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人気の「モネ展」 京橋のアーティゾン美術館で「クロード・モネ」を全身で浴びた
2026年2月14日 18:30
東京・京橋のアーティゾン美術館にて、モネ没後100年「クロード・モネ —風景への問いかけ」展が、2月7日に開幕した。会期は5月24日まで。印象派の巨匠クロード・モネは、自然光の移ろいに魅せられ、その美しさをカンヴァスにとどめようと生涯をかけて探求した。没後100年を記念し、モネの最も重要かつ網羅したコレクションを誇るオルセー美術館から、最高峰の作品41点ほか全約140作品により、風景画を革新したモネの真髄に迫る。
会期:2026年2月7日(土)〜5月24日(日)
会場:アーティゾン美術館
入館料:
一般 2,100円(ウェブ予約) 2,500円(窓口販売)
大学生 専門学校生 高校生 中学生以下無料(高校生以上要ウェブ予約)
唐突だが、まず記しておきたいのが、このページを開いた時点で、まだ同展を見ていないのなら、今展は日時予約制のため、まずは行ける時に予約可能かを調べるか、予約できる時間に仕事などの予定を動かせるかを検討してみた方がいいだろう。
クロード・モネ作品を見るのにふさわしい場所
これから「クロード・モネ —風景への問いかけ」展について記すのだが、その前に、展覧会の会場であるアーティゾン美術館について少し触れたいと思う。東京都内では同館ほど、風景の一瞬をカンヴァスに描いたモネの作品を鑑賞するのにふさわしい場所は、ないのではないかと思うからだ。いや、感じ方は人それぞれなので、異論はいくらでもあるだろう。ただ筆者は、今回の展覧会を見終わった時に、そう感じた。
アーティゾン美術館は、ガラス張りの高層ビルが立ち並ぶ、東京駅や日本橋のほど近くにある。2020年に建て替えられたばかりのきれいなブリヂストンビルに入り、2階までの長いエスカレーターを上がっていく。高級ホテルのフロントかのような空間を抜けて、エレベーターに乗り展示会場へと向かう。ここまでの特別感のある導線が、筆者はとても好きだ。
今回の展覧会タイトルに「風景への問いかけ」とあるように、展示作品の多くは風景画。
クロード・モネは、西暦1840年にフランス・パリで生まれた。日本で言えば江戸時代の末期。その頃のフランスはオルレアン朝の七月王政下で、モネが8歳の時には二月革命が起こり第2共和政となるものの、同年末にはナポレオン3世が台頭する。さらに言えば、モネが現在で言えば中学生の頃に、日本へはアメリカのペリーが来航した……などと言えば、歴史が好きな人には「あぁ、その頃ねぇ」と伝わるかもしれない。
フランスでは、政治体制が激動していたのと同時期に、イギリスで始まった産業革命が、遅まきながらこの頃にフランスへ伝わってきた。そういう時代が激変する時期にクロード・モネは育った。
さて、モネは10代後半、カリカチュア(戯画・似顔絵)を描いていたそう。そんな彼が風景画を描き始めたのは、先輩であり師であるウジェーヌ・ブーダンと出会って以降のこと。それからの彼は戸外で風景をありのままに描くようになる。
展示室に入ると、今は観覧者で混み合っているかもしれないが、絵画が比較的ゆったりと配置されている。第一章では、モネを風景画の道へと導いた師のウジェーヌ・ブーダンや、風景画の先駆者であるコローやトロワイヨン、ドービニーなどバルビゾン派の先輩たち、それにシスレーやバジールなど印象派の仲間の作品が展示されている。
写真時代に何をどう描くべきかを追求
第2章は「写真室 1:モティーフと効果」、モネの絵画作品を見たいと思っている人には、「え? なんで写真なの?」と思うかもしれない。かくいう筆者もそう思ったし、通り過ぎようとした。
ただし帰宅後に考えが浮かんだ。「モネが若い頃の、まだ普及し始めたばかりの写真機や写真は、現在のAI画像生成のようなものだったかもしれない」と。それらは便利なもので、多くの人には「絵画ではなくこっち(写真)でいいじゃん」と満足させるものだったはず。画家にとっては写真は煙たい存在だったかもしれない。
そんな写真の黎明期に、モネは写真家たちと「同じ場所(モティーフ)」で「同じ光や空気(効果)」を共有していた。そうした環境で、モネは絵画にしかできない表現を、追求していったのだ。
どこで何を画題にするかの「モティーフ」と、それをどう描いたり写し撮るかという「効果」を、写真家たちと共有していた、いわばモネの仲間の写真家たちの作品が、第2章で展示されている。展示室を、ほぼ素通りしそうになったが、通り過ぎながらササッと見たところ、150年前に鷄卵紙でプリントした写真でも、さっき撮ったかのように、光はもちろん空気感まで伝わってきて驚いた。
クロード・モネ作品をひたすら浴びる
第3章「《かささぎ》とその周辺―雪の色」以降は、存分にモネの描いた作品を、浴びてほしい。もちろん各章ごとに、モネが何を(モティーフ)どう描くか(効果)という課題を、感じられるように展示されている。おそらく行列になってしまうだろうが、流されながら見るのではなく、時には人の流れから離れて見る時間も作りたいところだ。
例えば、第3章のタイトル「《かささぎ》とその周辺―雪の色」は分かりやすい。描いたのは、当時モネたちが家族で暮らしていたエトルタの、近所の平凡な雪景色だ。雪を単調な「白」として描くのではなく、影の部分だからといって「黒」を使わず、実際に見て感じられる雪と影の部分の質感まで表現している。同作品を撮った筆者の写真では、単なる「白」にしか過ぎない雪を、モネがどんなふうに描いているのか、作品の前に立ってじっくりと見てほしい。
第4章では、モネの身の回りで近代化が進んでいく様子を描いた作品が並ぶ。おそらくモネが試みたのは、近代的な人工物を絵画でどう描くべきか、また煙や蒸気のような無形のものをどう表現するか。
同じく第4章で見られる《パリ、モントルグイユ街、1878年6月30日の祝日》は、「わぁ〜!」という群衆の歓声が聞こえてきそうな作品。モネは、静かな情景を描いた画家というイメージが筆者の中では強いが、上述の《サン=ラザール駅》とともに、こうした絵も引き込まれるような迫力を感じる。
ここまで色々と書いてしまったが、「モネっていいよね」と作品を眺めながら、展示室を歩くだけで満足感に浸れる。
第5章の「四季の循環と動きのある風景」は、主に1878年から1880年に描かれた作品が並んでいる。それらは厳しい自然を描いたものや、どよんと暗めの作品が多く、鑑賞するこちらも少し気持ちが引きずられた。
だが、第5章の最後のように展示されている、1886年に描かれた《戸外の人物習作―日傘を持つ右向きの女》で、ホッとするやらパッと明るい気持ちになる(同作品は第6章に属す)。「あぁ! これだぁ!」と思う人もいるだろうし、この一作を見ることが最大の目的という人も多いだろうから、混雑が予想される。
第7章の「ジャポニスム」の部屋を抜けると、第8章の「連作—反復—屋内風景」へと続く。
エスカレーターで1つフロアを下りて、展示室に入ると、部屋全体を明るくしてくれるような作品が出迎えてくれる。1900年に描いた《ジヴェルニーのモネの庭》だ。
ジヴェルニーと言えば、モネが1883年から1926年に亡くなるまで過ごした場所でありモティーフ。代表作というか、代表的な連作である「睡蓮」などを描いた池があるのもここだ。よく「日本が好きだったモネは、日本風の庭を作った」といった話を聞くが、眼の前に広がる《ジヴェルニーのモネの庭》は、西洋風だ。アヤメのような紫色の花がたくさん咲いているが、これがアイリス(アヤメ)なのかは、筆者には分からない。
このフロアには、クロード・モネが写ったカラーの写真が何枚かあり、あらためて「思っているよりも最近の人なんだな」と身近に感じる。ちなみに生没年は1840〜1926年。
また、「あぁ〜見たことある!……かな?」というような、モネっぽい作品がいくつか見られる。特に《睡蓮の池、緑のハーモニー》は、緑色の粒子が絵から放出されているような雰囲気。やはりジヴェルニーで描かれた作品は、日本人が共感しやすく心に残りやすいのかもしれない。もし作品の隣に「いいね」ボタンがあったら、何度も押すだろう。
贅沢なラインナップの「カタリウム」展
という感じで、「クロード・モネ —風景への問いかけ」展を見終わった。今回の展示は、全約140作品のうちクロード・モネの作品が60点弱。こうして数字を挙げると、モネの作品が少ないように感じるが、見終わった後に聞くと「え……もっと多かった気がする」と思うほど、モネ作品のなかでも見応えのある絵が集まったのだろう。
気持ちの良い疲れを感じつつ、「クロード・モネ —風景への問いかけ」展の会場をあとにし、エスカレーターで1階下がると……同時開催されている「カタリウム」展が開催されている。
もう帰ろうかと思いつつも、試しに……という感じで展示室を覗いてみると、特別な雰囲気の空間に青木繁の《わだつみのいろこの宮》が架かっている。
青木繁が画家ではなかったら、ブリヂストン創業者の石橋正二郎さんは美術を熱心に蒐集することもなかったかもしれず、つまり前身のブリヂストン美術館は建てられなかったかもしれない。そんな、アーティゾン美術館にとっては所蔵品のなかでも、とりわけ大事な画家であり作品の1つ。
その後も、第2代征夷大将軍の徳川秀忠の娘・和子(まさこ)が、天皇家へ入内(じゅだい)する様子が描かれている《洛中洛外図屏風》は圧巻。状態がとても良く、きらびやかでなおかつ、行列や群衆、様々な名所などの情報量がとにかく膨大。
展覧会の後期(4月3日以降)には、江戸城の御天守(天守閣)のもとで繰り広げられた山王祭を描く《江戸天下祭図屏風》が、見られるという。いずれも石橋財団アーティゾン美術館蔵。
そして「え? こんなのが見られるの!?」と鼻息が少し荒くなるのが、様々な美術館や博物館、個人から集められた《平治物語絵巻》と《伊勢集》の断簡。
ほかにも、ほかにもと記しておきたい作品は切りがないので、このあたりにしておく。
展示室を出て、入ってきた時に通った明るくきれいな空間をエスカレーターで下っていく。なんというか、すぐに街の喧騒へ放り出されるわけではなく、展覧会の余韻に浸るのに程よい時間をかけて、気持ちの良い空間を通って外へ出る。やはり、アーティゾン美術館は、気持ちのいい美術館だ。





















