西田宗千佳のイマトミライ
第301回
AI時代に始まるブラウザー戦争 Perplexity「Comet」から考える
2025年7月14日 08:20
7月10日、Perplexityは、同社製のウェブブラウザー「Comet」を公開した。
PerplexityはAIによる検索を軸とする企業だけに、CometについてもAIを活用した「思考のパートナー」と位置付けられている。
ウェブブラウザーをAI関連企業が開発する、という動きは複数ある。OpenAIもウェブブラウザーを開発中とされているし、マイクロソフトの「Edge」も、同社のAIサービス「Copilot」と連動したものになってきている。
今回はCometを実際に使いながら、「AI時代になぜウェブブラウザーが再開発されているのか」を考えてみよう。
Chromiumをベースに「Perplexity」を搭載
まずはCometの概要から説明したい。
CometはPerplexityが開発したウェブブラウザーで、現状はWindows版とMac版が存在する。今回はMac版を使っているが、基本的な機能はWindows版と同様だ。今後、スマートフォンやタブレットで動作するアプリも提供が予定されている。
利用料は原則無料。ただし現状は、ベータ版ということもあり、月額200ドルの有料サービス「Perplexity Max」利用者と、早期にベータ版のウェイティングリストに登録した人にのみ公開されている。今後、月額20ドルの「Perplexity Pro」契約者に公開され、最終的には、Perplexityの無料版を利用している人々にも提供される予定となっている。
ベースになっているのはChromeのオープンソース版である「Chromium」であり、Chromeからスムーズに移行できる。筆者も日常的にChromeを使っているのだが、ブックマーク情報を含め、Chromeで使っているExtension(Chrome拡張)までそのまま引き継がれ、すぐに使い始めることができた。「Comet(彗星)」という名前から来ているのか、利用するユーザープロファイルを示すアバターは、太陽系の星々を模したものになっている。
次の画像は、Cometを開いた直後のものだ。起動時に開かれるスタートページは、Perplexityそのものに近い。
よく見ると、アドレス欄にはPerplexityのロゴと音声入力用の「マイク」ボタンが並んでいる。ここに単語や文章を入力してEnterキーを押せば、「Perplexityに質問する」形になる。要は「デフォルトの検索エンジンがPerplexityになっている」わけだ。
もちろん、デフォルトの検索エンジン設定は変えられる。
面白いことに、アドレス欄に入力後、Enterキーの代わりに「Shift+Enter」を押すと、Google検索へと内容が送られる。現状では、AI検索と通常のウェブ検索はイコールではない。「特定の、よく知っているウェブページや情報を呼び出す」なら、AI検索にしない方が正確で素早く使える。使い分けられるように配慮されているわけだ。
「アシスタント」でウェブをAIと「考察」
「AIを軸にしたウェブブラウザー」としての価値は他にもある。
中でも大きいのが「アシスタント(Assistant)」機能だ。
Cometのウインドウの右上端には「Assistant」というボタンがある。2つ隣は「現在開いているウェブの内容を要約する」ボタンで、その隣が「ボイスモード」のボタンだ。
アシスタント機能は、今見ているウェブを、PerplexityのAIアシスタントも閲覧しながら、その内容について対話しつつ処理していく方法だ。
要約はその一例であり、「要約」ボタンはプロンプトの入力を伴わずにその操作を実現するものである。要約対象はウェブだけには限らない。YouTubeの動画を開き、その内容を要約させることもできる(ただし、現状は「要約」ボタンでは自動的に英語での要約となってしまうため、ここではプロンプトを入力して再現している)。
要約から一歩踏み出し、「文書が示す狙い」「文書内の記述から考える留意点」など、自分が気になる内容を対話的に取り出すことも可能だ。
別の役立つ例としては「商品比較」がある。ショッピングサイトやメーカーの製品ページを開いて、「これと同じような製品を5つ比較して」と言えば、似たものを探し出してスペック比較もしてくれる。
「開いているページの情報をもとに考察するのを助ける」のがアシスタント機能、といっていいだろうか。
一方で、「検索エンジン代わりにPerplexityが組み込まれている」「ブラウズする横でAIに尋ねられる」だけなら、「AI時代のウェブブラウザー」というのは大袈裟にも聞こえる。
この種の機能は、Cometだけが備えているものではない。Microsoft Edgeなどにもあるものだからだ。
以下は、Cometのアシスタント機能で行なったことを、Windows 11のMicrosoft Edgeでやってみた結果である。ほぼ同じことができているのがお分かりいただけるだろうか。
「タブの中でAIアシスタントを使う」だけならそこまで珍しいものではない。ChromeやSafariがやっていないだけで、今後のウェブブラウザーでは定番の機能になっていくのではないだろうか。
「エージェント的連携」こそAI時代の華
「AI時代のウェブブラウザー」であるなら、「AIに尋ねる」ことの先になにがあるが重要になってくる。
Microsoft Edgeは2023年6月にAIを組み込んでいく段階から「Microsoftショッピング」という機能を搭載している。これは、Amazonや楽天市場で商品を見た際、過去の価格傾向を教えてくれたり、価格の変化を通知してくれたりするものだ。シンプルなものだがAIがなければ成り立たないものではある。
では、Cometにおける「AI時代らしい機能」とはどんなものか? 複数あるので順に説明していきたい。
まずは「タブに@を飛ばす機能」。
といってもよくわからないだろう。Slackなどで会話に誰かを巻き込む際に、「@ユーザー名」で指名したりするが、そこからイメージした機能と思われる。
Perplexityになにかを尋ねる際、「@」を入力すると、現在開いているタブの一覧が表示される。ここから話題にしたいものを選ぶと、今開いているページに加え、タブで開いている別のページの内容も加味して会話を続けていける。
情報を探すために多数のタブでウェブを開きっぱなしにする人は多いだろう。その時に、「複数のタブの情報を元に、AIとともに考察を進めていける」のは便利だと感じた。
次に「エージェント機能」。ウェブをPerplexity側が閲覧するだけでなく、こちらの指示に従って特定の動作をしてもらうものだ。
画像は、今開いているページを、Xへと、文章を追加してポストする作業をしてもらった時のものだ。特に誤動作することもなく、ちゃんとポストしてくれている。
https://t.co/u8YnEDuMwL
— Munechika Nishida (@mnishi41)July 13, 2025
テスト
created with Comet Assistant
アシスタントをAIエージェントとして活用する機能は、Cometの主軸とも言えるものだ。セットアップすると多数のアシスタント機能を紹介するビデオが表示されるし、「コメットアシスタント」として多数の用途がリストアップされる。この手の機能は「なにができるか」を理解するのが一番難しい。だからPerplexityの側も積極的に機能の例を示しているわけだ。
さらに、Perplexityの持つ「コネクタ」機能を使うと、他のサービスをアシスタントから操作できる。
例えば、GmailとGoogleカレンダーを「コネクト」すると、プロンプトから直接メールを送ったり、メール・カレンダーから特定の日の予定を教えてもらったりできる。現状、Gmail・Googleカレンダーとの連携は、ウェブ版からのPerplexityからは設定できず、Cometの中からだけ使えるようだ。
こうした「コネクタ」という考え方自体も珍しいものではない。筆者は日々、GeminiでGmail・Googleカレンダー連携を使っているので、それと同じことができるだけ、とも言える。使い方自体は以前連載で紹介している。
一方で、PerplexityはCometと合わせて、連動できる他社サービスを増やしていくとしている。同社が公開した動画では、Google マップやSlackなどとの連動も示されている。
Comet is here.
— Perplexity (@perplexity_ai)July 9, 2025
A web browser built for today’s internet.pic.twitter.com/cFPeghl2YM
こうしたことは、どのウェブブラウザー上からも、AIサービスを呼び出せばできるようになってきている。AIエージェント自体はウェブブラウザーに依存する性質のものではない。
しかし、「AIとの相談」が当たり前になっていくなら、ウェブブラウザーに「どの検索エンジンがデフォルト設定されているのか」ということと同じように、「どのAIが組み込まれているか」が重要になってくる。
マイクロソフトはCopilotですでに実践しているし、PerplexityがCometで実現しようとしているのも同じことだ。
Cometの場合、単にデフォルトのAIを入れ替えるだけではない、もっと密な連携を考えているのだろう。
AIへの命令でできるなら、各種操作は「文章でタイプ」したっていいのだ。これもまた、現在のAIとユーザーインターフェースをめぐる変化の1つではある。
ただし現状、「別にAIにやってもらわなくていい」こともある。速度だけで言えば、簡単なメールやSNSのポストを書くことを、AIに頼る必要はない。
筆者は予定やToDoの登録をAIにやってもらっているが、それは「別のメールからのコピペが使いやすい」からであり、「思いついたらタイプから登録できるから」でもある。
そして、本当ならもっと面倒で繰り返しがあるようなことをやってもらいたい。
それをどう実装するのか? どう見せるのか?
ここにはまだまだたくさんの工夫が必要になる。実のところ、Amazonの「Alexa+」やアップルの「生成AIをベースに改良されたSiri」が目指すのも、そういう「面倒なことや情報取得の流れを変える」ことだと理解している。
AI系企業はウェブブラウザーから、他のプラットフォーマーは別のところから、同じような山を登り始めている。
その中で、Googleにとって「ウェブブラウザーの分割議論」があるのは、非常にやりづらい状況になっているのではないか……とも思う。
そんな見方を持っておくと、今後いろいろ出てくるはずの「AI搭載ウェブブラウザー」の姿がもっとわかりやすくなってくるはずだ。
























