鈴木淳也のPay Attention

第262回

若者は“ポイ活”をしない

共通ポイントプログラム「Ponta」は今年2025年で15周年を迎える

先日、ロイヤリティマーケティングが主催する「Ponta」開始から15周年を迎えての記念イベントに参加した。共通ポイントプログラム「Ponta」は2010年のスタートから今年で15周年を迎えた。

おそらく、多くの利用者はKDDIのau関連サービスやローソンで主に使う共通ポイントとして活用しているだろう。

MMD研究所などの調査によれば、いわゆる共通ポイントを絡めた「ポイント経済圏」としては、現在「楽天ポイント」を筆頭に、「dポイント」や「PayPayポイント」が主要な活用ポイントプログラムとして機能しているが、Pontaはカルチュアコンビニエンスクラブが運営していた「Tポイント」(現在は「Vポイント」に改称)と並んで最古参の共通ポイントであり、データマーケティングを主軸とした専門会社(ロイヤリティマーケティング)の設立は、Tポイント(Vポイント)を運営しているCCCMKホールディングス(旧名「Tポイント・ジャパン」)のスタートした2012年に先立つ、2008年のことになる。

同社によれば、設立にあたっては諸外国のロイヤルティプログラムやデジタルマーケティング事情を大いに研究したという話だが、結果としてPontaや周辺サービスから得られた膨大なデータを駆使した各種分析で得たノウハウを基に、企業のマーケティング支援を行なうことがその狙いとなる。

ブロックチェーンなどのWeb3領域の新しい消費者へのアプローチ方法を近年では模索するなど、Pontaというシンプルな共通ポイントの裏で、さまざまな連携やメディア展開を進めていたりもする。

Pontaを活用したデータマーケティングの取り組みの例

そんなPontaが迎えた15周年の記念イベントで関係者らと立ち話を繰り返していたが、その中で最も興味を引かれたのが「若者は“ポイ活”をしない」という話題だ。

「ポイ活」とは、各種ポイントで提供されている還元プログラムを活用して日々の買い物の中で“ポイント”を貯めていく活動のことで、“うま味”の大きい還元を提示して店舗が客寄せしたり、還元率の魅力から特定のポイントプログラムにユーザーの囲い込みを行なうなど、利用者と運営者の綱引きが日々行なわれている場でもある。

ただ、この仕組みを最大限活用するには利用者はつねに“お得情報”に目を光らせ、また日々の活動でポイントが貯まるよう、こまめにポイント会員証を提示したりと積み重ねがものを言う。そんな小銭集めのような行為に若者ほど興味ないというのがロイヤリティマーケティングの分析だ。

実際、思い当たる節はある。

2020年代のコロナ禍に突入するまで、筆者はいくつかの雑誌の特集で「ポイ活」に関する記事執筆を頻繁に依頼されていたことがあったが、すでに休刊してしまった雑誌も含め、それらがターゲットとする読者はかなり年齢層が高めで、おそらく40代後半から60代くらいがコアの読者層だったと思われる。

頻繁に「ポイ活」特集をしていたのも反響が比較的いいからで、つまりこれら年齢層がキャッシュレスなどの決済サービスに期待していた大きなものの1つが「ポイ活」ということになる。

他方で、特に若者をターゲットと公言している決済サービスの場合、あまり前述のような「露骨な還元」を前面には押し出しておらず、むしろ決済を通じてどのような特典や体験を得られるのか、金銭には直結しにくいメリットを打ち出している印象が強い。この差異は非常に興味深い。

若年層は「ポイ活」に興味がない??

若者は本当に「ポイ活」に興味がないというのは本当か?というテーマだが、実際にインターネット上で出てくる資料を参照する限りでは「むしろ物価高を背景に若者のポイ活の実施割合は高まっている」という調査データが出てくるケースの方が多い。

直近でいえばSkyfallの「物価高でポイ活意識が高まる - 10代・20代の3人に2人が“ポイ活をより意識するようになった”と回答」が好例だ。利用傾向としては「手軽である」「スキマ時間にできる」ということで、強く意識せずとも日々の活動で自然に貯まるという部分に焦点が当たっている。別の調査報告では「ながらポイ活」(MMD研究所)というキーワードも出てくる。

一方で、MMD研究所の「ポイント経済圏のサービス利用に関する調査(2025年7月)」では年代別にどのポイント経済圏を最も意識しているかというデータが紹介されており、それによれば全体で楽天がトップなのに対し、10代に近付くほどPayPayのシェアが大きくなる。

推察だが、自身で稼ぐ力のない若年層の場合、自らどのポイント経済圏が“お得”かを判断して選んでいるのではなく、“普段使い”の決済サービスをそのまま挙げただけなのではないか。PayPayを通じて親が小遣いを子供に与えたり、あるいは現金をコンビニATM等で簡単にチャージできるPayPayの使い勝手から同年代でのシェアが高く、そうした利用傾向がそのまま意識調査に反映されたという流れだ。

普段の買い物からは縁遠い「イオン経済圏」の比率が低めに出ていることも、その傾向を反映したのではないか。

年代別、最も意識しているポイント経済圏(出典:MMD研究所)

こうした調査報告とは別に、若年層のキャッシュレス決済の利用状況について、近年たびたび高校生などに聴き取りを行なう機会を得ており、その利用傾向がなんとなく見えている。前述のように小遣いは現金での手渡しのほか、(臨時出費などの)必要に応じてコード決済の送金機能を使ったりするなど、それなりに浸透している面がある。一方で学校によっては「スマートフォンは校内に持ち込めるが、就学時間帯はロッカーへの保管や電源オフを義務付け」という形で、通学時のみ利用可能となっていることもある。

現金とキャッシュレス決済のどちらを使うかはケースバイケースだが、コード決済としてはPayPayの利用が多く、あとは通学定期券で利用している交通系ICカードやモバイルSuica/PASMOの残高チャージを介して支払いに充てていたりする。特にコード決済は「割り勘」や「代金の立て替え」などで使いやすく、皆が利用している決済サービスがそのまま共通の送金手段として活用される傾向があるようだ。逆にいえば、若年層におけるキャッシュレス決済における若年層の選択肢はほとんどなく、仮にポイ活に意識が向いたとしても“お得”で経済圏を選ぶほどではないのだろう。前段のMMD研究所のデータはこうした利用状況を反映しているといえる。

2024年6月に神奈川県の横須賀高校で開催された文化祭。完全キャッシュレスで運営されており、PayPayや事前に現金と引き換えに入手した交換券でなければ支払えない

いかに若者を取り込んでいくか

その意味では、「若者はポイ活に興味がない」というよりは、「これからポイ活を含むサービスに興味を持つ潜在的な顧客」という位置付けが正しいのかもしれない。

20代で社会人になり生活が安定し、さまざまなサービスに徐々に手を出していくことで、前述のMMD研究所のデータにあるような分化が進んでいくのだ。

青田買いではないが、近年は金融会社が学生や社会人になったばかりの人々を対象に、さまざまな金融サービスを提供し、そのまま取り込んでいくような施策が見られる。ドコモの「dカード GOLD U」などが好例だが、通常のゴールドカードの年会費を年齢制限を付けて安価に提供することで、将来的な“本ユーザー”の獲得に繋げるという試みだ。

クレジットカードといえば、従来であれば30代くらいから本格的に活用を始め、コアとなる年齢層は40-50代くらいが中心というのが一般的な認識だったが、この枠組みも徐々に崩れつつあるというのが筆者の考えだ。

dカード GOLD Uが通常のゴールドカードへの“パス”を用意しているように、各社のコード決済もその実は系列会社が発行するクレジットカードと深く結びついており、将来的には銀行サービスや証券サービスを含む各サービスへの誘導窓口としての機能を志向している。

また三井住友フィナンシャルグループが発行する「Olive」についても、クレジットカード以外にデビットカードとしての機能も備えているため、銀行口座を持つだけでOlive会員特典であるOliveラウンジを利用できる。同社によれば、渋谷のOliveラウンジでは他の混雑する店を避けてOliveラウンジを利用する高校生もいたりするということで、これもまた潜在的なコア顧客候補ということになる。

大阪の船場にあるOlive Lounge。12月上旬には東京の新宿にOlive Loungeの新拠点がオープン予定

「いかに最初に若者を獲得するか」ということで各社が工夫を凝らすことになるが、例えばクレジットカードでコア年齢層となる30-50代の利用者に“刺さる施策”が、そのまま若者に受け入れられるとは限らない。

冒頭に挙げたテーマである「ポイ活」を実践するにはまだ時期としては早く、直接の利用動機には繋がらないからだ。そのため、各社各様に若者にとっての「ファーストサービス」になるべく、さまざまなアプローチを行なっている。

代表例の1つがクレジットカードを発行するスタートアップの「ナッジ」だ。

同社のクレジットカードは利用額に応じたポイント還元の代わりに、いわゆる「推し活」につながる仕組みに活用されている。例えば利用者は応援したいスポーツチームやアーティストの名を冠した“クラブ”に加入することで、その“クラブ”に結びついたクレジットカードを入手できる。カードで決済するごとに一定割合(例えば決済額の1%など)が“クラブ”の対象に寄付する形で還元される。“クラブ”によっては一定の還元額に達した段階で何らかのサービスが得られたり(イベントの招待券など)、あるいは当該の“クラブ”経由でしか入手できない特別な記念品を貰えたりといった具合だ。

ポイ活におけるポイントが自身に還元されるのではなく、応援したい相手への寄付になりつつ、そこでしか得られない“体験”を入手できる。どちらかといえば、アメリカンエクスプレス(Amex)やラグジュアリーカード(LC)などの比較的富裕層を狙った“体験”サービスをより身近なものにしたといえる。

実際、このような形でナッジのクレジットカード利用額の7割以上が10-20代の若年層で占められているということで、こうした「推し活」や「そこでしか得られない体験が入手できる」という部分に一定の魅力を感じている層が集まっていることが分かる。

ナッジ代表取締役の沖田貴史氏
ナッジのクレジットカード利用額の7割以上が10-20代からのもの
ナッジでは200種類以上のデザインのカードから券面を選べるほか、画像をアップロードして自分オリジナルのクレジットカードを作成することも可能

社会貢献を通じたアプローチ

「推し活」とは異なるが、「社会貢献」をテーマに将来的な顧客候補を獲得する試みがある。楽天ペイメントは学生団体「olly」と連携し、キャッシュレスで社会貢献活動を行なう「Green Cashプロジェクト」を立ち上げている。その一環として11月1日に渋谷でゴミ拾い活動を行なう「アフターハロウィン」企画を実施した。

Ollyは高校生を主体とした有志団体だが、本活動ではOBを含む20名近いメンバーが参加し、近年毎年話題になっている渋谷でのハロウィン後の清掃活動を実施し、集めたゴミの重量に応じた「楽天キャッシュ」が提供された。

本活動の実施にあたり、楽天ペイメントでは学生向けのキャッシュレス講座を実施し、後日参加者に楽天ペイの送金機能を通じて楽天キャッシュを提供した。

学生は社会貢献活動の一環で“お小遣い”が入手できるほか(メンバーによっては団体の運営資金にそのまま還元)、楽天ペイメントにとっては活動を通じて社会貢献のアピールができるのみならず、楽天ペイや楽天の各種サービスの認知向上にも繋がる。

実際、当日の参加者らを見る限り、当日まで自身のスマートフォンに「楽天ペイ」のアプリがインストールされていた学生の方が少数派で、これを機会にサービスを使ってみようという人もいるだろう。面白いアプローチだと思う。

ハロウィン明けの渋谷で学生団体による清掃活動を実施。実質的に楽天ペイメントがスポンサーとして動くようなイメージだ
渋谷区による事前のアナウンスと生憎の荒天などもあり街はそこまで汚れていなかったが、それでも大量のゴミが集まった
重量計測を行なって、参加者それぞれに重量に応じた楽天キャッシュを送金する

すべての若者に響くわけではないと思うが「推し活」「特別な体験」「社会貢献を通じた自己実現」など、「ポイ活」が呼び込みの“キラー”とはならない世界において、別の角度でのアプローチを各社が模索している。今回紹介したのはその一例だが、将来的にサービスのコアユーザーの減少が見込まれる日本の将来地図の中で、熾烈な若年層の獲得合戦が水面下で進んでいる。

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)