石野純也のモバイル通信SE
第74回
激化するケータイ“空”の戦い スターリンク“も”試せるau SIMが狙うもの
2025年5月14日 08:20
KDDIは、5月7日に新料金プラン「auバリューリンクプラン」を発表した。この場で合わせて披露され、同日から利用可能になったのが「au Starlink Direct専用プラン」だ。
このプランは、4月に開始されたau Starlink Directをau以外のユーザーが利用するためのもの。UQ mobileやpovo 2.0といったau以外のKDDI回線も、au Starlink Direct専用プランに加入する必要がある。
スターリンク“も”試せる1GBのau SIM「au Starlink Direct」
都度契約するものではなく、通常のau回線と同様、月額料金が発生する。料金は1,650円。6月30日までのキャンペーンが適用されると、料金は6カ月間0円になる。新規契約手数料には3,850円かかるが、これもau PAY残高に全額還元され、実質0円になる。また、UQ mobileのユーザーは、6月3日に導入される新料金プランの「コミコミプランバリュー」か「トクトクプラン2」に加入すれば、月額料金が550円まで下がる。
専用プランと銘打っているものの、実際にはau Starlink Directに対応したau回線が新規発行される形になる。SIMカードもしくはeSIMのどちらかを選択でき、ユーザーは2回線目としてこれを利用する形だ。デュアルSIMの仕組みを生かしたものだが、国内で流通している端末の多くは物理SIMのスロットが1つしかなく、2回線目以降はeSIMという形が多いため、eSIMで契約するのが一般的だ。
au Starlink Direct専用というと地上の基地局にはつながらなそうなイメージを持たれるかもしれないが、実際には、auの通信を毎月1GBまで利用できる。「スマホミニプラン+」などの小容量プランでもau Starlink Directを利用できることに鑑みると、“Starlink推し”の名称とは裏腹に、仕組みとしてはau回線のデータ通信1GBプランに近いと言えそうだ。
実際に筆者も契約してみたが、回線の管理は通常のau回線と同様「my au」で行なう。
オプションとして、iOS用のRCS(Rich Communication Service)に申し込むことが可能。データ通信専用ながら、SMSも利用できる。いつ使うか分からないau Starlink Directのために毎月1,650円かかるのはなかなか手が出しづらいが、メイン回線のデータ容量が不足した際やパケ詰まりなどでつながらない時のための予備回線と考えれば、契約のハードルは下がる。6カ月間無料を生かし、他社ユーザーはau回線の品質を試すために契約してもいいだろう。
auユーザーに無料提供されてきたau Starlink Directだが、有料化は当初から視野に入っていたことがうかがえる。
4月のサービス開始時に、KDDIの代表取締役社長CEOの松田浩路氏は「“まずは”広く使っていただきたいという思いを込めて、(auユーザーには)当面無料にした」「“本日時点で”お使いいただけるのはauのお客様のみ」と語っており、UQ mobileやpovo 2.0のユーザーへの提供にも含みを持たせていたからだ。
データ容量無制限が主流で比較的料金の高いauであれば、au Starlink Directは無料提供できるが、それ以外のUQやpovoなどのブランドでは、運営コストを回収するのが難しい。そう考えると、有料化するのは自然な流れだ。海外でもStarlinkを活用した直接通信サービスを提供しているキャリアは、KDDIに近い施策を採用している。
例えば、米T-Mobileは、自社の最上位プラン向けにはStarlinkのダイレクト通信を無料にしている一方で、それ以外の料金プランを使うユーザーや、Verizon、AT&Tといった他社のユーザーにも有料でサービスを提供している。自社のプレミアムな料金プランの特典にしつつ、それ以外のユーザーからは対価としての料金を取るという戦術はKDDIと共通する。他プランや他社に有料提供されていることで、無料で使えることのお得感も出てくる。
開始1カ月でスターリンク“開放”の理由は?
ただ、その提供時期が5月7日と、au Starlink Directそのもののサービス開始からわずか1カ月後だったのは完全に予想外だった。夏以降、au Starlink Directでデータ通信が可能になってからだと思っていた向きは多いのではないだろうか。衛星の数が増え、容量が十分になってからの方が、安定してサービスを提供しやすいからだ。
その背景には、サービス提供後にau Starlink Directがユーザーから好評だったことがある。店頭を見ると、対応機種には大々的に「au Starlink Direct対応」のポップが飾られており、auユーザーにも関心を持たれているという。また、サービス開始当初は「1日あたり数千名だった利用者がゴールデンウィークでグッと伸び、1日あたり4万人に近くなった」(松田氏)という。
普段は行かない登山やキャンプなどの遠方に出かけやすいゴールデンウィークとau Starlink Directは、特に相性がよかったことがうかがえる。KDDIでは、こうした反響の大きさや、実際の利用の伸びを踏まえ、au Starlink Direct専用プランの提供を急いだようだ。
また、26年には他社も低軌道衛星を使ったダイレクト通信のサービス提供を開始する。楽天モバイルは、AST SpaceMobileの衛星を使い、26年第4四半期に「最強衛星サービス」を開始すると発表。ドコモは、5月に開催された決算説明会で「ファクトとして、私どもも来年夏にはサービスを開始できるめどが立っている」(代表取締役社長 前田義晃氏)と語っていた。
ソフトバンクも、「来年自社サービスとして提供する予定。具体的な衛星会社の名前は控えるが、実際に準備は終わっている」(代表取締役社長執行役員兼CEO 宮川潤一氏)とコメントしている。
他社のユーザーにau Starlink Direct専用プランを提供することで、ダイレクト通信のサービスに先手を打ったとの見方もできる。KDDIの松田氏は「日本のお客様に、1年後でも2年後でもなく、今すぐお届けしたい。この強い思いで実現した」と述べていたが、「1年後」や「2年後」という具体的な時期を否定していたのは、他社をけん制する意味合いがあったと見ていい。
激化するケータイキャリアの“空”の競争
一方で、ドコモは26年に成層圏で無人航空機のHAPSを使ったサービスを立ち上げる予定。25年中にも実証実験を開始する。HAPSの可能性に着目し、いち早く開発に取り組んできたソフトバンクも、当初、国内での提供に否定的だったが、この方針を転換。「現在、国交省と最後の大詰めをしているので、可能性があれば早期にサービスをしたい」(宮川氏)と表明した。
低軌道衛星と比べ、HAPSの方が地上と距離が近いぶん、エリアは限定されるが通信速度も上げやすい。また、KDDIや楽天モバイルはこの分野に未着手。ドコモとソフトバンクがリードしている状況だ。“空との通信”という意味ではダイレクト通信で後れを取った2社だが、HAPSでどう巻き返してくるのかにも注目したい。