トピック
次の万博会場 横浜・上瀬谷ってどんな場所?
2025年11月18日 08:20
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)は、事前には「すでに万博の時代ではない」「巨額の税金を投入しても、赤字になるだけ」と非難に溢れていました。
実際、約300億円もの総工費がかかるとされた大屋根リングは税金の無駄との非難が殺到。開幕日直前にも未完成のパビリオンがあることや会場までのアクセスに難があること、開幕後もガス爆発への懸念や建設費の未払い問題などが表面化しています。
そうしたネガティブな話題が溢れたものの、入場者数は好調で運営費は黒字を確保。撤収作業などを経て、今後に会場建設費などが精算されるので最終的な収支は出ていませんが、事前よりも評判は上々だったことから次なる万博への期待が膨らんでいます。
国内で開催される次の万博は、2027年の国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)です。一足先に、会場予定地の横浜市瀬谷区の一帯を訪問してみましたので、前後編に分けてお伝えします。なお、GREEN×EXPO 2027会場の住所は厳密には「上瀬谷」ではないのですが、以前にこの地にあった施設および万博後に整備されるテーマパークの名称から、この記事では「上瀬谷」と記載します。
万博に期待される経済・インフラ整備効果
大阪・関西万博は、25年4月13日から10月13日までの184日間にわたって大阪府大阪市で開催されました。会場となった夢洲は埋立地として造成された人工島で、閉幕後に大阪府・大阪市が推進するIR(統合型リゾート)へと再開発される予定です。
日本国内では最初に万博が開催されたのは1960年の大阪で、会場地となった千里丘陵は万博記念公園のほか千里ニュータウンという住宅地へと姿を変えました。
五輪と同様に、万博には都市のインフラ整備や再開発を促す効果があり、開催国・都市もそれらを期待して誘致しています。
大阪・関西万博の会場地である夢洲は人工島ですので、それまでは何もない土地でした。万博の決定後に道路や上下水道・電気・ガス・通信インフラなどの整備が進み、閉幕後から本格的な開発が進められます。
その後の開発もセットになっている万博ですが、招致の時点で冒頭にあるような非難の声が溢れていました。
計画通りに開発が進み、それが大阪府民・市民に還元されることや日本全体の成長につながるなら、莫大な税金を投じても賛同を得られたことでしょう。しかし、万博の入場者数や収支、さらに万博を契機とした開発が事前の計画通りに進むとは限りません。
例えば、会場の玄関口となった夢洲駅はタワービルの建設構想も飛び出しました。しかし、開幕時は駅の出入り口があるだけの簡素な造りでした。また、周辺には目立つような商業施設もありませんでした。夢洲駅の周辺は計画通りに開発されなかったのです。
今後の伸び代はあると思われますが、万博を起爆剤にした開発という観点においては明らかに大阪・関西万博は予想を下回る結果になりました。とはいえ、開幕後の評判は上々で、大きな盛り上がりを見せました。
そうした大阪・関西万博の余韻は冷め切っていませんが、筆者は数年前から2027年に開催が予定されているGREEN×EXPO 2027の会場予定地となる上瀬谷一帯に何度か足を運んでいます。過去の現地訪問を踏まえて、次の博覧会予定地となる上瀬谷がどんな場所なのかを見ていきましょう。
横浜市としても盛り上げたいGREEN×EXPO 2027
GREEN×EXPO 2027の会場予定地である上瀬谷地区は、相模鉄道(相鉄)の瀬谷駅が最寄駅です。相鉄は神奈川県を地盤にする大手私鉄ですが、数年前まで東京での知名度は決して高くありませんでした。
その理由は相鉄の路線が横浜駅を軸に形成され、他線との乗り入れをしていなかったからです。乗り入れをしていなかったので相鉄の電車が都内を走ることはなく、東京都など神奈川県外からは馴染みが薄い鉄道事業者でした。
そんな相鉄を大きく変えたのが相鉄・JR直通線の開業です。19年11月に開業した相鉄・JR直通線は、相鉄の西谷駅から線路が分岐して羽沢横浜国大前駅、さらに武蔵小杉駅から湘南新宿ラインと同じ線路を走ります。同線の開業により、相鉄線から渋谷駅・新宿駅・池袋駅といった東京の副都心まで電車一本で移動できるようになったのです。
さらに23年3月には、羽沢横浜国大前駅で分岐して新横浜駅へ至るルートも開業します。同ルートでは新横浜駅から東急線へと乗り入れる相鉄・東急直通線も開業。相鉄・JR直通線と相鉄・東急直通線が相次いで開業したことで、相鉄の路線体系は複雑になりましたが、相鉄から東京へのアクセスは大幅に向上したのです。
相鉄は創立100周年を記念して、2016年からシンボルカラーのYOKOHAMA NAVYBLUEを車体に採用。その輝かしい色をした電車が東京を走り始めたことで、相鉄の名前が広く知れ渡るようになりました。
JR直通線や東急直通線の開業は相鉄の悲願でしたが、直通運転にあたって相鉄では線路や駅施設の改良をしなければなりませんでした。瀬谷駅では速達列車を運行させるために必要な待避線を増設することになり、2面4線化の工事を実施。同工事は2013年に完了しています。
昨今、日本全国で人口減少や少子高齢化が加速度的に進んでいます。これらは近い将来に改善される見込みはなく、通勤・通学需要は先細りすることが確実です。鉄道会社にとって、通勤・通学需要は安定的な収入を確保するうえで重要です。また、鉄道という生活インフラが弱体化すると、それに伴って地域が衰退してしまいます。沿線自治体にとっても鉄道の維持・活性化は至上命題になっています。
自治体が公共交通を維持するための手段には金銭的支援といった直接的な施策もありますが、そのほかにも沿線開発を手助けすることで新たな需要を生み出すといった方法もあります。
GREEN×EXPO 2027の開催は大型イベントによって会場地周辺の開発を促し、相鉄の需要増につなげるという目的が内包されているのです。それは横浜市の人口を維持することで地域の活力を持続させることにもつながります。
横浜市は瀬谷駅の駅構内や駅前広場にポスターや幟を多く掲出し、GREEN×EXPO 2027を盛り上げようと力を入れています。それは瀬谷駅だけに限った話ではなく、隣駅の三ツ境駅でも同様の取り組みが見られます。三ツ境駅は瀬谷区内に所在しているので、こちらの駅前広場にも開催日までをカウントダウンする電光掲示板が設置されているのです。
会場は米軍施設跡地 内情は十分に把握されていなかった
GREEN×EXPO 2027の会場予定地は「上瀬谷通信施設」の跡地を利活用する形で整備されます。上瀬谷通信施設は帝国海軍が倉庫として使用してきた場所を終戦後にアメリカ軍が接収して誕生しました。瀬谷駅からは約2.5kmの場所となります。
横浜市内には連合国軍が接収した土地が多くありますが、瀬谷区・旭区にまたがる上瀬谷通信施設は面積が約242万2,000m2(返還時の土地面積)と広大でした。
アメリカ軍の施設ということもあり、同地は長らく立ち入りが制限されていました。そのため、施設内の内情は十分に把握されているとは言えず、跡地利用の話し合いは2015年の返還後から本格化していきます。
当初から横浜市は同地にテーマパークを建設する意向を示し、事業者の選定や周辺の開発計画の策定を急ぎました。
横浜市が開発パートナーに選んだのは相鉄です。相鉄は神奈川県を代表する鉄道事業者ですが、都市開発や不動産事業も手がけています。
横浜市と相鉄は長い付き合いのある間柄ですから、開発計画が進むにつれて各所の調整もあうんの呼吸で進められますし、なにかしらのアクシデントが発生しても計画変更が生じても気軽にお願いできます。神奈川県を代表する信頼の厚い企業に、横浜市の浮沈を賭けたプロジェクトを任せるのは自然な成り行きです。
また、鉄道事業を営む相鉄に跡地の開発を委ねれば、鉄道と一体化した地域開発が期待できるという思惑もあったことでしょう。そうした経緯から、横浜市と相鉄は上瀬谷の開発を進めていました。
GREEN×EXPO 2027の会場予定地は瀬谷駅の北口側に広がっています。瀬谷駅の北口側は駅前広場が整備され、そこから約200mの歩行者専用空間が延びています。広々とした歩行者専用空間の両脇には、チェーン系のファミレスやファストフード店、スーパー、ドラッグストアなどが並んでいます。
歩行者専用道路はわずかな距離しかありませんが、それでもベンチが多く配置されているので、両脇に立地しているスーパーでお弁当を買ったり、ファストフード店でテイクアウトして、ベンチに座ってのんびりと飲食を楽しめる空間になっています。
駅前の歩行者専用空間から西200mの位置には、海軍道路と通称される環状4号線が南北に走っています。もともと海軍道路は、大日本帝国の海軍が物資輸送のために敷設した線路用地でした。
終戦後も瀬谷駅から第2海軍航空廠瀬谷工場まで横須賀海軍資材集結所専用線の線路が延びていましたが、アメリカ軍に接収されて専用線は廃止。それが道路に転用されたのです。鉄道として使用された痕跡は消えましたが、会場地を造成するにあたって第2海軍航空廠瀬谷工場の遺構と思われる構造物が露出しています。
第2海軍航空廠瀬谷工場や横須賀海軍資材集結所専用線については不明な点も多く、横浜市の教育委員会は覆土式火薬庫と推定しています。また、環境省は同工場で製造していた毒ガス弾についての報告書をまとめていますが、戦後に長らくアメリカ軍の管理下に置かれていたこともあり、現在も完全に解明されていません。
郷土史家やNPO団体などからは、同地の調査・研究を要望する声が出ていますが、テーマパークの整備が始まってしまうと、同地の発掘調査は難しくなるでしょう。昭和史が遠のいてしまう恐れがあるのです。
海軍道路沿いは港町・横浜のイメージと異なる光景
そんな歴史を含んだ海軍道路を上瀬谷エリアに向かって北へと歩いていきます。海軍道路という大仰な名称がつけられていますが、片側1車線の計2車線の決して大きくない道路です。
ロードサイドには郊外で目にする自動車販売店やドラッグストアなどの大型店があります。全体的に海軍道路沿いは自然が豊かな雰囲気で、そこから中へ入ると閑静な住宅街といった街並みです。
海軍道路に面して農地も多く、畑仕事をしている人たちも見られました。農作業をしている人に話を聞いてみたところ、一帯には現在も農業で生計を立てている人は多いものの、家庭菜園的に農作物を栽培している人もいるとのことでした。JA横浜の直売所もあり、港町・横浜という多くの人が抱くイメージとは異なる光景がありました。
海軍道路は交通量が多く、とても1車線という道路の規模には見合っていません。そのため、会場地を整備する工事と同時に道路の車線増にも着手しています。
GREEN×EXPO 2027が開幕すれば、多くの人が自動車で会場を訪れるでしょう。また、閉幕後には次世代型テーマパーク「KAMISEYA PARK」を整備する大規模開発が予定されており、一帯に誕生する商業施設を訪れる人や物流トラックも頻繁に行き交うことは容易に想像できます。
道路の車線増工事は将来を見据えた工事でもありますが、そのために海軍道路に植えられていたサクラの木が伐採されました。海軍道路に植えられたサクラは地域住民にとっても大切な財産だったため、伐採を伴う拡幅工事に反対する住民は少なくなく、GREEN×EXPO 2027の開催自体にも根強い反対がありました。そうした住民の意向を尊重するべく、横浜市は植えられていたサクラを近隣の公園や工事後の海軍道路に移植することを発表しています。
東京五輪や大阪・関西万博といった国際的な大規模事業では大型公共工事がつきものですが、昨今は大型公共工事によって生活環境が一変してしまう事態が増えています。そうしたことを考慮し、行政や大型事業の主催者は以前に比べて地域住民の意向を尊重するようになりました。それでも地域住民の意向が十分に反映されるケースは少ないのが事実です。
会場地の建設はまだこれからの段階
駅から海軍道路を歩いてきましたが、ここまではGREEN×EXPO 2027の会場予定地ではありません。横浜市消防局瀬谷消防署中瀬谷消防出張所を過ぎたあたりから会場予定地になります。
いよいよ会場予定地となる上瀬谷地区に入ります。以前に同地を歩いたときは、すでにアメリカ軍の通信施設群は撤去されていました。空き地になった跡地は道路沿いから視認できましたが現在は工事が始まり、ほぼ全区画にわたって工事の仮囲いが設置されています。ところどころ透明な板になっている箇所やトラックの搬入口から中を覗くことはできますが、仮囲いで大半の場所は見ることができません。
搬入口から覗くと、建物などの構造物はありません。まだ、土を掘り返している段階です。看板などを見ると、埋蔵文化財の発掘調査などもしているようですが、先述した第2海軍航空廠瀬谷工場や横須賀海軍資材集結所専用線は、現在のところ埋蔵文化財に指定されていません。
ここまで瀬谷駅から会場予定地までを歩いてきました。GREEN×EXPO 2027は27年3月19日に開幕します。同年の2月中旬あたりには会場全体を完成させておく必要がありそうですが、すでに開催まで500日を切っています。大阪・関西万博でも開幕日までに、いくつかのパビリオン建設が間に合っていませんでした。
これから工事は急ピッチで進んでいくと思われますが、会場地の工事が間に合うのかは気になるところです。
後編では、GREEN×EXPO 2027閉幕後に整備される予定のテーマパーク構想を中心に、園芸博の開催意義や地域住民が大切に守ってきた地域の自然環境などを見ていきます。























