西田宗千佳のイマトミライ
第291回
NotebookLMやClaude、Gmail検索 生成AIの仕事への活かし方
2025年5月7日 08:20
生成AI関連サービスは毎日のように進化している。そのすべてを追いかけるのは不可能なくらいだ。
特に今年に入ってから、生活の中での生成AIの使い方は大きく変わった。筆者のツールの使い方も、かなり変わってきている。
今回はその辺の話を説明してみたい。
なお、筆者が実際に使っている状況をそのまま紹介しているので、キャプチャ画像内に複数のモザイクをかけている。その点ご了承いただきたい。
企業内での利用は慎重に
色々と解説をする前に、一つご注意を。
この後に紹介する使い方は、個人事業主である筆者のためのものだ。企業内では、使う文書フォーマットやクラウドサービス、生成AIサービスの利用に制限がある場合が多い。
理由は、生成AIによってデータを扱う上でのルールは異なるためだ。有料プランでは学習などに利用されることはない、というのが一般的だが、企業向けと個人でも扱いは異なる。
筆者はルールを確認の上、どれも有料プランで利用しており、データそのものはユーザー以外に使われないことを確認している。それでも、高い機密性を求められるものは、ローカルで動作するAIでのみ使うことを基本としている。
だが、ルールは企業によって異なる。基本的には、企業内のルールに従っていただきたい。業務のために作った文書やデータを、個人が利用している生成AIサービスで使うことは問題を起こす可能性がある。
完全に個人のための活用の場合にも、プライバシーや機密性を考え、サービス各社のルールを確認の上ご利用いただきたい。一般論としては、有料プランでの利用をお勧めする。
「NotebookLM」は情報整理のパートナー
筆者にとって、「必須のツールNo.1」になってきたのが「NotebookLM」だ。筆者は有料版である「NotebookLM Plus」を使っている。
NotebookLMは、登録した情報(テキスト、ウェブサイト、PDF、音声)を元に、Googleの生成AIであるGeminiが情報をまとめ直すサービスだ。元々は学習目的に作られたものだが、ビジネスからレポート制作まで、非常に有用なものである。
先日、NotebookLMが情報を音声でまとめ直す「音声概要(Audio Overview)」が日本語でも使えるようになり、大きな話題となっている。
確かに、この機能はすごい。資料を登録すれば簡単に音声番組が作れてしまう。
とはいえ、ちょっと「日本語音声番組が作れる」ことばかりに注目が集まり、本来の価値が見えづらくなっているように思う。
NotebookLMの価値は、自分で集めた情報をまとめてくれるだけでなく、その内容について質問して「知見を深めていける」ことにある。
筆者の場合、取材案件やプロジェクトごとにノートを作り、必要なメモや資料になる文書、取材音声、資料となるウェブのURLを登録しておき、事実確認などに使う。
例えば以下の画像は、4月に取材した「Google Cloud Next」の取材で、「スンダー・ピチャイ氏がここからの投資についてどう発言したか」を確認したものだ。テキスト起こしをしていない、「英語でのスピーチ録音」であっても、ちゃんと内容を日本語で出してくる。
要は、メモから情報を取り出す助けをしてくれるのが、NotebookLMの本質である。音声概要は取り出し方の1つに過ぎない。
筆者が記事を書くときは、記事に必要な情報や発言を取材メモの中から引き出すことを繰り返し、記事の構成を決めている。
もちろん従来は、こうしたことはメモを元にアウトラインを作る時、手作業で行なっていた。しかしNotebookLMを使えば、その作業をある程度簡略できるわけだ。
記事として引用する時などには、正確さの確認が必要になる。NotebookLMもハルシネーションと無縁ではない。
とはいえ、事実確認をしてみれば現状ほとんどの部分はNotebookLMの情報をそのまま使うことができており、実際の発言とのズレは「確認して微調整」レベルで済んでいる。
NotebookLM(というか生成AI)の特徴として、基本的に「まとめてしまう」傾向が強い。音声概要も、集めた情報に対して掘り下げが浅く、刺さりにくい内容になる。これは「まとめてしまう」が故に、尖った部分が消えているためだ。
そのため、記事で使う「強いライブ感のある言葉」は、NotebookLMのチェックを元に、元データから別途書き起こしをし、そこから使う必要がある。事実確認のためにもその方がいい。
逆にいえば、確認する部分を除くと「全文を書き起こす必然性」は減っている……ということになる。
なお、ウェブをNotebookLMに登録する場合には、Chromeの拡張機能である「NotebookLM Web Importer」の利用をお勧めする。
これを使うと、見ているウェブを簡単に、特定のノートへと登録できる。調べ物中に使うと非常に便利だ。
生成AIと検索をどう考えるか
情報検索も、仕事上重要な要素だ。
だが「生成AIに直接なにかを聞く」ことはしない。一方で「生成AIを介したウェブ検索やDeep Research」は多用している。
同じように生成AIを使っていても、両者には大きな違いがある。それは「根拠を示すか否か」だ。
今は情報を見つけるため、多くの生成AIが「基盤モデルに蓄積した知識」ではなく、ウェブ検索を使うようになった。理由は、その方が正しい答えが出やすいからである。
特にDeep Researchは有用だ。
ChatGPTが「Deep Research」を発表してから、記事を書く前段階での情報集めがずいぶん変わった。
従来は、検索サービスで情報を多数検索し、その中で妥当な情報を積み重ねて流れを確認、そこからエビデンスとして使えるものを積み上げていった。それを記事内で使う複数の情報について行なうので、検索作業自体は数十回に及ぶことも少なくない。
Deep Researchが出てからは、そこで「複数の検索を手作業でやってまとめなおす」必要がなくなった。
間違いはもちろんある。よく読んでいくと、検討すべき内容や引用すべきデータが間違っていることは少なくない。
しかし、それは自分でリサーチする時も起きるものだ。
そのまま信じず検討した上で、出典元を明記して「自分の文責の下」情報を使うというポリシーで使うなら、これほど便利なものはない。
現状筆者は、Perplexityのものを使うことも増えている。速度・UIの両面で、「なにかを尋ねるのに使う」ならベストだと感じる。Deep Researchの能力はサービスによって異なるので、場合によってはChatGPT、Claude、Geminiを並行して使い、それぞれチェックしている。
では、Google 検索を使っていないかというとそうではない。
商品名などの正式名称、価格、紹介すべきURLなど、「基本的なことは分かっており、正確な情報源を素早く見つけたい」時には、Google 検索の方が便利だからだ。
生成AIを使った「リサーチ」と「検索」は明確に違うものだ。
日常的にはリサーチより検索を行なうことが多く、そこではGoogle 検索の優位性は揺るいでいない。
Gmail検索はClaudeが優秀
最近、スケジュール周りで便利に使っているのは、GmailやGoogleカレンダーと生成AIの連携だ。
特にインパクトが大きかったのは、ClaudeのGmail/Googleカレンダーとの連携だ。
従来からGoogle WorkspaceはGeminiと連携していたものの、「Gmailから特定の日に関するメールを検索する」のが苦手だった。
特に日本の場合、日時の表記方法はバラバラだ。通常の検索はもちろん、Geminiを介した検索でも、いまだ漏れが多い。
一方ClaudeでのGmail/Googleカレンダー連携を使うと、かなり正確に抽出してくれる。
連絡は来たがGoogleカレンダーに登録し忘れた用件……というのもあるものだ。それを確認するにはとても良い。
一方で、ClaudeはAPIの制約から「スケジュールの登録」はできない。
そこで登録にはGeminiを使う。
「スケジュールを設定」と書き、用件・日時・場所と書いていけばOKだ。この辺は、メールからのコピペでいい。
複数の用件を同時に登録すると失敗するし、「今日の予定」を登録しようとすると、1年先の予定にしようとするのはご愛嬌。タイムゾーンが違う予定の場合も、それを書き添えればいい。
なお、Gmailから直接Geminiでスケジュールを登録できるようになったとのアナウンスがあったが、筆者の手元ではうまくいっていない。
ただし、Gmailにある「Gemini」欄から、テキストを与えて予定を登録することはできる。Gmailから画面を変えずに、近いところからコピペして登録できるわけだ。
出稿前のチェックはClaudeで
記事の校正支援・推敲にもClaudeを使っている。
具体的には、Claudeの「プロジェクト」を使って作った推敲支援を使うようになった。他の生成AIよりも提示内容がしっかりしており、修正した文章を生成、ダウンロードして使える。原稿側の最終修正にも有利だ。
Claudeのプロジェクトは、ChatGPTのGPTsと同じような機能だが、与えている指示は以下のような内容だ。
アップロードされた文書の内容をチェックし、以下の内容を確認、修正が必要な部分を赤字にし、修正前の部分もそのあとに青文字で入れ、markdown形式の文書にし、ダウンロード可能な形で出力してください。
チェックすべき内容は以下のものです。
・誤字脱字
・同じ接続詞が続けて出てくること
・よりよい表現
・社会通念上使うべきでない表現である
・構造的にわかりづらい
非常にうまく機能しており、満足度が高い。間違いがゼロになるわけではないが、見落とした点を「他人の目でチェックする」という役割は果たしてくれる。
気になる方はご自身でClaudeのプロジェクトを作り、上記の指示を入れて試してみていただきたい。
もちろんこの文章も、最終的にClaudeの推敲支援を通してから公開している。
ツールの多様化にどう対処するべきか
ツールはさらに多様化しつつある。
特に最近話題なのは「Manus」だろうか。仮想的なPCを用意し、AIエージェントとともにその中で作業をするツール、と言える。ブラウザー連携をはじめとした多様な機能を持っており、「AIにお願いしておいたらやっておいてくれる」的な操作感が面白い。
ただ、筆者はまだそこまで使っていない。この種のものは使い方のアイデアが重要であり、自分の仕事にどうフィットするかも大切だ。現状、「筆者にとっては」まだピンときていない部分が多いし、望む機能の方向が違うようにも思う。
ここは非常に重要なことだ。
特定のツールが良い・悪いという話ではない。求める仕事やその内容、方向性によって、生成AIの価値は大きく変わる。
単に賢いことが重要でもない。
冒頭で挙げたNotebookLMにしても、リサーチのための「AIの賢さ」だけでいえば、GPT-o3やClaude 3.7 Sonnetの方が上であるようにも思う。しかし、サービスとしてのユーザーエクスペリエンスが(少なくとも筆者にとっては)NotebookLMの方が優れているので、こちらを使っている。
メールやスケジュールの連動では逆だ。本来Googleの方が圧倒的に有利なのに、AIの賢さゆえか、Claudeを併用することになっている。
筆者にとっては、「情報をまとめてサポートしてもらう」ことはAIに助けてもらった方がいいが、「良い原稿を書く」という意味ではAIはまだ役に立たない。そもそも、文章を書くのが好きでライターをやっているところがあるので、そこをAIに任せたくない……というところもある。
同じライターでも考え方が違う人はいるだろう。
現状、生成AIが最も有効なのは「ソフト開発」だと思う。その場合、CursorやWindsurfなどのAI連動エディターは、もっと幅広く使えるだろう。前出のManusも同様だ。
リサーチやレポートを作るのが仕事ならまた別の発想があるだろう。
その人がなににAIを使うかは自由だ。
一方冒頭で述べたように、企業のルールがそれを縛る部分はある。そこでいかに柔軟性を維持し、「まだ見えていないAIの適切な活用方法」を見つけ出せる土台とする必要がある。そのため、ここ数年で「自由に社員にAIを使わせる」企業が増えた。
基盤モデルによる違いやサービス構築の試行錯誤が想定外に幅広く、想定よりも正解が出にくい状況にはあると思う。
AIの進化でツールがコロコロ変わることを考えると、特定のサービスにデータをロックインされるべきでない……という話もある。
例えばNotebookLMは、登録したソースやノートを外に書き出せない。これは非常に大きな欠点だ。だから取材メモ自体は別のファイルでちゃんと保存してある。
こうした部分もまた、サービスを選ぶ上では重要な要素にもなる。
筆者の使い方が、この辺の変化を読み解くヒントになれば幸いだ。