トピック
27年万博会場「上瀬谷」の現在と未来 ディズニー級のテーマパークができる?
2025年11月20日 08:20
大阪府大阪市で開催されていた大阪・関西万博は10月13日に閉幕しました。そして、2027年には神奈川県横浜市で「国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)」の開催が予定されています。
11月2日には高市早苗首相が会場予定地の出展起工式に出席。高市首相は「気候変動・生物多様性・食料問題」が重要であるとスピーチし、GREEN×EXPO 2027の開催意義を強調しました。
開催まで500日を切っていますが、現在の会場地はどうなっているのでしょうか? 前編に引き続いて、後編では現地の様子を見ながら、GREEN×EXPO 2027の意義や閉幕後の跡地利用について考えてみたいと思います。
万博後はディズニー級とも言われるテーマパークに
27年3月19日~9月26日の期間で開催が予定されているGREEN×EXPO 2027の開幕まで500日を切りました。11月2日の起工式には高市早苗首相が、11月4日の500日前発表会には名誉総裁に就任した秋篠宮皇嗣殿下や横浜市の山中竹春市長が登壇するなど、開催に向けた動きが活発化しています。
GREEN×EXPO 2027の会場地は横浜市瀬谷区と旭区にまたがるエリアです。同地には「上瀬谷通信施設」と呼ばれるアメリカ軍の管理地が広がっていました。2015年に日本へと返還され、その跡地を横浜市は有効的に利活用することを模索してきました。そして、同地にテーマパークを整備することが決まりました。
約242万2,000m2にも及ぶ広大な跡地をゼロから開発することは容易ではありません。特に悩ましいのは、開発のための資金です。テーマパークは工費だけでも莫大になります。
そのほか、道路や上下水道・電気・ガス・通信といったインフラも整備しなければなりません。そうした事情を考慮し、まず横浜市は同地でGREEN×EXPO 2027を開催することにしたのです。同イベントの開催を通じてインフラを整備し、閉幕後に民間事業者がテーマパークを建設するという算段です。
閉幕後に整備が予定されているテーマパークは、三菱地所が主導する形で計画が進められています。三菱地所が整備するテーマパークはディズニー級と形容されることが多く、それだけに強い期待が寄せられています。
駅とテーマパークを結ぶ新交通「上瀬谷ライン」は幻に
こうした流れを見ると、順調に計画が進んでいるように見えます。しかし、同地のテーマパーク計画は水面下でさまざまな調整があり、紆余曲折を経て現在に至っています。
当初の計画から、最も大きく変更されているのがアクセス手段です。テーマパークの整備主体が三菱地所に決まり、同エリアは「KAMISEYA PARK(上瀬谷パーク)」という仮称がつけられました。
上瀬谷パークの最寄駅は相模鉄道の瀬谷駅ですが、瀬谷駅から上瀬谷パークまで約3kmあります。現在、瀬谷駅発着の路線バスが運行されていますが、巨大なテーマパークが開園したら、現行の路線バスだけでは来園者を輸送できません。だからと言ってマイカーでの来園を奨励するわけにもいきません。
マイカーの来園者が増えてしまうと、近隣で交通渋滞が発生します。それは周辺住民の生活に大きな支障が出るため、巨大テーマパークを新規開園するには公共交通の整備もセットで進めなければならないのです。
横浜市は約2.6kmの新交通を整備することを表明。新交通とは、横浜市金沢区の金沢八景駅と磯子区の新杉田駅とを結ぶ金沢シーサイドラインのような鉄道です。
上瀬谷ラインと名付けられた新交通は、瀬谷駅北口の地下に駅を設置する予定にしていました。瀬谷駅の北口には大きな駅前広場があります。そこに新交通ののりばを開設し、上瀬谷ラインに乗って上瀬谷パークへと足を運ぶという想定です。
瀬谷駅の北口には歩行者専用空間があり、駅から西に約200m離れた場所には海軍道路と呼ばれる南北を貫く幹線道路があります。
上瀬谷ラインは海軍道路の地下を走ることを念頭に建設計画が進められていましたが、上瀬谷ラインの整備は暗礁に乗り上げました。横浜市は上瀬谷ラインを早々に諦めて、24年4月に事業の廃止届を提出。こうして上瀬谷ラインは幻になります。
上瀬谷ラインの計画はなくなりましたが、だからと言って公共交通を整備しないわけにはいきません。横浜市は新たな交通アクセスとして、瀬谷駅と上瀬谷パークを結ぶ無人運転のバスを運行する方針にしました。無人運転専用道も整備される予定です。
このように、上瀬谷通信施設の返還を機に、瀬谷駅周辺や上瀬谷エリアは大きく動き出したのです。
世界では注目度が高い園芸博 大阪花博来場者数は万博史上最多
2025年開催の大阪・関西万博は世界各国が科学技術などの分野で未来を見据えて切磋琢磨する場になりました。一方、国際園芸博覧会は園芸博や花博と略称されるように、あくまでも「自然」「緑化」「農業」などが根底にあります。
昨今の世界情勢からも、「自然」「緑化」「農業」が重要になっていることは否定できませんが、世界各国が一堂に集まって花や草や木を愛でる必要はあるのでしょうか? そのイベントにどれだけ多くの人が集まるのでしょうか?
一般的な感覚だと、園芸博や花博は社会に対する訴求力が弱いように思えるかもしれません。しかし、世界では私たちが思っている以上に園芸博・花博はビッグイベントと認識されています。
日本では1990年に、大阪市・守口市にまたがる大阪鶴見緑地で「国際花と緑の博覧会(大阪花博)」が開催されました。同博覧会はアジアで初めて開催された園芸博で、来場者数は万博史上最多の2,312万6,000人超を記録しました。この記録は現在も更新されていません。また、大阪花博は海外から約90万人の来園者がありました。海外から注目されたイベントだったのです。
大阪花博の開催年である1990年の訪日外国人観光客数は、約323万6,000人です。1990年に訪日した外国人観光客の4人に1人が大阪花博へ足を運んだ計算になります。それだけ、海外では「自然」「緑化」「農業」が重要になっているのです。
新型コロナウイルスが感染拡大した2020年に訪日外国人観光客は大幅に減少してしまいましたが、コロナが収束した今は猛スピードで回復基調にあります。すでに24年は過去最高を更新する約3,686万9,000人に達しています。
GREEN×EXPO 2027にも世界各国から来場者が訪れることは間違いありませんが、政財界はそれによって訪日外国人観光客がさらに増加することを期待しています。
訪日外国人観光客の増加は、日本経済や産業を活性化させる効果があります。2012年に発足した第2次安倍政権は、成長戦略として観光立国を掲げました。その成果により訪日外国人観光客は激増しました。
その一方、オーバーツーリズムという新しい問題も発生しています。オーバーツーリズムが発生するメカニズムは複合的であり、必ずしもひとつに絞れるものではありませんが、外国人を惹きつける観光地・観光名所が偏在していることも一因になっています。
例えば、横浜の観光名所といえば中華街やみなとみらい、山下公園、赤レンガ倉庫が定番です。観光名所が少ないと、どうしてもそうした定番に観光客が集中してしまいます。
観光名所が多ければ、観光客は分散します。うまく観光客を分散できればオーバーツーリズムは起きないのです。観光客の分散を促しつつ、さらに訪日観光客を増やす起爆剤がGREEN×EXPO 2027であり、その後に開園を予定している上瀬谷パークといえます。
植物や農業の潜在的なビジネスチャンス
横浜は園芸と縁の深い都市です。その歴史は1859年に横浜が開港場に指定されたことから始まりました。
開港場になった横浜は多くの外国人が逗留する地になり、海外から持ち込まれる舶来品は高値で取引されました。日本人に人気だった舶来品は多々ありますが、なかでも海外から持ち込まれる色鮮やかな植物は人気になりました。そうした背景から、横浜には植物専門商社の横浜植木が設立されるのです。
横浜植木は日本で人気を博していた菖蒲に着目し、磯子に菖蒲園を開設。磯子菖蒲園は現代でいうところのショールームの役割を果たし、横浜植木の売上に大きく貢献しました。
一方、横浜植木は輸入だけではなく日本の植物を海外へ輸出する事業も手がけていました。横浜植木は外国人にユリが人気であることを突き止め、ユリの輸出に力を入れます。
横浜とつながりの強い多摩地域では、ユリの栽培が盛んでした。特に八王子は農家の多くがユリを生産していました。当時、八王子のユリ農家は一大消費地である東京で販売することが一般的でした。しかし、距離的には横浜が近いことから、横浜植木がユリの輸出に力を入れるようになると八王子のユリ農家は横浜へと販路を切り替えていきました。
政府も海外のユリ人気に着目し、ユリ農家に栽培を奨励していきます。政府がユリ栽培を奨励した理由は、横浜からユリの球根が多く輸出されることで、外貨獲得の手段になっていたからです。
こうした歴史を鑑みると、植物や農業には潜在的なビジネスチャンスが多く残っています。それだけに園芸博・花博は決して軽んじられるようなイベントではなく、政府や横浜市が力を入れていることも納得できます。
GREEN×EXPO 2027は約100haの区域に、約80haの会場が建設される予定です。これは横浜スタジアム約28個分の面積に匹敵します。その広大なエリアは主に「Urban GX Village」「Craft Village」「Kids Village」「Farm & Food Village」「SATOYAMA Village」の5つのゾーンに分かれます。
大手ゼネコンの鹿島建設は、大阪・関西万博のシンボルでもあった大屋根リングの木材を使ってGREEN×EXPO 2027の会場内に巨大タワー「KAJIMA TREE(仮称)」を出展すると発表しました。しかし、そのほかに会場の詳細は明らかになっていません。
会場予定地は区画整理や造成工事の真っ只中ですから、各ゾーンの整備が本格化することによって少しずつどういった建物がつくられるのか明らかになっていくことでしょう。
かつて横浜にはテーマパーク「ドリームランド」があった
会場の全容がはっきりしていないわけですから、その後に開園が予定されているテーマパークも現段階で未確定な部分が大半を占めています。
巨大テーマパークが開設されることはすでに発表されており、多くのメディアでも報道されています。実際に現地へと足を運んでみると現状では、「本当に、ディズニー級のテーマパークが建設されるのだろうか?」と信じ難い気持ちが沸きます。
ちなみに、横浜市には1964年から2002年までディズニー級と呼ばれたテーマパークがありました。それは横浜市戸塚区に所在した横浜ドリームランドです。横浜ドリームランドの創業者はディズニーを日本へと誘致したかったようですが、それは叶いませんでした。
そこで1961年に奈良県奈良市に自力で奈良ドリームランドを開園し、次に横浜に姉妹園となる横浜ドリームランドを開園させたのです。開園にあたって、大船駅と横浜ドリームランドの間に来園者の輸送を担うモノレールも建設されました。しかし、モノレールは2年ももたずに運休。そのまま廃止されました。
モノレールは廃止されたものの、横浜ドリームランドは2002年まで運営されました。閉園後の跡地は横浜薬科大学のキャンパスに転用され、ドリームランド時代に使われていた建物もキャンパスに現存しています。また、往時を伝えるドリームハイツという公営団地も建設されています。
横浜にはこうした過去があるので、上瀬谷に浮上したテーマパークは政財界から注目される存在になっています。
しかし、東京近郊には本家の東京ディズニーリゾートをはじめ、東京ドームシティアトラクションズやサンリオピューロランド、よみうりランドといったレジャースポットが多くあります。加えて横浜市内にもズーラシア、八景島シーパラダイス、よこはまコスモワールドといったレジャースポットがあり、これらの強豪と競合することになります。後発の上瀬谷パークが順調な経営をしていくには、かなり手強い相手になることは間違いありません。
テーマパークを開発する三菱地所は、開業時の来園者数を約1,200万、段階的に年間1,500万人まで増やすとの試算を発表しています。東京ディズニーランド&シーを合わせた年間来園者数は約2,755万8,000人ですから、上瀬谷パークの1,500万人という目標は強気の数字です。三菱地所がこれほどまでに意気込むテーマパークは、一体どんなものなのでしょうか?
三菱地所が計画するテーマパークは2031年にオープン予定で、“最先端のエンターテイメントが集まるエリア”“子供から大人まで楽しめるエリア”“スリルあふれるエリア”といったように、複数のエリアで構成される見込みです。
三菱地所が掲げる年間1,500万人という目標は、テーマパーク単体の数字ではありません。公園隣接ゾーン、瀬谷駅に隣接した駅前ゾーン、海軍道路の西側に設けられる環4西ゾーンと合わせた数字です。
また、上瀬谷パークの南側には、瀬谷市民の森という広大な緑地があります。瀬谷市民の森は上瀬谷パークとは別に横浜市が市民と協働で整備してきた緑地です。
横浜市は1971年に市民の森制度をスタートさせていますが、これは高度経済成長期に横浜の工業化が進み、市内中心部で大気汚染や水質汚濁が社会問題になっていたからです。
1960年代の横浜は関内・桜木町といった市の中心部に三菱をはじめとする大企業の工場が林立していました。横浜市が都市化するにつれて工場は郊外へと移転していくわけですが、工場は移転と同時に大規模化していきました。
大規模化した工場の周辺は、環境が悪化する懸念がありました。そうした環境悪化を引き起こさない工夫として、横浜市は企業に工場等の敷地内や周辺を緑化に努めるよう要請し、企業側も積極的に緑地の保全に取り組みました。
市民の森制度は、こうした緑を大切にする姿勢が市民にも広がって生まれています。横浜市が市民の森に指定している緑地は、25年10月16日の時点で市内に47カ所・約558haにまで広がりました。
上瀬谷パークに隣接する瀬谷市民の森は、1976年に開園。市民の森の中では古参です。その規模は19.3haと大きく、森の中には散策路のような小径が整備されています。案内板も立てられているので迷うことはありませんが、鬱蒼と生い茂る木々の中を歩いていると横浜にいることを忘れそうになるほどです。
周辺には、上川井市民の森、追分市民の森、矢指市民の森などが近接しています。それらの市民の森を合わせると、瀬谷駅から上瀬谷パークの一帯は広大な緑地といえるのかもしれません。
このように、GREEN×EXPO 2027の会場地と隣接地は想像以上に自然が豊かなエリアでした。都市化が進む現在の横浜市において、こうした貴重な緑を後世へと受け継ぐことは簡単なことではありません。
横浜市や企業、市民は今後どのように自然・緑を残していくのでしょうか? そこには多くの努力と苦労があることでしょう。緑を守っていくことは簡単ではありませんが、行政・企業・市民、そして同地を訪れる多くの来街者にも期待しましょう。





















