石野純也のモバイル通信SE

第98回

スマホのカメラはまだ進化できる 「Xperia 1 VIII」が広げる“可能性”

ソニーの新フラッグシップモデルとなるXperia 1 VIIIが発表された。オープンマーケット版は6月10日の発売を予定する

ソニーは、Xperiaの最新モデル「Xperia 1 VIII」を発表した。Xperia 1は同シリーズのフラッグシップモデルという位置づけで、カメラ、ディスプレイ、音楽再生にソニーの技術を結集させている。

特に最近では、デジタル一眼カメラで評価の高い「α」の機能を取り入れ、画質だけでなく、オートフォーカス(AF)など、撮影のしやすさにもこだわっている。

ソニーの新フラッグシップモデルとなるXperia 1 VIIIが発表された。オープンマーケット版は6月10日の発売を予定する

Xperia 1 VIIIデザイン一新の意味は「カメラ」

Xperia 1 VIIIは、デザインも一新した。特に大きく変わったのが、20年に発売された「Xperia 1 II」以来、同シリーズの象徴になっていたカメラの配置だ。これまでのXperia 1は、超広角、広角、望遠の3つを縦に並べ、背面端に置くことでシンプルながらもカメラらしいたたずまいを維持してきた。対するXperia 1 VIIIでは、四角い台座のようなパーツを設けて、その2×2に区切られるようにカメラを設置している。

カメラ周りのデザインが変わっており、これまでのXperia 1とは印象が大きく異なる

カメラユニットが背面から飛び出すようなデザインは、iPhoneをはじめとしたハイエンドスマホでおなじみのスタイル。その姿を見ると、これまでのXperia 1からフルモデルチェンジしたように見える。では、ソニーはなぜここまで大きくデザインを変えたのか。その背景には、単なる意匠の刷新ではなく、カメラ機能を強化するためという意図がある。

Xperia 1 VIIIは、広角カメラなどはそのままだが、望遠カメラを刷新しており、センサーを先代の「Xperia 1 VII」比で4倍に大型化した。サイズは1/1.56インチ。大きさで言えば、ミッドレンジモデルのメインカメラに匹敵する。中国メーカー製でカメラにこだわるスマホも、望遠カメラの主流は1/1.56インチから1/1.4インチ程度。Xperiaも、フラッグシップモデルとしてそこに肩を並べた格好だ。

手前から3つのカメラユニットを見ると、2つのカメラの下に配置された望遠カメラがかなりのスペースを取っていることが分かる。デザイン変更に踏み切ったのは、これを搭載するためだ

一方、望遠カメラを大型化し、かつ倍率を上げるためにペリスコープ(潜望鏡)構造を採用した結果、これまでのデザインでは、カメラをボディに収めることが困難になってしまったという。スマホのサイズに納めつつ、性能を取ったため、デザインを変えざるをえなかったというわけだ。

しかしこれにより、望遠カメラの画質が大きく向上したうえに、センサーから切り出して140mmまでのズームをすることも可能になった。

4800万画素のセンサーから切り出しを行なうことで、140mmまでのズームを可能にしている

また、これまで望遠カメラで利用できていたテレマクロは、オートフォーカスに対応。AIが被写体を検知し、縦と横の動画を同時に撮る「オートフレーミング」も、望遠カメラで利用できるようになった。さらに、すべてのカメラでRAWの重ね合わせ処理を行なうことで、ダイナミックレンジを広げている。

望遠カメラのオートフレーミングにも対応した

本当の「カメラコーチ」は“センス”をAIが補間する

カメラでもう1つ新しい要素として打ち出されているのが、AIの活用だ。AIを取り入れた画質向上や補正は、どのスマホでも利用されているが、Xperia 1 VIIIが新たに対応する「カメラアシスタント」はAIが画像そのものをいじるのではなく、ユーザーに設定や構図の変更を促すというもの。発想としては、グーグルの「Pixel 10」シリーズが搭載する「カメラコーチ」に近い。

ただし、Pixelのカメラコーチはユーザーが手動で1つ1つ設定を変更していく手間がかかっていたが、Xperia 1 VIIIのカメラアシスタントはワンタップするだけ。タップすると、被写体に合わせたクリエイティブルックを適用したり、ズームして背景の写る面積を減らして人物などを強調したり、背景ボケをかけたりといったことができる。

カメラアシスタントの提案が表示される。タップすると、より桜や青空が鮮やかになった
ボケや使用するレンズの提案もしてくれる

処理はオンデバイスで行なっており、被写体認識や設定変更は一瞬で行なえる。いくらスマホの画質が向上しても、最終的な写真は、それを撮る人間のセンスのようなものに依存する。カメラアシスタントは、それをAIで補うことが可能だ。

ソニーグループの社長CEOを務める十時裕樹氏は、5月8日に開催された経営方針説明会で、AIは「アーティストやクリエイターに取って代わるものではなく、人の可能性を引き出すツール」と話していたが、カメラアシスタントはこうした方針に沿った機能と言えるかもしれない。

フラッグシップとしての充実 課題は“価格”

もちろん、フラッグシップモデルとして、その他の性能も底上げされており、チップセットにはクアルコムの「Snapdragon 8 Elite Gen 5」を採用。これまでどおり、BRAVIAの画質を再現するXperia Intelligenceにも対応する。さらに、Bluetooth接続も改善しており、ソニー製のワイヤレスイヤフォン「WF-1000XM6」と組み合わせた場合、混雑した駅や街中でも途切れることなく音楽を楽しめるようになったという。

BRAVIAの画質チューニングは継承。さらに、Bluetoothイヤホンの音飛びを減らす技術にも対応した

イヤフォン側で受信感度を高めているが、それに加え、Xperia 1 VIII側にも音飛びを最小限にするよう、アンテナの送信パワーを高めており、無線が飛び交う混雑スポットでの接続性を改善した格好だ。こうした取り組みができるのは、音楽再生装置としてのスマホと高性能でシェアの高いワイヤレスイヤホンの両方を作っているソニーならではと言えるだろう。

ただ、メモリ不足などによるコストが上昇した結果、オープンマーケット版の販売想定価格は最低構成の12GB(メモリ)/256GB(ストレージ)版が23万6,000円前後と、これまでのXperia 1よりさらに価格が上がってしまった(Xperia 1 VIIは20万5,000円だった)。10万円台前半のハイエンドモデルと比べても、購入のハードルは高く、手に取るユーザーはおのずと絞られてくる。

ミッドレンジモデルの「Xperia 10 VII」との隔たりも大きく、ラインナップとしてバランスが少々悪い。高機能なXperiaを気軽に楽しみたいニーズにはこたえられていない。その間を埋める端末がないことは、ソニーにとっての課題と言えそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya