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なぜchocoZAPはカラオケを導入したのか 成功の理由と「生活インフラ」への道

RIZAPグループが展開するコンビニジム「chocoZAP(チョコザップ)」が、2022年7月にサービスを開始して丸3年。店舗数は全国で1,800を超え、会員数も業界トップに躍り出るなど、フィットネス業界の勢力図を大きく塗り替えています。

開始当初は月額3,278円で通い放題、着替え不要・靴のまま利用可能といった仕組みが特徴的でしたが、現在はトレーニングマシンに加え、セルフエステやホワイトニング、マッサージチェアなどが追加料金なしで利用できるなど、従来のジムの常識を覆すサービスも話題となっています。

さらに近年は、カラオケやランドリー(洗濯・乾燥機)といった「運動とは無関係」に見える設備も一部店舗に導入され、かなり利用されているとのこと。そしてこれらの設備導入には明確な狙いがあります。今回、chocoZAP立ち上げメンバーの一人である、RIZAP 執行役員 chocoZAP事業責任者 村橋和樹氏に、急成長の背景や今後の展望について伺いました。

一部店舗にはカラオケやランドリーも導入

運動嫌いでも通いたくなる「きっかけ」を提供

カラオケやランドリーなど、一見トレーニングとは無関係な設備を導入した理由について、村橋氏は「ジムだけだと足が遠のいてしまう可能性があるけれど、それ以外に楽しいものがあれば行く機会が増えるのではと思い、導入を決めました」と話します。

「ジムに行ったほうがいいと思っていても、そもそも運動嫌いで行く気になれない人も多いですよね。でも“疲れたからマッサージチェアで癒されよう”とか、“カラオケでストレスを発散しよう”とか、好きなことをするためなら積極的に足を運ぶ。そこにトレーニングマシンもあるので、せっかくだから少し運動していこうかな、となるわけです」

この戦略が奏功し、同社によると2025年5月時点のchocoZAP会員数は、前年比15万人増の135万人を突破。

マッサージチェアはほぼ全店舗に導入。仕事帰りに、これだけ利用しにくる人も少なくないそうです
トレーニングマシンは店舗によって異なりますが、トレッドミルやバイク、チェストプレストなどが並びます。基本的には24時間営業(一部店舗を除く)
RIZAP 執行役員 chocoZAP事業責任者 村橋和樹氏

「やってみる」精神で進化する設備ラインナップ

現在、chocoZAPに導入されている設備は、トレーニングマシン、セルフエステ、セルフ脱毛、セルフホワイトニング、セルフネイル、マッサージチェア、デスクバイク。一部店舗には、カラオケ、ランドリー、ピラティス、ゴルフ、ワークスペースなども導入されています。

設備の種類がどんどん増え、もはやジムの範疇を超えてきている印象ですが、何を導入するかはどのように決めているのでしょうか。

「ユーザーインタビューや市場分析を通じて、人が集まりやすい施設を調査し、カラオケ、ランドリー、マッサージチェアの導入を決めました。ただし市場の人気と実際の利用率は別の話ですので、まずは10店舗規模でテスト導入し、利用状況を見ながら本格導入を検討しています」(村橋氏)

全ほぼ店舗に導入されているのは、トレーニングマシン、セルフエステ、セルフ脱毛、セルフホワイトニング、セルフネイル、マッサージチェア、デスクバイク

さらに導入後も常に稼働率をチェックし、利用が少ない設備は入れ替えるなど、柔軟かつスピーディーな対応で、限られたスペースの中にユーザーが求める施設を最大限詰め込んでいます。

なお、現在人気が高い設備はカラオケとのこと。個室型で音に配慮した工夫がされており、歌う人、カラオケボックス外でトレーニングする人、どちらも快適に使えるようにしているそうです。

ただし導入店舗は現時点で2割程度にとどまり、予約が埋まってしまうことも少なくありません。そのため「今後、新店舗の物件を選定する際には、カラオケ導入の可否も重視することになると思います」と村橋氏は話します。

現在利用が多い設備はカラオケ。新店舗の物件選定にはカラオケを導入できるかも重視することになるという

品質を守る「ちょこメンテ」部隊の誕生

人気が高まる一方で聞こえてくるのが、「掃除が行き届いていない」「故障したマシンがなかなか修理されない」といった不満の声。chocoZAPでは低価格を維持するため、無人運営が基本。さらに、一部の会員に簡易的な清掃やメンテナンスを任せる「フレンドリー会員」「セルフメンテナンス会員」制度を、2025年2月から本格的にスタートさせました。

とはいえ、全店舗で一律のクオリティを保つには限界があります。そこで新たに誕生したのが、専属メンテナンス部隊「ちょこメンテ」です。180名の専属スタッフが全国の店舗を巡回し、清掃状況の確認やマシンの保守・点検などを迅速に行ない、サービス品質の維持に努めています。

「『月会費3,278円だから壊れていても仕方ない』と思われるのが一番悔しい。逆に『この価格でここまでやってくれるの?』と感じていただけるよう、今は設備と環境の整備に注力しています」(村橋氏)

専属メンテナンス部隊「ちょこメンテ」が新たに誕生。180名の専属スタッフが全国の店舗を巡回

官民連携で「一億総健康社会」を目指す

chocoZAPが次に見据えているのは、全国の地方自治体と連携した「一億総健康社会」の実現です。

「日本は超高齢化社会に突入し、医療費や介護費の財政負担が膨らむ一方、地方では高齢化や過疎化による労働力不足、空き家の増加など、さまざまな問題が深刻化しています。そこでRIZAPグループとして取り組んでいるのが、地方自治体の施設を活用したchocoZAPの展開です」

chocoZAPの強みは、コンビニほどの省スペースで設置でき、無人運営が可能な点。これによりローコストかつ労働力不足の地域でも展開可能です。すでに兵庫県養父市や三重県木曽岬町などで官民連携プロジェクトがスタートしています。

三重県木曽岬町に官民連携のchocoZAP2号店オープン

chocoZAPが「生活インフラ」になる日

chocoZAPの現在地について、村橋氏は「今はフェーズ2に向けて進んでいる」と語ります。

「フェーズ0が“ジムのバリアフリー化”、つまり着替え不要、靴のまま入店できるなど、誰でも気軽に運動できる環境の確立。フェーズ1はサービスの品質改善で、現在の会員様の満足度向上など、誰もが安心して快適に利用できる環境の整備。フェーズ2では、より多くの方にとってなくてはならない『社会インフラ』としての進化を目指しています。将来的には、コンビニのように誰もが使うサービスへと育てていきたいです」(村橋氏)

今後はSOMPOホールディングスとの連携をさらに進め、会員の健康データを基に、AIによる本質的な食事やトレーニングのフィードバックなどの提案ができる仕組みの開発も進めていく予定だそうです。

「chocoZAPだから気軽に利用して結果が出なくてもいい、ではなく、やるからには少しでも成果を出してほしいというのがRIZAPの根本的な理念。たとえ週に1回でも『ここに来れば気分転換になる』『カラダのメンテができる』と思っていただければ、それだけで私たちの役割は果たせていると思います」

“ジムは通わなくなるもの”という常識を打ち破り、“行きたくなる場所”へ──。その先には、日本中の人々が自然に健康になっていく「一億総健康社会」の実現が見据えられています。

田中 真紀子

家電を生活者目線で分析、執筆やメディア出演を行なう白物・美容家電ライター。日常生活でも常に最新家電を使用し、そのレビューを発信している。専門家として取材やメーカーのコンサルタントに応じることも多数。夫、息子(高校生)、犬(チワプ―)の3人と1匹暮らし。