー「トライアルGO」の大量出店も控えており、GMS(総合スーパー)からコンビニサイズの店舗まで、幅広く出店できるフォーマットが揃ったところだ。
トライアルグループの「西友買収の効果」を検証した上で、次の3年間でどこまで成長できるかを、読み解いてみよう。
M&Aの“のれん”で利益減少も、トライアルの店舗運営は順調
まず、2026年6月期・上期のトライアルHDの業績を見てみよう。
- 売上高:6,741億1,700万円(前年同期比67%増)
- 営業利益:166億7,700万円(前年同期比71.9%増)
- 経常利益:144億6,200万円(前年同期比36.1%増)
トライアルとして15店を出店したことによる増収だけでなく、西友の245店舗(1店を閉店)を加えて、総店舗数は352店→611店に激増。既存店の売上高や利益率もしっかり成長しており、核となる小売業はトライアル・西友ともに順調のようだ。
しかし、M&Aに3,800億円を投じたことによる「のれん代」(買収額と純資産の差額)の償却がのしかかり、利益を削る。この影響で、「親会社株主にかかる純利益」は前年から20億円ダウンの40億5,700万円(33.8%減)となった。上期のスタートである第1Q(6月~9月)の「9億円の最終赤字」よりは立ち直ったものの、格上の西友を買収したことによる負担増は免れなかったようだ。
ただ、この影響は一時的なものに収まる見込みだ。上期でM&Aに支払った額の中には「アドバイザリー費用」などの一時的な支出(総額32億円)も含まれている上に、のれん償却額(約76億円)、支払利息(約18億円)と一時的に膨れ上がっており、下期にはのれん・利息ともに半分となる予定だという。
現在のところ、下期も含めた26年6月期の通期売上高は、以下のように予想されている。中間決算での下方修正も上方修正もなく、何事もなければ順調に目標に到達するだろう。
- 売上高:1兆3,225億円(見込)(前期比64.5%増)
- 営業利益:254億円(見込)(前期比20.3%増)
- 経常利益:139億円(見込)(前期比37.4%減)
トライアルの強みは「AI+リテールで低コスト・省人化」
トライアルの強みとしてまず挙げられるのは、デジタル技術(DX)を駆使した、人件費・物流コストの削減能力だろう。店内のAIカメラによって欠品を感知するだけでなく、電子棚札と連動して期限切れになりそうな弁当を値引き販売することもできる。店員が巡回することもなく、効率よく仕入れ・売り切りができるから、そこまで店員を必要としないのだ。
レジカートに商品を入れながらバーコードで会計できる「スキップカート」(レジカート)の導入が進んでいることも大きい。コスト高の要因ともなるレジの削減にも役立つため、導入店で会計時間は74%減少。スキップカートを使用する顧客の来店頻度が13.8%も向上したという。
トライアルはこの低コスト体質を活かし、おトクなプライスでの商品販売を続けている。なかでも売上を上げる原動力になっているのが、売上構成比の7割を占めるという「食品」だ。
特に弁当・総菜コーナーでは、税込300円を切る「ロースかつ重」などの弁当、100円を切る「限界までクリームつめちゃいましたカスタード・ホイップシュー」や、「食パン100円以下」「500mlの天然水が40円以下」というPB商品など(いずれも最安値の場合)など。コンビニのおにぎり1個でも200円、300円かかってしまうご時世に、安値をキープしているトライアルの有難みは、つくづく身に染みる。
過去にもDX技術に優れるリテール(小売)はあったが、技術におぼれたり、肝心の顧客を喜ばせる商品開発を怠ったり……「DX」「リテール」のどちらかしか優れていなかった印象がある。
その点、トライアルは双方に力を注ぎ、「DX」で浮いたコストを「リテール」の商品力向上に使った。例えば、総菜の味を向上するために製造メーカー「明治屋」(現:株式会社こはく本舗)を子会社に収め、大ヒット商品「ロースかつ重」や「ベーコンエッグおにぎり」などの開発に成功している。
トライアルが全国に352店を出店できた理由は「DX技術による低コスト経営」だけでなく「低コスト体質を活かしたディスカウント販売」「価格以上の品質維持」にあるのは間違いない。
西友の売上は「ダウントレンド」 活路は「トライアルのPB販売」にあり?
一方で西友は、年間7,000億円以上もあった売上が閉店・店舗譲渡によって、4,835億円(24年12月期)まで凋落している。
西友の業績は、決算資料にも「ダウントレンド」と明記されているほどだ。改善策としてトライアルのPB商品や「ロースかつ重」などのお弁当・お総菜を導入することで、売上・利益率を回復しており、店舗によっては新ブランド「トライアル西友」としての改装オープン(花小金井店)、「メガセンタートライアル」への改装(東松山店)などで、はやくも経営回復の実績を挙げている。
さしあたって西友の課題は、かつてGMS(衣料品・家電などまで自社で扱う総合スーパー)であったが故の、「2階から上階」の活用だろうか。1階の食品スーパー以外が寂れたまま、というタイプの衰退は、かつて日本の小売業の王者であった「イトーヨーカ堂」「ダイエー」などのGMSチェーンに共通するものだ。
今のところ、西友三軒茶屋店上階の衣料専門店「RIALT」がどこまで実績を挙げるか、注視したい。
利益は低下も、マーケットは好反応! 「中期予想」何が語られた?
トライアルHDは、今回の決算発表とともに、2027年~29年の中期計画を発表した。
目玉は何と言っても、29年6月期の目標として設定された「2029年6月期までに売上高1.6兆円」という数字だろう。また、25年に首都圏に初出店したミニスーパー「トライアルGO」の出店目標も「3年間で100店」に設定され、同タイプ業態のミニスーパー「まいばすけっと」(イオン系列)を追うこととなる。
西友のM&Aの費用がかさむなど、決算の内容としては決してポジティブな要素だけではなかった。それでもマーケットが好反応を示したのは、ある程度現実的な中期計画を示せたことが大きい。2月10日には2,975円だった株価が、2月12日の中期経営計画発表を経て、執筆時点(2月18日)には2,995円まで上昇しており、投資家は西友の巨額M&Aのリスクより、トライアルの将来性に目を向けたといって良いだろう。
もし29年までに中期計画が実現すれば、スーパー・ディスカウント業態で売上1兆1,700億円(25年2月期)のイトーヨーカ堂や、売上8,000億円台の「ライフ」「バロー」を抜き去り、イオンを追う2番手につけることになる。
西友の売却が噂にのぼり始めた頃には、イオンやパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(ドン・キホーテ)なども興味を示していたとされ、トライアルはむしろ伏兵のような扱いであった。争奪戦に成功して「安定して売上高1兆円以上」というラインを確保できたトライアルは、得意のDX・省人化で西友を立て直すことができるのだろうか? ひとまず来年以降のトライアルHD決算ならびに、西友の売り場の変化を見守りたい。













