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災害発生時にも営業して被災者・復旧活動を支援する「災害支援ローソン」1号店を見てきた

ローソン富津湊店

ローソンとKDDIは、千葉県富津市にあるローソン富津湊店を「災害支援ローソン」の1号店としてリニューアルオープンし、2月24日に現地でオープニングセレモニーを開催した。

災害支援ローソンとは、地震や大雨などの災害が発生した際、被災した人たちを支援するようなサービスや商品を提供するローソン店舗だ。平時は通常のローソンとして営業するが、被災時にも営業できるような設備が追加されている。

災害支援ローソンの主要機能

ローソン富津湊店は、災害支援ローソンの1号店だ。始まったばかりの取り組みなので、これから店舗を増やす上でのプロトタイプ的な面もあるはずだが、ローソン富津湊店の機能や立地を見ると、むしろ「これ以上の災害支援ローソンをほかでも作れるのか」と思えるほどの完成度となっている。今回はオープニングセレモニーでローソン富津湊店の現地取材ができたので、どのような立地でどのような機能を持っているかを細かくお伝えしたい。

災害支援にピッタリの好立地

ローソン富津湊店は、内房エリアを南北に貫く国道127号沿いにある。目立つ場所にあるので、何度かここを通ったことがある人ならば、「何もないエリアにいきなり建ってるコメリの隣のローソン」で通じるのではないだろうか。近隣(木更津)在住の筆者はソレで覚えている。

中央の十字マークがローソン富津湊店の位置(電子国土WEBより)

ローソン富津湊店の立地は、国道127号と国道465号の重複区間が終わり、それぞれが分岐する丁字路部分でもある。館山自動車道も近く、最寄りインターチェンジ(富津中央IC)からは車で3分ほど。館山自動車道上の高速バス停(富津浅間山バスストップ)や高速バス利用者向けの駐車場がすぐ近くにあり、車移動の交通結節点とも言える立地になっている。平時にもロードサイドのコンビニとして使いやすい立地だ。

普段は普通のローソンとして営業している。ドライブ中に便利な立地

ローソン富津湊店は市街地からは約2kmほど離れた位置にある。内房エリアの市街地は海抜が低い海沿いにあることが多いのに対し、ローソン富津湊店は海抜約50mと高い位置にあり、南海トラフ地震や相模トラフ地震などで津波被害を受ける心配が少ない。海抜が低い市街地エリアからは整えられた国道で登っていけるので、近隣住民の一時的な避難先としても最適だ。

また、市街地から離れたこの立地は、意外な防災効果ももたらしている。このエリアは上下水道が整備されていないようで、ローソン富津湊店は敷地内の井戸の水を殺菌して店内に供給し、排水は敷地内の浄化槽で処理している。これにより、災害で浄水場や水道が機能しなくなっても、井戸ポンプの電源さえどうにかなれば、いつも通りに水を使えるのだ。

ローソン富津湊店の井戸。手押しポンプはあとで追加されたもので、その隣の電動ポンプと殺菌装置を通して店内に水を供給している

余談だが、房総半島は地質的な要因などにより、外房(東側)は井戸水が得にくい一方、内房(西側)は井戸水が得やすい、という特性があるとされ、内房では深井戸を水源とする浄水場も多い。ローソン富津湊店は内房エリアなので、井戸が使いやすい立地でもある。

ローソン富津湊店には電灯線は引かれているが、屋根には16kWクラスの太陽光発電パネルが設置され、店外には16.4kWhの蓄電池も設置されている。これにより、停電になってもある程度の電力を確保することができる。

オムロンの16.4kWhの蓄電池。導入には大雑把に200万円以上かかる規模

この規模の太陽光発電パネルと蓄電池は、普通の住宅に導入されるものに比べるとかなり大規模だ。普通の住宅であれば、10kWhくらいの容量の蓄電池であれば、停電時に家中に電力を供給する全負荷型の運用が可能だが、ローソン富津湊店では、停電時には一部のコンセントのみに電力を供給する特定負荷型になっているという。コンビニだと冷暖房と冷温庫だけで16.4kWhのバッテリでもすぐに使い切ってしまうので、ここは仕方ないところだろう。

しかし冷暖房や冷温庫、電力消費が大きい調理器具を使わなければ、16.4kWhは大きな容量だ。よほどの悪天候でなければ太陽光で発電されるので、停電状態が続いても、一般家庭くらいの電力は毎日使える。これができるとできないとでは大きな違いだ。

被災時には衛星通信でWi-Fiなども提供

水と電力だけでなく、通信についても災害対策がなされている。ここはローソンの親会社であるKDDIの得意分野だ。店舗には衛星通信のStarlink端末が保管され、災害により通常の通信回線が使えなくなったときに備えている。

Starlink端末。法人向けの大きなモデル。今回は展示のみで稼働はしていなかったが、稼働中は天頂に近い北の空に向くハズ

こちらの店舗で用意されているStarlink端末は、法人向けの大きなもので、個人向けモデルより通信能力が高く、最大で128端末が接続できる。災害発生時にはこのStarlink端末のアンテナを店外に設置し、Wi-Fiによるデータ通信を来店客にも提供する。

フェムトセルとStarlinkの室内機

さらにau回線利用者向けだが、災害発生時にはauの超小型基地局、いわゆるフェムトセルが店内に設置される。フェムトセルは免許不要で運用できる低出力な携帯電話基地局だ。通信できる範囲は狭いが、Wi-Fiと異なり通話や緊急通報、緊急速報受信が可能だ。

フェムトセルは有線LANでStarlink室内機とつながっていた

フェムトセル自体がネットワークにつながるバックホール回線には、前述のStarlink端末が使われる。このため、災害などで周囲の基地局がダウンしていても、この店舗ではau回線で通話や緊急通報ができる。ちなみにStarlinkをバックホールとする前提のauフェムトセルは、今回が初の商用導入となる。

スマホ向けバッテリチャージャー設備。これもauが提供するもので、災害発生時用のキットとしてまとめられている

来店した人に通信回線を提供するだけでなく、災害時には無料で利用できるバッテリチャージャーも店頭に設置される。車で来店する人が多いであろう立地なので、車載チャージャーを持っていれば公共チャージャーはあまり必要ないが、最寄りの市街から2km程度、ギリギリ歩ける距離ではあるので、徒歩で避難してきた人たちにはありがたいサービスとなる。

災害支援ローソンと関係ないが、KDDIは「au Starlink Direct」というサービスを提供している。こちらはau回線の入ったスマートフォンが直接、Starlink衛星と通信するという機能で、4G/5Gが圏外になると使えるようになる。

au Starlink DirectはiPhoneなら13シリーズ以降が対応、Pixelは9aまでデータ通信不可などの対応端末の制限があり、そもそも音声通話はできない。そうした制約部分を補完するべく、Starlink端末とauフェムトセルが設置されるというわけだ。

緊急地震速報を表示するデジタルサイネージ。本来の映像も残してのL字表示だが、緊急速報はエヴァみたいな極太明朝で画面全体を占有しても良い気はする

非常時の通信は来店した人のスマホにだけ提供されるものではない。お店自体もPOSレジなどが本部と通信する。そしてローソン富津湊店では、冷蔵ケースの上に設置されたデジタルサイネージに緊急速報を流すという仕組みも導入されている。

店舗スタッフが使うタブレット端末にも緊急速報が表示される

平時の業務中、店舗スタッフはスマホなどを携帯しない。そのため、緊急地震速報などが発報されても、スタッフがすぐに知るすべがない。実際に過去の地震では、津波警報が発報されたのに店舗のスタッフの中にはそれに気がつかず、来店した客から聞いて知った、というケースがあったという。デジタルサイネージを利用した緊急速報は、来店客に対する周知の意味もあるが、スタッフへの周知という意味合いも大きい。

災害時にも営業できるという強み

ローソン富津湊店は、こうした立地やインフラ設備を活かし、災害発生時には来店した人を支援する拠点として機能する。

まず大前提として、大規模な災害が発生して停電や断水となっても、ローソン富津湊店は蓄電池や井戸水により営業を継続できる。蓄電池だけだと温冷庫やフライヤーが使えなくなるが、冷蔵不要の飲食物を販売できるだけでも、災害支援としては大きい意味がある。

電気と通信、物流が維持されれば、POSレジなども通常通り使えるので、不足在庫の発注なども現場の負担が小さい。平時に培われたコンビニの効率的な物流システムを災害時にも使えるのは大きなポイントだ。

ローソン富津湊店の立地も絶妙だ。富津中央ICから約2.3km、国道127号だけで到達できるが、ここは高規格道路として整備されており、海抜も高いことから災害などで通行止めになる可能性は低い。館山自動車道は房総半島の丘陵を削って通されているが、富津中央ICから上り方向は片側2車線で、トンネルがないくらい緩やかな山しかないので、こちらも通行止めになるリスクは低い。被災しても物流が維持されやすい立地だ。

まちかど厨房で災害時専用メニュー「店炊きごはん」を作る風景。災害時用なので包装も簡易となる

災害時向けのオペレーションとしては、災害時専用メニューの握り飯も用意されている。

ローソン富津湊店には、弁当などを調理するための簡易キッチン、「まちかど厨房」が設置されている。厨房の機材は、基本的には大電力を必要とする業務用機材なので、大容量蓄電池でも停電時にそれらの機材を運用することは難しい。

普通に店頭で販売できる体制が整えられている。なおこれらはこのあと関係者に配布され、そのうちの1つは筆者のご飯となった

災害支援ローソン店舗では、一般家庭向けの炊飯器を追加導入し、太陽光発電や蓄電池、あるいはAC出力付き乗用車からの電源供給で動かすことで、停電時にも炊飯できる体制を整えている。さらにサランラップ包装のみで販売する「店炊きごはん」という商品も設定している。停電などで電力が制限された災害時専用の商品だが、商品として登録され、値札を出力できるので、いつも通り、POSレジで会計を通せる。災害発生時、切迫した現場で柔軟な判断をするのは難しいが、こうしたオペレーションをあらかじめ決めておくことで、素早く対応できるようにするというわけだ。

災害に備えた備蓄も

店舗裏手の備蓄倉庫。スターリンクなどの資機材も保管している

ローソン富津湊店では、店舗の裏手に倉庫が増設され、Starlinkなどの災害対応機材に加え、飲料水の在庫を通常よりも多めにストックしている。こちらはローリングストック方式で古い在庫から販売するようになっていて、賞味期限に大きな影響がないようにされている。ストック量は1,500リットル以上となっているので、被災して飲料水の需要が高まってもある程度は対応できる。

普段から電動ポンプで使われている井戸なので、水位が高くなっているのか、手押しでもジャボジャボ取水できる

その一方で、ローソン富津湊店の井戸には手押しポンプも併設されている。この井戸自体が富津市の災害時協力井戸として登録されているので、災害発生時には市民が井戸水を無料で利用可能だ。手押しポンプの水は殺菌されていないので、飲料水としては使えないが、体を拭うとかトイレを流すといった用途には使えるので、水が貴重になる災害時には大きな意味がある。

非常用トイレキットは店舗のトイレにポリ袋を設置して利用する

さらに非常用トイレキットも備蓄され、必要に応じて店舗のトイレを使って使用するオペレーションも準備されている。が、実際のところ、このローソン富津湊店では井戸のポンプに電源を供給できればトイレも普通に使えるので、非常用トイレの必要性はそれほど高くないかも知れない。

ただそうはいっても、多くの被災者が避難してきて、長時間滞在すると、井戸水も浄化槽もキャパオーバーとなる可能性があるので、そうした事態への備えという意味合いはある。また、ローソン富津湊店は災害支援ローソンの第1号店なので、2号店以降で導入する可能性のある要素はテストケースとして導入する、という側面もあるのだろう。

被災インフラの復旧チームの活動拠点としても活用

災害支援ローソンは、被災した人たちの利用だけを想定したものではない。被災したインフラを復旧する人員の活動拠点としての利用も想定されている。

KDDIの電源車。手前にあるポータブル発電機も併用し、基地局への電源供給などを行なう

今回のリニューアルオープンセレモニーでは、KDDIが保有する電源車やドローンが派遣され、デモンストレーションが実施された。こうした電源車やドローンは、被災者を直接支援するというより、被災したインフラを復旧するために被災地に派遣される。

電源車は停電した基地局や基地局復旧の機材への電源供給を目的とする。しかし一般的な単相交流の100Vも出力できるので、被災者支援に使うことも想定している。

ドローンの映像。ドローンにはモバイル通信機能が入っていて、遠隔地から操縦できる

ドローンは付近のインフラの状況確認や被災者への広報に使われる。このエリア、高い建物がないため、遠くのものを確認するのが難しい。しかしドローンであれば高所から望遠カメラで遠くのものも確認できるので、鉄塔や道路などのインフラが被災しているかどうか、現地に行かずにある程度確認できる、というわけだ。

ドローンと専用のプラットフォーム

地震や台風といった災害だと、広範囲にわたって携帯電話の基地局が機能停止することがある。そういった事態になると、各通信事業者は専用の資機材を備えた復旧チームを現地に派遣し、被災状況の確認や復旧を行なうわけだが、そうした復旧活動の拠点が現地にあることが好ましい。

たとえば能登半島地震においてKDDIは、現地のauショップ七尾に簡易給油機を設置して臨時給油拠点とし、他社の簡易給油機との相互利用も行なったという。災害支援ローソンはそうした復旧活動の拠点の候補地となっていて、災害支援車両の活動スペースや復旧資材倉庫、発電機の設置なども想定している。

KDDIは過去の震災での復旧・支援活動での学びを踏まえ、こうした拠点をサテライト化していく

ローソン富津湊店は、災害時でも水や食料を調達できるので、それ自体が被災地での復旧活動には大いに役に立つ。停電していてもPOSレジが稼働できるので、細かい話だが普段通りにレシートや領収書が発行されて経費精算もできる。高速道路へのアクセスも良く、周囲には空き地や運動場もあるので、人員や車両、資機材の集積地としても最適だ。あとは隣にホームセンターのコメリがあるので、営業していれば単管パイプなどの汎用の資材も調達できる。ローソン富津湊店は、災害復旧拠点としても出来過ぎているほど立地に恵まれていると言えるだろう。

今後の災害支援ローソンの展開

災害支援ローソンの看板

ローソンとKDDIは、2030年度までに災害支援ローソンを全国で100店舗設置することを目指している。災害支援ローソンとなったローソンには、店頭に専用デザインの看板が設置される。なお、ローソン富津湊店はローソンの直営店だが、条件を満たしていればフランチャイズ店舗でも災害支援ローソンとなる可能性はあるという。

災害支援ローソンの設置基準は、「南海トラフ地震や同等の災害に見舞われる可能性のある地域」「ハザード基準(自社基準)」「店舗の立地(海抜など)」「店舗の敷地面積」となっている。

ローソン富津湊店は設置基準をすべて満たしている

設置基準には南海トラフ地震が名指しされているが、南海トラフ地震だけでも被災想定地域は果てしなく広いし、能登半島地震のように、想定外のエリアでも地震で大きな被害が出ることもある。さらに言えば台風などの風水害も想定しないといけないので、けっきょくのところ、日本においてはほぼ全国に災害支援ローソンのニーズがある。

災害支援ローソンの定義は、電力や通信の確保、断水に備えた飲料水、災害時トイレなどの「特別な機能を備えた店舗」とされているので、どのローソンでも災害支援ローソンにできるというわけではない。

災害支援ローソンの導入機能例

条件的に災害支援ローソンは、都市部では難しく、太陽光発電パネルなどを設置でき、駐車場も広いロードサイド店舗がメインとなるだろう。海抜などの条件もあるので、ローソン富津湊店くらい条件がそろった店舗は珍しいかも知れないが、ローソンの店舗は全国で約1.4万店もあるので(ナチュラルローソンを含む)、それなりの数の候補店舗があるはずだ。

災害対策の基本は自助努力なので、まずは自分で備えておくのが重要だが、備えていてもそれが喪失することもあるし、旅行中などに被災することもある。そうしたときのためにも、災害支援ローソンの看板を見つけたときは、その場所を覚えておくと良いだろう。