西田宗千佳のイマトミライ
第303回
ChatGPTなどに続々「学習モード」 学ぶこととAIの関係はどうなるのか
2025年8月4日 08:20
7月29日(米国時間)、OpenAIは、ChatGPTに「Study Mode(学習モード)」を搭載した。すでに日本からも利用可能になっている。
また同日Googleは、「NotebookLM」に「動画概要(Video Overviews)」を搭載すると発表。「Studio」パネルから、「学習ガイド」を併用しやすくする。
生成AIと学習については、「レポートを代筆させる」など、マイナスのニュアンスをもった話題が目立つ。しかし、実際には大きな可能性を持つものだ。
大手が打ち出した施策の意味と、教育の中での生成AIのあり方について考えてみよう。
ChatGPTの「学習モード」は「AIの質問」がキモ
これら機能の狙いがどこにあるのか?
それを考える前に、実際にどういう動きをするのかを確認してみよう。前述のように、ChatGPTの学習モードはすでに使える状態なので、今回はそちらをメインに説明する。
学習モードは、入力欄からモード切り替えをして、「あらゆる学びをサポート」を選ぶ。
すると、それ以降の質問への回答は学習モードのものになる。
まずは「カブトムシを育てる方法を教えてください」という質問を投げかけてみよう。
ChatGPTはまず「どう育成したいのか」の質問から入り、詳細を説明していく。
先に進むには必ず質問を挟み、なにをしたいのか・どういう結果を得たいのかを意識させる形でアウトプットを出す形だ。
それに対して通常のモードでは、簡素に必要な手順をまとめていく。
この辺はスクリーンショットでは分かりづらいので、回答をウェブの形で公開する。気になる方はチェックしていただきたい。
もう一つ、計算問題をやってみよう。「時速200kmで走行する電車が毎時5km/hずつ減速します。駅まで2,000kmの距離がある場合、到着にかかる時間は?」という問題だ。
シンプルな計算であり、通常モードでは計算の方法を説明しながら答えを出す。
だが学習モードではいきなり式を示すことはなく、ステップを追って計算のプロセスを示していく。
こちらも、スクリーンショットだけで語ると分かりづらいので、実例をリンクで示しておく。
ここからわかるのは、「学習モード」が答えを与えることを優先としていない、という点だ。
答えに至る流れの中で目的・結果を明確にし、問答自体を学びの機会にしようとしている。
アメリカの新学期に合わせた動き
ここにきて、OpenAIとGoogleが教育機能をアピールしてきたことには明確な理由がある。
下世話な話から入れば、アメリカなどでは新学期が9月からなので、それを見越した動きではある。
OpenAIはすでに多国語対応を行なっているが、Googleは「今後広げていく」という状況。アメリカ英語からのスタートとなっている。日本語よりも英語の方が展開しやすいから、という事情はあるものの、それ以上に、「アメリカでのニーズは目の前に迫っているが、日本などはもう少し時間をかけてもいい」という判断があるからだろう。
GoogleはNotebookLMだけでなく、Google検索の「AI Mode」にも学習支援機能を搭載する。こちらも、AI Mode自体がアメリカ・インド・イギリスといった英語圏のみで展開されていることもあって、まずは英語での展開となっている。
もちろん、日本が夏休みに入り、自学自習のニーズが増すという読みもあるだろう。とはいえ、まずはアメリカでの新学期ニーズが主軸。学校などでの利用を考えれば、そちらの方がニーズは大きい。
「情報を与えて質問する」学びを実現するNotebookLM
そしてもう一つは、生成AI自体が教育の中では悪者にされがちであることへの対策だろう。
生成AIは、本質的には「質問に対してそれらしい回答をするサービス」であり、正解を与えてくれるものとは限らない。
だが、人間はネット検索でも生成AIでも、「機械に質問できるサービス」があると、そこになにかを尋ねてしまう。現実問題として、「わからないことを教えてくれる箱」として使ってしまうのだ。
利用者のニーズがそこにある以上、生成AIのサービスを提供する側も「できるだけ正しい答え」を提供するよう工夫している。AIモデル自体の改良に加え、ネット検索した情報をソースとして示すことや、内部でPythonのアプリを書いて計算や統計処理、図表作成などを行なうようになったのも、その流れと言っていい。
一方で学びを目的とするならば、必要なのは答えだけではない。質問することとそこへの回答は、自学自習にとって重要なものと言える。それができるなら、ある種の学習教材をサービスが自動生成してくれている……と考えることもできる。
2023年5月、「教育を軸としたAIサービス」として公開されたのがGoogleの「NotebookLM」だった。同社肝入りの、力が入ったサービスではあったのだが、多くの人が実際に使えるようになるまで、あまり話題にはならなかった。日本の場合、言葉の壁があったから特にそうだろう。
実際に使えるようになってみると、その便利さと価値がようやく浸透してくる。
「音声概要(Audio Overview)」や、今後登場する「動画概要(Video Overviews)」は派手でバズりやすい機能だ。
だが本当に便利なのは、「資料や音声を用意すれば、その内容について質問・確認できる」ということだ。質問が内容の理解を促し、そこから情報をまとめ直すことが、さらに他人への理解も広げる。音声概要・動画概要はその先にあるものだ。
筆者も仕事に日々使っておりもはや手放せないツールなのだが、これも別の言い方をすれば「取材内容について学ぶための使い方」と言える。
NotebookLMは今もGoogleの教育向けサービスの主軸であり、教育向けの「Google Workspace for Education」の中に含まれる。Geminiの教育版である「Gemini for Education」も用意される。
MM総研の調べでは、小中学校での教育用端末の更新整備が開始されている「GIGAスクール構想第2期」において、GoogleのChromeOSがシェアを大幅に拡大、60%を占める見通しであることがわかった。
理由は管理・運用のしやすさと価格。そして、教師向けの支援体制が充実していること、とされる。生成AIを軸にした機能も、今後その中で大きな役割を占めることになりそうだ。
年齢層の高い人のための学びとしては、研究者や出版社によるNotebook公開も行なわれている。Googleは同社のAIにおけるキラーサービスの一つとして、NotebookLMを強く押し出しているわけだ。
日本の教育ガイドライン 「使うな」ではなく「人間中心の原則」で
では、教育の場自体は、生成AIにどう取り組んでいるのだろうか?
実は日本は、相当初期から明確な方針を出している。
最初にガイドラインが出たのは2023年7月4日のこと。ChatGPTが話題になり始めたのが2022年末だからかなり早い。実際、「夏休みの宿題での利用にどう対処するのか」という声を受けて、急遽まとめたものだった。
「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」は2024年12月、Ver.2に改定されて現在も運用されており、各種情報は以下のサイトで公開されている。
基本路線は「人間中心の原則」。あくまで児童生徒の資質・能力の育成を目指すことが目的で、生成AI自体の利用が目的とならないように定められている。
その上で学校での利用可否は「一律に定めない」とされ、現場で判断する。ガイドラインもそのための指針だ。
その上で「AIの回答をうのみにせず、多面的・多角的な意見や思考の育成を重視する」「正解主義(唯一の答えをAIから得る)に陥らない」ことが定められており、AIが「答えを出す箱ではない」ことが強く意識されている。
また、生成物の著作権上の取扱いや、入力した内容についての取り扱いにも注意が定められている。
ガイドラインは2.0へ改定されているものの、基本的な方針に変更はない。具体例や説明責任、著作権などの対応について、実践から得られた記述が追加された……という形である。
このことは、結局のところ、検索エンジンの利用に近い判断でもある。出てくる答えが異なるものの、「それをどう使うか」がポイントになる。
だとすれば、答えを出すのではなく「答えの過程をAIと話し合う」学習モードやNotebookLMは、このガイドラインの目的にも沿う。
生成AIというと「賢さ」に注目があつまりがちだ。
しかし、利用する側にとって重要なのはそれがどんなサービスにまとまっているのか、という点である。だとすると、学習モードなどはまさに「目的にあったサービスとしてのAI」であり、現在のAIサービスがどういう方向に向かうのかを示している、と言えそうだ。

















