石野純也のモバイル通信SE

第73回

怒涛の新製品で攻めるシャオミ、厳選のNothing 真逆の日本スマホ攻略

怒涛の勢いで新製品を投入してきたシャオミ。写真はXiaomi 15 Ultra(手前)とXiaomi 15(奥)

3月から4月にかけ、スマートフォンの新製品が続々と投入された。その中でも海外2社の日本市場展開は大きく異なるものとなっている。

シャオミ“怒涛”の新製品ラッシュと“厳選”のNothing T

中でも機種数が群を抜いて多かったのが、中国メーカーのシャオミだ。同社は、3月にフラッグシップモデルの「Xiaomi 15 Ultra」やミッドレンジモデルの「Redmi Note 14 Pro 5G」を発売。オンライン専用のサブブランドとなるPOCOからも、フラッグシップモデルの「POCO F7 Ultra」やハイエンドモデルの「POCO F7 Pro」がリリースされた。

Redmi Noteシリーズの最新モデルとなるRedmi Note 14 Pro 5Gも、今年はオープンマーケットモデルで発売された

4月には、フラッグシップモデルの標準機である「Xiaomi 15」を投入。さらにPOCOのミッドレンジモデルにあたる「POCO M7 Pro 5G」もラインナップに加えている。3月、4月の2カ月、かつスマホだけで実に6機種も発売している格好だ。

これらに加え、家電製品や周辺機器なども投入しているため、シャオミにとってこの2カ月は新製品ラッシュだったと言える。

POCOも、フラッグシップモデルを投入。POCO F7 Ultra/Proを発売した
4月には、ミッドレンジのPOCO M7 Pro 5Gも発売している

バリエーションの豊富さで攻めるシャオミに対し、新興メーカーのNothing Technologyは、グローバルで2機種展開だった「Nothing Phone(3a)」シリーズをあえて1機種に絞り、上位モデルでペリスコープ型の望遠カメラを搭載した「Nothing Phone(3a)Pro」の日本市場投入を見送っている。

日本で発売されたのは、ミッドレンジモデルのNothing Phone(3a)のみ。昨年発売になった「Nothing Phone(2a)」の正当な後継機にあたり、カメラやAI機能を強化している。

カメラやAI機能を強化したNothing Phone(3a)

Felica対応など対象的な2社の日本戦略

誤解を恐れず言えば、2社とも、現状では日本で高いシェアを誇る“定番”のスマホメーカーではない。

シャオミに関しては、ミッドレンジモデルを中心にキャリアでの販売も広がり、順調にシェアを伸ばしているが、2024年時点では出荷台数131.3万台でシェア5位にとどまっている。iPhoneはもちろん、同じAndroidスマホメーカーでも年間300万台を超えるシャープやグーグルには及んでいない。19年の新規参入からまだ間もないこともあり、知名度では上位メーカーにやや劣る側面がある。

MM総研が発表した24年のメーカー別シェア。シャオミは5位につけているが、海外に比べるとまだまだその位置は低い

もう1社のNothingは、その位置づけがよりスタートアップに近い。同社自体が創設されたのは20年で、シャオミの日本市場参入よりも後になる。スマホの初号機でもある「Nothing Phone(1)」を発売したのは22年。初代モデルの発売からまだ丸3年も経っていない。

一方で、日本市場への参入もほぼ同時期に実現。背面が光るスケルトン仕様のボディなどが話題になり、徐々に日本でも存在感を増してきた中、楽天モバイルでの販売を開始し、シェア拡大に弾みをつけようとしている。

キャリアがNothingのスマホを取り扱うのは、これが初めて。楽天モバイル限定でブルーを用意した

おもしろいのは、2社が日本市場向けのローカライズに対して真逆の戦略を取っていることだ。先に挙げたように、シャオミは2月、3月で計6機種を投入したが、いずれもおサイフケータイには非対応。さらには、キャリアでの取り扱いもなく、すべてオープンマーケットモデルとして展開されている。もちろん、技適などの認証取得や周波数対応など、最低限のローカライズは施されているが、基本的な仕様はグローバル版に近い。

昨年11月から12月に発売された「Xiaomi 14T」や「Xiaomi 14T Pro」のように、FeliCa対応でかつキャリアからも発売されたモデルはあるが、Xiaomi 15 Ultraなど、3月、4月に発売された製品は方針が異なっているという。

発表会では「日本に来ることが決まったあとにFeliCaをつけるかというより、まずはグローバルで要望の高い製品を要望が高いまま持ってくるのが第一だった」(Xiaomi Japan プロダクトプランニング本部 本部長 安達晃彦氏)と語られている。

4月にXiaomi Storeをオープンすることもあり、どちらかと言えば品数重視で、かつグローバル版と発売日を近づけることが狙いだったと言えるだろう。安達氏は、「(店頭に並ぶ端末が)ないよりは、あった方が我々のラインナップやグローバルでの強さ、商品のユニークさをお伝えできる」としていた。

グローバルで要望の高い製品を、なるべく近い発売日に導入することが狙いだったと語ったXiaomi Japanの安達氏。写真は発表会登壇時のもの(人物写真は、以下同)

市場規模には限りがあるため、メーカーがラインナップを増やすと、1機種あたりの販売数がより落ちてしまい、当然ながら採算性が悪化する。シャオミの場合、年間の販売数が130万台程度のため、本来であればここまでのバリエーションを展開するハードルは高い。一方で、仕様がグローバル版に近ければ、他の海外市場との在庫調整がしやすくなるため、少量でも製品を販売できる。多品種展開とローカライズなしでの販売は表裏一体というわけだ。

これに対し、Nothingは昨年発売されたNothing Phone(2a)で初めておサイフケータイに対応した。同モデル発売時には、創業者兼CEOのカール・ペイ氏が自ら日本に3週間ほど滞在。「FeliCaが使えないと切符を買わなければならず、わずらわしさを感じた」と語っている。「(それ以前の端末は)FeliCaがない中でセールスを見ていたが、市場のポテンシャルを正確に捉えられない」というように、同機能を本社レベルで“必須”と考えていることがうかがえる。

24年の発表会では、FeliCaの必要性もペイ氏自らが語っていた。同氏は、Nothing Phone(3a)の発表会でも来日。日本市場を重視している様子がうかがえる

Nothing Japanを率いるマネージングディレクターの黒住吉郎氏は、同社が過去にグローバル仕様のまま導入したエントリー機の「CMF Phone 1」を引き合いに出しつつ、「Nothing Phone(3a)はミッドレンジモデルなので、やはりFeliCaは必要という判断基準でやった」と明かす。Nothing Phone(2a)に続き、3aも「日本版は独自のSKU(商品)」として投入する。

ミッドレンジにはやはりFeliCaが必要と語る、Nothing Japanの黒住氏
Nothing Phone(3a)もおサイフケータイに対応する

ただ、この仕様だと日本市場のマーケットサイズに合わせて、専用モデルを作り起こさなければならない。そのため、特に小さなメーカーにとってはリソースの制約から多品種展開が難しくなる。

黒住氏が、「いたずらにプロダクト数を増やすのではなく、厳選した」と話すように、現時点ではNothing Phone(3a)Proの投入は見送られているようだ。FeliCaを搭載するためにモデル数を絞ったのかという筆者の問いに対し、同氏は「それも(理由として)ある」と語る。

グローバルではNothing Phone(3a)Pro(写真右)も販売されているが、日本では未展開。価格も高くなるため、FeliCaを載せて数を出すのであれば標準モデルの方がいいという判断が働いたようだ

真逆の戦略にみる「販路」の違い

日本市場に向けたローカライズをしつつ、多品種展開できるのがベストなことは確かで、実際にアップルやサムスン電子はそのような戦略を取っている。一方で、規模の小さなメーカーではそれが難しい。結果として端末の、バリエーションとローカライズを天秤にかける形になる。前者を選んだのがシャオミ、後者を選んだのがNothingだ。

この判断の背景に、販路の影響もある。自社販路のXiaomi Storeに注力しているぶん、シャオミは自由にラインナップを組めるが、楽天モバイルと組んだNothingにはおサイフケータイを外す選択肢はなかったはずだ。また、シャオミがすでに一定のシェアを取っていることも、こうした戦略に踏み切れた背景と言えるだろう。

逆にNothingは、キャリアとの提携で規模を伸ばしていく時期だった。

真逆の戦略を取ったシャオミとNothingだが、両社が置かれている立場の違いも関係していると言えそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya